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更新日:2024/06/06 Thu 13:57:44NEW!
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機動戦士ガンダムseed ガンダムseed キラ・ヤマト サイ・アーガイル フレイ・アルスター 誤解 すれ違い 皮肉 喧嘩 やめてよね 名台詞 コーディネイター 三角関係 愛憎劇 曇らせ 名場面 鬱展開 愛のある項目 昼ドラ 秀逸な項目 どうしてこうなった 風評被害 誤解されやすい台詞 所要時間30分以上の項目 コメント欄ログ化項目 軋轢 ドロ沼 ほんの些細な誤解から幼い愛は崩れてく カガリ再び ナチュラルがコーディネイターに勝てるわけがない 身も心もすり減らした結果 戦場に縛り付けられた者の嘆き 君たちが弱いから!
や め て よ ね……
本 気 で 喧 嘩 し た ら 、 サ イ が 僕 に 敵 う は ず な い だ ろ……
出典:機動戦士ガンダムSEED HDリマスター、『16.PHASE-17 カガリ再び』、
2012年1月~11月まで放送。サンライズ、© 創通・サンライズ。
『やめてよね』とは、テレビアニメ『機動戦士ガンダムSEED』第17話(PHASE-17「カガリ再び」)にて、
主人公キラ・ヤマトがその友人(という認識を持たれる場合が多いが実際は仲は悪くないがそこまで親しかったわけでもなさそうである)サイ・アーガイルに向けて放った台詞である。
この記事を読むにあたって、当該記事に詳しい解説があるが、以下の2つの用語を理解して欲しい。
生まれる前に、人為的に遺伝子調整を受けた状態で生まれてくる人間のこと。
ほとんどの者は遺伝子調整によって身体能力や知能等を向上させられており、身体的にも頑強、かつ免疫力も高く病気にもなりにくい。
総じて後述するナチュラルよりも多くの分野で活躍しやすくなっているが、あくまで「高い才能を持って生まれた」だけで「生まれながらの完璧超人」ではなく、
特に専門的な分野ではナチュラルと同様に適切な学習・訓練をしなければ能力が身に付かず、当然活躍もできないが、
外伝『STARGAZER』では「ナチュラルより学習速度が速い」旨が言及されており、訓練しさえすれば成長速度はナチュラルより上。
ただし、「繁殖力」という生物として一番重要な部分に欠陥を生じていることが『SEED』後半では発覚している。
具体的には第一世代(遺伝子調整を受けた当人世代)同士コーディネイター同士の子作りは比較的成功率が高いが、その子供の第二世代以上においては正常な子供が産まれる確率が激減する。
さらに主人公キラ・ヤマトは、実の父親でもあった研究者の狂気によって「最高の頭脳と身体能力」を持つように遺伝子調整された上で、
母体という不確定要素による「エラー」が起きないように人工子宮から生まれ、上述の遺伝子調整結果が100%反映されて生まれた「最高のコーディネイター」とされているが、
そもそもスーパーコーディネイターの存在自体公にされておらず、この事実を知るのは極一部で、キラ自身ですらそのことを知るのは『SEED』最終盤である。
ちなみに、スーパーコーディネイターの成功例はキラだけとされているが、外伝『ASTRAY』シリーズに登場するカナード・パルスのように「失敗作」として生まれた者もいる。
- ナチュラル
遺伝子調整を受けずに生まれた人間。言ってみれば「普通な人間」であり、「コーディネイター」の対義語としての呼称である。
コーディネイターはあくまでも「人間の範疇で」高い才能を持たされて生まれた人間なので、彼らに匹敵、あるいは凌駕する才能を持って生まれたナチュラルもいるが、
そういった者はごく稀で、一般的にナチュラルは勉学でも運動でもコーディネイターには不利を強いられている。
スタートラインが同じな技能的な分野では、得意な分野を徹底的に磨き上げればその一点ではコーディネイターと同等か、それ以上の活躍が出来る者もいるものの、
基本的にコーディネイターは予め「優秀な頭脳と強靭な身体」を持たされて生まれてくるため、一分野で勝てても総合スペックでは及ばない場合がほとんど。
このため、ナチュラルの一部にはコーディネイターを妬み、またコーディネイターの中にもナチュラルを見下す者が見受けられる。
◆主要関連人物
- キラ・ヤマト
主人公。コーディネイター。
本来は穏やかで優しい性格なので、友人にあのような刺々しい事を言う様な人物ではなかったが、
否応無く戦争に巻き込まれ、サイたち『カレッジの友人』を護るためとはいえ、
本来同胞であるコーディネイターと、それも『幼少期からの友人』であるアスランを筆頭とした部隊と戦うという状況、
戦力不足もあって常にギリギリの戦闘を強いられ、自分が死ぬと仲間も死ぬので絶対に勝たなければいけないし、
敗北しても頑張ったからOKなんて自己満足も許されないという肉体的・心理的負荷により、心身共に少しずつ追い詰められていく。
- サイ・アーガイル
キラの学友。ナチュラル。
キラがコーディネイターである事は知っていたが特段の意識はせず、カレッジでは彼を「キラという個人」として見ていた。
キラとしても、フレイを巡って複雑な気持ちを持っていたとはいえ、サイ本人とはそう悪い関係でもなかった。
サイ自身も気配りは出来る方だが、ラクス・クラインの綺麗な歌声と可愛らしい容貌についてキラと雑談している時に、
コーディネイターであるキラに「あれも遺伝子イジった結果なのかね(意訳)」と軽口を叩いて無自覚に彼の心を傷付けるなど、
(キラを友人と見ている故もあるだろうが)無神経なところや、コーディネイターに対する無自覚な差別意識はある。
基本的には良識的なナチュラルなのだが、戦争という非日常体験に少しずつその認識を歪めさせられていく。
アークエンジェル乗艦後も、ラクスを独断でザフトに引き渡そうとしたキラにミリアリアと共に協力するなど、友情に基づいた行動も見せているが*1、
その友情が果たして戦いに巻き込まれる前と変わらないものと言えるかは……
- フレイ・アルスター
キラの学友。ナチュラル。
最初はゼミが異なるためキラとの接点は少なく、「サイの友達のキラとかいう子」程度の認識だった模様。
キラは彼女に片思いしていたが、サイとは恋人同士である事も知っていたため告白する訳にも行かず悶々としていた。
父親の影響でコーディネイターに対する偏見が強く、激しく嫌ってもおり、戦争に巻き込まれたことでその嫌悪感を増大させて行く。
父を守り切れなかったキラに復讐すべく、敢えて彼に優しく接する事で自分という拠り所を与え、戦場に縛り付ける事に成功する。
余談だが、過激派が目立つブルーコスモスについても序盤において同一視されるのは心外なほど嫌っており、戦争が普通の女学生を変えてしまったことがよく分かる。
詳細は個別項目を参照。
◆発言の経緯とその後の展開
友人同士でありながらこのような発言をするに至るには、
少し遡って第8話「敵軍の歌姫」辺りのやりとりが直接的かつ最大の切っ掛けとなっているので、まずそこを抑える必要がある。
この前話にて、キラはプラントの歌姫ラクス・クラインが漂流していた所をそれとは知らずに回収、AAで保護していた。
しかしコーディネイターであるラクスに対する、
「ちょっとやだ、止めてよ! 冗談じゃないわ、何で私があんたなんかと握手しなきゃなんないのよ!」「コーディネイターの癖に、馴れ馴れしくしないで!」
「綺麗な声だな。でもやっぱ、それも遺伝子いじって、そうなったもんなのかな」
フレイやサイの、彼女への無神経な発言の数々が、
否応なく戦争に巻き込まれ不本意に数名のザフト兵を殺害した事で精神不安定気味だったキラに、更に疎外感と傷を植え付けて行く。
これらはあくまでキラではなくラクスに向けられたものだが、しかしキラにとって「自分と同じコーディネイター」であるラクスに向けられた、
「コーディネイターは異物」という旨の言葉は自分にも重なってしまうものだった。
