オオソリハシシギ

ページ名:ag_personaldata.pdf

アニマルガール情報


 

動物名:オオソリハシシギ

愛称:不明

所属:試験開放区

管理権限:1

 

アニマルガール概要

第2█回パーク浅海域生態系調査に於いてアンイン地方北部の干潟で発見されたのが彼女です。発見当時の容姿は、上から下にかけて灰褐色から淡い褐色へとグラデーションのかかった衣服を着用しており、髪色はブロンドに近く、また同色の翼を持っていました。装飾品については、元動物の嘴部分が発現したと思われる髪留めを二本頭部に付けており、基部は桃色で先にいくほど黒くなっています。

発見されたその日のうちに臨時処置として最寄りのチョウシュウ鳥類研究保護センターに移送されましたが、同日PM11:52[開示可能情報]に宿直監視員がBP(Beast Prasm、通称けものプラズム)の消失を確認し、種の同定を行うためにパークセントラルの同定局(20██年に研究開発局に吸収)に移管されました。

当時は主に局内にて経過観察が行われていましたが、長時間監視下に置かれるという事は彼女自身の人格形成において少なくとも良い影響を与えるものではない為、調査の長期化は防ぐべきであるとの声が運営事務局及び倫理保安局から上がりました。

20██/██/03に種の同定が完了したため、当該ヒト化動物は試験解放区へ戸籍を移動、現在も当区で生活しています。


後天性双弓型サンドスター漏症(ADILD)について

 

後天性双弓型サンドスター漏症(英語:Acquiredness Double arch type sandstar Leakage Disease、略称:ADILD、アディルド)とは、両側頭部に空いた形成孔(側頭窓と呼ばれることもある)から、意思とは無関係にサンドスターが漏出してしまう症状のことである。主にヒト化動物が発症する事が多いが、近年では人間の発症もあり得るのではないかとも言われている。

 

分類および外部参照情報

ICD-Uncategorized

DiseasesDB-Uncategorized

MeSH-Uncategorized

 

主にサンドスターを過剰放出させた際に発生すると報告されている。またこれは後天的症状の場合のみであり、先天的症状(先天性双弓型サンドスター漏症、CDILD、クディルド)については別の報告書参照。定義による違いもあり、大抵は良性だが、深刻化する可能性があるので、適切な診断を受けるべきである。

 

症例

ADILDは、BP(BeastPrasm)の発現部分の著しい損傷の結果として起こりうる。例としては、

⚪︎外的要因による発現器官の損傷

⚪︎特定生物(当記事では詳しくは触れない)による器官の損傷

⚪︎自己の意思で行われたサンドスター過剰放出による器官の損傷

などが挙げられる。

またヒト化動物固有のサンドスター嚢刺激ホルモンのレベル上昇により発症する可能性もある。

しかし三つ目の例は現在ヒト化動物の精神構造上起こり得ないのではないかとの声が精神学界から多数上がっている。

 

基本的には痛みは伴わない。ただこれにより発症に気付きにくく、治療が遅れヒト化が突如として解けるという問題がある。また体内のサンドスター嚢にも蓄積限界があり、適度な排出を促すものとして有効であるとの見解もあるが、現時点では不明。

罹患者は数十人ほどで、一種の風土病ではないかと考えられる。

 

治療法

数年前まではサンドスター自体の研究が進んでいなかったため治療の手立ては無かったが、近年の臨床試験の結果以下の様な方法が示された。

⚪︎特定部位の移植による治療

⚪︎高濃度サンドスターの部分照射による遺伝子修復治療

一つ目の臨床試験は発症したヒト化動物の協力の上行われた。移植されたのはヒトの皮膚同種の皮膚近縁種の皮膚の三つである。結果は三つとも拒絶反応を起こすことなく、数時間後に定着した。脱落が発生しなかったのは恐らくサンドスターの遺伝子調整作用だと考えられる。またMHC抗原の変質も確認されており、これにより拒絶反応も発生する事がなかった。

二つ目はイギリス人医師によって提唱された方法であり、実現すれば数週間で完治すると考えられている。しかしサンドスター過剰症に繋がる危険性もあり、臨床試験には未だ至っていない。

 


性格について

 

