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☆第十三幕:茨の蔦
ユーラシアを舞台とした壮大な何かが始まろうとしている。それは、この時代のユーラシアに対して一廉(ひとかど)の知識を持った者であれば大なり小なりが感じている印象であった。少なくとも、この現状が均衡となるなどという発想に至れる者はいなかった。
東ユーラシア共和国、レジスタンス連合、治安警察省、情報管理省、幾多のプレイヤーがユーラシアという巨大な盤面を舞台に陰に陽に動き回り、定め無き終息へと自らが駒となり進んでいる。そして、その結果としてどのプレイヤーが舞台から転げ落ちるかを知る者も、また誰もいなかった。
舞台で動くプレイヤー達は、ただ相手が自分の掌(てのひら)の上で踊っているという妄想に囚われ、結果を見るまでその妄想が明察だったのか愚考だったのかを理解する術(すべ)すら持っていないのだ。
しかし、ユーラシアという舞台があるからには絶対にプレイヤーとして招聘されているはずのある者達が、ここ最近姿を消していた。
その名はミハイル=ペッテンコーファーとニコライ=カルウォーヴィチ=ペトリャコフ。いわずと知れた東西ユーラシア最大のテロ組織ローゼンクロイツのNo,1とNo,2であり、その存在一つだけで裏社会はおろか表社会にまで多大な影響を及ぼすキーパーソンである。
彼らはレジスタンス連合を統一連合や東ユーラシア共和国への撒き餌として独自に次への布石を行っていた。一人は砂の海にて、そしてもう一人は波の海にて。
東ユーラシア共和国トルクメン州。カスピ海を隔ててコーカサス州の対岸に位置し、南部は汎ムスリム会議との国境線を有する砂漠の州、その州都アシガバットにて色白の男達に囲まれながら黒海とカスピ海に囲まれたコーカサス州の地図を睨む男がいる。ローゼンクロイツ首領ミハイル=ペッテンコーファーその人である。
「同志諸君。反撃の時は近い。」
意気込むミハイルの周りにいる者共はトルクメン州に多く住むテュルク―トルクメン系の者ではなく、遥か北のスラブ―ロシア系の顔付きをしている者が多い。これらはいずれも治安当局の摘発により故郷を追われて汎ムスリム会議領へと逃亡しようとこの地を訪れたレジスタンスの残党である。
対統一連合派遣軍戦以来、反政府活動の表舞台から姿を消したミハイルはカスピ海を渡ったこの地にてそのレジスタンス達を雇い直し再編して新たな戦力を密かに作り上げていたのである。
「コーカサス州の同志達は統一連合の大軍を討ち払い、かの地に独立圏を築いた。そして、貧弱な東ユーラシア共和国の軍勢は既に瓦解を始めている。今こそ、我らが理想の国を創り上げる時なのだ。」
ミハイルの演説が結成されて間もないローゼンクロイツ新規軍の士気を鼓舞する為のものである事は明らかであった。しかし、いくら九十日革命の立役者の雄弁を以てしても、一度決起するも事成らず敗れ追われた彼ら敗残レジスタンス達の精神を滾(たぎ)らせる事はできなかった。それを象徴するようにレジスタンスの一人が声を上げる。
「同志ミハイル。あなたの熱い意志は理解したが、しかしいくらそう言われたところで我々に何ができるというのか。兵力は少なく、ここの土地勘も人脈も無く、そしてモビルスーツさえ持たない。」
何という負け犬根性、だから貴様らは敗れたのだ。と、同志の問いにミハイルは内心で苛立(いらだ)つ。兵力が足らぬ、武器も足らぬ、立つ瀬さえ定かではない、そんな事はただの状況でしかない。どれだけ劣勢だろうと知恵を絞り士気を滾らせる事もできないのら、勝利など覚束無(おぼつかな)いに決まっている。
が、そう思おうが今はこの者共しか持ち駒がない事もミハイルの現状である。そして、ミハイルはこの者共とは違って難点ばかりを論(あげつら)って満足する非生産的活動を好む者でもなかった。
「そこについては心配はいらない。我々ローゼンクロイツは東ユーラシア共和国政府と交渉し、密約ながら我々と連合を結ぶとの確約を得た。見よ。」
と、ミハイルはそう言ってあるビデオを再生した。それは東ユーラシア共和国政府との交渉の過程で政府側より送られてきたテープをダビングしたものであった。
『我々、東ユーラシア共和国政府は貴殿らローゼンクロイツが反政府活動を一切停止し、全武力を我々の監督下に置く事、加えて貴殿らの加わっているコーカサス独立圏の完全な解消を条件として、貴殿らとの合流を承認するものである。』
「!?!」
面々から驚愕のうめきが沸き起こる。
「このように、東ユーラシア共和国は既に国内の混乱を自力で抑える力を失っており、我々ローゼンクロイツに助けを求めるまでに至っている。現在でこそ、我々には兵力も武器も無いが問題は無い。コーカサス独立圏を我々の傘下に収めれば、乗り手を失った東ユーラシア共和国の数多のモビルスーツと、不本意ながら政権に服従していた同胞を得る事ができるのだ。」
この一つのテープによってミハイル傘下の烏合の衆は結束を得ようとしていた。しかし、それでも不安の残る一部の者達から質問の声が上がる。
