Barringtonia racemosa 作タラスク

ページ名:Barringtonia racemosa 作タラスク

「思ったより広くはないですね」


新たな職場を前にし、身支度をきちんとする。私、胡間シバリの新たな1歩が始めるのだ。


“ピンポーン”


「こんにちは、本日からお世話になります。胡間シバリと申します」


「はーい、ちょっと待っててねー」


可愛い女の子の声が聞こえた。


私、胡間シバリは再就職先がやっと決まった、雇われメイドだ。前の勤め先は、当主がダメすぎて没落してしまった。前の勤め先を悪く言いたくないが、Vライバー?というのに入れあげて借金をし、メイドに暴力まで振るうのだから仕方がない。


「お待たせー」


青髪を左右にまとめたメイドが出迎えてくれた。


「胡間シバリちゃんだよね?よろしく!私の名前は、あにぎむつ!むつでいいよ!」


「むつさん、よろしくお願いします」


「もーう、むつでいいのに、ごしゅじんの所に案内するね」


「よろしくお願いします」


身長が小さい、私は小柄な方だけど更に小さい。それに歩く度に髪がぴょこぴょこ揺れてすごく可愛い。


「そう言えば、この家にメイドは何人居るのですか?」


「メイド?メイドは私だけだよ!あとは執事のアムさんに、シェフのアルさん」


「今まで3人でお世話してきたのですか!?」


「この家ちっちゃいし、分担しながら何とかできたんだー。だけど、最近ごしゅじんの仕事が順調だから1人増やしてくれることになったんだよ」


「そうなのですね」


名前が変なのは、外人が多いのかしら。そんなことを話しているうちに、ご主人様の部屋についた。


“コンコン”


