海洋生物たちの御茶会

ページ名:海洋生物たちの御茶会

【海洋生物たちの御茶会】

 

ジャパリパーク・ゴゴクエリアの北東部に存在する巨大水族館、ナリモン水族館。

その屋内展示場にある大水槽前の通路を2人のアニマルガールが歩いていた。

「と、いうことで此処で開きたいんだ。」

「お茶会ですか…シャチさんにしては珍しく私も賛成できる意見ですね。けど、何でお茶会を開きたいと思ったんですか?」

と、腕にスタッフ腕章を巻いた純白のアニマルガールが首を傾げる。

「ほら、集まったアニマルガールたちに声をかけて仲良くできたらなって」

「つまりはナンパ目的ですね…」

白と黒のアニマルガールの返答に純白のアニマルガールは呆れた顔で白黒のアニマルガールを見る。

「そう言うなよ…ベルだって、これを機に交友関係広めていけるかもしれないじゃないか。

仲良いヤツは多い方が楽しいぜ?」

ベルと呼ばれた白いアニマルガールは「むむむ…」と不機嫌そうに顔をしかめた。

「そら、否定できないだろ?」

「まぁ、否定はしません。わかりました。私からも飼育員さんにお願いしてみます。

シャチさんなら、反対しても別の場所で勝手に開きそうですし…」

「よくわかってるな!照れるじゃないか」

「褒めてないです!」

溜息を吐くベルを他所に、シャチは呑気な顔で大水槽の方を見ていた。

「誰を呼ぶつもりなんですか?」

「それはオレに任せてくれ♪」

「嫌な予感しかしないです…って、シャチさん!待ってください!走らないで!」

ベルが気付いた時にはシャチは通路の奥へと走っていった。

 

「お茶会?それって何をするんだ?」

ベルを置いて走り去ったシャチは、たまたま廊下で出会ったアニマルガールにお茶会の誘いをかけていた。

グレーと白のツートンで構成された服を身に纏い、側頭部と頭頂部にヒレを持つのが特徴的だ。

「みんなでお茶を飲んだり、お菓子を食べたり、喋ったりとかだな

あまり話す機会がない奴とも話せるチャンスだぜ?

バスク、友達作りたいって言ってたから良い機会かなーなんて」

「なるほど…悪くないな」

シャチの誘い文句にバスクと呼ばれたアニマルガールは腕を組んで頷いた。

「だろだろ?これから心当たりのあるアニマルガールたちを誘おうと思ってるから、バスクも友達とか呼んでくれよ!」

「そうだな、まずはリオンに声をかけてみよう」

バスクは自身の頰を軽く掻きながら、僅かに上がった口角でそう呟いた。

「バスクって意識してないときの笑顔は普通に可愛いよな」

「え!?も、もう一度やってみる!こうかな?」

しかし、再現した笑顔は笑顔というよりは引き攣ってるだけな印象であった。

「あー…」

残念そうな目で見てくるシャチを見て、バスクはまた上手く笑えなかった事を悟ったのだった。

「まあ、そのうち上手くいくさ。そろそろオレは行くぜ」

「ちなみに、シャチさんは次に誰に声をかけるつもりなんですか?」

「あぁ、いつと図書館にいるサメに声をかけてみようと思ってる。アイツなら、サメ仲間でバスクとも話が合うんじゃないか?」

「あ、ありがとう。とりあえずリオンに声をかけてみるよ」

シャチの気遣いに気付いたバスクは頭を下げてお礼を言い、その場を後にした。

 

一方その頃、置いていかれたベルは…

「はぁ…はぁ…はぁ…、完全に見失っちゃいました…」

何とかシャチを追おうとしたが追いつけず、体力もほぼ使い果たしてベンチに座り込んでいた。

「シャチさん、足が速すぎですよ~…」

独り、そんな事を呟いていたベルだが、何かに気付いたように側頭部のヒレがピクッと動く。

「この声は…」

声がした方へと目を向けると、ナリモンの制服を着た2人の女性がこちらの方へ歩いて来ていた。片方は白衣を羽織っており、もう片方は灰色と白の入り混じったヒレを持つアニマルガールだった。

そして、アニマルガールの方がベルに気付いて、駆け寄ってきた。

「お姉ちゃん!」

「ルルちゃん!」

駆け寄ってきたアニマルガールを確認したベルはベンチを立って、そのアニマルガールの頭を撫でる。ルルと呼ばれたアニマルガールは嬉しそうにそれを受け入れ、腰から生えた尻尾が左右にブンブンと振られていた。

