登録日:2025/01/02 Thu 17:00:10
更新日:2026/07/03 Thu 08:53:29NEW!
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(イシュメールと呼んでくれ。)
call me Ishmael.
(白鯨の有名な書き出しより)
『白鯨』は1851年に発刊された小説。作者はハーマン・メルヴィル。
原題は『The Whale』もしくは『Moby-Dick; or, The Whale』。前者がイギリス版で後者がアメリカ版。
全部理解出来たらエライってレベルで難解なことで有名。
『世界の十大小説』または『世界の三大悲劇』として知られている。
捕鯨をテーマとして、狂気の船長エイハブが白いマッコウクジラの『モビー・ディック』に復讐の戦いに挑む物語。
時は19世紀半ば。謎の男イシュメールは水夫を志願し捕鯨の聖地ナンタケットを訪れていた。
そこで食人種の男クィークェグと夫婦運命の友となった彼は、ピックォード号という捕鯨船に乗り込むことになる。
だがピックォード号船長エイハブは白いクジラに復讐の憎悪を燃やしており……。
米国文学の中でも特に難しいことで有名な作品。
物語の筋はそこまでややこしくないのだが、というかストーリーはあってないようなものだがテキストの語りのせいで難解になった。
というか発表当初もあまりの難しさから批判が大半であったほど。まともに再評価され「メルヴィルの代表作品」として扱われるようになったのは1919年のメルヴィル・リヴァイバルから。
結論から言うとややこしくなったのは大体イシュメールのせい。
アメリカ名作文学ということもあってかメディア化は多め。詳細は後述。
2022年にはタフ・シリーズでお馴染みの猿渡哲也先生がコミカライズを担当した。
●目次
【あらすじ】
語り部のイシュメールは捕鯨員を志願する青年。捕鯨の聖地と呼ばれるナンタケットに訪れていた。
イシュメールは宿で出会った人食い族のクィークェグと意気投合し共に同じ船に乗ることを誓う。
クィークェグの持つ人形のお告げに従い乗り込んだのはピックォード号。モビー・ディックと呼ばれるクジラを追う狂気の男エイハブが船長の船だった。
そうして始まった捕鯨の旅。捕鯨自体は順調であったが白鯨は現れずエイハブ船長はいら立ちを募らせていく。そのうち乗員の危険を考えずに白鯨を強引に追うように。
最終的に白鯨は日本という小さな国*1の沖で見つけられエイハブたちは最終決戦を挑む。
だがモビー・ディックはあまりにも強く、追跡3日目でピックォード号は沈没してしまうのだった。
その中でひとりイシュメールだけが生き残った。
【登場人物】
◆エイハブ船長
ピックォード号の船長である狂気の男。
以前の航海で白鯨モビー・ディックに右足を食いちぎられてしまい、復讐のために生きている。現在は義足としてクジラの骨を加工したものを身に着けている。顔から首にかけて残っている古傷がトレードマーク。
復讐のために生きていることもあり、船では白鯨を追うことしか考えていない。船員がクジラを見つけるたびに「その中に白いクジラはいるか!?」と叫んでいる。船員たちはそんな船長を少し煙たがっている。あくまでビジネスとして捕鯨船に乗っているスターバックとよく言い争いになりがち。
本質的には正気と狂気のはざまにいる男。船の上では「狂気」としか言えない言動を見せるが、ふとした瞬間に博学さや温かい人間性を見せる。
エイハブをよく知る者曰く「エイハブは大学にいたこともあるし、人食い人種の間にいたこともある」。もしくは「信心ぶかい善人ではなく呪いを吐く善人」。
よく忘れられるがこう見えて妻子持ち。本人の言葉を信じるなら家ではいいお父さん。これも正気と狂気の間のエイハブを示す設定である。
船長としてはかなり優秀な人。いつもかんしゃくを起こしているのに船長をやってこられたのは、類まれなる先見の力で相当の実績を出していたからである。
最終的には白鯨に銛を命中させるも、銛と繋がっていた網が首に引っかかりあっけなく死亡。
名前の元ネタは旧約聖書に登場する悪王『アハブ』。アハブはヘブライ語だが英語読みすると『エイハブ』になる。エイハブが生後12か月で亡くなった気の狂った未亡人の母がインテリ気取りでつけた名前らしい。
◆イシュメール
語り部にして本作屈指の空気キャラという唯一無二の個性を持った男。挿絵を見るに20代から30代。
彼が水夫になろうとナンタケットを訪れたのがすべての始まりになった。
なんとなく得体のしれない変人。語り部であるものの考えや行動がなんかおかしい。そもそも捕鯨船員になろうとした理由が「わが凶暴性をなだめ、血行をととのえる私なりの方法」というよくわからないものであった。後述するが当時の水夫はブラック中のブラックであり、こんなのんきな理由で志願するものではない。これをはじめとして全体的にどこかズレた言動が多い。
商船に乗ったことはあるが捕鯨の経験はなく、ピックォード号が初になるらしい。
捕鯨の経験はないがクジラについての知識はかなり深く、作中でもしばしばクソ長ったらしいうんちくを披露する。
イシュメール自身の過去や経歴はほとんど不明。クジラについての長ったらしいうんちくはいくらでも話してくれるが、自分についてはついに話さなかった。まともに明かされているのは、商船に乗っていた経験があることと叔父が船長やっていることくらい。
こんな経歴不明でどこかズレている謎の男が語り部を務めるのが『白鯨』という物語。そしてこの男に語り部を任せた結果、物語はかなり複雑になった。
最終的に船唯一の生き残りに。当番でボートに乗っている間に捕鯨船に戻れなくなり、そうしているうちにピックォード号が白鯨に破壊された。生き残ったのがただの幸運なのがイシュメールらしいというか……。
名前の元ネタは旧約聖書の『イシュマエル』。アブラハムが奴隷との間に作った最初の息子ながら、父とその正妻との間に嫡子イサクが生まれた事で正妻ににらまれ母共々放逐された子供で、一般的には「社会ののけ者」を意味する。
◆クィークェグ
イシュメールが初めて出会うピックォード号船員であり高潔な食人族の男。全身に部族にしかわからない刺青をしている。
ロコヴィコという原始的な部族の住む島出身。殺した敵の肉を貪り食う文化があるらしい*2。
クィークェグはそこの王子であったが近代文明に触れたいという理由で島を飛び出した。近代技術を島に伝えるのが現状の彼の目的。
「ヨージョ」という神の偶像となる木の人形を常に持っている。時折お告げが来るのだとか。
銛打ちの高い能力を持ちピックォード号では重宝されている。
イシュメールとの仲は良好。というか作中でイシュメールが「まるで夫婦のよう」と言い出すレベル。
「潮吹き亭」という宿が満員であり、同室かつ同じベッドでなることになってしまったのがふたりの出会い。イシュメールは最初こそ食人種と聞いて慄いたが、最終的に「酔ったクリスチャンよりも素面の人食い人種と寝たほうが良い」というイシュメールロジックで納得。同じベッドで添い寝することを決める。朝イシュメールが起きると、クィークェグがまるで妻を支えるように優しく彼に腕を投げ出していた。
こんな形で二人は馬の合う友人になったのだった。二人ともどこかズレているところがあるから仲良くなれたんだと思う。
クィークェグは「今夜も一緒に寝ないか?」とニッコニコで言い出す程度にはイシュメールが大好き。かわいい。やっぱ王道はイシュメール×クィークェグだよなあ!?
