シバリの太もも 作中井修平

ページ名:シバリの太もも 作中井修平

無言の部屋に、ただタイピングの音だけが鳴り響く。


今自分は、レポートと格闘している。これの提出は明後日、しかしなかなか終わる気配が無い。


「……ダメだ、集中力が切れた」


誰も答えない部屋に向かってそう呟き、背凭れに体重をかけると、椅子が抗議する様にギシッと鳴る。


紅茶でも淹れに行こう、気分をスッキリさせたい。
部屋を出てキッチンに向かう、メイドの1人がお茶に凝っている為、紅茶の予備と入れる用具は整っている。


自分の家は屋敷というほど広くは無いが、家の管理の為に住み込みのメイドを2人雇っている。


1人は胡間シバリ、犬の尻尾が生えた、元気が取り柄の変わったメイドだ。


キッチンに入ろうとした時、キッチンから廊下に光が漏れているのが見えた。
……まさか泥棒か!?そう思って一旦部屋に戻り、趣味で集めているスカウトライトを取り、キッチンを照らす。


「!?」


「し、シバリ……?」


冷蔵庫で食料を漁っていた、シバリだった。




「うぅ……ごめんなさいご主人様……」


1発のデコピンと引き換えに許した自分は、お湯が沸くまでの間に紅茶の準備をしている。


「まぁ、夜中にお腹が空くのは分かる。そういう時は、温めためんつゆを飲むといいらしいぞ」


「な、なるほど!流石ご主人様です!……で、ご主人様は何を?」


「あぁ、いや、レポートがまだでね、紅茶で気分転換でも、って思ってさ」


「それなら、胡間にお任せ下さい!」


彼女はメイドらしく台所に立ち、自分に代わって紅茶を淹れ始めた。
もう1人のメイドから時折怒られてはいるが、その後ろ姿を見て彼女も確かにメイドなのだと改めて実感する。


「はい、どうぞご主人様。アールグレイです」


「ありがとう」


彼女に渡されたティーカップから漂う、鼻に抜けるアールグレイの爽やかな香り。


猫舌の自分に考慮して、暖かくも舌を引っ込めなくても良いくらいの温度になっている。


「……うん、美味しい」


「ありがとうございます!」


もう1人のメイドは完璧な紅茶を淹れてくれるが、シバリもそれに限りなく近い。2人の技量はそんなに差が無いのではとも思う。


ゆっくりと紅茶を飲み、気分も晴れたところで立ち上がるが、ふらっと再びソファに身を沈めてしまう。


「わわっ!?大丈夫ですかご主人様?」


「ははっ、ここ2日くらい眠れていなくてね……」


「大変なんですね……それでは……」


シバリは自分の手からティーカップを取り上げてテーブルに置くと、自分の隣に座ってぐいっと彼女の方に自分の頭を引き倒した。


「あ、れ?」


なんだか右の側頭部とほっぺに柔らかくて暖かい感触がする。それにいい匂いも。


「よーしよし……」


それから左の側頭部をなんだか撫でられている感触も。


「……シバリ?これは……」


「膝枕です!ご主人様は大変お疲れのようなので、胡間の膝でゆっくりお休みください!」


待って待ってシバリの膝枕とかという事は今自分が頭を乗せているのはシバリの太ももという事か柔らかい気持ちいいいい匂いするダメになる__!


「いや、あの、シバリ。まだレポートが残ってるんだけど……」


「ダメです、レポートなんかより、ご主人様の身体の方が大切です」


本日のご主人様は終了致しました……と彼女は自分の頭を撫でながら言う。
本日どころかご主人様の理性と人生は今ここで終了しそうだよ、と頭の中で思いながら頭を起こそうとするものの、この柔らかい太ももの感触にがっつり捉えられて起き上がれそうに無い。


「おやすみなさいませ、ご主人様……」


僅かな布擦れの音と共に、左の頬に水っぽい音と柔らかい感触。


頬にキスをされた、そう思う暇もなく、自分の意識は微睡みから睡魔の谷底に手放した。





翌朝、シバリは膝が重いとも痛いとも一言も文句を言わず、一晩中膝枕をし続けてくれたらしい。


シバリには毛布が掛けられており、自分も毛布を被っていた。


レポートを片付けようと起き上がって自分の部屋に戻ると、レポートは既に全て出来上がっていた。


しかし、レポートの最後に「馬鹿」とあったのは、恐らくレポートを片付けてくれたのはもう1人のメイドだからだろう。

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