「ベル、こんなところで何してるの?」

「あっカランさん。実はですね…」

ベルは、今までの経緯をカランとルルに伝える。それを聞いたカランはベルの心労を察して苦笑いで応えた。

「それは大変ね…いいわ。私も手伝うよ。巫女ハウスを会場に使えないか上に問い合わせてみるわね」

「本当ですか!?」

「ええ、シャチのことだもの。どうせ、思いつきで突っ走って細かいことは考えてないだろうし」

「実際、そうなんですよね…」

と、カランとベルは互いに苦笑いを浮かべる。

「お姉ちゃん、大変だね…あっ、けど私もそのお茶会には参加したい!キュイ!」

「もちろん♪シャチさんも歓迎してくれると思いますよ」

それを聞いたルルは嬉しそうにピョンピョンと跳ねながら「キュイ♪キュイ♪」と動物だった頃からの鳴き声を放っていた。

「とりあえず、大体何人ぐらいが来るかわかったら、改めて連絡して」

「わかりました。カランさん色々とありがとうございます」

「いいのよ。気にしないで。貴女もシャチに振り回されて大変でしょう?」

「はい…否定はできません…」

それを聞いたカランの笑い声がルルの「キュイ♪」と言う鳴き声と共にその場を木霊した。

 

場所は変わって屋外展示場のドルフィンラグーン。雲が僅かに漂う晴れた空の下、鯨類が飼育されているプールの横にあるベンチでよく似た特徴を持つ2人のアニマルガールが座っていた。

「メガロ~、オレサマ、腹減った~…」

「もう少しだけ待ってください。

あと数ページで読み終わるので」

読書を嗜んでいるアニマルガール、カルカロクレス・メガロドンのメガロはそう言って空腹を訴え、隣でゴロゴロしてるアニマルガールの頭を撫でて宥めている。

「むむむ…数ページって、あとどのぐらいなんだー?」

「そうですね… 十数分ぐらいです。ホホちゃん、待てますか?」

「む~、そのぐらいなら何とか…」

「ありがとうございます。今日は奢るので好きなものを食べてください」

それを聞いた途端、ホホちゃんことホホジロザメのアニマルガールは尻尾をピーン!と立て、瞳に物凄い輝きを宿した。

「本当か!」

「ええ、食べ放題メニューのお店に行きましょう。ですから、もう少しだけ待ってください」

「待つ待つ!メシ食べ放題!」

「相変わらず、仲良し姉妹に見えるな」

「あっ、シャチ」

「おや、こんにちは

一人で歩いてるなんて珍しいですね。ベルさんはどうしました。」

メガロの問いに対して、シャチは頰を数回描いてから明後日の方へ目を向けた。

「置いてきたんですね…」

「あぁ…」

そんなやり取りを無視してホホジロザメがシャチの腹部に飛びついた。

「シャチ!メシ食べたら、オレサマと遊べー」

「いいぜ!それと今日はお前たち2人を誘いに来たんだ」

ホホジロザメとメガロが寸分の狂いもなく、同じタイミングで「ナンパ?」とシャチに聞く。

「違う違う…」

と、返してシャチは2人にお茶会に関しての説明を始めた。

「お菓子食える!なら、オレサマ行く!」

説明が終わるとホホジロザメは開口一番に参加する事を明言した。そしてワンテンポ遅れてメガロも

「私も参加させていただきます。それと、1人誘うアテがあります」

「お?誰だ?」

「メルビィです」

「リヴァイアタン・メルビレイだったか?」

メガロはシャチの問いに無言で頷く。

「噂には聞いてるが実際に会った事はないんだよなぁ…いつもオレが出かけてるタイミングで入れ替わりで来てるみたいだが…」

「えぇ、ですからこの機に会って話してみてはどうかなと」

「そうだな!メガロ、メルビィを誘うのをお願いするぜ!

お茶会の内容は詳しく決まったら教えるから」

「了解しました。お待ちしてますよ」

「ホホ、メガロ。また後でな!」

と、会釈をしてシャチはその場を後にした。

そして、残されたメガロは読書を再開し、ホホジロザメはお茶会への期待で「お菓子!お菓子!」と言いながら、その場をピョンピョンと跳ねていた。

ドルフィンラグーンを後にしたシャチは、近くの浜辺を歩いていた。

「さーて、次は誰を誘おうか…」

と、顎に手を当てて考えていると…

「何のお誘いですか~?」

と、足元から声が聞こえた。

「うおっ!?」

その不意打ちにシャチはその場でビクッとなって動きが固まる。一度、深呼吸をしてからゆっくりを視線を足元へと向けると、水色の和服を着たアニマルガール?がうつ伏せになっていた。

