タクティカル.シバリ 作中井修平

ページ名:タクティカル.シバリ 作中井修平

胡間シバリは、とある屋敷のメイドである。
彼女の仕事は主人の身の回りの世話、炊事洗濯に、護衛である。
特に侵入者を排除するのは、彼女の仕事ではある。


……しかし、今回の騒動は一味違っていた。
彼女が廊下を歩いているとき、何かが見えた。
それは屋敷の外から中に向け、男が筒状の何かを担いで構えている所だった。


「……!!?」


炎が見える、彼女は叫ぶ前に反射で、犬のように駆け出した。
普段ならメイド長に「廊下は走らない!」と叱られるのより、数倍の速さだ。


そして______爆音、爆風、熱風が屋敷の廊下を駆け回る。


「っ、ゲホッ……何が……!?」


ジリリリリ!と火災報知器が鳴り、スプリンクラーから水が出てくるが、炎が収まる気配はない。
煙に咳き込み頭を上げると、途端に外で銃声が鳴り響く。


「この間の報復だ!ありったけの金と女を置いて行け!」


男が外でダミ声で叫ぶ、彼女は腹を立てていると同時に、申し訳なさが頭の中を駆け巡る。おそらく、前回の襲撃の生き残りだろう。生かして返してしまった、自身の失態だと思っていた。


「……申し訳ありません……」


小さく呟きながらスカートの下に忍ばせたホルスターから拳銃______グロック19を抜いてスライドを引き、初弾を装填する。


手鏡で敵を確認、敵の数は20人ほど。かなり多い上に、HK416やシュタイアーAUGなど最新の武器で武装している。


敵が屋敷のフェンスをよじ登って侵入、メイド長や警備長も集まっているはずだ。


装備室へ行かなければならないが、装備室はここから少し遠い。
彼女は頭の中で、屋敷の廊下を全部思い返しながら、敵と遭遇する回数が少ないであろう最短ルートを探す。


「……よし」


彼女は小さな犬の尻尾をプルリと震わせて立ち上がり、装備室へと急いだ。


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装備室では他のメイドや警備員に、警備長とメイド長が武器や防具を配分していた。
その多くがP90やMP5などで、明らかに火力不足なのは見えていた。


「メイド隊は武器と弾薬を受け取った者からご主人様の護衛に着きなさい!」


「警備隊は侵入者の排除を!」


メイド長と警備長が叫んだ直後、装備室に続く廊下に男が現れた。


「おっ!生きのいいのが沢山居やがるぜ!」


男は手にしていたHK416を、警備員達に向けた。警備員達はまだ準備が整っておらず、反撃が遅れる。
その場にいた誰もがやられる、と思った瞬間。


パパパン!パンパン!


侵入者が持つHK416やシュタイアーAUGなどよりも軽い銃声、そして何より、倒れたのが侵入者の男達であった。


廊下を曲がって現れたのは______メイド見習い、胡間シバリである。


「メイド長!」


ローファーを鳴らしながらメイド長に駆け寄る彼女は、状況を確認しようとする。


「侵入者に門を破られたわ、ご主人様は隣の部屋にいらっしゃる。今すぐ脱出させますわ」


「分かりました、私の武器を……」


と、シバリはロッカーから武器を取ろうとしたが、P90やMP5は既に配分されてしまったらしく、いつものガンロッカーは空っぽになっていた。


「もう残ってる武器が……」


「……あるじゃないですか」


シバリは端のロッカーの武器を思い出し、メイド長の横をすり抜けてロッカーを開ける。


「あ、貴女、その武器を扱える者は……」


「こっちは後退援護用ですから。今回メインで頼るのはこっちです」


スカートの下のホルスターに持ったままだったグロック19をしまい、ロッカーから取り出した長い銃をスリングで背負い、もう1挺を取り出した。


その銃の名は、"SAI GRY"ライフル。


射撃補助用に、EOTech552ホログラフィックサイトが搭載されている。


ヘッドセットを着用、左腰にマガジンポーチが取り付けられたベルトを腰に巻いて準備完了。

「私がご主人様や皆を守ります、脱出しましょう!」


メイド長は頷いて、次々と指示を出す。


「警備員は先導、メイド隊はご主人様をお守りしなさい。私は車を、シバリ、貴女は殿をお願い。いけるわね?」


「お任せを、メイド長」


シバリはストック根元のチャージングハンドルを引く、ダストカバーが開き、金色のボルトが初弾を薬室に送り込む。
細いハンドガードは、彼女の小さな手でも握りやすかった。