基本的には無口ですが、何か他者によって契機を与えられると彼女は特に抵抗なく会話を始めます。
また意志は強い方であり、他人の意見に惑わされるような事はあまりありません(他人からのアドバイス等は素直に受け入れる模様)。
合理主義的側面も強いようです。本人はなるべく直そうとしているようですが、基本的に行動の前に物事の成り行きを推測しその後の結果に無駄が出ない行動を取る傾向にある為、他者の非効率・非合理的な行動や発言を見たり聞いたりした際についそれを戒めるような辛辣な言葉を投げかけてしまう事が良くあります。そのため他のアニマルガールには敬遠されがちです。また試験開放区に戸籍を移動した際に一人の男性試験開放区職員が彼女の身辺管理に充てられましたが、この性格に耐えられなくなり二ヶ月後に異動願いを提出してきた事がありました。

あの子は私には無理です。なんたって、細かな間違いを逐一指摘されるんですよ?しかもキツい言葉で。しかも外で気分転換に煙草を吸っていたら、そのとき出くわした彼女になんて言われたと思います?
「そんな化学物質の塊の様な物を吸うのは、肺がんになる前に止めることね。まあ嗜好品だから強制はしないけれど。あと正直臭いが不快だからせめてパークが敷設している喫煙所で吸いなさい。試験開放区職員たる矜持くらい持った方がいいわよ。」
ですよ?やってられないですよ。これ以上彼女の担当は続けられません。  ー試験開放区特殊動物飼育員 ██ ██

彼女は自分の言動が原因で担当職員が異動した事を聞き深く反省したらしく、今は当時よりも率直すぎる物言いは控えているようです。また、彼女の後任には女性で同じ試験開放区職員である████が充てられました。

 

+-女学院時代について--閉じる

試験開放区においての労働をするか否かは全てアニマルガールに委ねられており、彼女は就職の意思を示したため、試験開放区に戸籍を移した一年後の四月にジャパリ中央女学院に入学しました。
成績は優秀な方であり、特に文系科目を得意としました。ただ自発的に他のアニマルガールとコミュニケーションを取ろうとする事は無く、その為か学院内で部活動に所属する事も無かったといいます。

委員会は図書委員会に所属していました。所属した理由は「休憩時間を有意義に使える」というもので、積極的に学院附属の図書館に出向き、レファレンスにあたっていたそうです。
この影響もあってか、卒業後も区内の図書館に頻繁に足を運び読書に勤しんでいる様子が見受けられます。

また彼女は体育を最も苦手としており、フレンズ基準で行われる1km走を途中でリタイアする事が度々ありました。学院側は彼女の持病を認知していたため何回か見学を促しましたが、拒否し、欠課する事はありませんでした。

同定終了後も入学に至るまで形質の回復はされなかったため、入学前に担当飼育員は校内で他のフレンズから変な目で見られないか、いじめられたりはしないかと極度に心配していました。
しかし実際の所彼女自身それに関しては一切思い悩む事は無く、クラスメイトの輪には混ざろうとはしませんでしたが、三年後に全課程を無事に終え卒業資格を取得しました。

 

彼女自身は周り(主に女学院時代において)から欲が全く無いと言われた事を気にしており、何か趣味を持ちたいと考えているようですが、長く続いたことは無いそうです。

また生理的欲求も著しく欠損しており、食物を自ら摂取することはあまりありません。本部から処方された食欲増進剤を常に持ち歩いてはいる様ですが、飲み忘れる、もしくは敢えて飲まないという事が頻繁にあり、職員による経過観察は欠かせない状態です。同時に睡眠欲もあまり無く、これに関しても睡眠剤が処方されていますが、「活動に使える時間が短くなる」という理由で飲もうとはしません。

現在は鳥系のフレンズが働いているとのことからパークセントラル国際空港内の「An Túcán Iontach(アン・トゥカン・インタハ)」で勤務しており、得た収入は全て自分で管理している様です。

彼女は損得を判断基準にして行動を決定する事が多いですが、その代わりに他者の気持ちを慮るという事が苦手です。人を無意識のうちに傷つけたく無い、というのが無口である大きな理由の様に思われます。

 

一人称に関しては「私」で統一されています。他人を呼ぶ際は基本的に「あなた」で統一されますが、人の名前を呼ぶ際は特別親しかったり相手から指定されたりしない限りはフルネームで呼びます。
これは当人がフルネームこそが最もニュートラルな呼び方と考えているためであり、そのため自分に渾名などを付けられる事をあまり快く思ってはいないようです。ただこれは唐突に呼ばれた場合であり、相手側が~と呼びたい、または~と呼ばれたいと前もって言われた時は特に拒絶する事はありません。