「……。何してるんだ?」

「波の向くまま気の向くまま、潮に乗ってホートクから流れて来たのです」

「そ、そうなのか…」

と、シャチの顔に思わず苦笑が浮かび上がる。

(何か、関わっちゃいけない気がする…

けど、どこかで見たことあるような…)

「えっと…名前、聞いてもいいか?」

と、言うと水色のうつ伏せアニマルガールは、気怠げに上半身を起こした。

「私の名前ですか~…私は…」

とまで言いかけると、何かが水飛沫を挙げた音がした。

「見つけたよー」

と、水飛沫の主は浜に上がって、水色のアニマルガールに目を合わせる。

「おや~あおちゃん、お久しぶりです~」

「アドちゃんも久しぶりー、近海をぷかぷかしてたら、アドちゃんを見つけたから来てみたのですー

そして、隣にいるのは…シャチさんもお久しぶりです」

あおと呼ばれたアニマルガール。オニイトマキエイはシャチに目を向ける。

「おお、あおか。久しぶりだな。ここまで来るなんて珍しいんじゃないか?」

「そうですねー、まぁ、特に理由もなく~ゆらゆらしてたんだよー」

「あ~、私も同じだよ~」

と、アドと呼ばれたアニマルガールが口を挟んでくる。

「ですよねー。ところでシャチさんは何をしてたんですか?」

「あ、そうだった。2人とも丁度いいや

これからナリモンで…」

と、シャチは2人にお茶会の招待を送る。

「なるほどー、つまりはナンパなんですねー」

「ベルと同じこと言うなぁ…」

「シャチさんを知ってる人なら、誰もがそう言うと思いますよー

現に、初めてあったアドちゃんにも誘いをかけてますし」

「うっ…否定はしない…それそうとアドって名前、どこかで聞いた気が…」

「シャチさん、ロックとか好きですよねー?」

「ロック?まぁ、嫌いじゃない…」

と、言いかけた辺りで何かを思い出したのかシャチの目元がピクッとなる。

「あっ!!Poison Deadのドラムの子か!

最近、加入したばかりだから覚えてなかったぜ…」

「そうですよ~、アニマルガールズバンドPoison Deadのドラム担当、アンドンクラゲのアドなのですよ~」

と、アドはシャチに対して「むふん」と胸を張って己の存在を見せつける。

「まさか、本物にこんな所で会えるなんて思ってもみなかった…

なぁ、サインくれよ!」

「いいですよ~今はペンがないので、お茶会の時に書いてあげますね~」

その言葉を聞いたシャチはその場でガッツポーズを決める。

「ありがとう!」

「いえいえ~」

「アドちゃん。たまにはタズミに帰ってあげてくださいよー。飼育員さんが心配してキョロキョロしてましたのでー」

「わかった~、気が向いたら帰るよ~」

「それ、わかってないんじゃないのか…」

この2人のペースに合わせるのは無理だとシャチは心の内で思い、思わず苦笑が溢れた。

(招待はしたけど、数時間したらスッキリ忘れてそうだよなぁ…この2人)

と、思いつつ誘ったメンバーをベルに報告しにナリモンに戻ろうとシャチは海へと飛び込み、泳ぎだした。

「タズミの子も2・3人、声かけてみますよ~」

と泳ぐシャチに向かってアドが声をかけた。シャチはそれを聞いて、親指を上に立てて聞こえた事をアドに知らせたのだった。

 

一方その頃、ベルはカランと共にシャチが戻ってくるのを待っていた。ルルは、はしゃぎ過ぎて疲れてしまったので、先に自分の部屋に戻ってお昼寝をしている。

「遅いわね…」

「そうですね…そろそろ戻ってきてもいいと思うんですが…」

と、呟き合いながら海を眺められるベンチに座っていると、沖の方から何かがこっちに向かって泳いでくる姿が確認できた。

「あれって…」

先に気付いたカランの言葉にベルもその方角へ目を向ける。

「おそらく、シャチさんが戻ってきたんですね

ドルフィンラグーンから入ってくると思うので、先に行って待ちましょう」

「ええ、そうね」

2人は立ち上がって、ドルフィンラグーンに向かって足を動かし始めた。

 