更にその後のフレイの父を守れず死なせてしまった事、その事でフレイに激しく面罵された事、守ってくれたお礼の折り紙をくれた女の子まで死なせてしまった事……
これらの出来事が度重なった事で、地上に降りた直後のキラの心は激しく落ち込んでいた。
そんなキラに近付き、寄り添ってくれたのは、かつて父を守り切れなかった自身を人殺しのように罵った、そして友人の恋人と知りながらも淡い恋心を寄せていたフレイであった。
尤も、それまでコーディネイターを嫌悪しキラにも微妙に距離を置いていたフレイが急に掌を返すようにキラに優しく接して来たのは、フレイ自身の復讐のため。
即ち父を死なせたコーディネイターとキラに復讐すべく、キラにコーディネイターを殺せるだけ殺させ、然る後にキラ自身にも残酷な死を与えるためであった。
しかしここまで孤立無援で心身共に疲れ果てていたキラは彼女の好意(に見えたもの)に甘え、溺れ、遂にフレイに誘惑され肉体関係を持つに至る。
当然、この優しさや愛らしきものは、キラに「戦う意思と理由」を与え、彼を戦場に縛り付けるためだけの見せかけである。
一方でフレイはというと、差し当たり婚約者であったサイとの関係を地球に降りた直後となる第15話で一方的に断ち切っていた。
サイとの関係はより厳密には「許婚」である。
そのためフレイは「正式な取り決めを交わした訳でも無し、また結婚の約束を進めた父も死んだ今となっては、こんな情勢下・状況下でまでそれに付き合う必要も無い(要約)」という口実でサイとの関係を破棄したのである。*2。
自分が「サイの恋人」のままではキラを堕とすのに差し障りがあるからか、或いは彼女なりの踏ん切りや気持ちの区切りでもあったのかもしれないが、
何にせよその通告はあまりに一方的であり、当然の事ながらサイからすれば納得の行く話ではなかった。
有無を言わさず突き付けられた三行半を受け入れられず、どうにか話し合いの機会が持てないかと必死にフレイを追うサイであったが、
今や『鬱陶しく付き纏って来る元彼』と化したサイにフレイは聞く耳を持たない。
そして問題の第17話。
変らずフレイと話し合おうと根気強く粘るサイに対し、それを鬱陶しく思う彼女は通りかかったキラに縋る。
サイに事情を尋ねるキラであったが、
フレイに話があるんだ。キラには関係無いよ……
関係無くないわ……!
昨夜はキラの部屋に居たんだから!
え……!?
え……キラ……? どういうことだよ、フレイ……君……?
どうだって良いでしょ! サイには関係無いわ!
サイが必死にフレイが籠っている(と思っていた空の)ベッドに呼びかけていた頃、フレイはキラと関係を持っていた事を告白し、サイは衝撃の余り呆然とする。
キラも精神を摩耗させ切っていた当時の自分にとって唯一の心の拠り所であったフレイを守るべく、サイに冷たく言い放つ。
フレイが囁いてくれる愛に依存しつつあったキラには、それが「自分を愛してくれるフレイが嫌がっているにもかかわらず、既に終わった関係であるサイが無理矢理迫る画」にしか見えなかったのである。
もうよせよ、サイ……
キラ……?
どう見ても、君が嫌がるフレイを追っかけてる様にしか見えないよ
何だとぉ……?
昨夜も戦闘で……疲れてるんだ……もうやめてくんない……?
くぅ……! キラっ!
……っ!
だが、ようやく得られた機会を前に「はいそうですか」と引き下がれるサイでもなかった。
会話を切り上げ、背中を向けAA艦内に戻ろうとするキラに背中から掴みかかろうとするサイであったが、キラは事も無げにサイの腕を後ろ手に捻り上げる。
やめてよね……
本気で喧嘩したら、サイが僕に敵うはずないだろ……!
突き飛ばされ地面に倒れたサイはキラを見上げて呆然とするばかりだった。
一方、目に涙を貯めながらキラは更に続ける。
フレイは……優しかったんだ……ずっと付いててくれて……抱き締めてくれて……僕を守るって……!
僕がどんな思いで戦ってきたか! 誰も気にもしないくせに!
自分が敗北・撃墜されれば仲間も同じ運命を辿るというパイロット故の責任感と重圧、そして同胞と殺し合う心理的苦痛。
元来大人しいキラがここまで強い言葉を発するほど、それらがキラにとってどれだけ辛いことかを察してか、
このキラの言葉に、サイはもちろん、フレイも何も言う事はできなかった。
そこに、砂漠のレジスタンス組織の拠点タッシルの町が襲撃されたとの報せが入った事で、その場は一旦解散となった。
なお、偶然その場に居合わせていたカガリは事の一部始終を岩場の陰から盗み聞きしていたが、後でカガリから本件に触れて来る事はほぼ無かった。
その後、キラはしばらく自室に戻らずストライクのコクピット内で生活するようになる。
夜間にコクピット内で毛布に包まっている様子が確認できるため「コクピットで寝泊まりするようになった」と表現される事も多いが、
マードックがストライクのコクピット内に食器や生活ゴミなどが持ち込まれている事をボヤいている事から、
食事すらも部屋や食堂には行っていない、つまり寝泊まりどころか一日の大半をコクピットで過ごしているという事である。
「あんな啖呵切った以上AAと仲間達を守れなければ自分はいよいよ役立たず」とばかりに文字通りいつでも即出撃できなければと思い詰めていたのだろう。
事ここに至りマリュー・ムゥら大人組もキラ周りの諸々の深刻さに気付き、ようやくフォローする事を考える様になる*3。
どのタイミングで、どれほど知っているかは不明だが、程なく「やめてよね」の件は他の学生組の耳にも入ったようで、
カズイも「(あの温厚な)サイがキレた程なので、流石に只事ではない」「今のサイとキラを迂闊に引き合わせるのはマズい」と認識している。
一方サイもこのまま泣き寝入りで済ませるつもりはなかった。
バナディーヤで買い出し中のキラが同行していたカガリ共々ブルーコスモスのテロに巻き込まれて行方不明になったと思われた時*4、
キラを心配する気持ちもあっただろうが、後述のことを考えると何よりも対抗心からか、ストライクに勝手に乗り込み動かそうとする事態を起こす。
しかし何にせよナチュラルではエースパイロットですら乗りこなせない当時のストライク*5をサイに操れる訳も無く、
結局サイはストライクをハンガーから数歩歩かせただけで転倒・擱座させてしまい(通称「orz」)、
サイ自身もコクピット内で、ストライクで戦うどころか何もできなかった無力感とキラへの劣等感から泣き崩れる他無かった。
そしてこの勝手かつ危険な行為を咎められ、サイは一週間の営倉入りを命じられる事となる。
砂漠を抜け紅海に入った辺りで営倉入りは解かれた様だが、キラを思い出すと露骨に顔をしかめる、劣等感を尚更募らせるなど険悪な仲のままであった。
しかしキラもキラで当然問題解決したわけではない。
あの時は感情が爆発しただけで元々サイはキラにとって守るべき対象に変わりはない。
更に営倉入りとなったサイの元にキラとカズイが食事を届けに行った際、フレイも付いて来て陰から見ていたのを目撃していた。
その後キラの自室にやって来たフレイも、ムチャな行為をしたサイを心配している事をキラに話す。
だが皮肉にも、それによってキラはフレイが自分に向けてくれている愛はそれっぽいハリボテだと気付いてしまったのである*6。
誤魔化すかのようにフレイが自分を押し倒しキスしようとするのを、キラは思わず撥ね退け、部屋を飛び出してしまう。
その後キラは廊下の物陰で一人蹲り、誰も居ない所――今度こそ完全に孤立した所でまた涙を流し始めるのだった。
その後はまたしばらくの間はキラとフレイは恋人同士のようでそうでない関係を続けるが、更に進んで第28話にて、
キラが両親との面会を断った事を「憎き父の仇にして、本当は一番辛くて泣きたい筈のキラに気遣われ同情された」と感じたフレイがキラに八つ当たり気味に感情をぶつけた事で、
キラがフレイの真意を察しつつあった事と相俟ってこの不自然な関係も破局する事となる。
「やめてよね」以降、キラはサイとは当然話しにくくなっており、劇中描写の限りこの二人の直接の会話はキラがフリーダムに乗って帰還するまでまで一度も無い。