野性解放について

彼女は数少ないADILDの罹患者の一人であり、日常生活において両側頭部(主に眼窩後方)からサンドスターが漏出していることがあります。これは先天的(フレンズ化の時点で罹患していた)な物と考えられており、野性解放の様にサンドスターによる急激な身体能力の活性化は不可能であるとの見方が強いです。

また彼女自身も野性解放能力については懐疑的です。


交友関係について

・試験開放区特殊動物飼育員 ████
オオソリハシシギと最も親密な関係を築いている人物の一人です。オオソリハシシギは同定後に当該施設から試験開放区へと戸籍を移され、彼女の身辺管理には別の男性飼育員の█████が充てられましたが、性格の不一致により数ヵ月後に担当を外れました。その為、ちょうど男性が担当を外れる前に研修期間が終了した彼女が後任に充てられました。
性格的にはオオソリハシシギと対照的で、いつも明るく活発な印象を周囲に与えます。性格的に真逆であるにも関わらずオオソリハシシギとは馬が合うらしく、当人達も何故だか分かってはいないようです。

 

 

 

 

 

+追記:失われた形質について-

こんにちは。試験開放区特殊動物飼育員の████です。

オオソリハシシギさんを担当してから三か月が経ちましたが、聞いていたほど彼女は他人に厳しい性格ではありませんね。以前に担当した方がちょっと性格が合わなくて移動しちゃった事をもしかしたら反省しているのかも知れません。

それで本題ですが、本部の方から例の罹患中の病気で失われた形質を調査してくれという直々のお達しが先日私の所に届いたため、ここにその中間報告をさせて頂きたいと思います。

彼女の体表面に現れている形質としては初期の報告とはあまり違いがありませんでした。年初めの身体測定の際に実際に確認しましたが、彼女の体は10代後半の人間の女性のものと相違ありません。

ただ、性格や欲求の面で気になる点があったので書かせて頂きます。

〇生理的・本能的な欲求について

まずは身体内部についてのものです。

呼吸:異常なし。

食欲:異常あり。過度な食欲不振が見受けられます。一日に食べるものは三食ともパーク支給のジャパリまんのみ。これ
   はまだ良い方で、一日何も口にしない日もあります。これについては既にパークも認知していて、食欲増進剤等が
   処方されていますが、彼女がそれを服用するような所は見た事がありません。
   確かにジャパリまんは各個体向けに必須栄養素がしっかりと取れるように作られていますが、それしか食べないと
   いうのも少し心配です…私もよくランチに誘ったりするんですが、いつも空返事で…
   すみません、話が逸れました。これについては経過観察が必要です。

飲水:異常なし。

排便:異常なし。

睡眠欲:異常あり。無理して寝ない、と言うよりは眠気が襲ってくる事がほぼ無いようです。これについても食欲と同様
    パークから睡眠導入剤が処方されていますが、これも彼女は頻繁には服用しません。あの空港のパブ、えっと…
    確か「An Túcán Iontach(アン・トゥカン・インタハ)」という名前の筈でしたが、そこで働き始めてからは流石
    に身体を休める事が多くなりましたが、それにしても大半が仮眠であり、しっかりとした睡眠を取る事が少ない
    と言う事には変わりありません。
    私が嘘泣きをしてしっかりと説得をしたところ、最近は夜、少なくとも12時には寝てくれるようになりました。
    取り敢えず、これについても経過観察が必要です。

体温調整:少し冷え症のようですが、特に異常はありません。

次に、身体の外部からの情報に基づいた欲求です。

逃避:不明です。私自身が見た事ありません。常に要領よく物事をこなすので何かに追い込まれて逃げたくなるという事があまり無いのかもしれません。

闘争:これも不明です。現時点でフレンズの脅威になるものは無い筈ですが、どうなんでしょう。

 

〇心理・社会的な欲求

獲得:異常なし、かな?彼女は必要最低限の物にしか出費しません。買い物にはよく出かけますが、買ってきた袋の中に日用品以外の物が入っているところを見た事がありません。
   娯楽への出費と言えば大半が書物になります。

保存:異常なし。揃えた書物は整然と書棚に並べて保管されています。

秩序:異常なし。彼女が得意とするものです。私が彼女の部屋を訪ねる時は、いつも綺麗さっぱりとしています。少々殺風景すぎる気もしますが。

保持:異常なし。これも彼女が得意とするものでしょうか。

構成:異常なし。彼女が得意とするものです。彼女は基本的に一日の行動のスケジュールを頭の中に構築しているようです。また様々な種類の物が混在していることはあまり好まない傾向にあり、部屋の中の日用品などはある程度
   グループ分けして収納されているようです。

優越:ほぼ異常は無いように見えますが、もしかしたら少し欠如しているのかも?優位に立とうとマウンティングをする様子は見た事がありません。自らの内面的な能力を劣ったものとも優れたものとも評価しておらず、他者から
   劣等感を感じる事もないようです。中立と言ったところでしょうか?