「はーいどうぞー」


「失礼しまーす、シバリちゃんを連れてきました」


「ご苦労さま、むつ。君が胡間シバリだね?」


「はい、胡間シバリと申します。精一杯お世話しますのでよろしくお願いします」


「堅苦しい挨拶はいいよ、シバリちゃん。僕の名前は白洲大太 言いづらいだろうしご主人様でいいよ」


しらすだいた、心の中で復唱し、記憶に入れる。メイドのことをちゃん付けしたりして、結構フランクなご主人様なんでしょう。


「館や仕事で分からないことがあれば、むつに聞いてね」


「はい、分かりました、ご主人様」


「とりあえず、シバリちゃんの部屋に案内するね、行こ、シバリちゃん!」


「よろしくお願いします、むつさん」


「だからむつでいいのにー」


「ここがシバリちゃんの部屋ね」


「こんな広い部屋を貸してもらえてよろしいのでしょうか」


「広い?そうかなー」


前の部屋は2畳角部屋で、狭くて押入れで寝ていたから、充分広く感じた。


「ちなみに隣の部屋は私ね!荷物置いたら屋敷の中案内するね」


「よろしくお願いします」


「ここが食堂で、あっちが台所ね。多分あるさんが、夕ご飯の仕込みをしてるはずだから」


「あるさんはシェフの方ですよね?」


「そう、すっごく料理が上手なんだー。あるさーん」


「あら、むつちゃんどないしたん?またつまみ食いか?」


「違うよーこちら新しく来てくれたシバリちゃん!今屋敷の中を案内してるの!」


「そうなん、よろしくな、シバリちゃん、ウチの名前は入間ある、あるでええよ」


いりまあるさん、気のいい関西風のおばちゃんみたい。


「はじめまして、胡間シバリと申します」


「堅苦しい挨拶なんてせんでええよ、そういやシバリちゃん、好きな食べ物は何?」


「好きな食べ物ですか・・・?前の屋敷ではお茶漬けをよく食べていましたが」


安月給のうえに食事の時間もあまりとれないから、よく食べていた。


「そないなもん、ウチじゃなくても作れるやないの。せっかく今日のまかないは好きな食べ物作ってあげようと思ったのに」


「いえ、そんな、お気づかいなく」


「あるさん!ツナ!ツナ!ツナ!」


「今日はシバリちゃんのお祝いやで?それはむつちゃんの好きな食べ物やないの」


「それで構いませんよ」


「やったー!!ツーナツーナ」


「まかないはご主人様の食事が終わってからここに集合してくれたらかまへんから」


「わかりました、ありがとうございます」


「あるさん、アムさんどこか知らない?」


「アムさんか?庭で木の枝を切ってると思うで」


「わかった、ありがとう!行こ、シバリちゃん!!」


「はい、わかりました」


庭はこぢんまりしてるが、手入れのいきとどいたキレイな庭だった。


「あ、いた、アムさーん!」


桜の木の近くでハシゴを抱えた男の人の所に駆け寄っていった。


「どうかしましたかな、むつさん」


「アムさん!新しく来てくれたメイドのシバリちゃん!」


「はじめまして、胡間シバリと申します」


「これは、これはご丁寧に、私の名前は菅羅瀬亜夢と申します。ご主人様をはじめ、屋敷の方からはアムと呼ばれております」


かんらせあむさん、優しそうなおじさんという印象だ。


「そういえば、むつさん、頼んでいた掃除と洗濯は終わりましたかな?」


「あ!えっーとその、今はシバリちゃんの案内をしていてね?」


「終わったらすぐにとりかかってくださいね」


あ、この人は静かに怒るタイプだ。


「行こ!シバリちゃん!」


むつさんは急いでその場を後にした。


「むつさん、家事がまだ残っているのですか?」


「あ、あとはお風呂掃除だけだから!大丈夫だよ!」


「なら、お風呂に案内してくれた時に掃除しましょうか?」


「ほんと!?ありがとう、シバリちゃん!」


「メイドですから、気にしないでください」


「お風呂はこっちだよ!」


お風呂は思ったよりこぢんまりしていた。


「私が床磨くから、浴槽お願いね!」


スポンジを渡してくれて、掃除が始まった。


「おりゃおりゃおりゃおりゃー」


「むつさん、急いでやると転びますよ」


「大丈夫!大丈夫!うわっ」


「大丈夫ですか!?むつさん」


「えへへ、大丈夫、大丈夫」


むつさんは泡だらけになっていた。


「とりあえず、タオルと着替え取ってきますね」


「うう・・・ありがとう、シバリちゃん」


むつさんの部屋にお邪魔し、バスタオルと替えのメイド服を取り出す。


「むつさん、着替えをお持ちしました」


「あ、シバリちゃん、ありがとー」


裸のむつさんが出迎えてくれた。


「む、むつさん!なんで服を来てないのですか!?」


「えー、だって、服が泡まみれで気持ち悪かったし、女の子どうしだしいっかなって」