カズイは元々コーディネイターを敬遠していることもあって元々そこまで親しくないのであまり話していないのだが、
キラを心配してパイロットにまでなったトールとは普通に会話したり、押しの強いカガリとの交流もあってようやく心の平穏を少しずつだが取り戻し始めた。
サイの方もその間心の整理を付け始めるが、結局完全な和解はキラのMIAを挟んだ第36話まで持ち越される事となる。
36話頃になるとキラにも心境の変化が起き始め、何の為に戦うのかという信念を見定め始めた事もあって砂漠編当時の荒れた様子はかなり収まっている(メンタルが修復された訳ではない)。
サイもまたキラに対して抱えていた感情――嫉妬、劣等感、呪詛、しかし完全には憎み切れなかったこと、
キラの生存を知った時は心から嬉しく思った事、それでもやはり劣等感は拭い切れない事を全て正直に告白、
キラもそれを正面から受け取め、また「サイにもサイにしかできない事があるはず(≒自分はサイの上位互換などではない)*7」と伝え、
やっと互いに腹を割って話し合えた事で、コンプレックスが解消されたわけではないものの長きに渡った軋轢は解消に向かって行った。
一方、MIA直前のキラと「帰ったら改めて話をする」と約束したフレイはアラスカでAAを下船しており、
その後も落ち着いて会話できる機会は無かったため、こちらとの関係を修復する事は遂にできなかった。
◆台詞への反響
結論から言うと「やめてよね」は機動戦士ガンダムSEEDという作品とその主人公キラを代表する、最も有名な台詞の一つである。
特に、放送から10年が経過した2012年にガンダム公式で実施されたSEEDトークライブイベントの為の「ガンダムSEED名台詞ランキング」に於いて、
「やめてよね」は2位以下にトリプルスコア以上の大差(得票率なんと30.8%)を付けてダントツ1位を記録、
名実共に「『SEED』で最も有名なシーン」の一つと言える*8。
厳密には「第1話~第24話」の中からピックアップされた台詞に投票する形式なため、ピックアップされなかったものや後半の台詞はカウントされていないが、
それでも他にも名シーンが目白押しな第1~2クールまでの間で圧倒的第1位に選ばれた事は間違いない。
公式媒体で第17話を配信する際も「あの『やめてよね』が飛び出す17話!」といった紹介をされている事が多い。
ライブドアニュースの5月18日のキラの誕生日を報じるニュースの見出しも『【やめてよね】5月18日は「キラ・ヤマトの誕生日」』である。
これについては「もっと良い台詞が他にいくらでもあっただろ」との声も少なくない*9。
しかし、近年になって再認識が進むまでこの台詞が有名というのは概ね悪評としてであった。
「敵に回せば誰も敵わない(悪い意味で)最強無敵の主人公、友人の恋人を寝取っておいてそれを指摘されれば逆上して腕を捻り上げるキラという人物の増長と傲慢を象徴する迷言」
「結局スーパーコーディネイター*10である准将*11はナチュラルの凡人に過ぎないサイを取るに足らない奴と見下していた事がよく分かる」
「キラ様*12に逆らう奴はみんな彼女を取られて腕を捻り上げられる」
「子供たちも見る時間のアニメ*13でNTR展開とか何考えてんだスタッフ」『ガンダムSEED』に始まった話じゃない気もするが「やっぱり白鳥哲は保志総一朗に勝てない」*14etc...
「やめてよね」はこれだけを抜き出すと『SEED』やキラを揶揄する上でこの上なく便利という事もあり、叩きネタやその旗印に使われて来た事は間違いない。
しかしながら、「やめてよね」の部分や「主人公が友人の腕を捻り上げてひどい事を言った出来事」としか知らなかった者、初期の風評や風潮の印象が強かった者が、
リマスター化等の切っ掛けで改めてこの発言に至った経緯や後半の台詞、その背景にあるものを確認したら、
この台詞やキラへの印象が変わった、(台詞自体の是非はともかく)キラにも考慮すべき事情があると分かったという声も少なからず確認できる。
元エピソードと発言の経緯、その後の展開を通して見れば分かる通り、
キラも増長や傲りやサイを見下す意図での発言ではない事(キラにとって重要なのは寧ろその後の「僕がどんな思いで戦ってきたか(略)」の方である)、サイが10:0の被害者でもない事、
それと同時に、だからといってキラが10:0の被害者でも、サイがキラを悪意を持って苦しめてばかりの悪人という訳でもない事が分かる筈である。
また原作の出来事やその時系列を見ても分かる通り、傲慢云々はさておき、少なくとも
「友人の恋人を寝取っておいてそれを指摘されたら逆上して腕を捻り上げた」
「サイは営倉入りさせられたのに、キラはお咎め無しで何の報いも受けていない」
「恋人を奪われた被害者であるサイの方がキラに謝った(謝らされた)」
色の指定が間違っています。。
以下、その詳細について
◆「友人の恋人を寝取っておいて、それを指摘されたら逆上して腕を捻り上げた」
「サイはフレイから一方的に捨てられ、フレイはサイを捨てつつキラを身体を使って誘惑し、キラは心が弱り切っていた故にフレイに縋りついた」
「キラ視点ではこの時のサイは嫌がるフレイに言い寄っているようにしか見えず、フレイも実際困ってはいた」
「(キツめの言い回しだったが)言葉でサイを抑えようとしたら、サイがキレて掴みかかって来たので、キラもキレ返して迎え撃った」
というのが実際の流れであり。
つまりフレイが一方的にサイからキラに乗り換えたのであって、キラの側からフレイをどうこうしたわけでは無いし、そういう指摘で逆上したわけでもない。
◆「サイは営倉入りさせられたのに、キラはお咎め無しで何の報いも受けていない」
「やめてよね」の件単体では誰も処罰されていない。サイが営倉入りしたのはその後のストライク無断搭乗が原因なので別件である。
クルー同士の痴話喧嘩と、虎の子の兵器を勝手に動かしクルーや艦やその兵器を危険に晒したのとでは事の重大性が全く異なり、
営巣入りという処分は不当とは言い難い。
「キラはサイに手を挙げたのに」と言うなら、そもそもそれはサイが掴み掛って来た事に対する正当防衛であり、捻り上げた後は過剰な攻撃もしていない。
またキラは後でフレイの気持ちが自分に向いていた訳ではなかったと悟った事、オーブで両親に会わなかった事やその事で八つ当たりされるなど、
キラもキラで激しく苦しんでおり、公的に処罰こそされてはいないが「キラは何も損な目に遭ってない」訳では無いし、ましてや多くのクルーとは無関係な喧嘩で営倉に入れられる謂れは無い。
◆「恋人を奪われた被害者であるサイの方がキラに謝った(謝らされた)」
サイがキラに「やめてよね」の件について謝罪した場面などは存在しない。
キラがフリーダムに乗ってAAに戻った後、キラとサイ・カズイが対面して「うん……ごめん」と声を掛ける場面があるがこれはキラの台詞である。
またその後の艦内でのキラとサイの会話も、「キラの事は一時期死ねば良いと思う程恨んだが、いざ死んだと思った時は悲しかったし生きていたと知った時も嬉しかったが、やはりキラへのコンプレックス意識は無くせない(発言大意)」といったもので、キラへの複雑な感情の吐露で謝罪などではない。
それに対するキラの返事も「自分とサイは違う人間である以上、サイにしかできない事もあるはず」という形でサイを諭したという内容である。
◆考察
大前提として、「やめてよね」に至るまでにキラは精神的に極度に摩耗し、押し潰される寸前の状態であった。
戦場に出る事に大きな抵抗感を持っていたヘリオポリス脱出時から一転、「次にミスをすれば今度こそ大事な仲間達が死ぬ」と思い詰め、
いざストライクに乗り込んでも発進許可が中々出ない事に苛立ちの余り、ナタルにすら「悠長な事言ってねぇでとっとと出撃させろ! 俺が今すぐ敵全員ブッ殺してやる!」という旨の暴言を放った事すらあるほどである。
これには管制を行っていたミリアリアも流石に異常を感じる程であった。
こんなになるまで、キラには「守らなければいけない仲間」は居ても、「守ってくれる仲間」、
延いては「自分の状況や気持ちを理解してくれる人」「それを知った上で自分に優しく接してくれる人」は居なかった。*15。