中盤ではお告げで自身の死が近いことを察知し棺を作った。この棺は救命ボートとしても使うことが出来、生き延びたイシュメールが使うことになる。
メルヴィルは捕鯨船員時代食人種と交流があったためか、作品に食人種を好意的な形で登場させることが多い*3。
◆スターバック
ピックォード号の一等航海士。本作では数少ない常識人である。
知的で厳格なクエーカー教徒。航海士として高い能力を持ちながらも生真面目という人間ができている男。
エイハブは基本船長室に引きこもっているので、実質的な船のまとめ役になっている。
また愛妻家らしく時折妻のことを話している。捕鯨は年単位で行われるものであり、家に帰れば港を出たときには生まれていなかった息子が2歳になっているらしい。
物語においてはかなりの苦労人。船長と平水夫の間に立たねばならない中間管理職ポジであるが、エイハブが白鯨と戦いたがるのでうまくいかない。
エイハブを説得しようとしては話を聞いてもらえず頭を抱えている。終盤ではマスケット銃で暗殺も試みたがすんでのところでやめた。かわいそう。
だがなんだかんだエイハブもスターバックの意志の強さには一目置いている。そのため「エイハブはエイハブに気を付けるがいい」とマジギレされたときには、珍しくスターバックの提案を受け入れていた。
エイハブは基本彼を「スターバックくん」と呼ぶがテンション上がると「スターバック!」になる。
『スターバック』はナンタケットの中では由緒正しい苗字。ナンタケット初の入植者たちの中にはスターバック家があった。
さらに余談だがスターバックスコーヒーの名前の元ネタは彼である*4。
◆スタッブ
ピックォード号の二等航海士。お調子者で口元にいつも笑みを浮かべパイプをくわえている。
作中では軟派な変人として扱われている。中盤ではクジラ肉をレアでタフな焼き加減にして食べていた。ご存じの通りクジラ肉を食べるのは日本人くらいであり、それ以外では異常とされていた。血の匂いに誘われたサメにもわけている。
こんないいかげんで陽気な男のためスターバックと仲が悪い。よく言い争いになっている。なおエイハブ曰く「スターバックとスタッブはコインの裏表」で真逆の人間性らしい。
軽いうえに教育を受けていないと明言されている割に妙に博識。作中ではダブロン硬貨についての推理をしたり、シェイクスピアを引用したりしている。
◆フラスク
ピックォード号の三等航海士。
ここまでくるとヒラ水夫と扱いが変わらないため、不遇なうえに仕事量が多いというかわいそうな人。
◆タシュテーゴ
ネイティブアメリカンの男。スタップの部下。クィークェグと同じくピックォード号では銛打ちの役割を担っている。陸上生物の狩猟からクジラの狩猟に転職したらしい。
◆ダク―
のっぽで穏やかな性格の銛打ち。フラスクの部下。西アフリカ出身。
◆フェダラ
エイハブの部下である銛打ち。本作はキリスト教ベースだが彼のみゾロアスター教徒。その異質さによりイシュメールから異質がられていた。
予言の力を持ち「麻だけが汝を殺すことが出来る」とエイハブに言ったが、実際エイハブは網が首に絡まり死ぬことになった。
◆ピップ
愚図で無能な男。彼のせいでクジラを逃したこともあるため船員からは疎まれている。
だが何故かエイハブからは寵愛を受けている。
◆マップル神父
序盤に登場する捕鯨員教会の説教師。過去にはエイハブと共に捕鯨員をやっていた。
◆その他船長たち
捕鯨の旅の途中海で出会う他の捕鯨船の船長たち。情報収集のため交流する。
エイハブはとりあえず白鯨についての話を聞く。というかエイハブは白鯨の話以外はする気はない。ガーディナー船長に至ってはエイハブに「行方不明になった息子の捜索を手伝ってほしい」と懇願していたが無視された。
◆モビー・ディック(白鯨)
本作のラスボスである白いマッコウクジラ。このクジラを殺すことがエイハブの目的。
「白鯨」と呼ばれるだけあり全身が白い。元ネタから考えるに白い理由は全身の傷であると考えられる。純白のクジラという異様な姿にイシュメールは不気味さと同時に神秘的なものを感じていた。
またマッコウクジラの中ではかなりの巨体であり全長90フィート(一般的なマッコウクジラは50フィート)。モビー・ディック自身もその質量が最大の武器であると理解しており、捕鯨船を恐れず体当たりする。直撃すれば捕鯨船でも破壊される攻撃力を持つ。
だが一番の恐ろしさは巨体ではなく知性と悪意。動物とは思えない知性を持ち捕鯨船相手に頭脳プレーで人間を欺き立ち向かう。さらに人間を殺すことを楽しんでいるかのように執念深く船員を殺そうとする。作中では逃げると見せかけて急に方向転換しボートを強襲し、逃げ惑う生き残りを丹念に殺す邪悪さを見せた。
元ネタは19世紀の太平洋に実在した白くて巨大な鯨モカ・ディックと、旧約聖書に登場する海の神獣『レヴィアタン』。『レヴィアたん』ではない。
神獣であるため、白鯨はある種の神である。そのため本作は主人公が悪王であり対する敵が神という構図になる。
【解説】
ここからは『白鯨』の解説や考察などを。
正直なところ『白鯨』は内容自体よりも、考察の盛んさやテキストの難解さなど物語以外のほうが注目されやすい。
◆執筆経緯と評価の変遷
『白鯨』は発刊当初はまったく売れなかったが、作者の死後に急に評価されるようになったという不思議な作品である。
ハーマン・メルヴィルは1819年、アラン・メルヴィルとマライア夫妻の子どもとして生まれた。三男であった。
両親は共に信仰の持ち主であり、『白鯨』の裏にある旧約聖書モチーフもこれに関連しているとされる。
そこそこの生活をしていたメルヴィルだが、13歳の時事件が起こる。父が商売に失敗し、発狂死してしまったのである。
これにより一家はにっちもさっちもいかなくなってしまった。当然メルヴィルも働きに出ることになる。貨物船員や非常勤講師など様々な職を転々とした。
そうしていろいろあった末に彼は1841年、捕鯨船アクシュネット号に乗り込むことになる。
だがその船はブラック業界で有名な捕鯨業の中でも特にブラックだった。
さすがに死ぬと思ったメルヴィルは相棒のリチャードとともに船を脱走する。ただしリチャードとは途中で離ればなれになった。
そうしてたどり着いたのは人食いタイピー族の暮らすヌクヒーヴァ島。コミュ力の高さから命の危険は特になく、島で暮らすタイピー族の少女とキャッキャウフフしてたらしい。
しばらくして島から出たメルヴィルは処女作『タイピー』を書き上げる。タイピー族との交流を描いたものだった。
過去に短編の寄稿をしていたメルヴィルだが、これが足がかりとなり小説家としての道を歩むことになる。
そして『白鯨』の話であるが、本作のアイデアの基となったのはアクシュネット号のとある経験。
ナンタケットでは1820年捕鯨界最悪の事故(詳しくは後述)が起きていた。メルヴィルは捕鯨員時代偶然その関係者から話を聞く機会があった。その件にいたく興味を持ち、各所に取材をしていたのが『白鯨』の始まりとされる。
実際に執筆を開始したのは1850年かららしい。
そうして1851年イギリス版こと『The Whale』が発売された。さらに翌年アメリカ版こと『Moby-Dick; or, The Whale』が発売。
当時はそれなりに売れていたこともあり自信はあったメルヴィル。だが実際には酷評の数々だった。
難解すぎる内容に神を冒涜しているともとらえられかねないエイハブの言動から、大半の書評は批判まみれ。……さっきから難解難解言っているが、どう難解なのかは次の解説で。
ついでにイギリス版は何故かエピローグが欠落していた*5。そのため「登場人物が全滅したならだれがこの物語を伝えたのか。一人称のルールにも反している*6」と余計に批判された。
一応海の雄大な描写を評価する声もあったがごく一部だった。
メルヴィルが小説家として躓いたのはおそらく『白鯨』から。
その後は鳴かず飛ばずが続き、貧困にあえいだり時折新作出すも評価されないという生活が続いた。
この辺りでメルヴィルの評価は「難解な作風の知る人ぞ知る作家」になった。
そうして1891年ひっそりと死去。なおその年には『白鯨』は絶版となっていた。死んだときの世間の反応が「まだ生きていたの!?」だったというブラックジョークがある。
こうして歴史の闇に消えていくと思われたメルヴィルであるが、生誕100周年となる1919年、唐突に再評価が始まる。当時アメリカが文化的にも優れていることを示すため、過去の米文学の見直しが行われていた。その中にメルヴィルもいたのである。
それによりメルヴィル作品の書評が増加することに。いわゆる「メルヴィル・リヴァイバル」の始まり。
この時代の書評はD・H・ロレンスの「古典アメリカ文学研究」やレイモンド・ウィーバの「航海者にして神秘家」が有名。
そうして世界の十大小説に選ばれたり映画化されたりアメリカの代表文学扱いされたり『白鯨』は打って変わって高評価を受けた。