「ただいま!」

ドルフィンラグーン経由でナリモン内に入ったシャチは開口一番にそう言った。

「おかえりなさい、シャチさん。遅かったですね」

「いやー、誘いに行くついでに軽く運動をしてきたんだ」

と、後頭部に手を当てて「へへっ」と笑うシャチの後頭部にカランが軽く手を当てて、髪をワシャワシャと掻き乱す。

「なっ何すんだよ!」

「それはこっちのセリフ。ベルは仮にも貴女の教育係ということで一緒にいるんだから、ベルを置いて勝手にどこか行くなんて言語道断よ?」

「うっ、それはごめん…」

カランに言い伏せられたシャチはその場で頭を下げて、不貞腐れる。そんなシャチを見てカランは言葉を続ける。

「それで?何人ぐらい誘えたの?さっきバスクとすれ違って誘いを受けた事は聞いたわ」

するとシャチはパッと表情を明るくし、カランの質問に答える。

「バスク以外だと、メガロとホホ。そして、浜辺でたまたま会ったあおとアドの4人だな」

「なるほどね。ルルも参加したいって言ってたから、ベルちゃんとシャチも足して8人ね。

他に誘うアテはあるの?」

「いや、オレはこの辺で切り上げようと思ってるぜ

ただ、メガロが知り合いを誘うって言ってたな

あと、アドも2・3人ぐらい声かけるってよ」

「と、なると大目に見積もって15人ぐらいかしらね。それなら、何とか巫女ハウスに入りそうね。外にも仮設のテーブルとか置いて」

「え?巫女ハウス使っていいのか?」

「今回だけよ。ルルも参加する気満々だし、どうせ会場については考えていないんでしょ?」

シャチは目をキラキラさせて、カランの手を握る。

「ありがとう!会場については、これから考えようと思ってたんだ!」

「でしょうね…」

手を握るシャチにカランは呆れた目でシャチを見返す。シャチはそんな事を一切気にせずに目を輝かせていた。

 

シャチがナリモンへと帰ってきた頃、メガロは私室で電話をかけていた。

「ん?メガロから電話をかけてくるなんて珍しいな?」

電話の向こうから、そんな声が聞こえる。

「今日は貴女を誘おうと思いまして」

「再戦かい?いいぜ、いつでもokだ」

間髪入れずに返事を返してくる電話の相手にメガロは「はぁ…」とため息をついてから、言葉を続ける。

「話を最後まで聞いてください。今回は戦闘ではありません。

シャチさんがナリモンでお茶会を開くみたいなので、メルビィも良ければどうかと思ったのですが」

「お茶会か…まぁ暇だし、行こうかな」

「わかりました。シャチさんにはこちらから伝えておきますね。他にそっちで参加しそうなのはいますか?」

「そうだな…ティニーはさっきクマさん道場に出かけたしなぁ…

レイナもティニーロスで部屋に篭りっきりだ。

仕方ない。ミチアトからは私1人だ」

「わかりました。お待ちしてますね」

「ああ、後でナリモンで会おう」

と、電話が切れる。

それを確認したメガロは受話器を戻し、本棚から適当な本を一冊、手に取った。

「戦闘以外で彼女を呼ぶのは初めてな気がしますね…

とりあえず、メルビィが来るまで本でも読んで待ってますか」

と言ってメガロは椅子に腰掛け、手に持った本を開いたのだった。

 

メガロがメルビィを誘ってから数時間後、あおとアドの二人は、タズミ海洋動物公園に到着した。

「いや~、久しぶりに帰ってきたよ~」

「そんなになの?」

「数ヶ月ぶりなのだ~」

「うわぁ…すごーい…」

と、2人で話しながら陸に上がり、施設の南端にある正面ゲートを目指す。

「ゴコクから泳ぎっぱなしだから、お腹すいたのですよ~」

「あっボクもー それじゃ、カフェの方にでも行く?」

「行く行く~」

と、ゲートをくぐり二人は空腹を満たす為、メインホール内にあるカフェへと足を向けた。

「さーて、席はあいてるかなー?」

あおはアドより一足先にカフェに入り、空席があるかを確かめる。一通り見てみたが、殆どの席が座られており、中々空席が見つからない。

「あら~混んでるね~」

と、アドが一歩遅れてカフェに到着し、あおの後ろから店内をぐるっと見渡す。

そんな二人が座る席を探していると…

「あら!あおとアドじゃない!」

と、二人を呼ぶ声が奥の方から聞こえてきた。

声のする方へ二人が視線を向けると、窓際のテーブルに座る二人のアニマルガールが、こちらに目を向けていた。その内のアドたちから見て手前側に座っているアニマルガールがこちらの方へと振り返り、手を振っている。

