ルナと別れて行動する数十分前、私と彼女はこのわけのわからない状況に、一つの例え話をつくった。
それは、Athenaが先日までいた世界はこの世界のパラレルワールドであると。
このたとえ話を作るに至った理由は、ヤマドリが生きていたことだ。ルナの話によれば、ヤマドリは二年前のサンドスターが空から落ちてきた時はたまたまLASにいなかったために無傷であった。それはリーナも同じである。ルナはそのサンドスターを止めようとして失敗、気を失ってしまったが、その後彼女達に助けてもらうことになる。
そして、その数日後、地面に浸透したサンドスターが火山を刺激し、大噴火を起こす。これらの現象のせいで、セルリアンが大量発生したそうだ。それから、彼女たちは生き残った人間がこの島から非難するまでの間、セルリアンたちと戦い続けることになる。幸運なのかどうかはわからないが、その時はDH型と呼ばれる強いセルリアンは出現しなかったそうだ。
そう、その時は、である。
すべての人間たちがジャパリパークから避難し終え、一息ついたところで、ルナたちは再び見ることになる。
その名はCEL-2-155/SA、通称"アポロ"
彼女たちが以前倒した時と同じ11号型である。火山から大量のサンドスターロウを吸収し、以前とは比べ物にならないくらい強かったそうだ。奴の能力は私も知っている。付近地形の“砂漠化”である。奴が生き続けている限り、周囲の植物や水はどんどん輝きを奪われ、枯れていく。ルナたちは悪戦苦闘しながらも、これを撃破。が、ヤマドリとリーナは輝きを奪われ、フレンズではなくなった。
彼女は相当悲しみに暮れていたようだが、奴らは待ってはくれなかった。アポロだけでなく、セイレーンやフルバレット、さらには見たこともないセルリアンが大量に発生。
…話がすこし逸れたが、つまりヤマドリは死んでいるはずなのだ。にもかかわらず、私は先日彼女と出会っている。
ルナはこれを“パラレルワールド”と表現した。現に、私にだって同じ時間の記憶が二つ存在している。『一人で作業していた記憶』と『鋼夜がサンドスターの衝突から私を守ってくれた記憶』。
私がこのことを話すと、ルナは「多分、その時にパラレルワールドに移動した」と推測。私も同意見だ。ルナは、あのパラレルワールドを『死んだ人が行く、いわば天国のようなもの』とも形容した。それが本当なら、鋼夜はまだ死んでいない。あの世界に、少なくとも彼はいなかった…
この現実離れした状況下で、パラレルワールドが存在する裏付けをしてくれるフレンズがいる。とルナは言っていた。それが彼女と同じ月兎、ジョウガである。
ジョウガも月兎…ならば、そう簡単にセルリアンに負けるはずがないと確信していた。つまり、Athenaがもう一度パラレルワールドに行ったとき、彼女を見つけられなければ死人が行く外側の世界…いわば、〝Outer World〟ということが確定する。あちらにもう一度行くことができなくても、こちらの世界で見つけることができれば、それはそれでOWのたとえ話が成立する。
次に、これからどうするか__これも、ルナが考えた案だ。
おそらく、OWに行った後、こちらの世界に戻ってくるとき、時間を決めることができるのではないか。とルナは言った。自由自在に決めることはできなくとも、過去に戻った例がある。それが鋼夜だ。
彼は、二年ぶりにLASに帰ってきたときに、「もう二年か…」といっている。それは体感ではそれほど時間が経っていないことを示す。つまり、彼はOWに行っている間、「まだ二年か」と思わせるほど滞在はしてなかった。
要するに、過去に戻れる可能性があるということだ。
ここまで聞いて、ルナの言いたいことが分かった。今、現実世界では二年の時が経ってしまっている。
ルナかAthena、この事実を知っているどちらかがOWに行き、こちらに戻る際、どうにかして二年前に戻ることができれば、この悲劇をなくす__ことはできなくても、軽減することはできるだろう。ということだった。
