登場人物
[カントーエリア 試験解放区 22:30]
☆結城 時雨さん
深夜の道を、特徴的な色合いのフードを被った少女がひとりで歩いている。
(こうして外に出てきたのは入谷さんと一緒にクリスマスの買い出しに行った以来です)
ヘビのフレンズの特徴である尻尾を揺らし、楽しそうに鼻歌を歌いながらどんどん道を進んでいく。
夜の星が煌びやかに輝き、フードについた黒い目に反射している。
(今日は沢山の楽しいことができました、可愛いもの見たり買ったり色んな人とお話しできたり......)
(でも......いろんなところ歩きすぎてちょっとお腹すいてきました......
お金は持ってきたのですが食べる場所があるかどうか......あら?)
前を見ると、道端に屋台が出ている。暗闇の中に屋台のあかりが灯り、辺りに美味しそうな匂いが漂ってくる。
(ナイスタイミングです! 今日はあそこで夜ご飯を頂きましょう! )
そのヘビのフレンズ、ーライキは小走りでその屋台へと向かった。
☆idola
その、反対側。
ぐううううぅ……
(お腹空いたなあ…今日は何を食べよっかなあ)
また一人のフレンズが、夜道をふらふらと進む。
どうやら、彼女ライキと同じ屋台を目指しているようだ。
時刻は午後の11時半。
夜空煌めく星空は綺麗だが、その身に纏う干物感溢れるジャージはなんともミスマッチ。
だが、それもここ「試験開放区」の街並みのおかげで、その姿をなんとか画として捉えられるほどには中和されている。
(塩かなー、味噌かなー、……いや、ここは醤油でいこうか…)
(あー、迷っちゃうよー)
すっかり帳に包まれ、昼間の雑踏も見当たらないこの通り。そこに、
ぐううううううう……
また、先程よりひときわ大きな腹の音が響く。
「ふみゃぁぁぁ……ぁぁー……」
小さく緩んだその口から、たまらず声が漏れる。
相当お腹が空いているようだ。
目の前の美味しそうな灯りに、とぼとぼと、それでも期待のこもった足取りで向かう。
今日は12月31日。大晦日。
年越しを屋台「よるめんや」で過ごそうと、からっぽのお腹と膨れた心を弾ませる。
大晦日は特別な日、節目を迎える特別な日。
彼女はそれに甘んじて、今日は二杯、食べるお金を持ってきている。
「ふぃー!」
今年最後の外食会場に辿り着き、ラーメンのいい匂いが一気に鼻をつく。
☆ふすつさん
「いらっしゃい」
屋台の大将がぶっきらぼうに応対する。
しかし、この屋台の常連であったサバンナキャットは、それがいつものことであり、
大将らしい対応であることをよく知っていた。
「えへへ、大将! とりあえずいつものほしいな!」
「はいよ」
流れるようなやり取りで、注文を終える。
そして、流れるように席に座ろうと思ったが、そこには普段見慣れない、
真っ白な服を着て、ピンク色のポニーテールを揺らしながら麵をすする、鳥のアニマルガールがいた。
「…うみゅ? あっごめんなさいなのー、ちょっと詰めるの!」
サバンナキャットに気が付いて、彼女は少し顔を上げると、そういって席を詰める。
「あっだいじょーぶだよ! へーきへーき!」
彼女がそう言ったかと思うと、直後その後ろから、さらに別の声があがった。
「ごめんくださーい、まだ空いてますかー?」
先ほどサバンナキャットとは別の方向からやってきた蛇のアニマルガール、ライキだ。
「…やっぱり少し詰めてもらえるとうれしいなぁ」
「えへへー、もちろんなの!」
そんなこんなで、3人は今晩席を共にすることになるのだった。
☆結城 時雨さん
「私はサバンナキャット! 二人ともこの辺じゃ見かけない子だねー。何のフレンズ?」
「あ…! わたしはボールニシキヘビのライキっていいます…! よろしくおねがいします…!」
「わたしはオキノタユウなの! オキちゃんーって呼ばれてるのー!」
ラーメンが鍋の中でぐつぐつと煮えるなか、3人が思い思いの自己紹介をする。
「サバンナキャット…というと、お名前は特にない感じですか?」
「うん、そうだよー! 大将さんには“お得意さん”って呼ばれてるけどね!」
サバンナキャットのその言葉に、ラーメン屋の大将が奥で静かにふっと笑う。
「じゃあ、わたしはサバンナちゃんって呼ぶのー!」
「サバンナちゃんですかー。うーん、私はどうしようかな…」
アホウドリがそう言いながら羽をパタパタさせる横で、ボールニシキヘビはうんうんと悩み始める。
「…というかオキさん、そのラーメン…麺伸びてません?」
「うみゅ? あ“あ!?」
ひとしきり雑談を経てスープを吸った麺は、若干ではあるが体積を増してしまっているような感じがした。
それを見たアホウドリは慌ててまた麺をすすりだす。
「お、オキちゃん! そんなに急いで食べたら危ないよー!?」
「そ、そうですよ…の、伸びちゃってますけど、量が増えたと思えば…!」
「うみゅうううう…! た、確かにそうだけど、ちょっとフクザツな気分なの…」
その様子を見て小さく笑いながら大将がサバンナキャットの席に丼を置く。
「ゆっくり食べな、うちの麺は伸びても美味い。それとこれ、いつものだ」
そう言って出てきたのは焼豚が沢山入った醤油ラーメンだった。
「うわ〜!すごい美味しそうです!」
その見た目に思わずライキから声が漏れる。
「ここに来るといつもこれ頼むんだ!これがわたしの一番のお気に入りなの!」
「へ〜...あ、熱いうちに先に食べちゃってください...あとすいません、おんなじのって...?」
「あいよ」
そう言うと大将は再び奥を向いた。
「そういえばあなた達はどこからきたの?ここではあんまりみないけどー」
不意にサバンナキャットが二人に問いかける。
「わたしはゴコクエリアのイラスト爬虫類園からです、職員さんにおやすみもらってクリスマス以来の外出なんです」
その言葉を聞いてアホウドリがむせる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃないの!ライキちゃん!クリスマス以来ってどう言うことなの?!」
「えっと...言葉通りなんですけど...私、まだ最近フレンズ化したばっかりで」
「あ、そう言うことかー、オキちゃんは?」
「うにゅっ、わたし?わたしはチョウシュウ鳥類館からなの!