当時の人に「アメリカ文学といえばメルヴィルなんだぜ?」と言っても信じられないだろう。
◆『白鯨』の難解さについて
何度も繰り返しているように『白鯨』は難解な小説。とはいってもややこしいのはストーリーではなく、それ以外の部分である。
ややこしさをまとめると
- あっちこっちに飛ぶ語り
- 一人称視点としてあまりにも空気すぎるイシュメール
- 名前や設定に関する部分の隠喩
の3つが難解な部分。上2つはイシュメールが原因である。
まずはあっちこっちに飛ぶ語りについて。
これは『白鯨』研究家である八木敏雄が『モザイク構造』と呼んでいるもの。
本作は大きく分けて4から5種類の話が章ごとに脈絡なく描かれていく構造になっている。
普通に物語が進む章、何故かト書きで進む章、他の船と交流する章、そして膨大すぎるクジラうんちくの章で構成されている。これらがランダムかつ飛び飛びで描かれていく。
これが『白鯨』がわかりにくい第一の部分。
話が飛び飛びなうえに本筋があまり進まない。メインストーリーが全体から見て大体半分しかない。その上メインストーリーと言える章でも、「ピックォード号の日常」みたいなものもある。『白鯨』は日本語で全1000ページ以上にわたる長い物語。しかしその中で本筋に当たるのは上述の「イシュメールがピックォード号に乗り込み、なんやかんやあって船が沈没する」くらいしかない。
では本筋が半分しかないなら残りは何があるかと言えば、ストーリーと関係ない章である。
まずはクソ長いクジラうんちく。何かあるごとにイシュメールが「このことについては個別の章を設けて話す価値がある」とか言ってうんちくを始める。そんなのはいいからメインストーリーを進めてくれ。
うんちくの種類はクジラ全般であり、クジラの生態、捕鯨の方法、クジラに関する神話など多義にわたる。それぞれのうんちくはジャンルが広いうえ、結構専門的というか難しい内容を扱っている。ゆえに読みにくい。しかも平然と2章くらい連続でうんちく編がくることもある。クジラに関する雑学ならまだわかる*7。しかし「白鯨は白い。ところで白と言えば世界中にこんな伝説がある~」みたいなので1章取られると殺意がわく。
あとは他の船との交流の章など。基本その船の船長目線での体験談が描かれる。これ自体はそう難しいものでもない。しかし話が飛び飛びの中で、いきなり他人物目線の話が来ると、結構混乱する。
このように『白鯨』は様々な話のごった煮になっている。今は話が進んでいるのか、うんちく話しているのか、それともほかの船の視点の話なのか……。今何が起きているか精神を強く持って読まなければならない。
次に難解な部分が一人称として空気すぎるイシュメール。
本作の地の文はイシュメールの一人称となっている。だがその割にはイシュメールはかなり活躍が少ない。
本作の語りは「イシュメールから見た『白鯨』の物語」である。だがイシュメールがあまりにも空気すぎるため三人称小説として読んでも差し支えなくなってしまっている。
序盤はそれなりに出番がある。クィークェグと出会い乗船するまでは存在感もあり主体的に行動している。
だが物語が本格的に始まってからはアクションが少なくなる。代わりに活躍するのは別の船員になり彼らもイシュメールに話しかけたりしない。「イシュメール」という文字が全く出てこない章もある。ついでにイシュメールは地の文で自分の感想を言うことなく淡々と状況を説明するだけである。
その結果「イシュメール」がどんどん物語の外側においやられ、一人称文体は徐々に三人称文体と同化していく。
当時の小説にとって物語の視点は一貫しているのが当たり前。混在しているように見えるのはあまりないことだった。
さらに終盤になると、本当に三人称小説になっているとしか思えないシーンがある。
それは船長室にてエイハブとスターバックが今後の方針を話し合う章。捕鯨船の上下関係から考えるに、当然平水夫のイシュメールは船長と一等航海士が議論する場に入れるはずがない。入れたとして2人がイシュメールに触れないのは不自然。
なので常識的にはこの場面にイシュメールは存在せずここだけ三人称小説になっていると考えるべきである。だがその辺りについて物語では特に触れられない。
イシュメールが空気になり、本作の視点があやふやになったところでこのシーンが入るので混乱を招くこととなった。
そして上述のようにただでさえ飛び飛びになっているこの物語で、視点すら信用できないのは『白鯨』の難解ポイントとなった。
三つめが名前や設定に関する部分の隠喩。
本作の設定や設定は意味深なものが多い。分かりやすい部分で言えば旧約聖書から名前をとっているエイハブやイシュメールなど。
ただその意味深さがどう物語に作用しているかはぼんやりしている。旧約聖書もイシュメールうんちくの一部で出るくらいで基本本作は淡々と捕鯨をしている。
そのためそれがどのような意味を持つのかは多くの白鯨研究家が考察することになった。
白いモビー・ディックと絶滅した前民族の名を持つピックォード号から『黒人と白人の戦い』と解釈する研究家もいるし、ピックォード号に極端に多様な人種が乗っていることから『世界の縮図』と考察する研究家もいる。
調べてみると本作に関する考察は本当に大量に出てくる。
この辺りはモーム(本作を世界の十大小説に選んだ人)が「小説家は人生を模写するのではなく、自分の目的に合うように人生を適当に組み立てなおす」と切り捨てている。
早い話物語を構成する個々のパーツがどうとでも意味がとれるので、全体もどうとでも解釈できてしまうのである。
一応(本当に一応)、『白鯨』とはアハブやイシュマエルなど旧約聖書を捕鯨に見立てた物語というのが一般的な解釈。
そしてモビー・ディックとはレヴィアタンなる神獣であり、悪王が神に挑み完全敗北するということ……らしい。
エイハブたちが白鯨に傷すらつけられず敗北するのも、悪王ごときでは神に勝てるはずがないという隠喩らしい。
◆『白鯨』のモデル
作者が『白鯨』のモデルとしてあげているものはふたつある。
ひとつめは実在した怪物クジラのモカ・ディック。こいつも「白鯨」である。
1810年前後からチリ海岸沖のモカ島近辺に生息していた全長70フィートのクジラである。マッコウクジラは平均50フィート前後のためかなり巨大と言える。
最大の特徴は全身が白かったこと。とは言ってもアルビノとかではなく、白さの正体は傷。海洋生物や捕鯨船と戦いを続けるうちに全身に傷がつき、それが白く見えるようになっていったらしい。モンハンの特殊個体モンスターみたいな設定である。
めちゃくちゃ強く遭遇しては捕鯨船を返り討ちにしていった。そのうち水夫たちの間で都市伝説のごとく語られる存在になったとか。
最期は1859年に老衰で死んだとされている。……しかしその10年後北極海で目撃情報があった。都市伝説化した結果、どれが本物のモカ・ディックなのかわからないネッシー化している。
そしてもうひとつの元ネタがエセックス号事件。
1820年に捕鯨船エセックス号がマッコウクジラに沈没させられ、生存者たちがボートで3か月もの間漂流。さらに飢えをしのぐため最後は食人まで行ったという、捕鯨界最悪の事故である。
メルヴィルがその事件に興味を持ったのは1841年の水夫時代のアクシュネット号とリマ号の交流パーティーにて。メルヴィルはエセックス号で一等航海士をしていたヘンリー・チェイスの息子であるウィリアム・ヘンリー・チェイスと出会う。そこでインスピレーションを得たメルヴィルは、その息子に事件のことを質問攻めにしたらしい。ヘンリー・チェイスは当時普通に存命で、事故のPTSDに悩んでいた。よく質問攻めしたものである。
これが『白鯨』のラストシーンのモデルになったとされる。
◆捕鯨業について
そもそもだが前提として、マッコウクジラを狩るのは体内の鯨油を取るためである。
石油が見つかるまで人類にとって油とは鯨油だった。
そして結論から言うと当時の捕鯨業はかなりのブラックであった。
定職としてやっていけるのは船長や一等航海士など上流工程側だけであり、他のヒラ水夫たちは搾取される存在。
まず単純に仕事がきつい。捕鯨とは1回の航海で平気で2年以上続けるものである。長けりゃ10年もやる。当然その間は陸地を踏めないし家に帰れない。これだけでもきついのにクジラが出たら戦わなければならないので命の危険がある。
次に賃金が低い。捕鯨船は一般的に歩合制とされている。だが契約では一匹狩るごとに役職に応じて配分が決まるという方式であり、大半が船長や航海士であり水夫はかなり低い。命がけで仕事をしても得られるものは少ないのである。
さらにさらにまともな人間が少ない。この悪条件で誰がやるかと言えば本当に仕事が選べない荒くれものくらいしかいない。不良、酔っ払い、一文無しなどがヒラ水夫の主要な人材だった。当然労働力としての質は期待できない。