「もし、ご主人様やアムさんに見られたらどうするのですか」


急いでバスタオルで体を隠す。


「大丈夫、この時間なら男子ははいってこないよ」


バスタオルで体を拭きながらむつさんが答えた。


「そういう問題ではありませんよ!掃除は終わったのですか?」


「うん、バッチシ!」


「なら、よかったです。次のお仕事はどうしましょう」


「次?えーと、休憩??」


「は???」


「いや、ね?洗濯物は終わってるし、食事はあるさんが作るし、家事もアムさんが大体終わらしちゃうから・・・」


「屋敷の掃除はどうするのですか?ご主人様の部屋や廊下、窓拭きにトイレ掃除などもアムさん1人がするのですか??」


「あ、なら廊下掃除やろっか!夕ご飯まで時間あるもんね」


メイド服に着替えたむつさんがそう提案する。


「わかりました」


前の屋敷では、働き詰めの毎日で休憩なんてろくになかったから、この空気に戸惑う・・・


「ぼくはむつ~むつ~むつ~」


上機嫌なむつさんと一緒に1階の廊下を掃除する。


「むつさん、上機嫌ですね」


廊下に置いてある棚を拭きながら話しかける。


「えへへ、シバリちゃんが来てくれて嬉しくて」


箒をはきながら、むつさんが答えてくれた。


「そうなのですか」


「当たり前だよ!今までメイドは1人で寂しかったし、シバリちゃんみたいに可愛くて頼りになる子が来てくれてむつはすっごく嬉しいよ!!」


熱烈な告白に少し戸惑う。


「いや、ごしゅじんやあるさんにアムさんもいたから、決して寂しくはないのかな、とにかくね、すっごくすっごく嬉しいの!!」


「楽しそうなお話をしていますね」


「あ、アムさん」


「あるさんからの伝言です、もうそろそろ夕食の準備が終わるとのことです」


「わかりました、行こ、シバリちゃん!」


「いや、廊下の掃除が・・・」


「あとこれくらいなら私がやっておきますので」


掃除の残りをアムさんに任せ、台所に向かう。


「お待たせー」


「遅いで、二人とも、すでにご主人様メインやで」


「すいません」


「はい、今日のメインはハンバーグや」


「うわーおいしそー、まかないもこれがいい!」


「ツナがいいと言っていませんでした?」


「ツナもいいけどハンバーグも食べたい!!」


「しゃーないな、今日は特別やで」


「いいのですか!?」


ご主人様と同じ料理が出るなんて・・・


「ありがとう、あるさん!持ってくね」


「よし、あとはデザート出したら今日はしまいやで」


「ただいまー、ごしゅじんはお風呂入って寝るそうだよ」


「わかりました、次は・・・」


「あるさーん まかない食べに来たよーハンバーグとツナー」


「はいはい、ハンバーグとツナサラダな」


「えー、野菜もー?」


「あんた、成長期やろ、野菜もしっかりとらなあかんで」


「むー」


「はい、あんたも」


「ありがとうございます」


「洗い物は各自でやってな、私は風呂入って寝るから」


「分かりました」


「おいしー」


幸せそうにハンバーグを食べてる


「シバリちゃんもはやく食べよ!」


「はい」


「ご飯がすすむね、シバリちゃん」


「そうですね」


幸せそうに食べる人の隣でご飯を食べる。何年ぶりの体験だろうか。


「むつさん、食後にお茶入れましょうか」


「ほんとに!?紅茶がいいな」


「かしこまりました」


2人で淹れたての紅茶を飲む。


「ほわー、シバリちゃんの淹れた紅茶は美味しいね」


「そうでしょうか」


前の屋敷では褒められたことはないのでよくわからない。


「ほお、いい匂いですな」


「あ、アムさん」


「私ももらってよろしいですかな」


「え、あ、どうぞ」


「いただきます」


「うむ中々の味ですな」


「だよねー」


「今夜は嵐になるそうですからおはやめの就寝をおすすめしますぞ」


「アムさんありがと!」


部屋に帰ると窓から見ても分かるぐらい雨が降っていた。


「今日はもう寝ますか」


使用人には大きすぎるベッドに入り、目をつぶる。ウトウトしていると


“コンコン”


「はい」


「シバリちゃん、お願いがあるんだけど」


「何でしょう、むつさん」


「あのね、怖くて一緒に寝てほしいんだけど」


まくらを胸に抱えながらむつさんが聞いてくる。


「私でよければいいですよ」


「ありがとー」


布団のなかに潜り込んできた。


「えへへ、布団のなか温かいね」


「明日も早いのですから、早く寝ましょうね」


「うん」


“ドン!!!!”


「きゃぁ!!」


「雷、今のは近くに落ちましたね」


「うぅぅ」


「大丈夫ですか?むつさん?」


「ダイジョブ、むつは先輩だから」


“ドン!!!!”


