仮想第25話:ガルナハンの春(中編):第七幕A

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☆第七幕:ガルナハンの中心にて



CE.79年4月現在において、人類生活圏の中で最も白熱している場所を挙げよといわれたならば、大方の人間はまず間違いなくガルナハンと答えるであろう。

凋落した昔の大国、東ユーラシア共和国。その一州の州都でしかないガルナハン。だが、その現在においてのみは世界の帰趨を左右するホットスポットとして世界の注目を浴びていた。烏合の衆と目されたレジスタンス連合の統一連合軍に対するまさかの勝利によるコーカサス独立圏の中心。その世界の中心に、ソラ=ヒダカとジェス=リブルはいた。



「神の前では全ての者が平等です。」


 ガルナハンの州警察本部の裏庭にある身元不明遺体の為の無名墓地。少なからぬ名も無き魂達が安らかに眠るこの静寂の楽園に、今日もまた一人の女がやって来ようとしていた。


「この女、セレナ=マルレーンは、何の因果か、この土地にて何者かの凶弾に斃(たお)れ、そしてその命を終えました。」


 この地域では珍しいカトリック教の神父が穴の中に置かれて土を被(かぶ)せられるのを待つ棺に向かって黙々と言葉を唱える。コーディネイターの製造法が明かされた事によって既存の宗教は人々からの信仰を失ったが、それでも人は死後という死者のみが経験する最後のフロンティアへと立ち行く為に人を生む権利を失った宗教を必要としていたのである。


「セレナがこの国の者か異国の者か、喜ばしい生涯を送ったのか悲しむべき生涯を送ったのか、ナチュラルとして生まれたのかコーディネイターとして生まれたのか、全ては最早『神のみぞ知る』ものです。」


 告別式はとても質素なものであった。もとより引き取り手のいない遺体達の為の場所である。神父と、ごく稀に警察関係者が立会いに望むだけの寂しいものになるのは当然である。だが、この告別式ではわずかであったが彼女との別れを惜しむ為に来た人達が来ていた。


「ですが、セレナの死を悼み、ほんの僅かな出会いの為だけに、この最後の別れの場に来た者が2人もいた事は、セレナにとって何よりもの救いでしょう。」


 ソラとジェスである。遺体の処理の後、ジェスから『遺体は無名墓地に埋葬される。』と聞いたソラが強引にこの無名墓地にまでやって来て告別式に参列したのである。

本当ならば、セレナの遺品の写真に写っているセレナの恋人が告別式に参列すべきなのだろうとソラは思う。この写真で分かる以外にもセレナに関係したたくさんの人々の前で、セレナが眠るに然るべき場所にて行われるべきものである。だが、世界はセレナにその死後でさえ蛇姫としての贖罪を求めてきた。親しき人々は最期の場には居らず、懐かしき故郷は埋葬の地とならなかった。

ならばせめて、浅はかでも良いからあなたの死に弔いの意を示す人がいるという事を示そう。あなたはまだ、人に愛されながら死んだんだと嘘でも良いから言ってあげたい。そんなソラの優しい願いがこの少しだけ暖かい告別式を生み出した。


「彼女らに愛されたセレナの魂が、神の御許で安らかに過ごされるよう、皆で祈りましょう。アーメン。」


 神父は胸に十字を切って死者の魂の冥福を祈る。ソラとジェスはただ頭を下げて、セレナが安らかに眠れるように願うのみであった。




 告別式を終えた後、ソラとジェスは告別式を取り仕切ったマルコム=ロルカ神父の誘いを受けてコーカサス州警察署所属の警察教会にて閑談をする事となった。


「セレナさん、でしたか。彼女は非常に幸運ですね。何せあなた方のような善意の人に最後まで見守られて神の御許へ行けたのですから。」


 酸味の強くなった紅茶と心ばかりの茶菓子を以って2人をもてなすロルカ神父はそう言ってしんみりとした嬉しさを滲(にじみ)み出している。


「他の人達には参列される方がいない方もいらっしゃったんですか?」


 ソラの質問に対してロルカ神父は暖かな表情こそ崩さなかったものの、滲み出させるものを嬉しさから寂しさへと変えてから話を始めた。


「この教会は警察用の教会です。懲役に服している囚人達への心のケア、死刑を執行された囚人達の葬儀、そして身元不明者の葬儀。

そして、これらの告別式では、大抵誰もいないのが普通なのです。死刑囚の告別式の場合は親族の方が来られる場合もあります。ですが、身元不明者の場合、多くは正体が分からずに新聞に一応告知するものの、参列される場合は稀で私だけでその方を見送ります。」


