第五話「新月」

ページ名:5 新月

 

 ルナと別れて行動する数十分前、私と彼女はこのわけのわからない状況に、一つの例え話をつくった。

 それは、Athenaが先日までいた世界はこの世界のパラレルワールドであると。

 このたとえ話を作るに至った理由は、ヤマドリが生きていたことだ。ルナの話によれば、ヤマドリは二年前のサンドスターが空から落ちてきた時はたまたまLASにいなかったために無傷であった。それはリーナも同じである。ルナはそのサンドスターを止めようとして失敗、気を失ってしまったが、その後彼女達に助けてもらうことになる。

 そして、その数日後、地面に浸透したサンドスターが火山を刺激し、大噴火を起こす。これらの現象のせいで、セルリアンが大量発生したそうだ。それから、彼女たちは生き残った人間がこの島から非難するまでの間、セルリアンたちと戦い続けることになる。幸運なのかどうかはわからないが、その時はDH型と呼ばれる強いセルリアンは出現しなかったそうだ。

 そう、その時は、である。


 すべての人間たちがジャパリパークから避難し終え、一息ついたところで、ルナたちは再び見ることになる。

 

 その名はCEL-2-155/SA、通称"アポロ"

 彼女たちが以前倒した時と同じ11号型である。火山から大量のサンドスターロウを吸収し、以前とは比べ物にならないくらい強かったそうだ。奴の能力は私も知っている。付近地形の“砂漠化”である。奴が生き続けている限り、周囲の植物や水はどんどん輝きを奪われ、枯れていく。ルナたちは悪戦苦闘しながらも、これを撃破。が、ヤマドリとリーナは輝きを奪われ、フレンズではなくなった。

 彼女は相当悲しみに暮れていたようだが、奴らは待ってはくれなかった。アポロだけでなく、セイレーンやフルバレット、さらには見たこともないセルリアンが大量に発生。

 …話がすこし逸れたが、つまりヤマドリは死んでいるはずなのだ。にもかかわらず、私は先日彼女と出会っている。
ルナはこれを“パラレルワールド”と表現した。現に、私にだって同じ時間の記憶が二つ存在している。『一人で作業していた記憶』と『鋼夜がサンドスターの衝突から私を守ってくれた記憶』。

 私がこのことを話すと、ルナは「多分、その時にパラレルワールドに移動した」と推測。私も同意見だ。ルナは、あのパラレルワールドを『死んだ人が行く、いわば天国のようなもの』とも形容した。それが本当なら、鋼夜はまだ死んでいない。あの世界に、少なくとも彼はいなかった…


 この現実離れした状況下で、パラレルワールドが存在する裏付けをしてくれるフレンズがいる。とルナは言っていた。それが彼女と同じ月兎、ジョウガである。


 ジョウガも月兎…ならば、そう簡単にセルリアンに負けるはずがないと確信していた。つまり、Athenaがもう一度パラレルワールドに行ったとき、彼女を見つけられなければ死人が行く外側の世界…いわば、〝Outer World〟ということが確定する。あちらにもう一度行くことができなくても、こちらの世界で見つけることができれば、それはそれでOWのたとえ話が成立する。


 次に、これからどうするか__これも、ルナが考えた案だ。

 

 おそらく、OWに行った後、こちらの世界に戻ってくるとき、時間を決めることができるのではないか。とルナは言った。自由自在に決めることはできなくとも、過去に戻った例がある。それが鋼夜だ。

 彼は、二年ぶりにLASに帰ってきたときに、「もう二年か…」といっている。それは体感ではそれほど時間が経っていないことを示す。つまり、彼はOWに行っている間、「まだ二年か」と思わせるほど滞在はしてなかった。
要するに、過去に戻れる可能性があるということだ。


 ここまで聞いて、ルナの言いたいことが分かった。今、現実世界では二年の時が経ってしまっている。
ルナかAthena、この事実を知っているどちらかがOWに行き、こちらに戻る際、どうにかして二年前に戻ることができれば、この悲劇をなくす__ことはできなくても、軽減することはできるだろう。ということだった。