達成:異常なし。彼女はこの欲求の定義通り、物事を効果的・効率的・速やかに成し遂げようとします。

承認:異常なしでしょうか。ある程度の顕示欲はあると思われます。ただ他人にそれを示す事は少ないです。

保身:異常なし。前の飼育員さんが辞めてしまってから、彼女はなるべく周囲から敬遠されぬように自身の言動に気を付けています。プライドもある程度は持っているのではないでしょうか。

劣等感の回避:異常あり。劣等感と言うものを感じている様子は見られません。ただし、それによって尊大な態度を取る事もありません。また他者からの嘲笑・非難を避けようとする様子もあまり見られません。受け入れるか、受
       け流すかのいずれかです。

防衛:これについてはちょっと不明です。自らの発言にはある程度自信を持っているようですが、完全に自己を正当化するという事は無いように思えます。また先程も書いたように他人からの非難・軽視を恐れ自らを守るような素
   振りはあまり見られません。

反発:異常なし。二度目の困難に対して彼女は努力を惜しみません。私なら心折れちゃうのになぁ。

支配:異常あり。支配欲はほぼありません。

恭順:これも異常あり。支配欲と対になるものですが、優越な他者に進んで従う様子は見受けられません。

模倣:これは不明です。ただ、今のところ他者の行動やあり方を真似するような素振りはありません。もしかしたら私の居ないところではあるのかも。

自律:異常なし。他人にあまり影響されず、どちらかと言うと信念を貫く事が多いかと思います。

対立:これは不明です。ただまあ彼女も生き物なので、他者と相反する行動を取る事はあるかもしれないですね。私はまだ目にした事は無いですが…

攻撃:これはどうなんだろう…彼女は基本的に合理的な行動を取る事が多いので、それとは異なる行動パターンを持つ相手に対して苦言を呈する事はたまにあります。強いて言えばこれくらいですかね。体力の無駄な消費を防ぐた
   めかどうかは分かりませんが、無用な争いは避ける傾向にあります。

屈従:異常なし、いや、どうなんだろう。彼女自身が罪悪感を抱く事は多々ありますが、自己卑下をしようとする事はありません。

非難の回避:異常なし。パーク内の法規はしっかりと遵守します。

親和:異常なし。ですが、彼女はあまり得意としないものです。彼女自身には他者ともっと親密な関係を築きたいという欲求がありますが、その合理主義的側面で発言に抑制が効かない時がある為、本心を口に出すのを躊躇ってし
   まうようです。

養護:異常なしです。彼女は居候としてオグロシギのアニマルガールを受け入れており、オグロシギの知的好奇心を満たす手助けをしているようです。献身的な活動に見返りは無いという事は分かってはいるようですが…彼女にし
   ては珍しい行動ですかね。

救援:異常なし。クリスマスの晩にオグロシギがパーティーを開きたがっているのを止めてくれないかとの救援要請(?)が私のもとに届いた事があります。然るべき場合には躊躇わずに助けを呼ぶ事が出来るようです。

遊戯:異常なしです。彼女の娯楽の大半は読書ですが、時々簡単なボードゲームをやらないかと誘われる事はあります。体力に自信が無いようで、スポーツをやるようなことはあまりありません。

求知:異常なし。というか、滅茶苦茶高いです。これは渡り鳥特有の性質なのでしょうか。知識欲は尽きる事が無いようで、調べ物をしている事が多いです。

解明:異常なし。これも彼女が得意とするものです。基本的に理解力は高いらしく、加えて彼女の場合は得た知識の応用力にも長けているようです。

 

こうしてみてみると、高次欲求の方は欠落が少ないように思えますね。まあ数の違いでもあるでしょうが…
彼女と会う機会はまだまだあるので、調査は引き続き行っていきます。

悟られないようにね…

 
[編集中]-閉じる

〇本質について

隠してもしょうがないからここに書きますか。

ただ彼女の事を考えて公の場に出る報告書には書かないで置きます。

私が頼み込んで分離してもらったオオソリハシシギのアニマルガール化個体に関する二つの記事についてです。

・オオソリハシシギ

・オオソリハシシギ(ラポ)