「悲しいですね。」


「ええ。例え生前どのような悪行を為そうとも、罪に苦しみを覚え神に赦しを乞う意思さえあれば、神は涙を呑んでその罪を赦されるはずである。その現世での一番最後が、私のような神父一人というのは悲しいでしょう。」


「いえ、違います。」


 ソラの発言にロルカ神父は暖かな表情を僅(わず)かに崩して怪訝(けげん)そうな表情を見せる。


「神父さんは、悲しくないんですか?」


「私、ですか?」


 ソラは頷(うなず)く。


「神父さんは年に何回ぐらい、お葬式に立ち会われるんですか?」


「年に、ですか。………そうですね、大体週に1回は執り行っていますから、年にすると60回以上といったところでしょう。惨事や事故があった場合は更に増えます。」


「じゃあ、神父さんはその60人の人の死にどうやって耐えていらっしゃるんですか?確かに、亡くなられた方と懇意(こんい)にしているわけじゃありませんから、そんなに悲しくないんでしょうけれども、それでも普通に人の死が辛いと思うんです。それとも………」


 ソラはそこで僅かに押し黙ってしまったものの、言うべきその言葉を言い放った。


「人の死にたくさん接していると、辛さは薄れていって、最後にはほとんど痛痒(つうよう)にさえ感じなくなってしまうんでしょうか?」


 その質問を聞いてロルカ神父は、オーブからやって来たらしいこのソラという少女が温室育ちの無垢な生け花などではなく、少なからぬ泥に塗(まみ)れながら尚も強(したた)かに生き抜く野花である事を知った。それ故に泥に塗れる内にその穢れに対して鈍感になっている自分に対して恐怖感を覚えている事も把握した。



「この仕事を続けていると、確かに少なからず人の死に対して一種の慣れを感じてしまう事はあります。いつもいつも動揺していては葬儀は行えませんし、何より最も悲しんでおられるであろうご遺族ご友人の方々を慰める事すらなりません。


 では、辛くない死ばかりかというとそういうわけでもありません。このガルナハンの獄中には多くの政治犯がいます。彼らの心のケアも我々聖職者の仕事なのですが、この政治犯と呼ばれる方々には実は意外と親近感を持ってしまうのです。

彼らは本来善良な一国民であるはずが、時勢の混乱に巻き込まれて悪事に手を染め、ここへ来てしまったという者達です。彼らの話を聞く時、私は彼らの境遇に心から涙し、この悪徳の世を恨まずにはいられません。


 ですが、法律は法律です。いくら彼らに正当な理由があろうとも、法を破った者は相応の罰を受けねばなりません。ある者は然るべき財貨を支払い、ある者はこの場において役目を果たし、ある者は永久にこの牢獄において人々の為に物を作り、そしてある者は死を以てその罪を償(つぐな)います。

死刑の当日、彼らには自らの信ずる宗教の聖職者から最後の説法を受ける機会を与えられます。その最後の説法を頼まれた時、それが一番辛いです。そして、死した彼らの葬儀、それもまた辛いです。


 私が表立って動揺しては死に行く彼らに救いを与える事など到底不可能でしょう。私自身が死を恐れていて、どうして彼らに死は怖くないと説明できるでしょう。

だからといって、心を閉ざし表面だけで彼らと接していても彼らに救いは生まれません。救いとは心から発するものであり、形はそれを伝える為の手段に過ぎません。


 ですから私は、彼らの死に対しては、その死から逃げる事も、その死に壁を設ける事もせず、彼らの存在と彼らの死を分けて考えています。彼らに対して私は真摯な心を以って終始接しています。彼らの魂の在り方をそのままに尊重し、その在り方の結果でしかない死や罪というものをまた別に考えています。


