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目覚めたソラの目に入ってきたのは、無骨でひび割れだらけのコンクリート、ではなかった。ここはリヴァイヴのアジトではない。
では、少し染みや汚れが目立つが、温かい思い出とともにある石造りの天井、でもなかった。ここはソラが育った孤児院の部屋でもない。
清潔だが生活感のない白色の天井。華美な照明。ふかふかだが太陽の匂いのしないマット。ソラの意識が徐々に覚醒して、思考が明晰になっていく。
「そうだ、ここはホテルだったよね」
ソラは深くため息をついた。そのままベッドの上で枕に顔をうずめる。
「本当に、どうしてこんなことになっちゃんたんだろう」
リヴァイヴとの別れは慌しいものだったが、オーブに着いてからはそれをはるかに超えるめまぐるしい展開だった。
ラクス=クライン本人に手を握ってもらい、動転して気を失ったソラ。その日は安静を取るべく、空港近くのホテルにそのまま宿泊することになった。
ちなみにジェスとカイト(とおまけでハチ)の滞在先はそこから離れた場所にある、数段グレードの落ちるホテルである。
「すまない、さすがにこのホテルの宿泊費は経費で落とせない。編集長に殺される」
できれば傍に付きっ切りでいたいんだが、と釈明するジェスだった。その言葉からも、ソラのいるホテルがいかに豪勢なものか分かるだろう。
「じゃあ、私の宿泊代は誰が出してくれるんですか?」
ソラが素直な疑問を言うと、ジェスがばつの悪そうな顔をする。
「……まあ、率直に言えば出所は税金だよ」
「税金……政府がお金を払ってくれるってことですよね。それって何故ですか?」
「詳しいことはすぐに分かるよ」
なるほどジェスの言うとおりソラにもすぐに理由が分かった。
初日こそ気絶騒ぎで有耶無耶になったものの、それからのソラは時の人として、マスコミに出ずっぱりになった。
国営放送のニュース、民間のワイドショー、バラエティ番組等々、日に何本もの番組を梯子する状況である。
ジェスとカイトがマネージャーよろしくソラのスケジュールを管理し、ホテルにいるとき以外は常に傍にいてくれているが、違和感は捨てきれない。
はじめは、空港でひざから崩れ落ちる自分の姿が大画面で映し出され、それに赤面するくらいの感想しか持たなかったソラだった。しかし一週間を過ぎても収まる様子の無い過熱報道にいささかげんなりしてくる頃になると、そろそろからくりが見え始めたのである。
過去にガルナハンで経験した出来事も手伝ったのかもしれない。実際の事件ではなく、政府に都合の良いように脚色された報道番組と同じ構造。
「私は政府の宣伝に使われているんだ」
テロリストのアジトから奇跡的に救出された少女、両親は過去の戦災の尊い犠牲者、孤児院でけなげに生活しつつ、オーブ政府からの奨学金を受けて勉学に励んでいる。そして将来の希望は看護師。
どこで調べたのかソラの経歴を勝手に紹介し、「奇跡の少女」と歯の浮きそうなフレーズでソラを放送した後には、かならずこんな内容が続く。
「こんないたいけな少女が犠牲になるテロリズムを許すわけにはいかない。今こそ統一連合は断固たる態度で、無法な武装集団に対して正義の鉄槌を下すべきだ」と。
それが「犠牲となった少女に心を痛めるアスハ代表」や、「平和の誓いを新たにするPG部隊の青年将校たち」や、「首尾よく少女を救い出した政府の見事な手腕」と微妙に異なるだけで、本質は何も変わらない。
ソラを悲劇のヒロインに仕立て上げるとともに、その庇護者としての政府のイメージアップを図ろうとしているのが明らかだった。
それは東ユーラシアで見た番組ほどにはあからさまな嘘ではない。基本的には事実を報道してはいる。ただ、それでいてこっそりと意図的な印象操作をしている点では、よほど悪質にも思える。
たまにそういう印象操作と無縁な番組があるかと思えば、ソラの服装や、つけているアクセサリーやら、学校の友人関係など、愚にも付かない内容を延々と垂れ流すイエロージャーナリズムだ。「大手芸能プロダクションがソラ=ヒダカに注目?」などという記事にいたっては、呆れるのを通り越して失笑しか漏れなかった。
ジェスから説明され、納得はしたはずだった。
東ユーラシア情勢が緊迫している今、リヴァイヴの情報を持っているであろうソラの存在は政府にマークされている。宣伝に使われるのは不本意かもしれないが、注目を浴びればそれだけ政府もソラに対して無法な振る舞いはできなくなる。
ほとぼりが冷めるまでは、この境遇に甘んじるしかない。
「……でも、いつまで我慢できるのかな?私」
せっかくオーブに戻ってきたのに、ジャーナリストが押しかけて孤児院が迷惑でもこうむるかと考えると、帰ることもできない。当然ながら学校にも同様の理由で通えない。
空港で会った孤児院の仲間たちとの接触が、オーブに戻ってきてからの唯一の、親しい人たちとの再会であった。
ずっとホテル暮らしという一週間。ソラも鬱憤がたまりつつあった。このままではいつか爆発してしまいそうだ。