以前のサイの「やっぱそれも遺伝子とか弄って~」という発言も悪意を持って放った発言ではない。
彼は他の(フレイとカズイ以外の)学生達と同様、キラをコーディネイターと知りつつも差別感情無く、あくまでキラを「キラという一個人、友人の一人」として見ている、比較的良識ある人間である。
そんな彼が「コーディネイターとはそういうもの」という意識をポロリと漏らしてしまったことから、元々後に繋がる一面があったことが分かる。
続く第10話でラクスを返還しに無断出撃した際の「お前は帰って来るよな? お前はちゃんと帰って来るよな!?」「きっとだぞ! 俺はお前を信じてる!」という台詞も、
サイらヘリオポリスの学生組はイージスのパイロットがキラの幼馴染である事を知った*16事から、
キラを仲間だと思いつつも「事の次第によってはザフト側に付くのでは?」という疑いを持ち始め、キラを信じ切れなくなっている事がうかがえる*17。
純粋にキラのことだけを心配しているなら、出撃しようとするキラに「帰って来るよな!?」「信じてる!信じてるぞ!」と4回も念押しする事は無かっただろう*18。
キラのことを考えればプラントに行くのもおかしな話ではなかったし、実際アスランからキラにとっても尤もな理由でプラントに降る事を勧められている。
また「やめてよね」後の第19話で語られる事であるが、マリューやムゥといった本来キラをケアせねばならないAAの大人たちも、
キラがストライクのコクピットで寝泊まりしている事を知るまで彼がここまで思い詰めているとは全く気付いていなかった事、
なまじキラがパイロットとして優秀だったばかりに「この程度は造作もないこと」「学友である周りとも上手くやっている」というある種の甘えがどこかにあり、キラの内面のケアを忘れてしまっていた事を明かしている*19。
よって、この時の当時のキラの境遇と心境を纏めると
重複があることと長いので折りたたむが、これらの積み重ねがあるからこその流れである
- ただの学生だったはずが一夜にして久々に再会した親友と敵対し、あまつさえMSのパイロットとして殺し合わなければならなくなってしまった
- もし自分が戦わなければ、自分も自分の友人達も殺され死ぬだけである
- AAの最高戦力であるストライクはキラがガチガチにOSを書き換えてしまっており、まともに操縦出来るのはコーディネイターである自分だけ*20。
つまり実質「AAと仲間達を守る事ができるのはキラ唯一人」「AAと仲間達が生き延びられるかはキラの働きに全てが懸かっている」という重責を負わされていた*21 - AA自体の武装や、仲間のエースパイロットであるムゥという戦力もあるにはあるが、MS複数機を相手取るには力不足の感は否めず、
増してやクルーゼ隊が繰り出すガンダムに対抗できるのはやはり同じガンダムと唯一それを操れるキラだけであった。 - 必死に戦っていたらコロニーが崩壊、戻るべき平和な日常風景そのものが消滅、両親の安否も不明
- 自分と友人を守るためとはいえ、軍人として戦う覚悟を決める間もなく親友の同僚を含む数名のザフト兵の命を奪い、名実共に人殺しになってしまった
- しかし地球連合軍でコーディネイターである自分は異物であるため、必死に戦っていただけなのに味方の筈の者に警戒されたり、
嫌味(にしか聞こえない地球軍への勧誘)を言われたりする*22 - 一度は守ると約束した憧れの人の父親を守れず死なせてしまい、本気で戦ってなかったからだと罵られる
- この時はまだアスランと敵対する事に戸惑っていたため、ある意味「本気で戦っていなかった」のも事実であり、
この言葉は自分の甘さに対する痛烈な批判として深く受け止めざるを得ない面はあった - 「今まで守ってくれたこと」を感謝して折り紙の花をくれた女の子をまたしても死なせてしまう
- こればかりはキラが本気で戦っていなかった所為ではないが、「本気で戦っていない所為で人を死なせた」キラにとっては、
「人が死んだという事は自分の怠慢のせい」と自戒・自罰する他無かった - しかも少し前にフレイは折り紙の子に(キラの目の前で)「キラが守ってくれるから大丈夫」と言い聞かせており、
この子もキラにとっては守らねばならない大切な人であった(にもかかわらず死なせてしまった)*23 - そこまで追い詰められているのに、フレイが自分に言い寄って来るまで誰も自分を気遣ってくれる者は居なかった
- それどころか必死に戦ってまで守ろうとしている仲間達でさえ、自分の事は腫れ物扱いである
(一応、キラを気遣う場面もあったが、その尽くで意識が無かったりその場にいなかったりと、キラがそれを窺い知る事はできなかった) - 何故なら自分はコーディネイターであり、コーディネイターならそれくらいできて当然だからである
- 一方で同胞や幼馴染と敵対している身の上なので、仲間達にすら心のどこかでは信用されていない節もあった
- そういった事もあり、当時のキラは自身の能力を鼻にかけるどころか自分をコーディネイターとして生み、能力を与えた両親を呪っていた*24*25
- 11話ラストでラクスを引き渡した際にアスランから「お前がそっちにいる理由がどこにある!?」とプラントに降るよう誘われても、
「僕だって君と戦いたくないけど、あそこには守りたい仲間がいる」と決裂。
ここからもうかがえる通り、なまじ優しい性格故に、(それこそアムロの様に)AAを見捨ててアスランの所に逃げることも出来ず*26、さりとてその仲間は自分を守ってはくれない - 一度ならず二度までも大事な人を死なせており、もうミスは許されない、でなければ今度こそ仲間達が死ぬという十字架と以前にも増した重責を負っている
- 第1~第3クールまでのキラは俗に「キラ泣き」と呼ばれる声を無理やり押し殺しているような特徴的な泣き方をするが、これはそういう演技指導によるものとの事。
普通の泣き方ができない極限の精神状態だったという事である。 - この時期のキラの信条は大きく分けて二つ、
……といった、まだほんの16歳の少年にはあまりに深く重過ぎる心的外傷と精神負担を抱え込んでいた事になる。
要するに、この時期のキラは、もとい「この時期から既に」、キラは躁鬱気味であった。
しかもキラは友達を見捨てる事ができない、かなりのお人好しで優しい良い子だった*29。
もしキラが反骨的な熱血野郎か、上官にも反抗できるDQNまがいの不良か、極めてポジティブか極端に潔癖な非暴力主義なら、若しくは敵対者には際限なく苛烈かつ冷酷になれるか、
嫌悪感を抱きつつも仕方のない事と割り切るか地球連合や仲間の浅ましさに失望する事が出来る非情さにも似た強さか、
でなければいっそショックの余り心を完全に壊す事が出来る心の弱さを持っていれば話は違ったかもしれないが、
キラは良くも悪くも普通の学生らしい感性と優しさを持った人物だった故に、割り切ったり問題から逃げる道を選べず、ここまで追い詰められたのである。
そんな状況で唯一自分を守ってくれるのがフレイだった。
コーディネイターを激しく嫌っており、かつては自分にも激しい憎悪を向けて来た者からとはいえ飴は飴、
心が弱り切っていた当時のキラにとって、縋り付かずにはいられなかったのは想像に難くない。
「フレイはサイの彼女である事をキラは知っていたのだから拒むべきだった」「キラが真に善性の人なら撥ね退けられた筈」というのは正論だが、
繰り返しになるが当時のキラはとてもそんな事ができる心理状態ではなかった*30。
そんな中「散々精神を擦り減らし切った末にやっと得られた心のオアシス」をぶち壊しに来た格好なのが当時のキラから見たサイである。
「守りたいもの」にして「守ってくれるもの」であるフレイを無理矢理引き剥がそうとして来た、
「唯一自分を守ってくれる大事な人」にしつこく絡んで迷惑を掛けているサイが自分にも喧嘩を売って来た、キラにはそう見えたのだろう。
ところで前述のように、かつてラクスを見たサイは言った。
「綺麗な声だな。でもやっぱ、それも遺伝子いじって、そうなったもんなのかな」
何故「本気で喧嘩したらサイが敵うはずない」のか?