ぶっちゃけあの時代で海に出る仕事をしたいなら、商船をはじめとして楽で賃金高い仕事はいくらでもあった。
こんな環境のため長続きする水夫は少なかった。繰り返すが定職にしていたのは船長など一部の人間だけ。
ヒラ水夫で2度以上捕鯨船に乗ることはほぼありえないと言われている。それ以前に出航中に約半数が仕事に耐えられず逃亡したらしい。
しいて言うなら、当時差別を受けていた黒人は賃金などで差別を受けない数少ない仕事として進んで行っていた。強かな奴だと捕鯨を利用して亡命したとか。
出港時と帰ってきた時とでメンバーが全く違ったという笑えない話も残っている。
こうして始まる航海であるが……これもきついことしかない。
まずヒマである。捕鯨が何年もかけてやるものであることからわかる通り、クジラはめったに現れてくれない。なので退屈。だが海の見張り業務をはじめとして仕事はあるので休んでもいられない。
しかも船はギスギスしがち。船には荒くれものが多いので雰囲気は決して良くない。さらに船長としてはこの閉鎖空間で荒くれものたちにナメられるとマジで死にかねないので自治に厳しくなる(実際に反乱を起こされたケースもある)。
食事もまずい。補給があまりできないため腐らないことが重要だが、その結果人間の食べるものではないほど塩漬けにされる。海水に浸したら塩抜けたというジョークがあるほど。
クジラが出るまではこんな生活のルーチン。
そんな中で、ようやくクジラを見つけたら勝負の時間である。
まず見つけたら実働部隊がボートに乗ってクジラを追いかける。一定の距離まで近づいたらボートに付属している銛を刺す。
捕鯨においてはこの銛が重要。この銛は銛網を介してボートとつながっている。そのため銛をクジラに刺せば、当然クジラとボートが銛でつながることになる。するとクジラが逃げればボートは自動的にクジラを追いかける。さらにクジラが潜って逃げようとしても、ボートの浮力が邪魔でうまく潜れない。
銛にはクジラを弱らせる役割があった。なので銛は「クジラを傷つける」よりも「クジラから抜けない」ことが重視される。
そうして十分にクジラが弱ったら、トドメとしてヤスを刺す。
刺すのは急所である肺がいい……と言われているが、ひとつきで刺すのはベテランでも難しい。何度も刺すことになる。
成功すればクジラは噴気孔から血煙を吐いて絶命する。
当たり前だが捕鯨において一番危険なのはこの時間である。マッコウクジラはクジラの中で唯一明確な敵意を持って人間の船を沈めた凶悪生物。
まず危険なのは銛を刺してから。クジラとボートがつながっているというのは、裏を返せばクジラの力がボートの耐久力より高ければ、ボートは沈んでしまうということになる。それ以前にクジラは銛を刺されてブチギレているため、安全にことが進む方が稀。
仮にうまくいって、ヤスを刺す段階に入ったとする。するとまた新しい危険に襲われる。絶命させるためにはヤスを深く刺さなければならないが、そのためにはなるべくクジラに近づかなければならない。クジラの攻撃を食らう可能性が出てくる。マッコウクジラの振るう尻尾の力は強く一撃で人間を殺すほどであった。
じゃあ頭の方に行けばいいと思うかもしれないが、マッコウクジラは巨大な頭をハンマーのようにして振るうという攻撃方法を持つ。つまり頭と尻尾どっち行っても攻撃を食らいかねないのである。
この怒り狂う猛獣を狩るのが捕鯨というお仕事。まともな人はまあやらないし、本当にイシュメールは何者なのか。
これらを乗り越えて次に来るのがクジラ解体のターン。これは命の危険はあまりないが、捕鯨でもっともストレスのたまる瞬間。
とにかくにおいがすさまじいのである。マッコウクジラから採るのは、皮から採れる「脂皮」と頭から採れる「脳油」。どちらにしてもにおいがひどい。
まず脂皮を取るにはクジラの脂肪層を加工する必要がある。クジラの上に乗り、「モンキー・ロープ」と呼ばれる命綱をつけてクジラを切り刻む。その後切り刻んだ脂肪層を船の製油装置で熱して溶かしていく。この時熱によって脂肪はすさまじいにおいを放つことになる。
脳油はもっとひどい。マッコウクジラのデカい頭の中にあるのだが、クジラの死骸に穴をあけ水夫がクジラの中に入らなければならない。死骸の中に直接入っていかなければならないため当然におう。入る水夫は鼻にハーブを詰めたがほぼ意味はなかったらしい。しかもにおいは何日間も取れない。
ひどい時だとマッコウクジラの体内に腐敗したガスがたまり、においをまき散らしながらクジラが爆発する。
さらにクジラは船に乗らないので海に浮かべたまま解体するが、血の匂いでサメが集まり死骸を食い荒らす。つまりのんびりやってはいられない。時間との勝負である。
これが終わるとまたクジラを見つけるまでヒマな毎日が始まる。
こんなひどい仕事ではあるが、当時アメリカでトップ産業だった。これは鯨油需要が高かったことや営業の人間が頑張ったことが大きい。
そして何度でも言ってやるが、それなりに仕事を選べただろうにわざわざ捕鯨員になったイシュメールはまともではない。
◆ナンタケットの文化と歴史
ここでは序盤の舞台となるナンタケットについて解説。
ナンタケット島は現在マサチューセッツ州にある小さな島。
もともとはニューヨーク州の島であったが、1641年マサチューセッツ湾植民地に譲渡されイギリス植民地となった。
ただそれからしばらくは固定永住先とは考えられていなかった。実際にこの島に住む者が現れたのは1659年のことになる。ここで移り住んだ数グループの家族たちがナンタケット島の礎となった。ちなみにこのグループの中にはスターバック家があった。
これがナンタケットのはじまりとなる。
それからしばらくしてナンタケットの主産業は捕鯨となった。
きっかけは漂流クジラの存在。ナンタケットの近くは鯨の通り道であった。そのため時折クジラの死骸が沖に上がってくることがある。死骸からは鯨油がとれるため、ナンタケットにとって貴重な資源となっていった。
だがクジラが漂流してくるのはごく稀であり来る時期も読めない。そうしているうちにクジラを待つのではなく、船に乗って狩りに行けばいいと考えるのは自然な話であった。
そして捕鯨のベテランを島に呼びノウハウを学び、1690年頃から捕鯨業が始まることとなった。
もともと19世紀アメリカで捕鯨は第3位の産業*8だった。その中でもナンタケットが捕鯨の聖地になったことには3つ理由がある。
まずは島の位置が良かったこと。島はクジラの通り道が近くにあったため、捕鯨の経験を積みやすかった。
ふたつめは孤島であるため人々の結びつきが強く、協力しやすい環境にあったこと。とくに女性は夫が何年も海に出ている間、家の大黒柱として切り盛りしていかなければならなかった。そのため「ナンタケットの女は強い」という風潮がある。
最後にクェーカー教がうまく島をまとめてくれたこと。17世紀半ばまでにクェーカー教はナンタケットの大半を占めるものとなっていた。クェーカー教とはキリスト教プロテスタントの一派。質素倹約をモットーとした平和主義の宗派である。このモットーは、きつい環境に何年も耐なければならない捕鯨業と相性が良かった。
これらが組み合わさりナンタケットは捕鯨業トップの島となったのだった。当時アメリカは不況だったが、ナンタケットだけはクジラの油で夜まで明るかった。
ただし平和主義のクェーカー教徒が一般的に野蛮なイメージのある狩猟で生計を立てていたことはたまに突っ込まれる。これについてイシュメールは「信仰と生活は別物」という身も蓋もない話をしている。
ちなみにライバルとなるもうひとつの捕鯨の聖地としてニューベットフォードがある。
ただクェーカー教の存在によりナンタケットは中立の地を主張しており、それ故に衰退するのだがそれは別の話。
最後に補足として言っておくと、捕鯨業衰退の原因は石油発見によるもの。
ペンシルベニア州で発掘された石油により、捕鯨してまで油を手に入れる必要はなくなってしまった。
石油は大量にあるうえ狩りに行く必要もない。そのため鯨油なら数年かかる量を数か月で賄うことができた。
第一次大戦中は、最後のあがきとして鯨肉を非常食にしたり、鯨油をエンジンの潤滑剤にしたりするなどのアイデアが出された。
だが大戦が終わると捕鯨は完全に過去の栄光になってしまった。
【メディア化】
◆The Sea Beast(1926)
アメリカで公開された無声映画。『白鯨』初の映像化となる。主演はジョン・バリモア*9。
物語としては三角関係モノにアレンジされている。原作が陰鬱で難解すぎるためだとか。実際映画自体はヒットした。
主人公はエイハブ船長、彼の異母兄弟のデレク、牧師の娘のエスターの3人。なおエイハブが義足になったのは大体デレクのせいであり、義足であることを知ったエスターはエイハブを捨てようとした。
最後はまさかのハッピーエンド。エイハブは白鯨を倒してしまい、エスターとも結ばれる。えぇ……。
