Escort Officer Shibari 作中井修平

ページ名:Escort Officer Shibari

彼女の名前は胡間シバリ、とある屋敷のメイドである。


今は屋敷の主人と出かけ中、いつものシックなメイド服を着ており、手には主人のいろいろなものを入れた鞄を持っている。


警備長も一緒であり、警備長はスーツにリュックを背負っている。


「しっかし……久し振りだなぁ……」


主人はゆっくり背伸びをしてシバリに語りかける。
何度かの襲撃を退けた屋敷からセーフハウスへと移った主人以下メイドや警備員達、こうして主人の外出に付き合うのも彼女らの仕事である。


しかし、警護とはいえ久しぶりの外出、気分が高揚しない訳がない。その証拠にシバリのシックなメイド服から覗く尻尾はブンブンと振られていた。


「襲撃の連続でしたからね……ご主人様にはご足労頂きまして申し訳ありません」


「いや良いんだよ、私もメイドや警備員を失いたくは無いからね」


しっかりとした受け答えで、先日の襲撃の際も動揺は少なかった。
そんな肝の座った主人、真の通りった主人を、シバリは尊敬していた。


もちろん主人からお金を貰って仕えている以上、お守りするのは仕事だが、シバリの仕えている主人は、シバリの尊敬に値する人。そんな人のメイドを出来て良かったと、彼女は思っている。


「今日はどちらへ?ご主人様」


「そうだな、セーフハウスに移ったから、足りない分の物資の買い出しだな。特に皆でお茶する用のティーカップが足りない」


「かしこまりましたっ!」


近くに良い食器屋がある、下調べでこの辺りのお店を把握していたシバリは、これからの買い物の流れに胸を弾ませた。


しかし、そんな雰囲気に水を差す、耳障りな銃声が空を切り裂いた。
パパパパパン!と一連射、商店街はパニックに包まれ、怒号と悲鳴が飛び交う。


「ご主人様っ!」


彼女は反射的に主人の盾になる様に主人の後ろに立ち、振り向いてスカートの下のホルスターから拳銃を抜く。


警備長は素早く主人を地面に伏せさせ、服が汚れるのも構わず路地へと引き込んだ。


シバリが抜いた拳銃は、SIG P229。


スイス製、法執行機関向けのコンパクト拳銃で、強装弾対応のモデルだ。
素早くスライドを引き、パニックになる群衆を素早く見分ける。


______居た、群衆の中に3人、銃を構えた男がいる。


シバリは両手でしっかりと銃を構え、照準を合わせて引き金を絞る。


パンパン!


襲撃者の銃声よりも軽く響く銃声、弾丸は襲撃者の足元の地面で跳ね、跳弾となってどこかへ飛んでいく。


「くっ……!」


シバリも主人と同じ路地に素早く駆け込む、さっきまでシバリがいた場所を、銃弾が跳ねていた。


「だ、大丈夫かい!?」


「私は平気です!ご主人様は!?」


「私も大丈夫だ……!彼らはまたなんだ……!?」


シバリは入った路地の侵入者側の壁を背にし、バッグから小さな手鏡を出して路地の外の様子を伺う。


銃を乱射するのは、私服の男、明らかに軍人でも警察でもない。


「……殺し屋です」


そう言って手鏡を引っ込め、ご主人様の身の回りの安全を確認する。
上から爆弾を投げ込まれないか、跳弾が路地に入ってこないか、警備長はどう対応しているか。


警備長は電話をかけながら反対側の路地を警戒している、襲撃を受けた際の手順通りだ。


シバリは路地から身体を斜めにして小さく身を乗り出し、殺し屋の方に銃口を向けて狙いを定め、引き金を引く。


P229が打ち出した9mmの拳銃弾は、殺し屋たちの隠れる花壇の煉瓦を破壊して煙を立てる。


何発か撃つと、すぐに殺し屋達が起き上がってこちらに射撃してくる、その際に銃種が分かった。
直ぐに隠れ、銃弾から盾になっている壁に背を預けて報告する。


「敵の武装はG36CアサルトライフルにAA-12オートショットガン!確認しました!」


「はぁ!?とんでもねー得物を持って来やがったな殺し屋……!」


警備長が悪態を吐きながらリュックを下ろす。


「けど3人だけならここでやれるかも……」


「3人だけじゃない、もっと居るはず」


シバリの言葉を遮ったのは主人だった、主人はシバリや警備長と同じ銃______P229を受け取り、ヂャキッとスライドを引く。


「どうしてですか?」


「善意の襲撃の人数は20人以上だった、それでも俺を殺すという目標は達成出来なかった。もっと居るはず、例えばバックアップにスナイパーとかな?」


シバリはその言葉にゾッとした、それと同時に別の恐怖感も湧き上がる。


「……遊んでるんだ」


恐怖を抑えるために、彼女はそう呟いた。
例えば敵が軍隊だとしたら、第1撃がこんなに派手ではない。それに、スナイパーが本気を出せば、彼女は路地に飛び込む前に撃たれて死んでいただろう。