「だが、コーカサス独立圏を主導しているのはコーカサス州最大の武装勢力リヴァイブと聞く。あんたが俺達を雇い入れて新規軍を編制したのも、コーカサスにいるローゼンクロイツ勢力は既にリヴァイブ以下のコーカサス閥に靡(なび)いていて確実な戦力ならないと踏んだからだろう。統一連合の精鋭部隊ともタメを張れる連中とどうやって戦うっていうんだ。」
「そこも心配は無用だ。東ユーラシア共和国からの情報によれば、現在リヴァイブの指導者ロマ=ギリアムは和平交渉の為にモスクワに乗り込んでいるという。つまり、コーカサス閥は頭を失っているのだ。加えて、リヴァイブの戦闘部隊も現在ではガルナハンを遠く離れたゴランボイに展開している。かの地は要害だが故に脱出も容易ならず。封じ込めてしまえば後は大軍を集め一挙に殲滅してしまえば良い。」
「そもそも、東ユーラシア共和国政府がこんな都合の良い条件を提示するなんて怪し過ぎる。きっと腹黒い奴らの事だ、俺達とコーカサスの連中を克ち合わせて漁夫の利を得るつもりに違いない。」
「その意見には一理ある、同志。だが、何も私は政府を全面的に信用しているわけではない。要はコーカサス州の自治だけで収まろうとしている矮小なリヴァイブの連中を我々レジスタンス連合の中から排除できれば良いのだ。
政府が忠実に事を履行するならそれも良し。どうせ実力無き政府、いずれ我々が実権を握る事は確定。政府が約束を反故にしてもそれで良し。失策続きの政府より、我らローゼンクロイツの方を民衆は支持してくれるはずだ。今はただ、リヴァイブと政府という2つの難敵から挟撃される事さえ回避できればそれで良い。いずれにせよ片方だけなら我らローゼンクロイツ以下のレジスタンス連合の敵ではないのだから。」
ミハイルの明確な返答によってさしものレジスタンス達も徐々にこの作戦に対する自信を深めていた。傘下の者全員が勝機を描いた時、ミハイルはその予想を裏付けるように言い放った。
「この計画が為されれば、同志諸君は追われた故郷に救国の英雄として帰還する事になる。死せども最期の雄姿を故郷に銅像として建てられるであろう。偉大なる大ユーラシア再興の為、同志諸君は大ユーラシアの英雄に相応(ふさわ)しい働きを為す事を信じている。」
『大ユーラシア万歳』ミハイルのいる部屋は瞬く間にその合唱に埋め尽くされた。その同志達の雄叫びを聞きながら、ミハイルは西を、そうカスピ海を隔てたコーカサス州を見つめていた。
一方、その頃スカンジナビア王国領ヘルシンキの港に東ユーラシア共和国エストニア州タリンより来た連絡船が到着していた。混沌とする東ユーラシア共和国を捨てて、秩序あるスカンジナビア王国へと逃げて来た共和国民達が何の展望も無いままに新天地への第一歩を踏みしめる中で、不安と安堵の表情を見せない一組の家族がいた。
10代中頃の少女と老境も中頃の老人、ちょうど祖父と孫と見て取れる2人は、他の人々とは違い不安無く既に目指すべき場所を知っているかのように堂々と歩んでいる。老人の方は白髪の穏やかな老紳士風であり、少女の方は黄金色の挑発と胸に挿された真紅の薔薇が印象的な小柄な女の子である。
この2人だけの家族が安堵感と不安感ゆえに足取りの遅い他の人々を追い抜きながら揚々と歩いている途中、胸に十字架をぶら下げた一人の男が声をかけてきた。
「美しいお孫さんですね。特に胸元の赤い薔薇が美しさを一層引き立てている。」
「この薔薇の意味をご存知ですかな?」
老人にそう言われた男は、まるで詩の一節を諳んじるようにその薔薇の意を答えた。
「薔薇は統一、同胞相討てども強大な統一大国は誕生する。」
老人はそれを聞き終えると、返し歌のように詩の一節のように男の十字の意を詠った。
「十字は犠牲、同胞数死ねども偉大な千年王国は復活する。」
それを聞いて男は親愛の表情を浮かべると老人に向かって深々と礼をした。
「お会いできて光栄だ。同志ニコライ、ようこそ安住の土地スカンジナビア王国へ。この国は第二次汎地球圏大戦におけるオーブの唯一の同盟国だった事もあって、統一連合体制下でも治安警察省の介入が少ない。ここにいる限り同志の安全は保障しましょう。
………しかし同志ニコライ、一つ聞かせてほしい。そちらの少女はあなたのお孫さんか?」
その質問に対して老人、否ニコライは野心的な戦略家の眼を以って答えた。
「同志アンデル。この子、ユアンカロシアは我等ローゼンクロイツの切り札じゃ。」
「『切り札』??」
「そう、再び戦火に覆われる東ユーラシアで散らせるには惜しい少女じゃ。いずれ機が熟した時、同志もその意味を理解するはずじゃ。今はただ、この子を守っておれば良い。」
アンデルにはニコライの真意は理解できなかった。しかし、ローゼンクロイツ一の策士が自ら安全地帯にまで護送したこの少女が、ニコライにとって最も重要な駒の一つである事は理解した。アンデルはこの暗(くら)い灯台の下(もと)で彼女を匿う事だけをただ考えるようにした。
表に出る者、裏に隠れる者、その全てが蠢動を続けるこの舞台。だが、舞台は更に多くの役者と少なからぬ犠牲者を欲していた。ガルナハンの春を彩る役者達はまだ出揃っていない。
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