前回 1日目 より
【メルビィのイメージチェンジ計画】
【2日目 鍋島の化け猫・すねこすり】
先日の着せ替え人形体験から何とか抜け出したメルビィは、一部のアニマルガールのみが入れる異界の屋敷「マヨヒガ」で休息を取っていた。
「何だろ…思いっきり戦った時とは違う意味で疲れた…」
と、零しながらマヨヒガの私室で横になる。
「これを一週間も続けるのか…」
「レイナから言われたイメージチェンジっていうのかいな?」
「そうそう…っ!?」
誰もいないと油断していたので気付くのが遅れていた。
サッと部屋の端に視線を向けるとそこには黒い和服に身を包んだ猫の耳と尾を持つ女性がいた。それは猫のアニマルガールにも見えるし、ただ猫のコスプレをした女性にも見える。
「いつからいたんだ…鍋島」
「メルビィが横になった辺りからかの?」
「ほぼ最初からじゃねーか!?」
鍋島と呼ばれた女性は、左手で口元を隠し、クスクスと笑っていた。
「風の噂で聞いたんよ。戦闘馬鹿の古のクジラが、蛇に言いくるめられて小洒落たことしてるってな」
「まったく…これだからお前だけは苦手だよ…」
呆れるメルビィを余所に鍋島はスッと立ち上がってメルビィの背中に回る。
「良かったら、わっちが和服を着付けてやろうか?
どうせ、他にアテも無いんやろ?」
「そ、そんな事はない…」
と、メルビィは強がるが目が泳いでいる。鍋島はそれを見過ごさなかったが、あえて気付かないフリをして会話を続ける。
「なら、ええんよ。わっちは猫の気紛れで声かけただけやしのぉ
行くアテあるなら、行ってきたら良い。
ほれほれ、着飾るのはメルビィが思ってるより時間かかるんよ?」
「………くれ…」
「ん?」
鍋島は首をかしげる。
「すまん。強がった。着飾ってくれ…」
メルビィからの言葉を聞くと、ニッと口角を上げて鍋島はメルビィの目を見つめる。
「そうそう。素直が一番。まぁ、これでも出会ったばかりの頃よりは素直になってんやけどなぁ~
ほれ、では始めようか。着せたい服を持ってくるから少しばかり待っててくれや」
と、鍋島はメルビィの部屋を後にし、自分の部屋に衣装を取りに行った。
数分後、そこには鍋島の言われるがままに服を着付けられているメルビィの姿があった。
最初に着た服は、大正ロマンという言葉が似つかわしい女袴であった。袴の色は薄紅色、上半身の着物は桜色で、メルビィのイメージカラーである青と互いに際立たせるような配色になっている。
右の側頭部には赤い紅葉が付けられており、メルビィの藍色の髪の中に紅一点のアクセサリーとして存在感を放っていた。
「よく似合ってるよ。ほな、少し歩いてサイズ合ってるか確かめようか」
「え!?着るだけならまだいいが、これで外歩くのか!?」
「ん?そうやけど?」
「む、むむ////こんなの私に似合うわけねーし…///」
先日の着せ替え人形体験があったとはいえ、メルビィは未だに着飾ることに慣れておらず、可愛らしいと思えるような衣装ではなおのことだった。
「けど、素直に着たやないの?」
「む…それはそうだが…」
「せっかく着たんやし、もったいないやろ?
それに羞恥心に打ち拉がれるメルビィなんて珍しいしの♪」
「結局、それが目的か!?このドSアニマルガール!」
メルビィの赤面を楽しむようにニヤニヤと笑みを浮かべて鍋島はくるりとその場で回ってみせる。
「さて、どうかの?けど、メルビィの元々の服は着付けてる間に猫たちがわっちの部屋に運んでしまったんよ?