 それでも死に対して感覚が麻痺しているのかもしれません。内心で彼らを慮っているつもりの偽善なのかもしれません。ですが、それでも私は両立したい。死の辛さと、死の意義というものを共に理解する事を。さもなくば、彼らに共感する事はできず、義憤と同情しか得る事はできないでしょう。」



 そこまで言って、ようやくロルカ神父は一息を置いた。


「ソラさん。あなたの質問は、死の辛さに人は慣れてしまうものなのか、大枠ではそういう意味合いでよろしかったですね。」


「はい。」


「慣れというものは確かにあります。その大き過ぎる混沌を収めなければならない必要性から、誰でもある程度の対処法は身に着けてしまうのです。重要なのは、どのようにに対処するかです。

私は私なりに彼らを失う事の辛さと彼らの意地が達せられた意義の両方を受け取れるようにしています。それは私が彼らを尊重する為には、避けられない死に同情するだけでも、彼らの思想と共に義憤に駆られるだけでも、足りないと判断したからです。


 ソラさん、あなたは死に逝く人にどのように接したいですか?いいえ、生きている人にどのように接したいですか?長々とお話してしまいましたが、明確な答えの無い問いですので私から言える事はこれが精一杯です。

後はソラさんが、自分にとって最も納得できる生と死の受け止め方を自ら模索してゆく他には無いでしょう。………質問の答えはこんなところでよろしいでしょうか?」


「はい。とっても参考になりました。ありがとうございます。」


 ロルカ神父の説法を受けたソラはほんの少しだけ、ほんの少しだけだが自分の進むべき道の一端を垣間見たような気がした。その現れであるこの清々(すがすが)しい返答にロルカ神父も相好(そうこう)を崩した。


「それは良かった。私の話が、少しでもソラさんの手助けになってくれれば幸いです。所詮、聖職者といえども現世に生きる者。死に逝く人達の救済を願う事が本職でしょうが、やはり未来に溢れる若い方の救いが為せる事は望外の喜びです。ありがとう。」


「こちらこそ、どういたしまして。セレナさんも、きっと神父さんに見送られて幸せだと思います。」 

その台詞に反応したのは意外な事に、さっきまで沈黙を保っていた男、ジェスだった。


「なあソラ、今の今まで聞きそびれていたんだが、一つ聞いていいか。」


「構いませんけど、何ですか?」


 何とも言いにくそうにジェスは聞く。


「いや、そのセレナさんと君とは知り合いなのか?」



 ジェスの質問は今までの会話からすると不自然である。ソラもロルカ神父もジェスも3人共に『セレナ=マルレーン』という個人を認めた上で話を進めていた。だが、少し考えてみればジェスとロルカ神父はセレナという個人を遺体としてしか知らない。

生身の彼女を知っているのはソラだけなのである。そう考えれば、セレナがソラの知り合いである以外に2人の関係は考えられないわけで、ジェスの質問は確認に近いものであった。


 が、困ったのがソラである。何せ、『セレナ=マルレーン』として扱うように彼女に頼まれたからそう扱ってはいるものの、ソラにとってもセレナという人格は彼女の今際(いまわ)の1分間に初めて知ったものであり、ソラにとっては彼女は本来ならローゼンクロイツの蛇姫『シーグリス=マルカ』になってしまうのだ。

が、その事を話してしまえばこの良さそうな雰囲気がガラガラと音を立てて崩れ落ちるのは自明であるから話す事もできない。隠してソラはあやふやな返事でお茶を濁す事になる。