アドたちに呼びかけたアニマルガールは二人ともヒレと尻尾を有しており、手前側のアニマルガールは黒髪でコルセットとロングスカートの組み合わせが特徴的だった。

一方、奥側に座るアニマルガールは、暗い灰色の髪で毛先にイカの脚のようなデザインのリボンを巻きつけている。

「ホッキョククジラとマッコウクジラ~

久しぶり~」

とアドは陽気に返事を返す。

「ええ!久しいわね!とりあえず、私たちの隣に座るかしら?」

と、手前側のアニマルガールが手招きをする。

「ありがとねー。ホッキョククジラ。座らせてもらうよー」

と、あおが奥側のマッコウクジラの隣。そして、アドが向かい側、ホッキョククジラの隣の席に腰かけた。

「アドさん…お久しぶりです…」

マッコウクジラが遠慮しがちな小さな声でアドに挨拶を交わす。

「うんうん、久しぶり~。ホッキョククジラが端の席にいるのはいつもの事だけど、誰かと一緒に食べてるなんて珍しいね~」

「最初は一人だったんだけど、10分ぐらい前にホッキョククジラが来て…そして今、あおさんとアドさんが…

それと…アドさんもあおさんと一緒って珍しい…」

「あー、それはボクが何となくゴコクまで泳いでたらアドを見つけたんだよー」

と、メニューを見ていたあおはメニュー表から顔を上げて口を挟む。

「なるほど…二人とも何か行動原理が似てますもんね…」

「「そうかな?」」

と、マッコウクジラの言葉に対し、あおとアドが全く同じタイミングで言葉を返す。

「とても良く似ていますわ。そういえば、アドはゴコクの子とバンドを組んでるんでしたっけ?」

「うん。Poison Deadだよ~」

「いいですわね♪私もそんな風に誰かと一緒に歌いたいですわ♪」

「なら、ホッキョククジラPoison Deadのライブにゲストで出てみる?」

「いいんですの!?」

アドの提案にホッキョククジラは瞳の中に星を輝かせて、アドを抱擁した。

「ん~、ひんやりして気持ちいい~♪もちろんいいよ~カイパーには話通してみるから~」

「何か忘れてるようなー…」

そんな二人を見ながら、あおは揉み上げ部分にある頭鰭をパタパタさせながら、何を忘れていたかを思い出そうとする。

(大事な事なら、思い出すだろうし…)

「まっ、いっかー」

そんなあおを見て、マッコウクジラはあおの顔を横から覗いて、パタパタと動く頭鰭を目で追っていた。それに気付いたあおはマッコウクジラと目を合わせる。

「ボクの顔に何か付いてますか?」

「い、いえ、なんとなくパタパタが気になったので…」

「んー、特に意味はないよー

ただ、何か忘れてるような気がするなーって考えてただけ」

「ゴコクで何かあったとか?」

「あー、そういえば…あっ!思い出した!マッコウクジラ、ホッキョククジラちょっといい?」

「「?」」

呼びかけにクジラ二人はキョトンとして、あおの方を見る。

「どうしたの~?」

完全にお茶会の事を忘れてるアドをスルーして話を続ける。

「ボクもすっかり忘れてたけど、ゴコクのナリモンでシャチさんが開くお茶会に誘われたんだよー。それで、ホッキョククジラとマッコウクジラも来ないかなーって」

「それはいいですわ!お茶会!まさにレディの嗜みですわ!」

「わ、私は別にいいです…」

ノリノリなホッキョククジラと消極的なマッコウクジラ。そんな二人を他所にアドは「そんなのあったね~」と言いながら、お冷を口に含んでいた。

「マッコウクジラも行きましょうよ!あお!他にはどんなフレンズが来るんですの?」

「聞いてなかったですね。けど、海のフレンズたちって言ってたんで、ナリモンとかツイハマの子じゃないんですかね?」

「海のフレンズたちのお茶会…是非とも私は参加しますわ!もちろんマッコウクジラも!」

ホッキョククジラの参加宣言にマッコウクジラは、目を丸く見開いて驚きを見せる。

「ちょっと…私は行くって決めてないけど…」

「いいじゃない!マッコウクジラは海のフレンズでも知名度高いですし、一躍人気者になれるよ!」

「む、むむむ……」

少しの間、無言の間が流れ、マッコウクジラはこのまま断り続けてもホッキョククジラが諦めることはないと悟り、ゆっくりと小さく、呆れたように首を縦に降る。

「と、いうことですわ。あおさん、アドさん。主催のシャチさんに私たち二人も参加すると連絡をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだよー」

「今度は忘れないから~」

と、あお・アドの二人もタズミのクジラたちの参加を心から歓迎したのだった。

 