どのみち取りに行かないとダメやないのか?」
鍋島の言葉にメルビィは頭を抱える。
「ダメだ…やはり私はこの猫が苦手だ…」
しばらくの間、この和服のまま外を歩く・歩かないと口論になったが、どのみち鍋島の部屋にメルビィの普段の服を取りに行かなければいけないという事もあり、
「案外、黙っていればバレないかもしれへんよ?雰囲気全然違うし、よく似た別人って思われるかもな」
と、いう言葉がトドメとなり、外を出歩くこととなった。
部屋を出ると、右方から何かがこっちに向かって突撃してきた。
「スネ擦らせてぇぇぇ!!」
犬と猫を足して2で割ったようなアニマルガールがメルビィの脛に突撃してきた。
突然の出来事であった事に加え、エコーロケーションを使用してなかった事。更には慣れない服装であった事もあり、受け止めきれずに転倒してしまう。
「痛ぇな…」
と、体を起こしながら自身の脚を見ると、突撃してきた猫と犬を足したような存在が猛烈な勢いで脛にスリスリと擦りついていた。
「すねこすり。何をしてる…」
「見てわからないの?すねこすりだよ?」
「これ以上、私の機嫌が悪くなる前に離れた方が賢明だと思うが?」
「あ、ごめんね」
と、言いながらすねこすりは渋々とメルビィの脛から離れる。
「すねこすりは今日も元気やの」
「うん!すねこする元気はいつでも満タンなのさ!」
鍋島の呟きに大声で即答する。
「鍋島さんはメルビィの部屋で何してたの?」
すねこすりの問いに鍋島はニヤニヤと答える。
「見ての通りや。メルビィを着飾ってたんよ」
「え!?これ、メルビィなの!?確かに似てるとは思ったけど…
メルビィ、こんな可愛い服を着るはずないなーって」
と、すねこすりはメルビィのつま先から頭の先までを一通り見渡す。
「メルビィとは思えないぐらい美人」
「どういう意味だ(怒)」
「ストレートな意味!あ、そうだ鍋島さん。ちょっといい?」
「んむ?」
すねこすりが手招きで鍋島を呼び、耳元で内緒話を始める。それを聞き終えた鍋島は何か悪巧みをしそうな顔で「それは良い」と両手を叩いた。
「メルビィ、もう一着だけ着てもらうぞ?」
「どうせ拒否権ないんだろ?」
「うむ。逃げたところでいつもの服は猫たちに隠させるのでな♪」
こうしてメルビィは別の衣装へと着替えさせられる事となった。
「手伝うよ!」
着替えるため部屋に向かうメルビィと鍋島に興味が出たのか、すねこすりも付いていくことになった。
「まぁ、さっきのよりは悪くないな…
この袖が少し邪魔だが…」
次にメルビィが着せられたのは、同じく女袴だった。しかし、見た目の印象は先程とは大きく異なるものであった。
袴は黒に変わり、上半身の着物は左腕は袖を通しておらず、左半身は胸部のサラシが見え、二の腕辺りにはタトゥーシールが貼ってあった。
まるで任侠映画に出てくるような服装であった。
「すごい迫力…」
その全体図を見たすねこすりは思わず呟く。
「ちょっと、チンチロリンしてみて」
「チンチロリン?」
と、すねこすりのお願いにメルビィは首を傾げた。
「知らないの?」
「すねこすり。チンチロリンより丁半の方がそれっぽいと思うぞ?」
「あー、確かに!他には何かあるかな?」
「花札とかかの?」
と、首を傾げたメルビィを蚊帳の外に鍋島とすねこすりが話を進めていく。
しばらくはこの状態が続いたが、痺れを切らしたのか、メルビィが話に介入する。
「待て待て待て!お前ら私を置いて何の話をしてるんだ!」
「女ヤクザっぽい!」
と、すねこすりが即答。
「うむうむ。任侠者の女幹部ってところかの?」
「な、なるほど…」
先程の服の時とは違い、満更でもないような表情でメルビィは頷いた。
「まぁ、さっきの服装よりはこっちのがいいな…」
「気に入ってくれたようやの。とりあえず、雰囲気あるし、チンチロリンや丁半でもやってみようや
やり方は今から教えるよ」
と、賽子を取り出して3人でのゲーム大会が始まった。
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