「きゃぁ!!」


むつさんは布団を頭から被って震えている。


「大丈夫ですよ、むつさん。そうだ楽しい話をして気を紛らわせましょ?」


「楽しい話?」


「そうですね、一番近いイベントだとバレンタインでしょうか?私お菓子作りは得意なので手作りチョコお作りしますね」


「ほんとに!?じゃあむつもあるさんに教えてもらって作るね」


「次は花見でしょうか、庭に大きな桜の木があるので」


「そう!庭の桜すっごくキレイなんだよ」


「GW今年は10連休なのでご主人様にお願いして一緒に休みをもらいましょうか」


「なら、むつ遊園地行きたい!!」


「次は梅雨でしょうか」


「えーむつ雨きらい」


「雨は雨で趣がありますよ、趣を一緒に探しましょ」


「梅雨が終わったら夏だー」


「夏は楽しいことが一杯ですよね」


「シバリちゃんは水着持ってる?」


「いいえ、持っていませんが」


「なら、一緒に買いに行こ!シバリちゃんの似合う水着選んであげるね」


「ありがとうございます」


「あとね、あとね、屋敷から見える花火すっごくキレイなんだよ!」


「それは楽しみですね」


「秋はなにがあるかなー」


「紅葉狩りとかでしょうか」


「あ、ハロウィン!ハロウィン楽しみだね」


「そうですね、仮装してアムさんやあるさんにお菓子をもらいましょうか」


「ハロウィンが終わったらクリスマスだね!」


「そうですね、クリスマスには、むつさんにプレゼント選びますね」


「ありがと!むつも選ぶね!」


「お正月も楽しく過ごせますし、そしたら一年なんてすぐですよ」


「楽しみだなー」


「嵐も少しマシになりましたし寝ましょうか」


「あ、ほんとだ!おやすみなさーい」


「おやすみなさい」


「むつさん、朝ですよ」


「あぁ、おはよぉうシバリちゃん」


「ほら、しゃんとしてご主人様のとこに向かいますよ」


“コンコン”


「シバリさんよろしいでしょうか?」


「あ、はいアムさん、何でしょうか」


「御主人さまがお持ちなので、御主人さまの部屋までよろしいでしょうか」


「わかりました」


“コンコン”


「ご主人様失礼します」


「はい、どうぞ」


「どうかなされましたか、ご主人様」


「昨日きてもらって悪いのだけど、君に引き抜きの話がきててね」


「私にですか?」


「そうそう、お世話になっている家だから無下に断れなくてね」


「はぁ」


「宥智家に丹古稀家、築城家など他にもいろいろあるから好きな家を選んでね、どこでもいいから」


「えーーーー!!シバリちゃんいなくなっちゃうのーーーー」


むつさんが飛び込んできた。


「こら、むつ。盗み聞きは感心しないよ」


「えーだって、シバリちゃんと一緒にバレンタインとかクリスマスは贈り物する約束したし、水着も一緒に買いにいくし、花見も花火も一緒にみるって約束したんだよ!!」


「残念だけど、シバリ君はもうこの家のものとはなくなるんだ、全部はさすがに無理だよ」


「えーーーー!!やだやだやだやだ!約束したもん!」


「むつさん、すいません、約束を果たせそうになくて」


「シバリちゃんいいの??これからもっと楽しくなるって言ってたじゃん!!」


「メイドたるもの御主人様の命令には従わないと」


「でも!!」


「離れるだけで死ぬわけではありません。一日だけでしたがとても楽しい思い出でした。お休みが一緒になったらまた遊びましょう」


「ううぅ・・・もう知らない!!」


「むつさん!!」


むつさんは部屋を飛び出してしまった。


「まったく、むつは随分君の事を気に入っているんだね」


「御主人様、話がそれています」


「あ、そうだった。できれば今すぐ行ってほしいんだ、急な話で本当にすまないと思っている」


「わかりました、今すぐ支度しますね」


「ありがとう」


部屋に帰り、引っ越す支度をする。昨日したから、荷物はそんなに散らかってないから支度はすぐにすんだ。


「むつさん、泣いていたな・・・」


むつさんのことが気にしながら、昨日むつさんと通った道を歩く。門の前まで来たら


『シバリちゃーーーーーん、約束できるだけ叶えようねーーーーー』


手を大きく振りながら、むつさんが叫んでいる。


『約束ですよーーーー』


私、むつさんと約束を胸に、私胡間シバリは新たな道を歩き出した。

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