「……情報をすこし整理しましょうか。」
「そうだね。」
「まず、こっちが現実世界。」
「で、私が行っていたあの世界はこの世界の外側、と。」
「そう、そしてこっちからOWを経由してもう一度こっち側に戻ってくる際、過去に行くことができる可能性があるということ。」
「なるほど…でも、行き方と戻り方がわからないんじゃあ…」
「そうね…OWとこちら側行き来できるのは恐らく満月の時だと思うけど…」
「うーん…私は逆だと思うね。」
「逆?」
「そう、恐らく、OWかこっちか。とにかく、世界を移動したら満月になるんだと思う。鋼夜が居なくなる前の日は新月だった。けどいなくなった当日は満月。そして私が移動したと思われる日も、毎回毎回満月…」
「なるほど。確かに、言われてみればさっきまで満月だったあの月が、いつの間にか新月だもの。これは貴方が移動してきて少し時間が経ったから、って解釈でいいかしら?」
「そうだね。」
「了解。貴方が前に言っていた“時間が止まっている”っていう表現の意味が分かったわ。あの世界は、どこかのタイミングで世界が止まったままだったのね。」
「そういうことだね。それじゃ、私は早速行動することにするよ。」
「わかったわ。無茶はしないでね。」
「はは、そっちこそ。」
___ルナとは、こうして数十分前に別れたばかりだ。
そのはずなのに、今、私の目の前に立っているこのフレンズは…
「あら…あなたは…」
「…」
私は目を疑った。夜空に浮かんでいるのが満月ということは、私がいつの間にかOWに来ていたことになる。それはいい。問題はルナの仮説によれば「死人の世界」だったはずのこの世界に、ルナがいることだ___
「……私はAthenaだよ。君は?」
「…私はルナ。月兎のフレンズ。」
会話は一旦ここで途切れる。それにしても、ルナの仮説は間違っていたのか?いや、暗くてよくわからなかったが、よく見ると服装が少し違う。私が知っているルナは白いシャツに水色のスカート、そして首にはアメリカの国旗を模したリボンをつけている。
__こっちのルナの服装は、灰色のワンピース、首元には大きな白いリボンが付いているくらいで、その他の外見はほぼ私が知っている方のルナと同じだ。…死人の世界という表現より、パラレルワールドの方が近いか…?とにかく、私はこちら側のルナにジョウガを知らないか尋ねることにした。
「えっと…君、ジョウガというフレンズを知らないか?君と同じ月兎なんだが…」
「…ジョウガ?それは私のことよ?」
「…?ちょっとまて、君はルナじゃないのか?…!」
「えぇ、ルナよ。」
まてまて、会話が成立していない。なんだこいつは…私は若干引きつつも、再び確認を取る。
「君は…ルナなんだろう?」
「そうよ。」
「ジョウガがわたしのこと…というのは?」
「そうね…」
突然、冷たく、重い風が私たちを覆う。この季節らしい風ではあるが、私はこの風に奇妙な違和感を覚えた。こちらのルナは、それに構うことなく、話を続けた。
「私は…小説の中のキャラになんて呼ばれようと、気にしないからね。そうでしょう?ルナ・ロペス。」
「今…何て言った?」
OuterWorldのルナは、あろうことか私の本名を知っていた。
そのころ、基本世界のルナは__
Athenaと別れて数十分、ニホントカゲのアオイが歩いているのを見つけた。
「…!?あなた、アオイじゃないの?!無事だったの?」
アオイに駆け寄ろうとして気が付く。暗くてよく見えなかった周りの風景が、満月によって照らされる。ルナは、空を見上げ、自身もOWに来たことを確信した。
しかし、それよりも心配なのは彼女の安否だ。
「ちょっと、大丈__」
そこまで言いかけて、アオイは地面に倒れた。先ほどまでなんともなかった彼女の体が、傷だらけになって。
「___え?」
冷たく、重い風が彼女たちを包んだ。
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