警備員が先導、MP5を構え、道を切り開く。
メイド隊は主人を隣の部屋から連れ出し、直接護衛する。


「ご主人様、ご無事ですか!?」


「あぁ、私は心配ない、みんなで逃げよう」


肝の座った主人であるのか、しっかりとした足取りで護衛されながら車庫に向かう。


シバリはSAI GRYライフルをCクランプと呼ばれる姿勢で構えながら、ご主人様や他のメイド達の背後を守る。


「コンタクトリア!」


彼女は声を張り上げ、追撃してきた侵入者にセミオートで素早く銃弾を雨を浴びせる。


バンッ!と弾ける様な銃声には、死を纏った弾丸が乗っている。


とにかく素早く、侵入者が引き金を引く前に彼女の弾丸が届く様に、セミオートで撃つ。


命中した侵入者は糸が切れた操り人形の様に倒れ、命は強制配送サービスであの世に送られる。


ガラスの向こうに見えた侵入者は、ガラス越しに撃ち抜く。防弾では無いガラスなら、ガラスは弾が抜けるから遮蔽物にはならない。


近くに飛び出てきた敵はGRYからグロック19に持ち替え、素早く弾丸を撃ち込む。
防弾装備の無い侵入者には、9mmでも充分有効だ。


うめき声をあげる侵入者の頭にGRYで2発、5.56mmNATO弾を撃ち込み、トドメを刺す。


死体となって転がった侵入者が使っていたのはHK416、ポーチから弾倉を奪い、丁度空になった弾倉を交換する。
ボルトストップを押し、ボルトが前進すると、GRYが再び力を手にした。


グロック19をホルスターに戻してGRYのハンドガードを握りしめ、シバリは再び廊下を進み出した。


車庫に辿り着いた面々は、早速逃走準備、運転出来るメイドや警備員は運転席へ。メイド長は防弾仕様のランドローバー110の運転席に乗り、後部座席には主人を乗せた。


警備員はM249ミニミMk.2を別のランドローバー110のルーフから出し、銃座として据え付ける。


一方シバリは、最後尾となるバン乗り込んだ。理由は彼女が背負う"もう1つの得物"である。


「全員乗ったわね!行くわよ!」


メイド長の号令と共に、タイヤを鳴らしてコンボイが走り出す。
車庫から出口へ向かうコンボイだが、出口の近くで止まってしまった。


「ちっ、出口が塞がれてる!」


運転手のメイドが悪態を吐く、出口が侵入者の車で塞がれていたのだ。
更に悪いことに、エンジンブロックに侵入者が隠れ、AUGを撃ってくる。


敵がボディに隠れたならまだよかった、銃弾は車のボディを貫通するからだ。


しかしエンジンブロックとなると話は変わる。エンジンブロックは金属が集中しているため、普通の銃では貫通させることは難しいのだ。


そう、"普通の銃では"だ。


「この車を前に出して!射線が通るように!」


「ちょっと?シバリ!?」


バンのルーフを開け、もう1挺の得物を出す。
ハンドルを前後させ、初弾を装填。
彼女の身長ほどもあるその銃は、ヘカートⅡ。


フランス、PGMプレシジョン製"ウルティマ・ラティオ"シリーズの対物ライフルで、12.7×99mmの大口径弾を使用する。


その破壊力たるや、普通のライフルの比ではない。


装弾数は7発と、ポケットの中に入れていた12.7mm弾3発の計10発。勝負はそれで決まる。
こちらに向けて射撃しようとしていたAUG持ちがシバリが射撃姿勢にあるのに気付くと、エンジンブロックに身を隠す。


彼女はスコープを覗き引き金に指をかけ、躊躇いなく引き金を引いた。


ドンッ!