敵である殺し屋は、遊び半分で私達を殺そうとしている。


恐怖が、彼女を奮い立たせる。
こんな所で死んでたまるか、そんな気持ちを心の底から引き上げさせる。


「ご主人様、警察が到着するまで7分、我々の車が到着するまで1分です」


警備長が状況を報告、近くに待機していた味方の車はすぐに来るらしい。


「このまま路地伝いに通りを抜けます、行けますね?」


主人に警備長が尋ねると、主人は強く頷き立ち上がる。


「……あ、警備長、それは私が」


「あぁ、分かった」


警備長がシバリに手渡したのは、KRISS Vector(クリス・ヴェクター)と呼ばれるサブマシンガン。


銃口には銃声を抑える減音器が取り付けられ、射撃補助用にEOTech(イオテック)EXPS3ホロサイトが乗せられている。


折り畳み式のストックを展開、マガジンに弾が入っているか確認して本体にマガジンを差し込み、コッキングレバーを引くと、カコンと音がして45口径の弾薬が薬室に送られる。


これでシバリの持つVectorは、敵を殺す力を得た。


先程同様に小さく通りを覗き込み、殺し屋の様子を探る。
まだ銃をこちらに撃ちながら向かってくるが、弾切れを起こさないのだろうか?


思いながらもセレクターを安全状態から射撃可能な状態へ、もう一つのセレクターを、2発の弾のシンボルの場所に動かす。


そしてストックをしっかりと肩に当てて、左手でフォアグリップを掴むようにしっかりと構える。


引き金を引くと、銃口から2発の弾丸が飛び出すと同時に、驚く程小さな銃声と、掛かる反動の向きと小ささを感じた。


普通の銃なら真後ろに掛かる反動が、後ろ斜め下にかかり、銃口の跳ね上がりが少ない。
加えて45口径の所属の遅さは、減音器を組み合わせた際に利点に働き、銃声も小さくなる。


殺し屋の1人はどこから撃たれたか分からないまま弾丸を受け、仰け反るように倒れた。


「行くぞシバリ!」


警備長が主人を連れて路地を駆け出す、シバリは2点バーストで数発牽制射撃をして相手を遠ざけ、主人を追って路地の奥へと進んだ。


路地の曲がり角で、シバリは何かに気付き、ピクリと反応する。
こちらに向かってくる数人分の足音、それは明らかに味方の物では無い。


警備長に向けてハンドサイン、「FB用意、耳を塞いで目を閉じて」


警備長が腰のポーチからシバリに渡したのは、M84フラッシュバン。
彼女は渡されたそれのピンを抜き、曲がり角の向こう側に放り投げた直後に耳を塞ぐ。


塞いだ耳の向こうで、甲高い破裂音と凄まじい閃光が炸裂。敵は目の耳が使い物にならなくなり、シバリはその隙にVectorを構え直して突撃。


殺し屋は3人が回り込んで来ており、その3人に2点バーストを素早く叩き込む。


防弾チョッキも着ていない殺し屋には、45口径がぴったりだ。
肩、背中、胸と頭。見えるところに.45ACP弾を撃ち込んでいき、殺し屋を次々と仕留めるシバリは、主人と警備長を連れて路地を走った。