「は………はい。一応、あんまり知っているってわけじゃなかったですけれども、顔は知っているから顔見知りっていうのか、多分そんな感じです。」


「そうか。ソラがあんまり人柄とかを知らないんならどうしようもないか。今のは忘れてくれ。」


 ソラが何かを知っていたら一気に話が進展しそうなジェスの言い草。思わずソラは聞く。


「どういう意味ですか?」


 ソラに聞かれて、ジェスは表情を引き締める。そして、ロルカ神父に向き直ると。


「失礼ながら神父さん。少し、生臭い話になるがいいか?」


「結構です。元から生臭坊主もかくやな生臭神父です。それに、恐らくその話なら私も知っていると思いますので。」


「知っている?」


 不思議そうなジェスの顔を見てロルカ神父は。


「セレナさんの検死結果、ではないですか?」


 ジェスはこくりと頷いた。



 2人だけで話が進んでいてはたまらない。ソラは思わず問いかける。


「どういう意味ですか?検死結果がどうこうって?」


「当初、路地裏でいきなり倒れていたから物取りや気の短い奴らの犯行かと思って検死結果を見てみたんだが、正直なところわけの分からない状態なんだ。」


「わけが分からない??」


「まず、死因なんだがこれは大量出血でほぼ確定。致命傷となったのは銃で撃ち抜かれたと思われる左胸の貫通痕でこれも確定なんだが、この貫通痕が異常なんだ。」


「異常??」


「銃弾がセレナさんの左胸を打ち抜いているんだがその銃弾の入射角が信じられないほど大きいんだ?」


「???」


 ソラ、ますますわけが分からない。たまりかねてロルカ神父が説明に入る。


「銃弾は狙撃レベルの距離を狙わない限り、普通はほぼ直線軌道を描きます。特にライフルは回転によるマグナス力が働きますから滑空式に比べて重力や風向の影響を受けません。ですから、身体への入射角から射撃元が予想できるのです。」


「近似値的に直線の先に銃口があるって考えられるんですね。」


「ええ。ですが、基本的にこの入射角というものはほとんど0になります。大概の人は銃を撃つ際に身体に垂直に腕を伸ばして撃つので多少の誤差はあれども、射撃距離と身体での補整比が圧倒的なので同じ平面に立って銃を撃てば普通は0になるのです。

例外的に銃口を身体に密着させて撃つと体勢的に入射角が変動しますが、その場合は密着させた場所が火薬の爆風で焼けるのでそれは検死で分かってしまいます。銃口周辺の衣服や身体が焼き焦がされてしまいますからね。」


「つまり、入射角がずれているって事はもっと傾斜がある場所で撃たれたって事なんですね。」


「鋭いですね。ですが、あの大量出血の状態でソラさんがたまたま出会った際にまだ息があった事を考えると別の場所で撃たれてあの場所まで運ばれたと考えるのは不自然ですね。やはり、この場所で異常な角度から撃たれた事になります。」


「………」


 ジェスが続ける。


「謎はまだある。セレナさんを撃ち抜いた弾は何と、肋骨をきれいに叩き割って貫通しているんだ。

人間の身体っていうのは意外に強靭だ。筋肉や内臓を撃ち抜ける弾丸でさえ民間では数少ない。ましてや人の肋骨を撃ち抜ける弾丸なんて軍用突撃銃でさえ数えるほどしかないだろう。いわんや、”肋骨を撃ち抜いてなお弾丸の軌道がほとんど変わらない”タングステン合金製の超重量弾頭なんて、そこいらのチンピラがおいそれと使えるものじゃない。

以上の話を総合して考えるとセレナさんを撃ち抜いたのは狙撃銃。それも超遠距離狙撃も可能な超一級品だ。狙撃元はあの路地裏のビルの5階。はっきりいって、セレナさんを確実に殺す気の奴がいたって事だ。」


「加えて、撃ち抜いた先も”本来ならば”心臓があるべき場所でした。セレナさんの心臓が若干右寄りだった事で即死こそ避けられましたが、何者かがセレナさんを暗殺したかった事は明白でしょう。」


「治安の不安定なガルナハンでもこの事件は突出して異常だ。正直なところ、俺は嫌な感じが絶えない。」


 ジェスの言葉にロルカ神父も頷く。


「私も、まだ言葉にはできませんが、この事件には嫌なものを感じます。

ガルナハン解放直後のこの奇怪な事件、そしてレジスタンス連合指導部の違和感。もう一つでも何か嫌なものが重なればすぐに崩壊してしまいそうな、民衆の歓喜と興奮の中に隠れた禍々しさ。

東ユーラシア共和国と汎ムスリム会議も本気になったと聞きます。ガルナハン解放までは少なからず往来のあったコーカサス州外から来た者達を解放以降は一人と見ていません。きっと、両国は本格的な蟻の子一匹逃さない封鎖網を敷いたのでしょう。

