ある技術者の独り言

ページ名:ある技術者の独り言

……ああ、確かに私はルタンドという機体の開発に関わったよ。

それも中心メンバーとしてね。


しかしながらこうして外から見るとあの機体への評価が分かれるのもよく判る。 何せ一言で言えば、あれは『ザフト系モビルスーツと連合系モビルスーツの合いの子』だからね。いろんな声を聞いたよ。ある人からは「プラントと連合の融和の象徴」と褒められたし。また別の人からは「節操が無い」と言われたよ。


特に兵器マニアの評価は辛口だったね。

「新型のクセに旧式のグフやウィンダムとあまり変わらない性能の機体」だとか、酷いのになると「作るだけ無駄」だと太鼓判まで押されてしまったよ(苦笑)


確かに性能に関しては同意せざるを得ないね。それらの機体性能と同等か若干上回る程度でいい、というのが上から要求だったから。

……え?何故性能の向上が見込めないのに開発したのかだって?


『もしザクが連合の艦船で修理しなければならない事になったら?』


『もしウィンダムがザフトの艦船で修理しなければならない事になったら?』


世界が一つになって一番困ったのは、それまで両陣営で別れて使っていた船やモビルスーツが、一緒に使われるようになった事なんだ。ある機体は整備や補給、修理が受けられるのに、ある機体には何も出来ない。こういう事態があちこちの現場で頻発するようになったのさ。ある基地では連合系の武装はあるのに、ザフト系のやつがなくて泣く泣く刃こぼれした重斬刀一本で任務に向かったとか、笑えない笑い話もあったよ。


そこで上から要求が出てきたのさ。“ザフトと連合の両方で使えるモビルスーツを作れ。それも安く大量に作れるものを”ってね。


シンプルな理由だろ?お偉方は純粋に高性能な"新型機"を求めていたんじゃないんだ。いわば、世界中どこでも使える"統合機"を欲しがっていたんだよ。


だからルタンドはまず整備性や生産性、部品や武器の共用を第一に考えたよ。ザフト系モビルスーツと連合系モビルスーツの設計図を全て集めて、共有化できる所はないか徹底的に探ったんだ。コストを抑えるために、部品点数を減らす事にも努力した。一部に一体型装甲を使ったのもその為だからね。


おかげで部品数もコストも従来機に比べて25%ダウン出来たんだよ。OSも両陣営の装備に対応出来る様にしたし、コネクターもどの陣営の武器でも使えるものを開発したんだ。おかげでコイツはその気になればダガーのビームライフルだろうがゲイツの複合盾だろうが大概の手持ち武器が使えるんだ。まあ、ストライカーやウィザードは流石に無理だがね。


大量生産を前提に操縦性や整備性も徹底的に高めたおかげで、新兵や整備兵からは名前の通り"心地良い"って言われてるね。 嬉しい事だよ。


高性能機を欲しがっていた熟練兵には受けが悪いけど……。



この仕事は結局「カーマニアには物足りないけど、女子供でもすぐに運転できる低価格の大衆車を作りました」という事なんだろうね。昔、ドイツが国民車として「フォルクスワーゲン」を作ったようなものさ。


目立たないかもしれないが、こういう仕事も世の中には必要だと思わないかい?


月刊MSファクトリー 77年12月号 『技術者の独り言・第三回』より抜粋



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