本来私が担当を任されていたのは、上の個体です。彼女とは飼育員の研修期間に訪れた女学院で初めて出会って、そこで仲を深めたこともあり、当時飼育員不在だった彼女の担当を任される事となりました。
彼女の身辺管理の仕事を始めてから数年後(ここでは具体的な年数の記述は避けます)に現れたのが下の個体です。

別個体の同定作業は直ぐに済みました。どうやら最近は端末を使えば外でも同定が出来るそうで、この個体も発見された干潟でそのまま行われたのです。

実は私も、その現場に立ち会っていました。これは偶然居合わせたわけではなくて、浅海域調査班から直々の連絡を受けて駆けつけたのでした。彼らによれば、私が担当している個体の発見時の容姿とよく似ているとかで。

別個体である彼女は、なかなか職員の説得に答えようとはしません。俯いたまま、何も言わずに黙りこんでいました。最終的に説得の役目を買って出たのは、私でした。というか、こういうのは本来飼育員の領分ですしね。

聞き込んでいくうちに色々と分かってきました。

彼女は渡り鳥で、丁度北の故郷(たぶんアラスカ)に戻る途中であったという事。

本来ならば本州の沿岸地域を通って帰るはずだったが、この群島にぶつかってしまってコース変更を余儀なくされたという事。

折角なので最寄りの餌場を探して飛んでいたところ、群れの前方で何やら騒ぎがあった事。

何かに落とされた事。

深い霧に飲まれた事。

本部にあった渡り鳥に関する基本的なデータベースと照らし合わせたところ、この時期に渡りをするのはオオソリハシシギしか居ないようで、これによって同定が完了しました。

彼女の担当に充てられたのは案の定私です。

私は当然のごとく承諾しました。

それは私の中にも少し引っかかる事があったから。

私は彼女を学名から「ラポ」ちゃんと名付けました。

私はラポちゃんに干潟で聞いた話から既視感の様なものを覚えました。
たぶんその元はもともと担当していたオオソリハシシギさん、あ、彼女にもこの機会に名前を取って「シシギ」さんっていうニックネームをつけてあげたので、差別化のためにもこれを使いますね。

シシギさんから以前聞いた話も似たようなものだったのです。

彼女がフレンズ化したのも群れでの北へ向かっての渡りの途中でした。
渡りを続ける中で、本来予定していたコースには無かったこの群島にぶつかったといいます。その日は濃霧がかかっていて、視界を確保するために群れは低空飛行へと切り替えました。そこで餌場探しをしているうちに、前方で何やら騒ぎが起こったそうです。

彼女によれば、それは敵の襲来。
しかし、これも不可解です。渡り鳥には本来天敵らしい天敵も居ないのですから。

突如として現れた何かが、隊列を大きく乱した。先導するグループが散り散りになってしまえば、後方の指揮も当然のことながら取れなくなります。

彼女自身もその何かに追われ、一心不乱に逃げたらしいのですが、攻撃されて右翼をもぎ取られてしまったといいます。もちろんもう飛べるはずもありませんから、彼女の体は落ち始めます。

この落ちていく最中に、その何かによって一度捕食されたといいますが、何故かすぐに吐き出されてしまったそうです。彼女の体を一度口に入れたのにも関わらず、なぜ完全には食べなかったのか。

それとも、いやまさかとは思いますが、物理的な物では無くて何か別な、彼女の本質にかかわるような部分を食べてしまったのか。

彼女は発見されて数時間こそ鳥類のアニマルガールとしての外見を備えていましたが、一日と経たずにその羽や尾は消え去ってしまいました。他のアニマルガールと比べてこれはとても稀有な事例、というか私自身前例を聞いた事がありません。

そんな複雑な生い立ちを持つ彼女とほぼ似たような流れでアニマルガール化を果たした、しかも同種のフレンズ。

似たような事がそんなに起こるものでしょうか。

私は一つの仮説を立てました。

それは初めの個体と二つ目の個体、つまりシシギさんとラポちゃんが本来一人、というか一羽であったという事。

ラポちゃんの証言は全体的な流れはシシギさんのものと類似していますが、詳細性に欠けています。島に飛んできて餌場を探すうちに濃霧に巻き込まれ、いつの間にか落っこちてしまったという事。しかも羽をもぎ取られ落下途中に一度捕食されたというシシギさんの証言に比べて落下後の記憶が著しく欠損していました。