路地の出口が見えて走ると、路地を塞ぐようにセダンが停車する。
敵の殺し屋では無く味方、屋敷の仲間たちだ。


「ご主人様!奥へ!」


「分かった!すまない!」


主人を奥の座席へと座らせ、警備長が助手席へ、シバリは主人の隣である。


シバリが最後に乗り込みシートベルトをすると、車は弾かれたように急発進。


「何とか撒けましたかね?」


「恐らくはな、追っ手に警戒しなければならないが……」


隣で主人の言葉を聞きながらリアウィンドウを警戒する、追っ手は2台、車で来ているが、この距離と速度なら振り切れそうだ。


しかし、その想いは数秒で打ち砕かれる事になる。


「!?危ない!」


シバリ達の乗る車が交差点に差し掛かり、左折しようとした時、左折するべき道からロケット弾が飛んできた。


目の前の道に命中したロケット弾が炸裂し、瓦礫を巻き上げる。


「後退!後退!」


運転手が急いで後退するが、後ろは塞がれて、殺し屋達がこちらに向けて銃撃して来る。


「ご主人様伏せて!」


シバリはシートベルトを外して主人を伏せさせる。
その瞬間、防弾の車体にガンガンと弾が次々と命中する音が聞こえた。


「ッ……まだ撃って来る!」


彼女はドアを少しだけ開け、そこからVectorを撃ちまくる。


「この車の武器は!?」


「トランクに!」


伏せたままの運転手が叫ぶが、どう考えても車外に出てトランクを開け、悠長に武器のスタンバイをしている暇は無い。


座席を倒して素早くトランクにアクセス、トランクのケースから新たな銃を取り出す。


魚のような、銃には見えないシルエットのそれは、XM8。
それも狙撃銃タイプである"シャープシューター"と呼ばれるタイプである。


「口径は!?」


「6.8mm!」


「分かった!」


ケースから出したXM8を組み立て、6.8×43mmSPC弾が装填されたマガジンを叩き込み、コッキングレバーを引く。


ほぼ同時に、殺し屋のロケット弾が車の近くに命中し、車が軽く跳ねる。


「先に敵のロケットチームからやります、警備長は後ろを」


「分かった」


シバリは持っていたVectorを警備長に預け、XM8シャープシューターへと持ち替える。
車をガンガンと叩く弾の勢いが弱まった一瞬を見て、シバリは外へと飛び出した。


自慢の脚で、車から外に出て猛然とダッシュ。弾幕を掻い潜り近くの建物へと入る。


殺し屋の弾は、この彼女を捉える事すら出来なかった。


そしてシバリは、持ち主が逃げた建物を通り、敵のロケット弾チームの正面に出る。
車のエンジンを盾に、敵は正面300mの位置。


深く息を吸い、止める。特徴的な複合照準器を覗き、そのまま引き金をゆっくりと絞った。


ドン!


「……え?」


シバリは驚いた表情を浮かべる、いや、弾が外れた訳でも銃が作動停止した訳でもない。
寧ろ敵に弾は命中、照準器の向こうで驚いた表情を浮かべる敵が見える。


"撃ちやすい"のだ、凄まじく。


「これなら……!」


シバリは呼吸と脈動を落ち着かせ、引き金を次々と引き絞る。
ズドン!ズドン!と何度も照準器のレティクルに合わせた敵を撃つ、その度に敵から血が跳ね、地面に倒れ落ちる。


主人達の乗る車にRPGを向ける敵は、優先的に始末した。
シバリの位置を特定したのか、彼女の方に敵がRPGを向け、発射した。


しかしRPGは彼女に当たる事は無く、彼女を飛び越えて彼女はるか後方に命中した。


「その程度の腕で、ご主人様に手を出さないで……!」


最後の敵を狙撃、6.8mmの弾丸は充分なパワーで殺し屋の頭を粉砕した。


「クリア、敵兵排除」


彼女はそういうと、また自慢の脚で車まで猛然とダッシュ。またも弾幕は彼女を捉える事は出来ず、彼女は車に隠れた。


「くそッ、弾切れだ!」


悪態をつきながら警備長がVectorからマガジンを外して車内に置く。拳銃で反撃を始めるが、全くのパワー不足だ。


シバリは新たな武器を求めてトランクを漁る、幸いにもまだ貫通されてないトランクに武器が残っていた。


「これ、同じ奴じゃん!」


「違う!それはLMGだ!」


シバリの声に運転席から反応が来る、よく思い返してみれば、この緑の髪の男は屋敷の武器調達担当の男だ。
運転席の緑髪の男は、反撃に時折P226を後ろに向けて射撃している。



「XM8だけどそいつは"オートマチック・ライフル"ってタイプだよ!口径は6.8mm!」


よく見れば銃身が長く、マガジンも2つの円柱、所謂"ツインドラム"のC-MAGだ。


「いっぱい撃てる奴!?」


「いっぱい撃てる奴!」


「分かった!」


「シバリ!それ使うならシャープシューター貸してくれ!」


警備長の弾切れVectorの代わりにXM8シャープシューターを渡し、シバリはXM8オートマチック・ライフルを構えた。


ドアから社外に出て、防弾の屋敷の車を盾にしバイポッドを立てて、ストックの根元に手を添える。


「行きます!」


セレクターをフルオートに。照準器を覗き込み、引き金を引いた。


タタタタタッと軽快に響く銃声と共に6.8mm弾が吐き出されていく、やはり先程と同じく撃ちやすい。


殺し屋の車は防弾ではなかったらしく、次々と蜂の巣にされていく。
当然車の向こう側の殺し屋にも弾丸は到達し、車と同じく蜂の巣にされる運命を辿った。


一掃射で敵の抵抗を抑え、車に戻って車の窓を開ける。


敵の抵抗が弱まったところで、シバリと警備長、主人を乗せた車は走り出した。


時折追ってきた追っ手に、シバリはXM8で6.8mm弾を撃ち込んで黙らせ、彼女達は長いと思われた帰途に着く事が出来た。


尚、遅れて到着した警察や殺し屋の生き残りは、殺し屋から主人を生かして逃げ切った畏怖と敬意を込めて「屋敷の猟犬」と呼ぶ様になったのは、また別の話。



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主人「因みにシバリ、100mは何秒で?」


シバリ「100mですか?6.4秒です」


メイド長「流石は屋敷の猟犬……」


主人「オリンピックに出なさい」

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