そしてその爆発は、意外に早く訪れたのである。
その日のソラは、「“オーブ・テレビ激論道場”」などというショー番組に出演させられていた。政治討論番組とは聞こえがいいが、タレントや御用学者や次の選挙を狙っている当落線上の候補者たちが出演して、さもそれらしいことを話すだけの生放送バラエティだ。
「君が奇跡の少女?ふうん、ちょっと地味だね。ま、いいか。とりあえずそこに座って。もたもたしないで!」
番組スタッフ、特にディレクターは居丈高だった。テレビ出演させてやるのだから感謝しろ、とばかりにソラをぞんざいに扱う。
ソラも少しむっとしたが「まともに相手をするな。壊れたラジオが音を鳴らしているくらいに思えばいいんだ」とジェスに耳打ちされ、怒りを抑える。
番組はソラの存在などお構いなしに進行した。いつものようにソラの悲劇が誇張交じりに放送され、ソラには適当な質問が二つ三つなされて、司会者がそれを都合よく解釈。後は出演者たちの討論――とも呼べぬお喋りに移行した。
(後は、番組が終わるまで我慢して座っていればいいのか)
退屈な気分を紛らわせようとしたソラは、テーブルのジュースに手を伸ばす。
次の瞬間、ソラは固まった。
政治評論家の肩書きの男性が、何気なく言った台詞が、ソラの耳に届いたからだった。
「しかし、過去の戦争による被害からの復興が至上命題のはずなのに、テロリストたちはいたずらに破壊と混乱を撒き散らしていますね。まったく、野蛮人という他無い」
……野蛮人?あの人たちが野蛮人ですって?
ソラの脳裏に、ギリアム、センセイ、コニール、大尉に中尉に少尉、サイにシゲト、そしてシンたちの顔が浮かんだ。
違う!あの人たちは――確かに少々荒っぽいところはあったが――野蛮人なんかじゃない!
そんなソラの気持ちにもお構いなしで、出演者たちの無責任な会話が続く。
「結局はエゴなんですよ。時代の流れとともに価値観が変容しているのに、既得の利益を守りたい、しかし人々からの支持は得られない、なので武力、いや暴力に訴える他に方策を持たない、そういう層が安易にテロリズムに走るんです」
……違う、そうじゃない!リヴァイヴのやっていることはたしかに武力を使った行動かもしれない。でも、彼らが武器を取った、いや武器を取らざるを得なかった理由だって、ちゃんとあるのだ。
それは決して正当化できない理由だったとしても、単なる暴力の一言で片付けられるものではないはずだ。
なんでこの人はこんな一方的に、高みに立った物の言い方をするのだろう。
ソラは隣に座るその評論家をにらみつける。しかしその視線には誰も気づかない……ボディガード役で付いてきたジェスの他には。
そして評論家が決定的な一言を放った。
「テロリストは女子供まで戦闘に駆り立てているそうじゃないですか。
彼らは自分の生活苦が政府の無策のせいだと教え込まれ、喜んで死地に赴くそうですよ。まさしく精神の貧困と無知の生む悲劇というわけですな」
……違う、そうじゃない、あの人たちは心が貧しくもないし無知でもない!絶対に!
ソラの脳裏に、ほんのわずかな付き合いだったが鮮烈な印象を残して去っていった友人、タチアナの姿がよみがえる。
ターニャは無知だから銃を取ったわけじゃない!
「そんな歪んだ正義の犠牲者が、このソラさんというわけですね」
そして、私はリヴァイヴの歪んだ正義の犠牲者なんかじゃない!
「違います!」
気づけばソラは立ち上がり、声に出して叫んでいた。唖然とする出演者たちを睨み付ける。
「何も見てないくせに、誰とも話してないくせに……好き勝手なことばかり言わないで!」
感情を爆発させたソラは言い放つと、そのままスタジオから走り去った。予想外のことで誰も引き止めることはできなかった。
一部始終を脇から眺めていたジェスは肩をすくめた。困ったお嬢さんだ、とは思ったものの、不快ではない。ソラの台詞は、まさしくジェスの言いたいことと一緒だったからだ。
そのジェスのもとに、番組のディレクターが顔を紅潮させながら詰め寄る。
「おい、どうしてくれるんだ!これじゃ生放送が滅茶苦茶だ!まったく何のつもりだ。あの小娘と、それにアンタもだ。いったいどう責任を……」
「いい加減にしろよ、俗物ディレクターが」
ジェスが珍しく怒りをあらわにしていた。その迫力に気圧されて、ディレクターはたちまち言葉に詰まる。
「16歳の女の子の気持ちも汲まず、番組の玩具にした挙句に、責任を押し付けようだと?それでもジャーナリストの端くれか?いや、ジャーナリスト以前に、立派な大人のつもりなのか?鏡で自分のみっともない姿を見つめなおしてから文句を言いやがれ。もう一度言ってやる、この俗物ディレクターが!」
口から泡を吹きそうなディレクターに一瞥をくれると、ジェスもスタジオから走り去る。
「俺もまだまだガキだな。ソラちゃんを追いかけるのが先なのに、似非ジャーナリストに怒りをぶちまける方を優先しちまった」
反省しつつ、ソラの後を追うジェスだった。
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