サイの言う通り、遺伝子いじって、そうなったからである。
何故キラだけがMSに乗れるのか?
それも遺伝子いじって、そうなったからである。
(本来MSはナチュラルでも乗れるものなのだが、第一話でキラ自身がストライクガンダムのOSをコーディネイターである自分専用に調整してしまったからでもある。)
何故キラが心をズタズタにされてまで最前線で殺し合わねばならないのか?
やっぱりそれも遺伝子いじって、そうなったからである。
(あとやはり自身がストライクガンダムのOSをコーディネイターである自分専用に調整し、ナチュラルには到底扱えない代物にしてしまったからである。)
先述の通り、サイとしてもキラを責め苛ませる為にこんな事を言った訳でも、キラやコーディネイターの能力への妬みや嫌味を込めた訳でもないはずである。
増してやそれがこんな時に所で自分に牙を剥いて来るなどとは思ってもみなかっただろう。
しかしこの時期のキラの心は傷だらけであり、自分に祝福として与えられたはずの「強い力」が戦場に囚われ友達との距離を広げる呪いと化した事の悩み*31、
そして過去の「サイから無意識に滲み出たコーディネイターへの偏見と差別意識」へのショックとそれに対する皮肉・意趣返しが、最悪な形とタイミングで爆発してしまった。
「やめてよね」とは、それら溜まりに溜まったものが、フレイを巡ってサイが掴みかかって来るという「ふとした切っ掛け」で全て収束されて吐き出されたものとも言える。
単純にどちらが一方的に悪いという話ではないだろう。
「サイは彼なりに頑張っていたし恋人に振り回されていただけなのに、力に酔って友達の恋人を奪っておいて酷い事をしたキラが悪い」のでもあるまい。
当時のキラは精神的に極限まで追い詰められており、それにもかかわらず周囲が配慮を欠いていたのは事実である。
「悲しいからといって何をしても良いなんてことはない」とは言うが、爆発寸前まで追い込んだのもそうなるまで放っておいたのも周囲であるし、そこにつけ込んだのがフレイである。
フレイ以外の人間ももう少しキラの心に気を遣っていれば、これほどの事態にはならなかっただろう。
クルーゼ風に言うなら、サイは正しく自ら育てた闇に喰われたと言える。
「キラは只でさえ精神がズタボロだったのに、ケアするどころかこの上に余計な茶々を入れて来たサイが悪い」のでもあるまい。
サイもフレイの為にらしくなく周りが見えなくなっており、その所為で最悪な時に最悪の地雷を踏み抜いてしまった格好である。
しかしキラの目の前で不用意な発言と不幸な偶然を積み重ねたのがたまたまサイだっただけであり、
サイだけがキラを傷付ける事ができた訳でも増してや傷付けたかった訳でもない先述の通り、
キラの持つ強大な力に異様さを感じていたり、それを言葉に出していたのは学生組は皆同じであった。
サイはフレイを巡る三角関係というキラを刺激しやすい状況だった事は確かだが、ボタンの掛け違いがあれば、締め上げられていたのはカズイだった可能性もあった。
つまりサイは致命的に間と運が悪過ぎたのである。
そもそも平素は大人しく自己主張が弱めな子であるキラという人物を相手に「地雷を避けろ」というのは難しい話である。
非と酌むべき事情はどちらにもあり、本件でどちらが被害者、どちらが加害者という単純な線引きは難しい。
だが敢えて誰が一番悪いかと言えば、それは間違いなく、
己のエゴの為に周囲の人間関係を修復不能寸前までこじれさせた最大かつ直接的な原因であるフレイであろう。
フレイもフレイで目の前で最愛の父を失った事で死んでほしい程憎んでいる男に貞操を差し出せる程に壊れているので、こちらも同情の余地が全く無い訳ではない。
だが、復讐の理由はともかく手段があまりに身勝手過ぎる上に周囲の人間まで巻き込んでおきながら、自分自身を復讐者として徹底し切る事もできておらず、
その中途半端さが事態を拗らせた一要因になっている側面もあった。
◆作品テーマとの関連
『SEED』最終話にてクルーゼは報復の連鎖で世界が滅亡寸前に至っている現状について、
「正義と信じ、分からぬと逃げ! 知らず! 聞かず! その果ての終局だ!」と語っているが、
「分からぬと逃げ!~」からはフレイがラクスを拒絶した場面とサイが掴みかかって来た場面、サイを締め上げた後キラが涙ながらにサイに叫んだ場面が流れている。
彼らのドロ沼劇と対立は、『SEED』が描くテーマの一つにしてC.E.世界に蔓延る偏見と対立、無理解の縮図だったと言えよう。
それを問題はあれどどうにか乗り越えられた事は、キラがそれでも守りたい世界があると思えた要因の一つになっただろう。
またクルーゼは「最高のコーディネイター誕生実験の唯一の成功例」キラ・ヤマトという人物について次の様に述べている。
知れば誰もが望むだろう! 君の様になりたいと! 君の様でありたいと!
(中略)力だけが、僕の全てじゃない!
それが誰に分かる。何が分かる。分からぬさ! 誰にも!!
