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オーブのある場所、ある定食屋にその男はいた。
「…退屈だな」
客一人いない店内で、男―店主は溜息をつく。
「まあ、いつも通りだけどな…」
午後二時までに九人。集客率があいまいだから、ノルマがこなせるか心配だ。
味には自信があるが、場所が場所だし開店1年目ならこんなモンなのだろう。
今日は「アイツ」が来るだろうし、なんとか客足一桁は免れそうだ。
店主がそう考えていると入り口のドアがスライドし、軍服姿の客が入ってきた。
「おっ、いらっしゃ……て、なんだオマエかよ」
「…わざわざ基地から歩いてきてやったのだ。正しい接客をしたらどうなのだ?」
店主は顔をしかめられ、客は不機嫌そうだった。
「いいだろ、俺とお前の仲じゃないか。イザーク」
「ふん、仕事と私情を混同するのは止めておけ、ディアッカ」
褐色の肌の店主と、丁寧に切り揃えられた髪の軍人。
お互いが無二の戦友の相変わらずさに、少し頬を緩めるのだった。
「で、今日は何喰ってく?」
「…『赤』定食」
「ん、『白』じゃなく『赤』ね。オーケー、少し待ってろ」
注文を受け、料理に取りかかる。包丁や鍋の扱いも今では慣れたモンで、材料を刻みながらイザークに話しかける。
「そういや、全然見なかったけど何してたんだ?」
「要請でテロリスト駆除に駆り出されていたのだ。もうしばらくは戻れぬハズだったが、今度は祝典の警護で戻ってくることになった」
「…便利に扱われてるな、お前」
ディアッカの皮肉に「フン」と鼻を鳴らすイザークは、服の胸ポケットから手帳サイズの本を一つ取り出した。
ラクス・クラインの言葉を、どっかの学者やらが纏めた本、もはや世間一般に出回ってるような本だが、快く思わない人間は『ラクス教本』と呼ぶ代物だ。
それを熱心に読んでいるイザークもまた、立派なラクス崇拝者だろう。
(って、そんなワケ無いよな)
彼が食い入るように読んでいる本当の意味を、ディアッカは知っていた。
「はいよ、『赤』定食お待ち」
出来た料理をイザークの前に置く。
イザークは本を読むのを中断し、さっそく料理を口に運び始める。
「まあまあだな」
「…。とりあえず、基地や戦艦で食べてるヤツよりマシだろ?」
「……まあな」
保存性や栄養が重視されて、味の酷い配給には二人とも嫌という程、世話になった。
イザークに関しては数日前まで、それだけを味わっていたのだ。
口には出さないが少し感動めいたモノがあるのは事実だ。
「…そういえばキサマ、ナチュラルの女をまだ追い続けているのか?」
前に来た時を思い出し、浮かんだ疑問を投げかけるイザーク。
「当たり前だろ。惚れたら宇宙の果てまで追うのがオレのポリシーだからな!」
「…ほとんど会えもしないのに、よくやるな」
「ん~、割引券わたせば、意外と来てくれるモンだぜ?」
安い給料で働かされてるらしいぜ、と楽しそうに話すディアッカ。
彼が先程考えていた「アイツ」というのもミリアリアのコトだったりする。
「…よくやるな」
呆れるを通り越して、イザークは感心していた。
「世話になった」
「ごちそうさま、って言えないか?」
「気が向いたら、また来る」
「…………はいはい。ああ、そうだ」
出て行こうとするイザークを呼び止める。
「いざと言う時は言えよ。手伝ってやれるんだからな」
「…………」
イザークは無言のまま出ていった。
再び店内はディアッカ一人となった。
「…ふう」
食器を洗いながら、ディアッカは先程のイザークを思い出す。
不安定な頃からは大分復帰したけど、まだ溜め込んでるところがあった。
軍を辞める時を急ぎすぎたかもしれない。また無理をしそうだ。
「いっそ、彼女でも作ればなぁ…。そうすればオレがいちいち心配する必要も…。…ってオレの方が彼女欲しいつーの」
はあ、と溜息を吐くと同時に客が団体で店に入ってきた。
思考を切り替えよう。
「いらっしゃい、ウチは炒飯が上手いぜ!」
店内に威勢のいい声が響いた
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