ちなみに同じく世界の三大悲劇こと『嵐が丘』も同時期に映画化されたがこちらもハッピーエンドに改変されている。
◆Moby Dick(1930)
1926年版を音声映画にリメイクしたもの。こちらも主演はジョン・バリモアだが他のキャストは別。シナリオはおおむね前回と同じ。つまりハッピーエンド。
◆Moby Dick(1954)
これはテレビ番組。「ホールマーク・ホーム・オブフィルム」という単発でオリジナル映画を放映する番組の企画の一つだったらしい。主演はヴィクター・ジョリー。
……これ以外マジで情報見つからなかったので詳しいこと知っている人は追記・修正をお願いします。
◆Moby Dick(1956)
3度目となるアメリカ映画。主演はグレゴリー・ペック。何気に脚本家がレイ・ブラットベリである。ちなみにブラッドベリは白鯨をもとにした「白鯨:2099」を執筆している。
日本でも本国から4か月遅れで上映された。
作品としては原作再現が重視されている。あの陰鬱な原作を再現するための方法をスタッフで話し合い、フィルムも捕鯨時代を再現しようと特殊なものを使うなど。かなり気合が入っていたらしい。
ただし作品としてはあまり数字は良くなかった。イギリスでは比較的評価が高かったらしいが。不評の理由をまとめると「そもそも原作があんまり面白くない」。
ちなみに本作でマップル神父を演じたオーソン・ウェルズが1971年に新しく『白鯨』を製作しようとした。だが撮影は終わったものの編集がウェルズの存命中に終わらなかったため未完成品になっている。
◆Moby Dick(1978)
またもアメリカ作品。主演はジャック・アランソン。
これも情報見つからなかったので詳しいこと知っている人は追記・修正をお願いします。
◆白鯨伝説(1997年)
日本で放映されたテレビアニメ。監督の出崎統が長年温めていたアイデアから制作したSFアニメ。
1997年4月から放送されるも、制作会社の倒産により第18話で一旦打ち切られる。後に1998年10月から第1話から再放送され、1999年3月から第19話以降を放送、同年5月まで全26話が放送された。
物語はスペースオペラもの。西暦4699年の宇宙を舞台に、「鯨」と呼ばれる廃宇宙船の回収を生活の糧にする「鯨捕り」が活躍する。
その中で「白鯨」に因縁があるエイハブ船長、語り部を務める男装の少女ラッキー、アンドロイドの青年デュウを中心とした物語が描かれる。
なお「エイハブ」と「白鯨」以外は原作用語はあまり出てこない。
ちなみに、エイハブは出崎監督の代表作である『宝島』のジョン・シルバーを彷彿とさせるキャラになっている。
◆Moby Dick(1998)
アメリカで放映された全2回のテレビ映画。主演はピカード艦長でお馴染みのパトリック・スチュワート。
ちなみに1956年版で主演だったグレゴリー・ペックがこちらにも出演している。
一般的に「評価の高い白鯨映画」といえばこれになっている。時代を経て撮影技術が上がったことや、原作再現と冒険活劇の両立したシナリオなどが要因。実際『白鯨』の映像化の中で一番賞を受賞している。まあ未だに日本語訳版出てないんだけどな。
シナリオの面白さを重視した結果、イシュメールがちゃんと主人公に見えるようになった。原作と比べ意見を口にする場面に恵まれている。クィークェグの親友という面も強化された。クライマックスでは彼の死を看取った後、彼のつくった棺に助けられるという描写になっている。イシュメールとクィークェグのベッドシーンも再現されているぞ!
◆Capitaine Achab(2004)
フランスで公開された短編映画(22分)。主演はフレデリック・ボンパール。
まだ狂気を宿す前のエイハブ船長を描いた過去編になっている。
2010年にキャストを一新し完全版が公開された。
◆2010: Moby Dick(2010)
2010年久々に映画化。主演はバリー・ボストウィック。日本でも『バトルフィールド・アビス』という題名で公開された。
内容はまさかの現代アレンジもの。水軍潜水艦長エイハブと未知の巨大生物白鯨の戦いが描かれる。あとイシュメールは女体化した。
話のノリと予算的にB級サメ映画を『白鯨』でやってみたに近い。そしてそのノリで描いた結果白鯨がべらぼうな強さとなった。何しろ今作の白鯨は潜水艦と対峙しバカスカ攻撃食らいながらも生き延びている。最終的には白鯨を倒すため核ミサイルが使われた。
◆Moby Dick(2011)
ドイツ・オーストラリアで制作されたテレビ映画。これも前後編である。主演はウィリアム・ハート。
日本でも前後編でDVD化され、それぞれ「冒険者たち」「因縁の対決」という副題が付けられた。
原作との大きな相違点はエイハブの妻エリザベスが登場すること。原作で存在だけが示唆され大体の映像化ではオミットされてきた妻の初登場である。エイハブは妻との別れで明らかに悲痛な表情を浮かべたり、妻のことをイシュメールに話したりしている。これにより原作の「狂気と正気の狭間にいる男」の面が強調された。
◆Age of the Dragons (2011)
アメリカで公開されたファンタジー映画。主演はダニー・グローバー。
日本でも『エイジ・オブ・ザ・ドラゴンズ』の名でDVD化された。
あくまでも『白鯨』を下敷きにしたファンタジーもの。ホワイトドラゴンとの闘いで唯一生き残ったドラゴンハンター・ハイハブ。彼の伝説を追う若きドラゴンハンターのイシュメールとクィークェグの冒険が描かれる。
◆白鯨との闘い(2015)
2015年に放映されたアメリカ映画。原題は「In the Heart of the Sea」。
クリス・ヘムズワース、ベン・ウィショー、トム・ホランド、キリアン・マーフィといった10年代当時注目されていた俳優が中心に出演している。
『白鯨』とあるが小説の映像化ではなく、その元ネタとなるエセックス号事件が原作になっている。
物語はメルヴィルがエセックス号最後の生き残りトーマスに話を聞きに行くところから始まる。物語は彼の回想という形になっている。
エセックス号の一等航海士であるチェイスと船長のボラードが主人公。家柄が悪いため船長になれないチェイスとボンボン息子のため船長になれたボラードがいがみ合いながらも徐々に絆を深めていく。
合間にメルヴィルとトーマスの問答が描かれる。この物語ではトーマスは食人のことは誰にも話していなかったという設定。そのため最初はメルヴィルに対しても事件の話をすることを拒んでいた。それでも彼の新作小説にかける想いを知るうちに、少しずつ重い口を開いていく。
本作においてエセックス号を沈めたのは白鯨ということになっている。
だがそのような怪物が海にいることが捕鯨界に知られパニックが起きることを恐れ、政府は存在を隠匿した。
メルヴィルがそれを知り、白鯨とエセックス号事件をリミックスして誕生したのが小説『白鯨』であった……というのがこの映画のオチ。
真摯な想いでトーマスの心を動かしたメルヴィルであるが、その後描かれた『白鯨』は全く売れなかった。仕方がないとはいえその辺りの史実はスルーされた。
全くの余談だが、日本版の予告は何故か「ひと狩り行こうぜ!」みたいなノリだった。
◆エイハブ船長と白いクジラ(2016)
ブラジルのマヌエル・マルソルによる子供向け仕掛け絵本。
白い鯨を追うエイハブ船長の冒険劇。しかし船長はいつまで経っても白鯨を見つけられない……。
だが仕掛け絵本ということもあり、実はエイハブが見つけられていないだけでほぼ全ページで白鯨は登場している。
たとえばエイハブが海で「今日は白い霧で何も見えない……」と頭を抱えるシーンがある。
しかし実際に目の前にあるのは霧ではなく、巨大すぎる白鯨。大きすぎるためにエイハブは霧と勘違いしているのである……みたいな感じ。
こんなエイハブの勘違い劇が繰り広げられていく。なお本作の白鯨は少なくとも島ひとつ分の大きさがある。
特に説明はされないが、右足が義足になっているため、彼も「エイハブ」であるらしい。
そして本作もうひとつの特徴が、やたらと小ネタが細かいこと。
チラッと登場する固有名詞が『白鯨』の登場人物名になっている……どころか果てはメルヴィルの別作品から引用されている。妙なマニアックである。
バートルビー海峡とか子どもわかるわけないだろ!!(メルヴィルの名作短編『書記バートルビー』より)
◆白鯨 MOBY-DICK(2021)
夢枕獏による536ページという単行本1巻にしては長編の小説。当然原作には及ばない長さだが
主人公は最初の訪米日本人であるジョン・万次郎。原作にいるわけがない史実の日本人を追加した上に主役に据えるというとても大胆なキャスティングをしているが、作品自体はベテラン作家らしい手堅い筆致。自身も捕鯨漁師だった万次郎による鯨料理シーンでアメリカ人たちを唸らせる、異世界転移っぽシーンもあるよ!