GRYやグロックとは比べ物にならないほど重く、腹に響く音。


旧世代の戦車の装甲を撃ち抜ける程のエネルギーを持った12.7mm弾は、容易くエンジンブロックを撃ち抜き向こう側の侵入者を文字通り木っ端微塵にした。


ボルトハンドルを起こし、引いて再び薬室に弾薬を装填する。
今度はHK416を構えた敵が、こちらに撃ってくるが、窓とボディ、タイヤも防弾のバンやランドローバーは貫通しない。


お返しとばかりに引き金を引くと、スコープの向こう側でHK416が粉々になり、敵の上半身と下半身が千切れて木の葉のように吹き飛んだ。


「皆には……ご主人様には、指一本触れさせない!」


ボルトハンドルを前後させ、また引き金を引く。車のボディなど拳銃弾などよりも容易く貫通し、向こう側にいた敵を殺傷させるのに十分なエネルギーの弾薬を送り届ける。


残り7発、敵のエンジンブロック、タイヤ、隠れていそうな場所に12.7mm弾を次々と撃ち込んでいく。


彼女の照準は正確だった、確実に侵入者を仕留めていき、障害物を貫き通す。


残り3発、マガジンを外してポケットの中の3発を入れている間に、先頭のランドローバーが前進し、穴だらけになったSUVを押し退ける。


何とか1台が通れる幅が広げられ、コンボイはそこから脱出する。


「……これで、何とかなりましたね……」


シバリはヘカートⅡを構えていた腕から力を抜き、殿らしく後方を警戒する。


しかし、助手席のメイドの表情は厳しいままだ。


「……そうもいかない見たい……」


助手席のメイドが呟いた瞬間、後方から銃声。
風に髪をなびかせていたシバリは素早く反応し、ヘカートⅡの射撃姿勢に戻る。


「後ろから2台のSUV!多分防弾ベンツ!」


メルセデス・ベンツのGクラスが2台、追手だ。
反射的にヘカートを撃つ、エンジン音を超える銃声、大きなマズルフラッシュ。


放たれた12.7mm弾は、車の揺れのせいか命中する事なく跳弾となる。


「揺れが……!」


残りは2発、無くなれば、防弾ガラスを貫通しないGRYで戦うことになる。


深呼吸をして落ち着ける、路面の状況が良ければ、弾は当たる。


ゆっくりと、引き金を絞った。


ズドン、と重い銃声。12.7mm弾は音速の数倍という凄まじい速さで飛翔すると、ベンツの防弾フロントガラスを紙でも破るかのように突き破った。


しかし、ドライバーには当たらない、1台目を完全に貫通した弾丸は2台目の追手のタイヤに命中、コントロールを失った後ろの追手は近くの壁に突っ込んで自爆事故を起こした。


怒った残りの追手はスピードを上げ、バンに追突して来た。


「きゃっ!?」


衝撃で小柄なシバリは弾き飛ばされて車内に戻される。
ヘカートは……取り落として居なかった、スリングを腕に巻きつけておいたのが幸いした。


大きな怪我もしていない、追手はこのバンに向けて、運転席から拳銃______HK45を撃ちまくっている。


彼女は再びルーフから自分の体と銃を乗り出す。


ヘカートⅡを向けられた追手はブレーキをかけて遠ざかろうとする。


銃口から車まで10m、いや、5mも無い。
被弾面積の大きなエンジンを狙おうと思ったが、計画変更。銃口が指差すのは______追手のドライバーだ。


素早くコッキング、次弾を装填し、引き金を絞った。


銃口から飛び出た弾丸のエネルギーは減衰がほぼ無いまま、フロントの防弾ガラスを突き破った。


追手の頭に命中した瞬間、弾丸の持つ凄まじい運動エネルギーが、肩から上をごっそり攫っていった。


ドライバーを失ったベンツGクラスは、壁に激しく激突して大破した。


「……追手、無し」


ふぅ、と息を吐いてボルトハンドルを起こして引く。空薬莢が排出されて走る車から落ち、アスファルトで澄んだ金属音を奏でた。


主人の安全は、彼女の手によって確保された。
そして避難したセーフハウスで、また彼女は主人に美味しいお茶漬けを振舞っている。


=======================
屋敷に襲撃して来た者がどうなったか?


突如として屋敷に近づいて来た真っ黒のヘリ、MH-60Mからロープで降下した迷彩と黒い覆面の兵士達に寄って、僅か30分で屋敷全体が制圧されたのは、また別の話である。

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