つまり、彼女は「切り落とされた彼女の右翼」からフレンズ化を果たした個体なのではないでしょうか。
そうすればある程度説明はつきます。

切り落とされた後は脳が制御する本体を離れているわけですから、記憶が出来る筈がありません。シシギさんが委細の話を出来るのは、彼女が脳を有していた本体であったから。
しかし切断前は一つの個体であったわけですから、渡りの最中の記憶はなんとか保持していられた、というわけです。それでも少し具体性に欠けてしまう説明しか出来ていないのは、中枢部から離れた部位であったからという事でしょうか。

いずれにせよ、サンドスターによるフレンズ化は五体不満足であっても叶う事が知られていますから、このあたりに関しては何ら不思議なことではないはずです。

シシギさんとラポちゃんのフレンズ化に一年以上の違いが生じてしまったのは、恐らくサンドスターを受けた素体の大きさの違いによるものでしょう。
受ける面積が比較して大きかったから、本体であったシシギさんが先にフレンズ化を果たした。
大してさほど大きくは無かった右翼はフレンズ化に時間がかかってしまった。

あり得ない話ではない筈です。

そして、二人と接して気が付いた事がもう一つ。

性格の違いです。

シシギさんは私が女学院で初めて出会ったときから寡黙な性格でした。
自ら多くを語ろうとはせず、こちらが契機を与えてやらなければ何かを話すような素振りは見せませんでした。

とても理知的で、論理的な性格。順序立てて物事を考えるのが得意で、なるべく日々の生活でも無駄をそぎ落とそうとする合理主義者的な側面があると思います。

しかしながら、最近になって違った一面も見えてきました。
所謂彼女の本質と言う物でしょうか。

彼女は数年前に自らの言動がきっかけで一人の男性飼育員を失ってしまいました。
といっても彼が異動願いを提出したというだけなのですが、当時女学院生だった彼女はそれでひどく落ち込み、その時期の成績も普段とは異なって振るわなかったと言います。

これを聞いた当初は冷静沈着な彼女が何故、と思ったのですが、私はこれが彼女自身のもともと持ち合わせていた本質、性格なのでは無いかとの結論に至ったのです。

彼女はひた隠しにするけれども、実際は寂しがり屋、とても憶病。
自分の傍にいてくれる人を失うのが、きっと怖いんです。

彼女自身は効率よく物事を進めるためとか言って何事も取り組む前に入念な準備をしますが、実際の所は失敗をかなり恐れています。

彼女の憶病という本質が、彼女にあんな態度を取らせているのだと思います。
守りを崩さぬ事で自分の体面を保つ。

失うのが怖いから、失わぬように自分を律している。
自分が変な事を言って、他者を傷つけてしまうのが怖いから、自らはあまり言葉を発しない。

 

対してラポちゃんは、外見から見てもとっても臆病です。

包み隠すことは無く、他者の事を少し恐れています。
話す人間と目を合わせる事は少なく、いつも膝のあたりに目を泳がせているような子です。

憶病すぎてラッキービーストに声も掛けられない程でした。

けれども、付き合っていくうちに分かったのは、彼女には表には現れない豪胆さがあるということです。

彼女はとても意志が固いです。
私から見れば、シシギさんを凌駕するほどではないかと思うほどです。

頑固で人の意見を聞かない、とかそういうわけではなくて、自分の主張に一本、何か太い芯が通っているという事です。
彼女がそのような固く強い意志を持って私に向き合う時、決まっていつもは見せないしっかりとした瞳をしているのです。

もしかしたら素体となったオオソリハシシギさんの持ち合わせていた性格が、二分されてしまったのかもしれません。

 

 

 

何処か感の良いあの二人ならば、もしかしたらお互いにもう気付いているのかもしれません。

表から見れば全くベクトルの異なるフレンズですし、お互いにぶつかる、と言う事も無くは無いです。

けれども私は、敢えて彼女達を分離しません。
きっともともと二人とも、何かが足りないフレンズだから、一緒に居れば何かを補い合えるかもしれません。

一度ラポちゃんをパークの研究施設で経過観察させてくれとの要望を受取りましたが、私が拒否しました。
流石に何かやましい事をするようには思えませんでしたが、彼女が行くべき場所ではきっとない筈です。

実はこの事を認知している人間も少なくはありません。
ただ、倫理保安局が一枚噛んでいるため、下手な情報の漏出は無い事と思います。

飼育員としてのせめてもの務めとして、ここに記させていただきました。

 


画像提供:キャラシートの絵は菊狛さんから頂きました。ありがとうございます。


アニマルガール 鳥類 カントー 試験解放区

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