万次郎は史実でも漂流するのだが、漂流期間中実はピークォッド号に拾われておりそこから『白鯨』で起きた事件に巻き込まれるという筋書き。
エイハブは自分でスターバックを殺害したのに狂気からその幻覚と会話していたり、メルビルがイシュメールの改名で後に小説『白鯨』を執筆するなど、夢枕獏らしい現実と幻想が交錯する作風が出色。
◆エイハブ(2022)
グランドジャンプむちゃで短期集中連載としてコミカライズされた漫画*10。作画はタフシリーズでおなじみ猿渡哲也。
3号集中連載の予定だったが結局全5話になった。ちなみに集英社が『白鯨』に手を出すのは地味に珍しい。
物語としては若きエイハブと白鯨の出会いから始まる。白鯨の強襲を受け漂流し生きるために食人をしてしまうというオリジナル・シーンが加えられた。おそらくはエセックス号事件のオマージュ。
そこからまさかのショタ化したイシュメールを語り部に物語が始まっていく。
猿先生の画力から繰り出される圧倒的な白鯨の描写やエンタメとしてもツボを押さえた展開から、数ある『白鯨』作品の中でもクオリティは高め。
全1巻とコンパクトにまとまっているため、猿要素抜きに『白鯨』の入門としても普通にオススメされることも多い。
▷ 長いので格納。クリックで展開
エイハブはタフになった。なにっ
少年漫画ということもあってか戦闘力が盛られておりボートからジャンプ一発で白鯨に殴り込めるという驚異の身体能力を持つ。まあ白鯨とステゴロは原作でもやっているが。
特筆すべきは特別製の義足。なんとエイハブの意思によって義足が銛の形に変形するというどう考えても当時の技術では製造不可能なオーバー・テクノロジーを持つ。
同時に食人をした罪の意識でただの人間ではいられず悪王になったという悲哀も描かれた。アハブ王についてナレーションで語られるなど悪王としての側面は他メディア化より強め。その憎悪を力に変えている。
このようにエイハブはタフになっている。
イシュメールはまさかのショタ化。14歳の少年である。
こちらでは孤児という設定。地上ではきつい暮らしを受けており死に場所を求めて捕鯨員となったという悲しい過去を持つ。これでも原作イシュメールに比べれば十分マシな乗船理由。
なお、子供が捕鯨船に乗り込むのは当時のルールで禁止されていたが、捕鯨界はルール無用なので実際はそのような子供が多かった。
その熱意が認められキャビンボーイとして働くことに。船では弟分としてかわいがられている。
船の仲間との交流を経て人生観の変わった彼は、原作通りクィークェグの棺によって生き延びる。その後は事件の記録を本にまとめた。
エセックス号最後の生き残りであるトーマス・ニッカーソンは、当時14歳のキャビンボーイで事件後伝記を書いた。
オマージュ・キャラクターと考えられる。
スターバックはクィークェグと入れ替わる形で出番が増えた。
本作でイシュメールの乗船を認めたのは彼。海の怖さを恐れないイシュメールの強い意志を見てピックォード号を勧めた。ちなみに2人が出会った『潮吹き亭』は原作だとイシュメールとクィークェグの出会いの場。
本作オリジナルの回想としてスターバックの妻が登場。何年も会えずいつ死ぬかわからない夫を待ち続ける気丈で優しい女性として描写されている。
逆にクィークェグは出番がやや減った。
初登場はイシュメールがピックォード号に乗った直後。そこでイシュメールを一目見るなり「運命の友」と断定した。そのため本作には2人がナンタケットの街を練り歩いてるシーンはない。
その後はイシュメールに不審がられながらもなんだかんだ仲良くやっている。脳油採取後の悪臭プンプンなイシュメールに来るなと拒絶する心温まるシーンも。そのやり取りは年齢差もあって仲のいい親子のようにも見えてくる。
クィークェグが自身の死を予言した時にはイシュメールは怒りながらも涙目になっていた。
スタッブはただの気のいいおじさんに。ページ数の都合上変人っぷりはあまり描かれなかった。もちろんクジラの肉を生肉で食べるシーンもカットされた。タフな歯ごたえで食べてたのに……。
その代わりか原作では険悪だったスターバックとも仲がいい。中盤では互いのカミさんについて談笑するシーンがある。
タテシューゴは寡黙だが気のいい兄貴分というキャラに。
特にイシュメールを気にかけており、中盤では亀の生き血を飲むことを勧めていた。
当時の捕鯨界において亀の血はビタミン、ミネラル、タンパク質、そして塩分が含まれている完全食とされていた。病原菌感染の可能性があるため現代では絶対やってはいけない。
白鯨は漫画的表現で原作よりも凶悪な存在と化した。もちろんめちゃくちゃ強い。
500フィート(150m)の肉体と人間並みの頭脳を用いていくつもの捕鯨船を破壊してきた。時には他のマッコウクジラに命令して人を襲わせるという憎悪までみせる。
その巨体と知性もさることながら「上顎にも歯がある」という通常のマッコウクジラとは明らかに異なる形態を有しており、その正体が古代のクジラ「レビアタン・メルビレイ*11」の生き残り(あるいは先祖返り?)であることが示唆されている(もっとも、実際のレビアタン・メルビレイの体長は現在のマッコウクジラと同じくらいだったと考えられているので、どのみちこの白鯨は規格外の個体である)。
その悪魔のチカラの前に、若き日のエイハブは「なにぃっ」「な…なんだあ?」と悲鳴を上げることしかできなかった。
まさにクジラを超えたクジラとでも言うべき存在。
この白鯨が‘神の化身`だというのかッ
- 限られたページ数の中で当時の捕鯨事情を説明(ただし「モンキー・ロープ」は登場しない)
- エイハブの妻など大体のメディア化で消されがちな要素もなるべく描写
- 歴代映画版のオマージュらしきシーン
などかなり『白鯨』及び周辺知識を得なければ描けないものになっている。
出来る限り原作要素は入れていくスタンスである。最終話で唐突に出てきた「アハブ王の血を犬が舐めた」といういかにもオリジナルっぽい逸話も、実は原作のイシュメールうんちくの引用。
エイハブの名において‘神`を討ち斃すッ
ただ明らかに原作から意識的に変えていると思われるシーンがある。
それは最終話。エイハブが銛に形状を変えた義足を白鯨の眼球に突き刺すシーン。
原作の解釈は「白鯨=神」。悪王が全能力開放してもほぼ何も出来ないからこそ白鯨という神は神であるのだというのが原作。
故に白鯨に一矢報いてしまうというこの描写は、ある意味神に対する愚弄とも捉えられる。なお同時期タフシリーズに「白鯨」の異名を持つ人物も登場し話題を呼んだ
【派生・関連作品・白鯨をモチーフにしたキャラクター】
著名な作品ということもあってか、古今東西の作品に強い影響を与えている。
マンガ・アニメ
◆ONE PIECE
大海賊の一人「白ひげ」が駆る海賊船のモチーフが白鯨。船名もズバリ「モビーディック号」。
見た目も真っ白なクジラを模した超巨大帆船となっている。
ただ、色や名前はともかく、丸みを帯びたフォルムや顎下の縦筋ラインなど見た目は『モビーディック(=マッコウクジラ)』というよりもシロナガスクジラのそれに近い。
◆サイボーグクロちゃん
最初期のエピソードに、地元の漁場を荒らし続ける白鯨「モービーディック」と戦い続ける漁師「エイハブ」が登場している。
本作のエイハブは元ネタほど狂気じみた人物ではなく、どこかノリが軽い変人ではあるが、同時に漁が出来ずに荒み続ける漁師達に心を痛めている仲間思いの男として描かれている。
ルーズソックスにG-SHOCKにロン毛という中途半端に流行に乗っかったようなファッションが特徴。
漫画版では原典通り義足になっていたが、アニメ版では両足ともに健在になっている。
