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この時代、もはやブルーコスモス思想は衰退している。
ナチュラルとコーディネイター、かつては絶滅戦争すらおこなった二者が融和したことは、間違いなくラクス率いる統一連合の功績の一つである。
しかし、それでも古い考えを捨てきれず、かつての栄光を取り戻そうと固執する輩はいるものである。大西洋連邦で活動中のこのレジスタンス組織もその一つ。地球圏至上、コーディネイター排斥の思想から抜け出せていない者たちの集まりである。
そしてそういった人間に限って、扇動めいた訓示を好むのもまた常であった。
「狂気と退廃に満ちた世界にあってなお、清廉潔白な思想を失わぬ同志諸君、私は君たちを誇りに思う!」
居並ぶメンバーたちにより、喚起の雄叫びがこだまする。リーダーと思しき男は、地球連合の古めかしい軍服を着ている。どうやら軍人上がりらしい。
「ラクス=クラインなる遺伝子操作によって生み出された忌まわしき怪物が支配するこの世の中は、いつか終末の業火にさらされるであろう!……否!我々こそがその終末の業火をもたらすのだ。さすれば、炎の中から蘇る不死鳥のごとく、青き清浄なる世界が再び世に生まれ出ずるだろう!!」
メンバーたちの熱狂的な拍手に続いて、誰ともなく歌いだした地球連合軍歌が響き渡る。
非常に醜悪な光景だった。
このレジスタンスは、ブルーコスモス思想に凝り固まっているせいで民衆の支持をほとんど得ていない。テロリストにも劣る存在である。しかし皮肉な事にこの組織は、旧連合製のモビルスーツやモビルアーマーを多数保持しているなど力だけは持っていた。単純に戦力として見た場合、決して無視できる組織ではなかった為に治安警察がその所在を突き止めた時『彼ら』の派遣が決まったのだ。
軍歌の響きに酔い痴れている面々を、非常警報のサイレンが現実に引き戻した。リーダーは不敵な笑みを浮かべる。
「ふん、やつらめここを嗅ぎつけたか。まあいい……返り討ちにしてくれる。 ウィンダム部隊、ザムザザー出撃だ!青き清浄なる世界のために、連合の名を騙る愚か者どもを生贄に捧げてやろう!」
意気揚々とコクピットに向かうパイロットたちを誇らしげに見つつ、リーダーは司令室に向かう。そして司令室のスタッフに声をかける。
「さあ、我らが剣の錆になろうとする愚か者は誰だ?敵の数と詳細を教えろ」
「……さ、3機です」
「何、たったの3機だと?舐められたものだ。これではウィンダム部隊の練習相手にもならんな」
「お……お言葉ですが、敵は本気で我々を倒しにかかっているかと思われます!」
リーダーは怪訝そうな表情をした。部下が口答えをしたからではない。部下の言葉が震えているように聞こえたからである。
「何だと、なぜそのようなことがわかる?」
部下はゆっくりとモニターを指差した。そこには、砂塵を巻き上げて今まさにこの基地に向かわんとしている三機のモビルスーツが映し出されていた。十字の紋章が刻まれたシールドと巨大なバズーカ砲を構え真紅に光り輝く攻性防御フィールドを纏う重厚な白の機体。
「あ、あれはドムクルセイダー!?」
「そうです、悪名高いジェノサイダーが派遣されたんです!」
「地上軍第三特務隊だと……ば、馬鹿な、なぜ奴らが!」
疾駆するドムクルセイダーのモノアイが怪しく光る。それが、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的な……虐殺の始まりの合図だった。
15分後、ドムクルセイダーはその圧倒的な力を存分に振るいウィンダム12機をすべて叩き落し、ザムザザーの腹に風穴を開け、そして基地施設を完全に破壊してしまった。
「退屈しのぎにもなりゃしないな」
「手ごたえがなさ過ぎて、つまらんぜ」
欠伸まで出しそうなマーズとヘルベルトの気の抜けた会話にヒルダは加わらない。彼女の隻眼に写るのは、主翼を破壊されて飛びたてなくなったジェット機である。ウィンダムを無造作に叩き落すドムクルセイダーの姿に戦意を失ったリーダーが、尻尾を巻いて逃げ出そうとしたのだ。
それを見つけたヒルダはモビルスーツの迎撃を2人に任せ、ジェット機の翼をドリルランスで刺し貫いたのだ。あえて撃墜されなかったリーダーは地面に縫い付けられたジェット機の中でつい15分前まで無敵と信じていた己の戦力が壊滅していくのをただ眺める事しかできなかった。
そして今、ドムクルセイダーが一歩ずつ、ゆっくりとジェット機に近づいてくる。リーダーは、恐怖に震えながら、必死にヒルダに通信で呼びかける。
「こ、降伏する。抵抗はしない。だから、条約にのっとり、捕虜としての待遇を求める……聞いているのか、おい、降伏すると言っているんだ!」
ヒルダは嘲笑を浮かべながら、言い放った。
「一つ良い事を教えてやろう。お前らの基地での会話はウチの治安警察が全て盗聴していたのさ」
そう言いながら、ヒルダはギガランチャーをジェット機に向けた。
「だから全部アタシたちは聞いていたんだよ。お前がその薄汚い口で、ラクス様を侮辱する言葉を大声で叫んでいたところもね」
ヒルダの口調は淡々としていた。それだけに、彼女の怒りが凄まじいものだとリーダーにもわかった。
「お前がラクス様のためにできることはただ一つ……地獄で永遠に詫び続けることだけさ!」
その瞬間、男は乗機ごとこの世界から消滅した。苦痛は一瞬だけだったのがせめてもの情けだったのかもしれない。戦力をあらかた失い、指導者を失った事で基地はもはや完全に抵抗の力を失っていた。しかし、ヒルダは容赦しない。ラクス=クラインに仇成す者は何者であろうと駆除すべき害虫だと考えるからだ。
「ラクス様に逆らうとは馬鹿な連中だよ。マーズ、ヘルベルト!周囲を焼き払いな、不届き者を一匹も逃がさないようにね!」
ドムクルセイダー。その名の通り、ラクスの正義を世界にしらしめるためにコズミック・イラに蘇った十字軍の騎士。しかし忘れてはならないのは、第三者からみれば十字軍は、まさしく残虐な狂信の徒であったという事実である。狂信者が次に目標と定めるのは、東ユーラシア。
その事実を、まだリヴァイブは知らない。
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