「『生まれながらの最高の完璧超人(の素質を持つ者)』である故に、キラを知る者はキラの能力しか見ない」というクルーゼが放った皮肉は、
サイを始めとした作中で(当時は)その様に扱って来たヘリオポリスの学生達を含むAAクルーは勿論、
「やめてよね」だけを引き合いに、またはやめてよねが言われた背景をよく考えずに、キラを『力を振りかざしてばかりの傲慢で嫌な奴』との評価を下す一部の視聴者にすら刺さってしまっていると言える。
「『最強になるべくして生まれたばかりに苦悩させられている者』が放った皮肉」を無双チート主人公への皮肉のつもりで使われている事自体が皮肉というのも因果な話である。
もちろんキラ自身反論している様に、力だけがキラの全てではない。
そもそもの話として、ガンダムシリーズという作品に於いて、主人公が戦いの中で力の使い方や意味を間違えたり精神不安定を抱えたりするのは、
後に心の成長を遂げる為の一種の通過儀礼の様なものであり、似たようなものはキラの大先輩のアムロもカミーユもウッソも、
また後輩の刹那やアスノ一家やバナージやスレッタなども経験し、傷付き、苦悩し、乗り越えている。
ガンダム主人公なら誰もが通る道をただキラも通っただけで、ただその道のぬかるみ度合いと天候がたまたま史上最悪レベルだっただけの事である。
また『SEED』の前半のストーリーはファーストガンダムをオマージュしたものであるが、
本件を『中盤に発生した「主人公だけがガンダムに乗れる事の苦悩」と「それに関連した暴力沙汰」イベント』という面で見ると、
出撃拒否したアムロをブライトが殴り付けた「二度もぶった!」に至る一連の流れのオマージュとも考えられる。
主人公が締め上げた方という面ではアムロとは真逆の構図であるが。
その事について、アムロがブライトにそうされた様に、キラも大人に締め上げられて増長した精神を叩き直してもらうべきだったと評される事もあるが、
ブライトがアムロを殴打したのは本来のホワイトベースの艦長だったパオロが戦死してしまった事で、若くして突然重責ある立場へと追い込まれてしまったストレス&自分の想像以上に急速に強くなって行くアムロへの恐怖からである。
アムロを二度も殴ったのは「適切な措置」でも、ましてや「それができるブライトの指揮官としての優秀さがうかがえるシーン」でもない。
件のシーンで描かれているのは、寧ろ言葉で説得する事ができず、勢いで暴力という手に出てしまったブライトの未熟さである。
そもそも、精神が極めて追い詰められているキラを仮に殴った所で、事態は好転どころか大幅に悪化していた可能性もあったのは頭に入れておくべきだろう。
◆他作品での扱い
- 小説版
どう見ても、君が嫌がるフレイを追っかけてる様にしか見えないよ
もう……みっともない真似やめてよ。こっちは昨夜の戦闘で疲れてるんだ……
細かな心理描写の補完に定評のある、そして重要そうな場面がカットされていたりもする*32小説版でもしっかり描写されている。
まず時系列がいろいろと圧縮されており、ストライクでAAの船体にカモフラージュネットを掛けた後、カガリがキラの元にやって来てヘリオポリスで別れた後何がどうしてこうなったのか尋ねるシーンの直後の出来事となっている*33。
その関係で、原作では通り掛かりだったカガリは小説版ではキラ、サイ、フレイらのただならぬ気配を感じて咄嗟に隠れたと描写されている。
上記のようにセリフが微妙に変わっている部分はあるが概ねそのまま再現されている。
やはりキラとしても別にサイを見下していた訳ではなかったものの、唯一の救いだったフレイが奪われようとする事や、今まで散々フレイとの仲を見せ付けて来た事への怒りから、
一瞬で沸点まで達してしまった事でつい口を衝いて出てしまった発言と描写されており、またキラとしてもサイはサイなりに良くしてくれていた事も自覚していた事から、
怒りと同時に勢いでつい言ってはならない事を言ってしまったという罪悪感も感じている。
一方でサイも、当該シーンでは詳細な心理描写は無かったものの、直後のタッシル襲撃の報告を受けた後に場面が追加されており、
フレイが自分を捨ててキラに擦り寄っていく事に対して(キラなんて、コーディネイターじゃないか……)とつい思ってしまい、
口ではキラを仲間だ何だと言いつつも自身の根底にはコーディネイターに対する無意識な差別意識があった事を自覚してしまい、
フレイを奪ったキラへの憎悪と同時に、そのような自分への自己嫌悪を覚えている様子が描かれている。
なお、地面に倒れるサイとそれを見下ろすキラの図は挿絵付きである。
- 機動戦士ガンダムSEED 友と君と戦場で。
GBAにてリリースされた作品。
ミリアリアが特製シチューを作ってくれる(そして不味過ぎて食べたキラが気を失う)とかムゥがカガリにセクハラを働くなど、
本編に描かれなかった面白エピソード目白押しな本作でも「やめてよね」イベントは発生するが、「やめてよね」という発言自体はまさかのカット。
場所がAAの廊下になっている以外、キラとサイが口論になるまでの流れは原作と同じだが、
「昨夜も戦闘で~」の下りの後でサイが掴みかからず、そのままキラの「フレイは、優しかったんだ……」に飛んでいる。
その後は場面転換となるため、この会話は原作通りのタイミングで終了する。
本作はキラを操作してあちこちで会話イベントを進めながら時間とストーリーを進めて行くのだが、
会話イベントの進め方によっては、野戦任官により少尉殿と二等兵らという関係になってしまった学生組が、
「情勢故に止む無く上司と部下になってしまったが、これからも関係と友情は変わらずに行こう(要約)」という心温まる会話の直後に発生してしまう。
なお、この問答の後のフレイの表情は、原作ではキラを気遣う様な優しい表情だったが、
本作でのそのシーンでのフレイの顔グラは悪事が思い通りに行ってほくそ笑むかの様な物凄い悪人面になっている。
『SEED』のシリーズ初参戦作となった第3次αではほぼ完全に再現されている*34。
しかしこの作品ではキラ含むAAはヘリオポリス出港時点からオリジナル主人公含む、
今や幾度もの修羅場を乗り越え百戦錬磨にして精鋭無比となったロボットチーム「αナンバーズ」と行動を共にしているので原作の様な深刻さはない状況。
しかもキラと似た性格と境遇・経験のパイロットも居たため、キラにとっても頼れる者や近い目線から彼をケア・フォローできる者が若干名居た。
つまり似ている様で原作での深刻さとは遠い状況だったのに再現されたことで、勘違いしたユーザーも居ると思われる。
更に他のαナンバーズの仲間にまで喧嘩を売る様な発言をし始めたため、カミーユにはそれを自惚れや甘ったれ等と断じられ、カトルやシンジといった同年代かつキラ同様に穏やかな気性ながら戦う者にも嗜められるというオリジナル展開に繋がっており、そのせいで『ただ傲慢でナチュラルを見下す意識が垣間見える』な台詞になってしまっていたりする。
一応次シナリオで気晴らしとしてバナティーヤの街に買い出しに行かせる際に特殊な立場が作った心の壁を打破した先輩やαナンバーズの跳ねっ返り娘の先輩(?)、あと人為的な背景で生まれた存在の先輩を同行させて心のケアを図っていたりもする。
それにしても「い、いくらカミーユさんでも、僕には……!」とは言っていたが、前述の通りαナンバーズは死線を幾度も乗り越えていてカミーユ以外にも心身共に強いメンバーが大量に居るので、
カミーユの「その台詞を俺達全員に吐く気か!?」も道理であり、シナリオライター的にも難しい場面だったことは理解できるがおかしな場面となっている。
なお『SEED』の参戦が少ないことと、そもそも再現が難しいシーンであるため第3次α以外ではあまり再現されていない。
というか第3次αではこれに限らずSEEDのシナリオ再現は例えばニュートロンジャマー関連でも相当無茶な描かれ方をされており、
当時は『とにかく再現しよう』ということで手一杯だったことがうかがえる。
そんなわけで『J』では「やめてよね」のシーンが再現無し。
『W』では砂漠の虎関連の再現が決着シーンから始まるためカット。
『X-Ω』ではキラが南十字島に漂流するところから始まるため再現無し。
キラにとってもサイにとっても厳しいシーンであるため、あまり再現されないのも寧ろ幸福かもしれない。
劇中のワンシーンを再現する「コマンドカード」の一つとしてやめてよねの一幕がカード化している。イラストも勿論サイの腕を捻り上げたカット(ただしキラは口を閉じている)。