◆ジャバウォッキー
久正人の漫画作品。
「バック&ディック」編にてモビーディックとスターバックが登場。エイハブも回想と骨だけの姿で登場する。
本作では小説『白鯨』は実際にあった出来事を描いたものとして扱われており、実はイシュメルだけでなくスターバックも生き残っていた事になっている。
そして何よりも、スターバックは男装した女性、モビーディックは大絶滅を生き残った首長竜リオプレウロドン*12の末裔という大胆すぎる翻案が為されているのが本作における特徴。
しかもスターバックはエイハブに惹かれており、彼を追いかけるために当時男性しかなれなかった船乗りになろうと男装をしていたという原典を考えると中々凄まじい設定。
ピークォド号が沈んでからは世界を守る秘密結社「イフの塔」の構成員になっており、同僚である主人公サバタ*13を巡ってヒロインのリリーと睨み合う姿が描かれた。
◆魁!!男塾
夏季合宿篇ともいえる「大海島巡り」にて白鯨とキャプテン鱏破布が登場。
詳しくは三海魔王の項目を参照。
◆文豪ストレイドッグス
北米を拠点とする異能力者集団「組合」の一員としてハーマン・メルヴィルが登場。
異能力はもちろん「白鯨」で、空中に浮遊する白い鯨を具現化して操ることができるというもの。作中では鯨に改造が施され、組合所有の空中要塞と化していた。
◆機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
艦船、施設のエネルギー源などに使われる相転移炉に「エイハブ・リアクター」の名がつけられている。
このリアクターの発明者はエイハブ・バーラエナ。「バラエーナ」とはラテン語で「クジラ」の意味。
天使の名を冠する巨大なモビルアーマーと、それに立ち向かい“狩る”ことを目的とした悪魔のガンダム…その双方の心臓部の開発者にこのようなネーミングがされていることは偶然ではないであろう。
小説・ライトノベル
◆Re:ゼロから始める異世界生活
大兎、黒蛇と並ぶ大魔獣として「白鯨」が登場。
幻影を操る巨大なクジラたるこの怪物は、食らった人間の存在そのものをこの世から消し去るという「暴食」の能力を有しており、作中でも各地で凄まじい被害を出していた。
そのため、中盤の大盛り上がりポイントとして「白鯨討伐戦」という戦いがあり、スバルたちはこの常識外れの怪物に立ち向かう事になる。
◆フルメタル・パニック!
テッサの識別コードとして『ナンタケットのおじいさん』が使用されたことがある。
巨大潜水艦《トゥアハー・デ・ダナン》をクジラに見立てて、そこから連想したのであろうか。
ゲーム
◆Wizardry #6 Bane of the Cosmic Forge
プレイヤーキャラに商取引を持ちかける怪しい男クィークェグが登場。
海賊のアジトの合言葉を知っていたり、前船長とル・モンテスの争いについて知っているあたり、本人も船乗りとの繋がりがあるようだ。
使用武器もカットラス(船乗りが使う蛮刀)とダーク(短刀)でゲームの海賊系共通の装備をしている。
◆ロマンシング サ・ガ3
ゲーム中に登場する海を支配する四魔貴族フォルネウスと伝説の海賊ブラックのエピソードが明らかに『白鯨』がモチーフ。
◆METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN
ある主要人物の名前が白鯨を由来とする。
ゲームのプロローグたる「序章 覚醒」。ネットミームでお馴染みな「いいですか、落ち着いて聞いて下さい」の流れを経て病院で目を覚ました男は、医者より「あなたは自分の名を忘れてエイハブと名乗ってください」と言われる。
夢現の中続く異常な光景、何者かによる襲撃、自分が何者かを思い出せぬ「エイハブ」は窮地に陥るが、突如「イシュメール」を自称する男に助けられる。
「エイハブ」と「イシュメール」は地獄絵図となった病院を脱出し、一旦別れる事となる。そして「エイハブ」は、自分が白鯨を追う狩人ではなく、「偉大なるボス」と呼ばれていた元潜入工作員であった事を思い出す。
また、「エイハブ」を支援する専用ヘリのパイロットはコールサインが「ピークォド」とこちらも白鯨由来。
単なる用語の引用に留まらず、MGSV:TPPが復讐の物語であることにも引っ掛けられており、また「スネークの偽名がエイハブで、スネークを助けた謎の男がイシュメールと名乗ること」が壮大な伏線であるなど作中のギミックにもなっている。
なお、本シリーズに関わりの深い声優の大塚明夫氏は、前述のアニメ『白鯨伝説』においてもエイハブ船長を演じた経験を持つ。
◆Limbus Company
主人公陣営の一人に「イシュメール」、章のボスとして「エイハブ」、更にはピップやスターバックにクィークェグも登場し、クィークェグに至ってはイシュメールの親友と原作再現。
各国の文学をモチーフとする作品なので、そろって女体化(イシュメールは赤髪の女性、エイハブは大柄な老女)されている以外はかなり元ネタに忠実。
エイハブの片足が銛でできた義足、という部分もきっちり抑えている。
ただし、違うところを挙げるとするなら「徹底的にエイハブが悪役とされている」ところ。
原作でエイハブが見せた妄執や狂気がより悪質かつダメな方向へ増しており、洗脳と脅迫を用いて従わせた船員たちを使い捨てにしながら白鯨討伐へ向かって突き進む狂人として描かれている。
本作におけるイシュメールはここの元船員かつ唯一の脱出者であり、このエイハブへの復讐のために主人公陣営に加入する……というのが本作の筋書きである。
揃って得物は「銛」、特にエイハブは後半から「ガス火を灯した銛」を模した必殺武装を装備する強化形態となって立ちふさがる。
本作における白鯨は「蒼白なる鯨」名義で登場し、この二人を繋ぐ因縁の要素ともなっている。本作でのエイハブは心を折る洗脳術の一環として何かにつけて「~もお前のせいだな!イシュメール!」と叫ぶので、プレイヤーからはネタにされがち
◆ELDEN RING
DLC追加ステージ「影の地」に登場するボスの一つ、「暴竜ベール」が白鯨モチーフ。
この竜に挑み完膚無きまでに叩きのめされた「壊れた竜の戦士エーゴン」なる老人が関連ダンジョンの入口にて登場し、狂気じみた叫びを上げながらベールへの敵意をあらわにしている。
ベールまでの道筋を辿る中で条件を満たすとエーゴンは再起し、プレイヤーに「俺をベールのもとに連れて行ってほしい」と頼み、ボス戦時には鬨の声と共に推参するようになる。
…そう、エーゴンのモチーフはエイハブで、見た目はエイハブと同じ眼帯を着けた老兵。彼は「銛」を矢として用い、「何度でもお前に俺の銛を突き立ててやる!」と、凄まじい執念で竜と戦ってくれるのである。
◆ミストトレインガールズ
世界観を担う巨大生物「白鯨」が登場。
この世界の白鯨はルーツが「巨大兵器」であるため見た目は半機械の魔獣となっており、更にその中では小さな国が出来ており人が住んでいる状態である。
だが性根のところでは「人間と交流し、騙して太らせて、最終的に食べてしまう」という人類の敵のような扱いだったために討伐されてしまう。(中の人達は無事)
…が、討伐後もホノルル(白鯨の中に住んでいた少女)のSスキルで敵に突っ込んだり、アヤラのSスキルで釣られたりして登場している。
また、この白鯨がかつて人間を騙すために作成したプウネネという生体アンドロイドともいえる分身が存在しており、プレイアブルキャラとして使用可能。
人間を肥え太らせる機能を担っていた為か、自在に甘味料を生成する異能を持つデブ専の少女となっている。
◆Rise of the Ronin
直接は出てこないが、ペリーが日ノ本の事を「モビーディック」と呼んでいる。
