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☆第十四幕:最後の駒
アメノミハシラ。L3のコロニー『クサナギ』と地球月中継コロニー『アメノミハシラ』のみを領土とする世界最小の国家である。人口僅か30万人、第二次汎地球圏大戦時に地球連合へ加盟する際のコーディネイター問題を処理する為にオーブ連合首長国が作り上げた人工国家である。
世界最小国家のイメージが先行する国家であるが、アメノミハシラにはもう一つの、そして本質的な意味の顔がある。カガリ=ユラ=アスハのアスハ家と共に旧オーブ五大氏族のもう一方の生き残りであるサハク家の当主ロンド=ミナ=サハクの王国という一面である。
アメノミハシラが統一連合に隠れてリヴァイブなどのレジスタンス勢力への援助を行っているのも、ひとえにこの国がロンド王国であるからであり、ロンドが方針の変更を命じない限りは、例えそれがどれだけ危険な事であろうともその行動は守られ続けるのである。
その、アメノミハシラという名の『ロンド王国』の国王、ロンド=ミナ=サハクは常にオーブのオロファトにいる。彼女は統一連合のアメノミハシラ代表議員でもあり形式上でも統一連合の議会が運営されている以上、本国には帰還できないのである。もっとも、これにはロンドを危険視するライヒなどのロンド懐疑派がロンドを王国に帰還させない為に打っている作戦という一面もある。
そして、現在彼女は自室にてアメノミハシラのモスクワ総領事館に届いたある一つの電報を読んでいた。差出人は『ギル=ローマ』なる人物、内容は以下のとおりである。
『昔、米一石を為した五人の一人、刑待つる人より炊ける人へ
白き土地にて稲が育つ。穂は伸びるが実は軽し。
松明(たいまつ)を求む。稲が刈られぬよう。』
「代表、まだ読んでいらっしゃるんですか?その怪文書。機密文書として暗号化されて送られた代物とはいえ、中身がこれじゃあどうしようもありませんよ。」
部下の一人からそんな声が聞こえる。
「お前はこの文書を本気で『怪文書』と思っているのか?」
「そりゃあそうですよ。『昔、一緒に米を作った事のある、米を炊いている人から刑を待っている人へ。白い土地で稲が育っているけど実は薄そう。だから松明をくれ。』って、誰が見ても狂人の書いた文ですよ。」
センスというものに致命的に恵まれていない哀れな部下の台詞を右から左に流しつつもロンドは対応を考える。この”狂文”の意味するところと、それに最も有効に対処する為の方法、それらを全て考え終えるとロンドは先ほどのセンスの無い部下に向かって命令を下した。
「イヅナ、”奴”を呼べ。すぐにだ。」
「えっ、”奴”ですか?でも、”奴”は多分他の―――――」
「他の仕事があれば金でも積んでキャンセルさせろ。最重要事項だ。首根っこを引っ張ってでも連れて来い。」
天才的なまでにセンスと勘の冴えない、しかしながらロンドの副官を担えるほどに事務処理能力と忠誠心ばかりはあるこの男はロンドの命令に慄(おのの)くように外へ飛び出るとすぐさま”奴”をこの場に引っ張り出す為の行動を開始した。
副官が飛び出した後、ロンドは先ほどの『怪文書』を見ながら呟いた。
「コーカサス州か………思ったより大事になりそうだ………」
最後の一駒がようやく舞台へ現れる準備を整えた。戦乱は近い。そして、崩壊もまた近い。いよいよユーラシア全土を舞台とした一大活劇はガルナハンを主戦場として幕を上げ始めたのである。
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