「……情報をすこし整理しましょうか。」

「そうだね。」

「まず、こっちが現実世界。」

「で、私が行っていたあの世界はこの世界の外側、と。」

「そう、そしてこっちからOWを経由してもう一度こっち側に戻ってくる際、過去に行くことができる可能性があるということ。」

「なるほど…でも、行き方と戻り方がわからないんじゃあ…」

「そうね…OWとこちら側行き来できるのは恐らく満月の時だと思うけど…」

「うーん…私は逆だと思うね。」

「逆?」

「そう、恐らく、OWかこっちか。とにかく、世界を移動したら満月になるんだと思う。鋼夜が居なくなる前の日は新月だった。けどいなくなった当日は満月。そして私が移動したと思われる日も、毎回毎回満月…」

「なるほど。確かに、言われてみればさっきまで満月だったあの月が、いつの間にか新月だもの。これは貴方が移動してきて少し時間が経ったから、って解釈でいいかしら?」

「そうだね。」

「了解。貴方が前に言っていた“時間が止まっている”っていう表現の意味が分かったわ。あの世界は、どこかのタイミングで世界が止まったままだったのね。」

「そういうことだね。それじゃ、私は早速行動することにするよ。」

「わかったわ。無茶はしないでね。」

「はは、そっちこそ。」

 


 


___ルナとは、こうして数十分前に別れたばかりだ。

 

 

 

そのはずなのに、今、私の目の前に立っているこのフレンズは…

 

 

「あら…あなたは…」


「…」


 私は目を疑った。夜空に浮かんでいるのが満月ということは、私がいつの間にかOWに来ていたことになる。それはいい。問題はルナの仮説によれば「死人の世界」だったはずのこの世界に、ルナがいることだ___

 

 

 

「……私はAthenaだよ。君は?」


「…私はルナ。月兎のフレンズ。」

 

 

 

 


 会話は一旦ここで途切れる。それにしても、ルナの仮説は間違っていたのか?いや、暗くてよくわからなかったが、よく見ると服装が少し違う。私が知っているルナは白いシャツに水色のスカート、そして首にはアメリカの国旗を模したリボンをつけている。

 __こっちのルナの服装は、灰色のワンピース、首元には大きな白いリボンが付いているくらいで、その他の外見はほぼ私が知っている方のルナと同じだ。…死人の世界という表現より、パラレルワールドの方が近いか…?とにかく、私はこちら側のルナにジョウガを知らないか尋ねることにした。

 

 

「えっと…君、ジョウガというフレンズを知らないか?君と同じ月兎なんだが…」

 

「…ジョウガ?それは私のことよ?」

 

「…?ちょっとまて、君はルナじゃないのか?…!」

 

「えぇ、ルナよ。」

 


 まてまて、会話が成立していない。なんだこいつは…私は若干引きつつも、再び確認を取る。

 

「君は…ルナなんだろう?」

 

「そうよ。」

 

「ジョウガがわたしのこと…というのは?」

 

「そうね…」

 


 突然、冷たく、重い風が私たちを覆う。この季節らしい風ではあるが、私はこの風に奇妙な違和感を覚えた。こちらのルナは、それに構うことなく、話を続けた。

 

 

「私は…小説の中のキャラになんて呼ばれようと、気にしないからね。そうでしょう?ルナ・ロペス。」

 

「今…何て言った?」

 


OuterWorldのルナは、あろうことか私の本名を知っていた。

 

 

 

 



そのころ、基本世界のルナは__

 


 Athenaと別れて数十分、ニホントカゲのアオイが歩いているのを見つけた。

 

「…!?あなた、アオイじゃないの?!無事だったの?」


 アオイに駆け寄ろうとして気が付く。暗くてよく見えなかった周りの風景が、満月によって照らされる。ルナは、空を見上げ、自身もOWに来たことを確信した。

 しかし、それよりも心配なのは彼女の安否だ。


「ちょっと、大丈__」


 そこまで言いかけて、アオイは地面に倒れた。先ほどまでなんともなかった彼女の体が、傷だらけになって。

 


「___え?」


冷たく、重い風が彼女たちを包んだ。
 


tale 透明な壁の向こう側

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