場所は変わって、ナリモン水族館職員寮内。

その一角の巫女ハウスと呼ばれる建物の中でカラン・ルル・ベル・シャチの4人は御茶会に向けての準備を行っていた。

「カラン!仮設テーブル、並べ終わったよ!」

と、シャチと共に仮設テーブルのセットをしてたルルが、作業の終了報告をしにカランへ駆け寄ってくる。

「お疲れ様。そしたら、ベルと一緒にお菓子の買い出しに行ってくれるかな?」

「はーい!どのぐらい買ってくればいいの?」

「シャチ、この御茶会、どのぐらい参加するんだっけ?」

「んーと、ここにいる4人に加えて、ホホとメガロだろ?それにバスクとリオン。それとメガロが誘ってくるっていうメルビィ。あお・アドのマイペースコンビに…

あっ、あおから連絡あって、クジラが2人参加するらしいから…

13人だな!」

と、シャチが答える。その回答を聞いてカランは、巫女ハウス外に並べられている仮設テーブルを見渡し、

「それなら、テーブルとかはこれぐらいで足りるわね。それじゃ、ルル。ベル。買い出し頼める?」

「もちろん!ルルお姉ちゃん!行こう!」

と、ルルは元気いっぱいにベルの手を引いて、買い出しへと出かけていく。

「あっ、待って!ルル速い!」

と、引っ張られるベルは転ばない様にするので精一杯な様子が見てとれた。

それを見て、シャチとカランは苦笑いを浮かべていた。そして、ふとカランがポケットからスマホの着信音が鳴る。

「あ、ちょっと待っててね」

シャチに残りの準備を任せ、カランはスマホを取り出して電話にでる。

「あ、わかったわ。今からそっちに向かうから待っててくれる?

うん。すぐ行くわ」

と、言って電話を切ると、

「メルビィがナリモンに着いたから、メガロとホホちゃんもこっちに来るって

迎えに行ってくるから、留守番お願いするわ」

「了解。待ってるぜ」

「準備、サボらないでよね」

「はいはい。了解だぜ」

と、軽いやり取りを交わして、カランは3人を迎えに職員寮の外へと小走りで向かって行った。

 