カード名は「焚きつけ」で、イラストに反してどちらかと言えばフレイの行動を指している。
効果はシンプルな「ターン終了時までユニット一体を+1/+1/-1する」というもの。
フレーバーテキストは堂々の本気でケンカしたら、サイが僕に敵うはずないだろ?である。
◆余談
本放送時とリマスター版で作画が描き換えられている。
特に分かりやすいのが陰で盗み聞きしていたカガリの反応で、
フレイの「昨夜はキラの部屋にいた」というキラと肉体関係を持った事を遠回しに伝えた事を明かした際、
本放送版では驚きの表情で固まったまま顔を赤くするという彼女らしからぬウブで可愛い反応だったが、
リマスター版では(何言ってんだこいつは!?)とでも言いたげな引き攣った顔になっている。変顔している様にも見えるからかこれに関してはリマスター前の方が良いとの専らの評である。
サイはサイでも「犀」と対決させられ、キラが「やめてよね、本気で喧嘩したら僕がサイに敵う筈ないだろ!」と嘆くなどというネタは一種のお約束である。
『ウマ娘 プリティーダービー』のエイシンフラッシュの「……理解できません。ウマ娘に人間が勝てるわけがない」という発言が、この台詞を連想させるとしばしばネタにされる。
「人間と共生する、(繁殖能力以外は)人間の上位的な種族に対して、人間の仲間が無謀にも挑みかかった時の台詞」
という点は一致するが、その程度の共通点であり文言もそこまで似ていないので特にパロディとかではないだろう。
20年近い時が過ぎてもこの程度で連想されるほどやめてよねが浸透していることの現れと言えなくもない。
こちらもこちらで本来はシリアスな場面であり、また熱いシチュエーションに繋がる台詞である。
あと、セリフを発した当時のキャラの気持ちを比較すると
「どんな強大な敵であろうと絶対に勝たなければいけないという強迫観念に取りつかれているキラ・ヤマト」
「絶対に勝たなければいけないので確実に勝てるように弱小の相手と戦おうとしているエイシンフラッシュ」と、似ている部分と真逆の部分が見えて面白い。本来のニュアンスをまるで汲み取らない形でネタやネットミームと化したという共通点も含めて詳しくは当該項目を参照。
他にも、スマホゲーム『アズールレーン』に実装されているキャラクター・ユニオン重巡洋艦「ニューオリンズ」のキャラ紹介画像では、
「ふふ、本気でお手合わせしたら私に勝てるはずがないでしょうに」というセリフが書かれている。
これだけだったら関係があるとは言い難いのだが、同ゲームは他にも遊戯王やら他のガンダムやら仮面ライダーやら、結構いろんなものをオマージュしまくっている前歴があること、ニューオリンズ自身の衣装および艤装が同作(の続編)に登場したデスティニーガンダムにしか見えない*35こと、他のセリフにもガンダムパロが散見されることから十中八九このセリフのパロディだと見られている。
ちなみにこのセリフ、母港で指揮官がπタッチの狼藉を働いた時に言うセリフなので、物理的に指揮官をねじ伏せる時に言っていると思われる。
もっとも、彼女が手に入る場所はライトユーザーからしたら狂気の沙汰と言っても過言ではない最先端高難度海域なので、所持している時点で指揮官も十分な傑物なのだが…。
ちなみに、CV担当の藤原夏海女史もガンダム作品に出演経験がある。*36
後の『SEED FREEDOM』後半でこのやりとりを彷彿とさせるシーンがあったが、時を重ねたことや聞き手の違いもあって経緯・結果は全く異なるものとなっている。そして新たに「本気で喧嘩したら僕がアスランに敵うわけないだろ」とネタにされることに(場面そのものは最早喧嘩というより鉄拳修正だが)。
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*2 時々誤解されるが、フレイとキラが肉体関係を持つ以前のやりとりである。この時点でフレイからキラにキスする程度はしているが、これもキラを自分に依存させ戦場に留めさせるための布石である。
*3 その一つが、(AAが一時無防備になるリスクを押してまで)キラをカガリと共にバナディーヤに買い出しに行かせ、気分転換を図った事である。その結果キラは気晴らしどころかバルトフェルドと出会いまた別の悩みを抱える事となるが、当然その様な事態を予見できる筈も無く外出させたのは逆効果だったというのは結果論である。また、この出会いは悩みだけではなく心境の変化にも繋がっている
*4 より正確にはテロ攻撃の時に居合わせたバルトフェルドによって基地に案内されてしまったため予定時刻に集合場所に行けなかったのだが、それを伝える手段も無かったためAA側はそれを一切知らなかった。
*5 この時のストライクはキラによって限界まで性能を引き出せるOSが積まれており、ナチュラルはもちろん、並のコーディネイターでも軽々とは操れない設定になっていた可能性が高い。
*6 キラは知らなかったが、フレイはサイがストライクを動かしている現場にも居合わせており、目に涙を浮かべながら「馬鹿ね……!」と呟いている描写がある。サイの事を完全に「復讐計画には役に立たない者」と心から追い出し切り捨てているならその様な感傷を覚える筈は無い。
*7 サイはMSパイロットの能力は無いが、代わりに「学生組のまとめ役」としての役目を担っていた。これはトールを失って憔悴するミリアリアを気遣ったり、キラがMIAとなってなお勝手な振る舞いをするフレイを一喝したり、一人下船しようとするカズイを励ます等の場面でうかがえる。「唯一MSパイロットとして戦えるが、戦う事しかできない」キラとは正反対であり、まさに「自分にできてサイにできない事はあるかもしれないが、サイにはできて自分にはできない事もある」というキラの言う通りである。
*8 因みに2位はバルトフェルドの「(中略)敵であるものを全て滅ぼして、かね?」で9.2%、3位はこれまたキラの「気持ちだけで、一体何が守れるって言うんだ!」で9.1%
*9 ニュースの見出し、加えてTwitter上で表示される性質上、少ない文字数で表現しなければならないという事情もあるにはある
*10 ここでは文字通りの「超コーディネイター」くらいの意味合いに近い。繰り返しになるが、スーパーコーディネイターはあくまで「入力した通りに出力されるコーディネイター」であって「ナチュラルは勿論コーディネイターをも上回る超超人的能力を持つ人間」ではないし、訓練も無しには如何なる才能も開花する事は無いのは通常のコーディネイターと同様。そしてこの当時のキラは自分が「スーパーコーディネイター」とは知らなかった。とはいえヒビキ博士の妄執が途中から「誤差が出ないようにする」から「最高の素質を持たせること」にすり替わって行った関係で、キラに高レベルの調整が施されているのもまた事実
*11 続編『SEED Destiny』におけるキラの最終階級に由来。准将は大佐と少将の間に位置付けられる階級で、数は佐官より遥かに少ない。陸軍であれば数千人規模が属する旅団指揮官、海軍であれば艦隊司令クラスで、軍の高官・トップエリートと呼んで差し支えない階級。歴代のガンダム主要キャラでも滅多に居らず、他に准将と言えば同じく『SEED』のハルバートン(地球連合軍宇宙軍第八艦隊提督)、『Ζ』のブレックス(エゥーゴ総司令官)、『00 2nd』のグッドマン(連邦軍独立治安維持部隊アロウズのナンバー2、現場レベルでのアロウズ司令官)、同作終了時点のカティ(「アロウズの腐敗と蛮行を世に知らしめた連邦政府綱紀粛正の(表向きの)立役者」としての功績で昇進。『劇場版』では対ELS地球防衛艦隊指揮官)、『鉄血』二期のマクギリス(地球外縁軌道統制統合艦隊司令)程度と、指揮官ポジのキャラが並ぶ。十代後半という若過ぎる年齢や、軍人としての正規の教育を受けておらず、結局の所一パイロットでしかないキラには分不相応の行き過ぎた地位であるとして、「准将」呼びは概ね「准将(笑)」的な蔑称として用いられる(キラ自身も「国家元首の弟であるが故の身内人事」と認識している)。
*12 こちらも『DESTINY』に於ける一部のキャラからのキラへの呼称に由来。キラは現国家元首たるカガリの弟という立場からか、カガリの侍女やオーブ軍兵士からは「キラ様」と呼ばれているが、やはり「キラ様(笑)」などといった不当に・必要以上に持ち上げられていると揶揄するニュアンスで使われがち。なおキラ自身は様付けされる事にかなり困惑している。