美味しいご飯を探しにここまできたの!ここのご飯は本当に美味しいの!」
「うんうん!ここのラーメンは本当に美味しいよね!」
「あの〜...らーめんってなんですか...?」
「「あっ」」
☆idola
ラーメン。それは食す黄金。
(サバンナキャット談)
先程までお腹を刺激していたスープの香りにもすっかり慣れ、
今では3人の場の空気をさらに暖かなものにする役割を果たしていた。
しかしまあ、有名でシンプルな食べ物であればあるほど説明は難しいもので。
「オキちゃんが食べてるこのあったかいのを、ラーメンって言うんだよ!」
「へぇ、これが…」
「そうなのそうなの! で、これは”煮干しラーメン”なの!」
「にぼしらーめん…!」
大将は変わらず黙々とラーメンを仕込む。
その雰囲気からは、職人の物の厳格さが感じられる。
「そしてこれが”チャーシュー麺”! お肉いっぱいでしょー?」
「ちゃーしゅーめん……!!」
「どれもとっても美味しいの!」
そんな大将の静けさとは反対に、カウンターでは賑やかな空気が流れている。
「あとは味噌ラーメンとか、塩ラーメンとか!」
「とんこつラーメンもあるのー!」
「たくさんあるんですね!」
「そうだよー!私はぜーんぶ食べたけどね!」
「えー!?」
「すごいのー!」
年末。
年越しを迎えつつあるジャパリパーク。
フレンズ達も職員達もお客さん達も、思い思いの年越しを過ごしているだろう。
なにせ、今現在パークにいる人数は数え切れないのだ。十人十色、本当に様々な大晦日の過ごし方があるに違いない。
そう考えると、ラーメン屋台で年越しを迎えようとしているのは、あながちレアではないかも?
そう考える3人の目の前に届いたのは(ラーメンはライキ宛て)、
分厚い焼豚が6枚のった、醤油ベースのチャーシュー麺だった。
「わあ!……美味しそうですね!」
「でしょー!?」
「ほらほら!早速食べるのー!」
「そ、それじゃあ、いただきます…!」
「いただきます!」
「いただきますなのー!」
ライキが醤油ラーメンをすするのに続いて、アホウドリとサバンナキャットもそれざれのラーメンをすする。
同時に、満面の笑みに表情が変わっていく。
既にラーメンを食べていても、そのラーメンが伸びていても、美味しいことには変わりないのだ。
「……すっごく美味しいです!!」
「おいしー!」
「おいしいのー♪」
「あいよ」
黙々とラーメンを食べる3人を囲む屋台では、除夜の鐘は聞こえない。
しかし、店仕舞いの時刻を時計を見ずとも把握している大将には、今の時刻がはっきりと分かっていた。
「……年越しだな」
☆ふすつさん
その時、夜空に大きな輝きがほとばしる。…花火だ。
「わー! きれいなのー!」
アホウドリはその美しい花々を見るために、外へ飛び出した。
「すっごーーーい!」
サバンナキャットは目をキラキラさせながら、屋台から身を乗り出す。
「わぁ…!」
ボールニシキヘビは普段見ない輝きに、圧倒されながらも感嘆した。
三人のフレンズが思い思いの反応をし、年明けを彩る輝きに照らされる。
年明けという概念は、元は動物だった彼女たちにとってなじみ深いものではないだろうが、
その特別さは今この時、確実に心に残るものだった。
「…おまけしとくよ」
そう言って、親方さんが3人のラーメンの中に、数枚のチャーシューを追加する。
彼女たちの最初のお年玉は、おいしいおいしいチャーシューでした。
☆結城 時雨さん
ラーメンを食べ終わり、お会計を済ませた3人は、大将にお礼を言って屋台の外にでる。
「今日は本当にありがとうございました!久しぶりの外出だったんですけど...とても楽しかったです!」
「私もすっごく楽しかったの!はなびもすっごく綺麗だったの!」
両手をパタパタさせながら話すアホウドリに2人はクスッと笑う。
「こっちもありがとうね!あ、そうだ!今度また一緒にどこかに食べに行かない?
私、美味しい場所いっぱい知ってるから!」
「私も知ってるの!ナリモン水族館のお魚料理とかマスターさんのクッキーとか!」
「そうなんですか...私、イラスからほとんど出た事がないのでもっと外のことが知りたいんです。
だから...お願いします!」
深々とお辞儀をする。そして上げた顔は満面の笑みだった。
「うん!いいよ!じゃあ...これからよろしくね!」
「私からもよろしくなのー!」
「はい!よろしくお願いします!」
そして3人は元気よくハイタッチして別れた。
新年は新たな人生、いやフレンズ生の始まり。そして新たな出会いから始まった3人は、きっといい年を過ごすだろう。
年の暮れ、屋台に集う、けもの達
ーfinー
お読みいただきありがとうございます。
このTaleは、ふすつさん、結城 時雨さんと私(idola)が合作させていただいたものです。
御二方にはこの場を借りて感謝申し上げます。
お疲れ様でした。
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