それを釣り上げて…要するに開国させるという交渉を成功させるのが彼の目的である。
ペリーが文学にも明るいことを表す台詞であると同時にこの難解な小説を理解する頭脳の持ち主ということを表している…のかもしれない。
◆Code Name: S.T.E.A.M. リンカーンVSエイリアン
このゲームの主役である対エイリアン精鋭部隊「S.T.E.A.M.」には、米国の文学作品や民間伝承の人物にちなんだ隊員達が多く登場しており、小説『白鯨』からは「クイクエグ」が参戦している。
南太平洋出身の銛打ちという以外は経歴不明とされる大男で、ペンギン型の歩く爆弾「ペンギンボム」が武器。また各エリアで1回だけ使えるスペシャルスチームパワーとして、銛を発射して貫通攻撃を行う「貫鯨!ハープーンスピアー」が使用可能。
◆METAL MAX2 METAL MAX2 ReLOADED
エイハブ船長をモチーフとした「ビイハブ」というキャラが登場。
自身の右足だけでなく、妻や弟のシイハブを奪った賞金首モンスター「U-シャーク」に復讐することに全てをかける復讐の鬼。
ついでに彼の元部下「イシュマル」も存在する。
◆Fate/strange Fake
イレギュラーなるサーヴァント「ウォッチャー」、
その正体はクジラのような姿から『モビー・ディック』、さらに言えば『リヴァイアサン』ではないかと言われている。
ウォッチャーが再現したサーヴァントならざる存在である影法師の中にも「船長を名乗る」「正式に召喚されれば復讐者のクラスとなる」
というエイハブ船長らしき老人が登場する。
なお、型月世界での『モビー・ディック』は幻想種の最高ランクである「神獣」に位置している*14。
◆モンスターファーム2
グジラ種のノラモンであるグジラキングは白鯨をモチーフにしていると思われる。
◆ポケットモンスター
アルクジラ及びハルクジラのモチーフは白鯨だと思われる。
◆ゲームブック版『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』
ゲームブックオリジナルの敵キャラとして白鯨「モービーディック」が登場。
中巻で上の世界の海で登場し、勇者と戦った末に海に沈んで生死不明となる。
そして下巻でアレフガルドの海で再登場し、再戦の末に今度こそ倒される。
◆遊戯王オフィシャルカードゲーム
白鯨をモチーフにしたと思われるモンスター『白闘気白鯨(ホワイトオーラホエール)』が登場している。
シンクロ召喚成功時に相手の攻撃表示モンスターを全て破壊したり、2回攻撃と貫通効果を併せ持ったりと攻撃性能の高さに加えて相手に破壊された時に墓地の他の水属性モンスターを除外したら自己再生ができるといったタフさも併せ持っている。
その他
◆星獣戦隊ギンガマン
敵組織「宇宙海賊バルバン」の首魁としてエイハブ船長をモチーフとした「ゼイハブ船長」が登場。
宇宙中の惑星で簒奪と虐殺を繰り返し、用が済んだら船である巨大生物「ダイタニクス」に食わせるという外道中の外道。
部下の幹部達は我が強すぎて統制が取れておらず、「好き勝手にやらせた結果足を引っ張り合って失敗した」ため一人ずつの出陣を強制した。
◆笑う犬
かつてフジテレビで放送されていたお笑い番組内のシリーズコント『引っ越し』にて登場。
内村光良演ずる中年サラリーマン「小須田 義一」こと小須田部長が会社の命令で無茶な転勤やミッションを繰り返すという内容だが、
その15回目となる第三章のエピソードでなんとモビーディックの生け捕りに成功している。
しかもその理由が「社長の娘が京急油壺マリンパーク*15で水族館デートをするけどこれといった名物がないから捕まえてきて」という会社からの指示によるもの。
この無茶苦茶の極みとも言うべき業務命令のために小須田部長はオールすらないタライ船に乗って単身ベーリング海へ渡るハメに。
さらに「持ってきた銛じゃ全然効かなかったから毎日毎日他愛もないことを話していくうちに打ち解けて、最終的に水族館行きを了承させた」と捕獲手段はまさかの言葉による説得。エイハブ船長涙目
上記の経緯からわかるように作中のモビーディックは人間の言葉を理解しているらしく、
部下の原田泰造が「なんだか触るとヌルヌルして気持ち悪い」と言うや潮を噴いて驚かせた。
これで日本に帰れると意気込む小須田部長だったが、部長の妻がデート相手、つまり社長の娘の彼氏を寝取ったことでデート自体がご破算になり、
それに加えてよせばいいのに良かれと思って小須田部長が社長の娘に武田久美子よろしくの貝殻ビキニを贈っていた事が発覚。
またしても社長の逆鱗に触れた小須田部長は新たな業務命令として、社長の娘の新しい彼氏であるアメリカ人男性の住所を得るため、
偽の身分証*16を初めとするスパイグッズを手に単身その男性が働いているCIA本部への潜入を命じられ、
モビーディックの背に乗ってアメリカへと向かうのであった。
なお、当たり前だがコント内に登場するモビーディックは本物ではなく巨大なセットである。
【『白鯨』の暗号騒動】
そんな『白鯨』だが、実はある時大量の予言が発見され、一部界隈で話題になった事がある。
発見者によると、『白鯨』にはイツハク・ラビン首相、インディラ・ガンディー首相、キング牧師、ダイアナ妃といった各国の著名人の死が暗号で予言されているという。
…種明かしをすると、これは『聖書の暗号』の著者であるマイケル・ドロズニンが自著への批判に対して「『白鯨』から同じように『暗号』を見つける事が出来たら、『暗号』は偶然によるものだったと認めてやる」と挑発した事に端を発する盛大な悪ノリの産物である。
おそらくはそれなりの長さがあり、知名度が高く、予言とかその手の話とは無縁そうな書籍という事で『白鯨』が選ばれたものと思われる。
しまいにはドロズニンの暗殺計画が記された暗号を探し出した暇人猛者までいたとか。
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*2 学術的にはこうした風習は、一種の儀式として見られている
*3 そもそもデビュー作の『タイピー』が食人族テーマ
*4 スターバックスコーヒーのホームページにもちゃんと書いてある
*5 理由不明。乱丁説がある
*6 当時は一人称が「後から誰かが事後報告した」という面が強い
*7 物によっては第32章「鯨学」でセミクジラに触れた際「グリーンランドのセミクジラはイギリスでは別種説があるが自分はそうは思わん(要約)」などと、当時ホッキョククジラ(グリーンランド近海に生息)とセミクジラの混同があったとよく分かる資料の物もある
*8 製靴、綿織物、捕鯨の順番
*9 『E.T.』『チャーリーズ・エンジェル』などへの出演で知られる女優ドリュー・バリモアの祖父
*10 白鯨のコミカライズは他にも、作画:影丸譲也、構成:梶原一騎による週刊少年マガジン版などが存在する
*11 この種小名自体が白鯨の著者ハーマン・メルヴィルへの献名である
*12 「首長竜」ではあるが、クジラのように首の短い体型をした種だったとされている
*13 人間ではなく、オヴィラプトルから進化した恐竜人。本作では恐竜達は絶滅を免れて直立二足歩行の恐竜人に進化したという設定
*14 この位階の幻想種は「生き物というよりは超兵器みたいなもの」と評される強さを持つ
*15 神奈川県三浦市に実在した水族館。2021年に閉館
*16 サウスダコタ州出身のアメリカ人『ジョン・コスダ』名義。部長曰く「顔写真が私と全然違う」
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