職員寮を出て、カランはナリモン水族館の屋外展示場内にあるドルフィンラグーンへと足を運ぶ。

イルカたちが泳ぐプールを見渡せるベンチの前にメガロとホホ。そして、長身の青いセーラー服の様な衣装のアニマルガールがいた。

「あなたがメルビィさん?」

と、カランが問いかけると、青いアニマルガールは両手を自身の脇腹に当てて

「そうだぜ。私がリヴィアタン・メルビレイ。通称、メルビィだ。メガロに誘われて今回の茶会、参加しに来た」

と、返答する。

「よろしくお願いします。ゴコクからいらしたんですよね?距離もあるし、疲れてないですか?」

「まぁ、少し疲れるが大した距離じゃないさ。今回は上手く海流に乗れたし、そのまで体力は消費してない」

と、メルビィは胸を張り、ドヤ顔で自分のことを自慢する。

「メルビィ、体力だけはないですものね。海流に乗れるか乗れないからでかなり変わりますよ」

「メガロ、余計なこというな」

口を挟んだメガロに対して、メルビィは顔をしかめて制止する。

「カラン。オレサマ、腹減った…お茶会のお菓子食べたいぞー」

と、メガロの横でホホがお腹に手を当て、空腹アピールをしてくる。

「とりあえず、茶会の会場に連れて行って…んっ…?」

何かの気配を感じたのか、メルビィは自身の言葉を遮って、側頭部のヒレをピクピクさせながら、ドルフィンラグーンの壁の向こう側。外海の方へと目を向ける。

「どうやら、私以外にも客が来たようだな」

その言葉に他のメンバーも同じ方向に目を向けると、壁の向こうからザプーン!と何かが水面を跳ねた音が聴こえてきた。

「そうみたいね。ちょっと扉を開けてくるわ」

カランがそう言って、バックヤードの方へと姿を消した。そして、1分ほどすると外海とドルフィンラグーンを隔てる壁がゆっくりと動き、壁の向こう側が見えてくる。

開いた壁の向こう側を見ると、タズミ海洋動物公園にいる4人のアニマルガール。あお・アド・マッコウクジラ・ホッキョククジラの4人の姿が確認できた。

「さっき、私の唄に反応してくれたのは誰かしら?」

ホッキョククジラが誰よりも早く、ドルフィンラグーン内に入り、疑問を問いかけてくる。

その問いに対して、メルビィがそっと手を挙げて「私だ」と返答する。

それを見たホッキョククジラは嬉しそうに万年の笑みを浮かべて、水面から飛び出しメルビィに抱きつく。

「!?!?!?」

いきなりのホッキョククジラの行動に虚を突かれたメルビィは一瞬、何があったのかわからずに目をパチクリとさせている。

「お会いできて嬉しいですわ♪クジラの唄に反応できたということは、貴女はヒゲクジラの仲間なんですよね?」

ホッキョククジラの言葉に対して、落ち着きを取り戻したメルビィは言葉を返す。

「いや、残念ながら私はマッコウクジラ上目だよ。唄に関しては、この姿になってから練習したのさ」

「あら、それはごめんなさい。貴女はマッコウクジラの仲間なのね♪そのマッコウクジラがそこにいますわ」

ホッキョククジラはメルビィから腕を解いて、マッコウクジラの方へと目を向ける。メルビィもその視線を追うと、丁度マッコウクジラと目が合う形になった。

「えっと…マッコウクジラです…」

「リヴィアタン・メルビレイ。メルビィと呼んでくれ。同じ目の仲間なんて初めて会ったよ」

「そう…ですね…私の知る限りだと…コマッコウぐらいですし…けど、他に仲間がいるなんて知りませんでした…」

「まぁ、仕方ないさ。私はいわゆる絶滅種だしな。同じ目の仲間だからか初めて会ったはずのに何故か親近感が湧くよ」

「うん…私もです…」

そんな2人の会話の中にホッキョククジラが真ん中はと入っている。

「マッコウクジラちゃん、良かったね!けど、2人だけで話し込むのはいただけないな~」

「そうですよ。2人とも嬉しいのはわかりますが、私たちもいるのを忘れないでください」

「そうだぞー。オレサマたちも忘れるなー」

と割って入ったマッコウクジラに続けてメガロとホホも会話へと参加する。

「すまない。それと、アドは久しぶりだな」

「うんうん。久しぶり~」

「それと…えーと…すまない。誰だ?」

そう言ってメルビィは、あおの方へ視線を向ける。

「ボクはオニイトマキエイだよー。あおって呼んでくれると嬉しいな」

と、後ろ髪をパタパタさせながら自己紹介をする。

「あぁ、よろしく頼むよ。エイってサメに近い種なんだっけ?」

「そうですよ。サメの系列から分岐してエイの仲間が誕生したんです。親戚みたいなものですね」

メルビィの疑問に対してメガロが答える。

「そーなのかー。オレサマ、全然知らなかったぞー!」

と、会話が弾んでいると、バックヤードの方からカランが戻ってきた。

「おや、来たのはタズミの子たちなのね。メルビィたちは、タズミの子たちと知り合いなの?仲良さそうだけど」

「ん?いや、今初めて会った」

即答するメルビィにカランは肩の力を抜いて、軽く自身の頭を掻く。

「そのコミュ力は少し羨ましいわね…」

「そうか?」

「そうよ」

そんなやり取りを見て、メガロが笑いを零すと、他のフレンズたちも笑いを零して笑い声を響かせた。

 

「しっかし、バスクも気が回るよな

シャチに誘われた茶会の為に、サプライズで菓子の差し入れをしようなんて」

「いいだろ?初めて会うフレンズもいるかもしれないし、俺ってほら…見た目が怖がられるから、こうでもしないとなぁって」

「シッシッシッ、気にする事ねーよ。とりあえず当たって砕けろってことで突っ込めばいいじゃーねか」

「いや、砕けるのはゴメンだな」

こんなやり取りをしながら、バスクは黄土色の服に身を包んだアニマルガール。ヘリコプリオンのリオンと共にナリモン水族館近くのショッピングモールに来ていた。バスクの手にはビニール袋がぶら下がっており、中には大量のお菓子が入っていた。