*13 この後もティーンエージャー向けに過激さも厭わぬ作品を排出する土6・日5枠だが、本作以前は平成ウルトラマンとかコロコロ出身でも下品さの薄いゾイドとか、さらにそれ以前はとんでぶーりんとかポヨポヨザウルスとか親子向け低年齢向け作品を放送していた枠でもある。戦争を題材としたゾイドは過渡期的とも言えるが本作以降ほど過激では無い
*14 『SEED』以前に放送されていた『無限のリヴァイアス』『スクライド』の2作品において、両者は本作と同じキャラデザな上、同じくCV白鳥哲(サイ)とCV保志総一朗(キラ)が喧嘩しては保志氏が演じるキャラが白鳥氏の演じるキャラを殴って勝利する場面がある。後の『コードギアス反逆のルルーシュR2』でもこの両者は共演しているが、こちらでは接点自体があまり無い事もあってトラブルも何もなく終了している。
*15 そもそも第8艦隊との合流後、キラに退艦許可が出て平和な社会に戻る事が許されたにもかかわらず戦い続ける事を選んだのは、他の学生組がAAに残る事を選択したため放っておく訳にも行かなくなった為であり、ある意味キラの友人たちは無自覚にキラを戦場に縛り付けてしまったとも言える。尤も、これはフレイの「自分が軍に志願すれば他の学生組も居残る筈→他の学生組が居残ればキラも居残る筈」という博打に近い策略にキラやサイも含めた全員まんまと嵌められた格好でもある。
*16 キラとラクスの会話(イージスに乗っているアスランは幼馴染である事など)をカズイが偶然立ち聞きし、それを他の学生組に話したため。
*17 小説版ではラクス返還時のサイの役目は何故かトールが担っている。トールといえば、キラがコーディネイターと分かった途端にAAクルーに銃を向けられた時、武器を持った軍人達大勢を相手に丸腰で怒りを露わにしながら身を挺してキラを庇ったり、アルテミスでも不用意な発言をしてキラを不利にしてしまったフレイに激怒するなど、キラに深い友情意識を持っている人物でありかなり違和感のある人選である。「それほど強い友情を感じている彼すら……」と見るなら一応筋は通る。
*18 ただし、心身の疲れと大気圏突入時の高温に晒されたことでキラが寝込んでいる最中に、「コーディネイターはナチュラルより遥かに頑丈にできてるからヘーキヘーキ(意訳)」と投げやり気味な診察結果を出した軍医に対して、「もうちょっと心配してやっても良いのではないか」といった態度を見せたり、付きっ切りで看病しているフレイにキラの様子を心配そうに尋ねる場面もあったため、打算的な感情しかないわけではないことは記しておく。
*19 キラのメンタルケア不足について「『ケアが必要』というのは戦場に立つ者として甘えではないか、精神が弛んでいるのではないか」という声もあるが、大人の兵士ですら戦場のストレスに苛まれた末に精神を病む者は少なからず存在するので、メンタルケアが必要か不要かで言えば必要である。因みに現代では一般的になった「PTSD」という言葉が生まれた切っ掛けもベトナム戦争の帰還兵の心理研究である。
*20 やろうと思えばナチュラルであるムゥ用にOSをチューンすることは可能と思われるが、キラが今のOSで扱うより格段に性能は落ちてしまうと思われる。そもそもパイロット要員は彼の他にはキラだけであり、さらにムゥが搭乗する「メビウス・ゼロ」は彼の卓越した空間認識能力だからこそ十全に運用できるため、ストライクをムゥに任せるとストライクもメビウス・ゼロも十全に性能を発揮できず、戦力は著しくダウンしてしまう。
*21 この事はキラも第22話や第37話などで言及している
*22 第3話ではAAのクルーにコーディネイターだと知られた途端に銃を突きつけられ、第6話でもアルテミス要塞の司令ガルシアの「だが君は裏切り者のコーディネイターだ」などと言われている。ガルシアのに関しては「一度はザフトと敵対してしまった身では今更プラントに降る訳にも行くまいし、それならユーラシア連邦に来てくれれば歓迎するよ?(意訳)」といった意味である。特に後者は後にクルーゼとの戦いでも回想している。
*23 「キラが守ってくれる」というフレイの発言もその復讐計画の初期段階であり、キラを戦場に縛り付ける為の布石の一つである。結果的にはフレイの計画通りである。
*24 第28話にてムゥに向けて詳細に心境を吐露している。フレイに指摘された、キラが両親との面会を断った件の本当の理由でもある。またこれは、以前キラをMSで戦わせるに当たりムゥが言った「皆で生き延びる為に、すべき事(この場合は『MSに乗って戦うこと』)ができる力があるなら、それをすべきだ(発言大意)」という言葉への皮肉を込めた回答でもある。
*25 このような事例はナチュラルと接する機会が多いコーディネイターにとっては珍しいものではなく、胎児への遺伝子調整に反対するブルーコスモスに入会してしまったり、果てはムルタ・アズラエルの部下になってしまったコーディネイターも存在する。
*26 もしストライクごとザフトに投降すれば、アスランと戦わずに済むのは勿論の事、ストライクは元より「ナチュラルに首輪を嵌められ同胞や親友と殺し合う事を強要されていたコーディネイター」というプロパガンダ的に使い様のあるキラ自身も良い土産となり得る。本編のキラにはそれを交渉カードにしようとするような非情さや狡猾さは無いが、パトリック・ザラ辺りその辺りの事情を知れば「有効活用」しようと(流石にお咎め無しとも行くまいが)保護を受けられる可能性はあるかもしれない。
*27 先述のナタルへの暴言や、後にカガリに放った「気持ちだけで~」という言葉からもうかがえる。
*28 バルトフェルドやラクス等との出会いを経て見出す「敵を鏖殺するだけが終戦・平和への道なのか?」「想いだけでも、力だけでも」とは真逆である。
*29 そもそもキラがストライクと出会った経緯からして、さっさと避難していれば良かったにもかかわらず縁も所縁もない見ず知らずの子(カガリ)を助けに行った挙句、一人分の空きしかなかったシェルターに彼女を押し込んだ為に一人で戦場に迷い込んでしまったからであるし、フレイや折り紙の女の子とAAで合流したのも推進器が壊れて漂流していた脱出艇を見過ごせず回収し、ナタルの反対を押してでもAAに連れ帰る事を主張したからである。先述の通り、一度は出た除隊許可を蹴ってでもAAに残ったのも友人たちを放っておけなかったためである。
*30 そうだろうと踏んで、それにつけ込んでキラを身体で誘惑などした(そしてそれに差し当たりサイを一方的に捨てた)からこそフレイは海外ファンから「クレイジーサイコビッチ(訳:狂った異常尻軽女)」などとあだ名されたのである。
*31 親が子をコーディネイターとする理由は大別して二つ、「高い能力を与えるのは子供の為になる」との考えが前提の曲がりなりにも子を想ってのものと、「望んだ髪や目の色、容姿、能力の子供を生み育てたい」などという純然たる親の身勝手である。ハルバートンは「どんな夢を託して君をコーディネイターにしたのだろうな」等と語っていたが、キラの場合はコーディネイター化以前に誕生理由自体が「最高のコーディネイター誕生実験の結果」である事と母ヴィアが「最高の能力とやらはこの子の為になるのか?」という疑問をぶつけている事から後者寄りであろうか。当然そんな事は当時のキラには与り知らぬ事である
*32 ラクスの無断解放により、アニメでは簡易軍事法廷まで開かれあわや銃殺刑という事態になったのに対して小説版では「こっぴどく叱られた」の一行で済まされている。
*33 直後にバルトフェルド隊によるタッシル夜襲が入るためア、ニメでは真昼間に行われていたこの作業や会話は夜間だった事になる。
*34 因みに原作ではAAの昇降口だったのに対して本作ではAAの食堂内での出来事となっている。また周りには当事者達と盗み聞きしていたカガリしかいなかった原作に対してこちらは数名のギャラリーが居た(が、空気の悪さと話題が話題である事から早々に退出している)、後述の通り「やめてよね」の直後に止めが入るといった違いがある。
*35 カラーリングや細部は諸説あるが、光の翼は言い訳のしようがなくどう見ても運命
*36 『鉄血のオルフェンズ』で幼少期のマクギリス・ファリド、『ビルドダイバーズ』でヒダカ・ユキオを担当。
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