最早このコーカサスは陸の孤島。事が起きれば、逃げる事もできない。この不安感が杞憂である事を願うばかりです。」


 3人はそのまましばし黙り込んでしまった。この何も確証が無いのに異常に人を圧迫する空間を打破しようと、ソラが何とか手元にあった紅茶のティーカップに手を添えて今までの話を全部無かったかのように紅茶を呑み込む。紅茶は自然冷却されたにしても恐ろしく冷たく、当然ながら雰囲気が変わる事はなかった。



「それにしても、やっぱりロルカ神父の言ったとおりだな。同じ占領だが、雰囲気が変わっている。」


 ロルカ神父の元を発ってからソラと共にガルナハンを歩いていたジェス=リブルは周囲の状況を見ながらそう呟いた。


「モビルスーツが街のあちらこちらにありますね。」


 周辺を見ながらソラも同意を示す。ガルナハンの街がレジスタンス連合に占領されて少なからぬ時が経ったが、何の脅威も無いのに街の内部にモビルスーツが立っているなどという状況は初めてであった。

一応、今までもローゼンクロイツ系のモビルスーツ部隊はガルナハン近郊のサムクァイエットの街にあるサムクァイエット基地に距離をとって駐屯していたものの、街の内部にまで入り込んできた事は無かった。


「民生品のダガーコンシューマに外付けバーニアとビームライフルを装備させた代物か。民生品として流通しているとはいえ、安くもない闇市場から大枚叩(たいまいはた)いて大量に仕入れたんだろうが………」



 ダガーコンシューマとは旧地球連合のモビルスーツの量産型ダガーを民生品として払い下げた代物である。元は旧地球連合軍初のモビルスーツとして大量に生産されて各国の主力兵器の地位を約束されたはずの機体であった。


 ところが、第二次汎地球圏大戦間の空前絶後の攻撃技術の躍進によって、量産型ダガーの売りであった簡易PS装甲のシステムは陳腐化どころか無力化され『戦闘性能は新兵器の一割、整備時間は旧兵器の十倍。』という駄目機体に落ちぶれてしまい、結局旧地球連合諸国はただ廃棄するのも馬鹿馬鹿しいという事で非武装化した量産型ダガーを民生品ダガーコンシューマとして売りに出したのである。


 『捨てるぐらいなら売る』程度の感覚で量産型ダガーの払い下げを行っていた旧地球連合諸国の担当者はその後、この機体の意外なスペックに驚く事になる。

意外な事に、月面都市ガッセンディ市やイザナミL3コロニーの建設、更には戦後処理の一環としての旧戦域でのデブリ回収など、『軍用としては無意味だが一般ではそれなりに使える』量産型ダガーの複合装甲はこれらの宇宙開発事業で特に珍重され、つまりよく売れて、オーブ連合首長国や旧プラント自治区といった宇宙権益を持つ勢力まで購入層となってしまい、果ては当の投げ売りをしていた旧地球連合諸国さえ工業用に軍部から官庁に委譲するなどと売り惜しみに走ってしまった為に、旧世代機の割に比較的高値の付く名機ならぬ迷機となってしまったのである。


 そんなダガーコンシューマであるが、レジスタンス達にとっては『買いやすいが使えない機体』というのが総評であろう。

何せ民生品である。当局にしたところで型番を把握するなどの対策は取れても、保有しているだけで検挙などという芸当はできるはずも無い。何の因果か闇市場に横流れしてしまうダガーコンシューマも少なくはなく、その点では常に闇市場に流通しているダガーコンシューマはレジスタンス達にとっては便利な機体だといえる。

ところが、いざ実戦で使おうとすれば軍が投げ売りした理由が嫌というほどに分かってくる。『安かろうまずかろう』ならぬ『高かろうまずかろう』という(だが、シグナスや他の機体のように市場によってはパーツが出回っていないなどという不具合だけは避けられる。)不便な機体なのである。



 そんな、『買いやすいが使えない機体』たるダガーコンシューマをわざわざ買い溜めする理由。そんな理由はジェスには一つしか思いつかなかった。が、それを敢えて口にするような事はしない。その代わりに。


「俺の勘違いだったらいいんだけどな。」


 気休めにもならない希望を呟いた。






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