「まぁ、なるようになるって事さ。それと、シャチのやつはメガロにも声かけるって言ってたんだっけ?」

「えっ、あぁそうだけど?」

「メガロなら多分、メルビィに声掛けするだろーな。そして、メルビィのやつはチョコとか好きだぜ?」

「そうなのか?なら、買っていこうか…」

「あぁ、そうするといいな。そういや、そこの角を左曲がった所にチョコの店があるみたいだぜ?」

「そうなのか?なら行ってみるか」

と、2人は次の曲がり角を左へと曲がり、チョコの店に向かって足を運んでいく。

その2人の視線の先に、白いワンピースとナリモン職員のTシャツを着た二人組がいた。

その内の白いワンピースの方がバスクたちに気付いたのか、振り返り手を振ってくる。

「おや?バスクさんとリオンさん!ここで会うなんて珍しいですね」

「シシシ、そうだな。そっちはベルとルルか。ルルがカランと一緒にいないのは珍しいな」

「そのカランさんから、お茶会のお菓子の買い出しを頼まれて2人で来たんですよ」

それを聞いたリオンは、一歩後ろにいるバスクの方へと目を向ける。

「それなら、もう必要ねーかもなー

バスクが差し入れにと、すごい量のお菓子を買い込んだからなー」

リオンの言葉にベルとルルはバスクの方へと目を向ける。

「本当だ!すごいたくさんある!」

バスクが用意したお菓子を見て、ルルは嬉しそうにピョンピョンと跳ねている。

「バスクさん♪ありがとうございます♪」

バスクの気遣いを知ったベルは笑顔でお礼を言うと、バスクは顔を赤らめて明後日の方へと目を向けている。それでもお礼を言われたことが嬉しいのか、尻尾が犬のようにパタパタと動いていた。

「シシシ…ベルとルルは買い出しの手間が省けて、バスクは喜んでもらえてwin-winじゃねーか」

リオンが不気味な笑みで笑うと、バスクは更に顔を赤くして、手で自分の顔を覆ったのだった。

 

その頃、一人で留守番をしていたシャチは暇であった。

「ヒマだ…あー!すごくヒマだ!」

と、声を出してみるも誰もいないので、当然反応は返ってこない。

「準備って言っても、殆ど終わってるしやること何もないじゃねーか!」

と、言いながら腕を真上に伸ばして、軽くストレッチをしながら、辺りを軽く見渡す。

「む~…誰か早く帰ってこないかな…」

暇を持て余したシャチは、床にゴロンと寝転がって誰かが戻って来るのを待っていた。

「あー!暇だー!」

 

その数十分後、メルビィたちと合流したカラン一行とバスクたちと合流したベル一行は、職員寮の入り口近くでバッタリと鉢合わせた。

「おや、みんな揃ったみたいね」

カランの言葉に初めて顔を合わせるフレンズたちが目を合わせ、会釈や手を振って挨拶をする。

「お前がウバザメのバスクか?」

「うん。そうだけど?」

そんな中、メルビィがバスクに話しかけ、名前を確認するとバスクのすぐ近くへと駆け寄る。

「会いたかったぜ!私はメルビィ。最強のアニマルガールだ!

ナリモン最強って聞いて、一度手合わせをしたかったんだ!

どうだろう?良ければ茶会が終わった後にでも…」

と、テンションを上げるメルビィの背中をメガロが軽く小突いて咳払いをする。

「あ、すまない。つい、テンションが上がってしまってな…」

頭を掻いて反省するメルビィを見て、バスクは苦笑いをしながら言葉を返す。

「いや、大丈夫だよ。それと、メガロの方が絶対強いし、俺じゃ役者不足だ…」

「そうなのか?それでも一度、実力を見たいんだ!」

目を輝かせながら、バスクの手を取るメルビィに対して、今度はホッキョククジラとリオンが間に割って入る。

「ほら、メルビィさん。それはお茶会が終わってからにしましょ♪」

「そうだぜメルビィ。ミチアトの大蛇に知られて怒られても知らねーからな」

「むむむ…すまない…」

2度目の反省をするメルビィを余所目に、ベルの横にいたルルは、いつの間にかカランの正面へと駆け寄っていた。

「ただいま!」

目の前をピョンピョンと跳ねるルルを見て、カランはそっと頭を撫でる。

「きゅい♪」

ルルは声を出して喜び、更に勢いよくその場を跳ねる。

そんな様子を一歩離れた位置からアド・あお・マッコウクジラの3人が見ていた。

「そういえば、シャチはどーしたのー?」

あおが問いを投げると、カランはルルを撫でる手を止めて、質問に答える。

「一人で留守番をさせてるわ。一人で突っ走って色々やらかしてきたから、軽いお仕置きね」

「なるほどねー。けど、あまり待たせるのも悪いんじゃない?」

「そうね。お茶会自体は素敵な案だし、これ以上は追求する気もないわ。

さて、みんな。そろそろ会場へ出向いて、ティーパーティを開きましょうか」

カランがカードキーを通し、職員寮への扉を開ける。そして、カランを先頭に御茶会の参加者たちが不規則な列を作りながら巫女ハウスへと足を動かして行った。

 

その様子をエコーロケーションで察していたシャチは巫女ハウスの玄関から飛び出して、参加者御一行を出迎える。

「ようこそ!海洋生物たちの御茶会へ」

皆を出迎えたシャチの表情はクリスマスプレゼントを受け取った子どもの様な、これ以上ないぐらいの笑顔であった。

 

-fin-

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