第二話「公園」

ページ名:2 公園

 

 オクバネふるうつに向かってる途中、日が暮れた。Athenaは近くの小さな公園で野宿することに決めた。幸い、荷物の中にはタオルがいくつか入っていた。これで凍える夜を過ごすことはなくなっただろう。秋の夜は寒い。

 彼女は幅の長いベンチを見つけ、そこにタオルを敷いた。幾らか道具がある分、子供の時よりはマシな生活にはなりそうだ、とAthenaは思った。


彼女はベンチに横たわり、これからのことを考えていた。


(パークで新しい仕事を探す、か。それは私のことを覚えている人がいる前提だったのに…)


 やはり、Athenaには『ヤマドリ』との出来事が忘れられなかったようだ。みんなして狂ったか?それも考えにくい。私一人クビにするのに、そんな大がかりなことをするだろうか?


「あれ、こんな夜中にどうしたの?」


 背後から誰かに話しかけられる。Athenaはそれに少し驚いて、肩を揺らした。振り向いてみると、そこにはトウホクノウサギのフレンズ、バジルが立っていた。彼女もまた、Athenaの知り合いだった。


「や、やぁ。私は今日帰るところがなくてね…えと、初めましてかな?」


「帰る場所がないの?あっ!初めまして!私はトウホクノウサギのバジルだよ!よろしくね!」


 やはり私のことは覚えていないようだ。ここまでくるともうどうでもよくなってくる。何故私のことがみんなの記憶から消えているのか。それすら考えるのも億劫になってしまった。


「あはは…まぁ、気にしなくていいよ。泊まる道具はあるしね…」


「でも…風邪ひかない?」


「大丈夫だよ。」


「よかったら、私の家に来る?」


「えっ」


 Athenaは彼女の優しさに頼りたかった。しかし彼女の言う家がLASである可能性も高い。元動物保護チームに所属していたAthenaだったが、それでも全てのフレンズを把握しているわけではなかった。Athenaは、彼女の口からLASという単語が出てくるのを極端に怖がった。


「あ…いや、遠慮しておくよ…」


「そう…?それは残念…」


「ご…ごめん…」


 会話が途切れ、静寂が訪れる。
ふと、バジルが口を開く。


「ねぇ、もしかして悩みとかない?良かったら私が相談にのるよ?」


「…どうして、そう思うの?」


「えへへ、わかんない。ただ、なんとなく貴方が悲しそうな顔をしていたから…」


「そうか…じゃあ聞いてくれ。私ったら、みんなに仲間外れにされてるらしい。」


「えっ!そうなの!?」


「そうそう、私は何も悪いことしてないのにさ~みんなひどいよなー。」


 Athenaは、強がっていた。普段通りの当たり障りのない調子でのらりくらりとバジルと会話をする。仲間外れだとか、そういう問題ではないことも自覚していた。バジルと会話するうちに、彼女の心は次第に冷静さを取り戻していった。

 Athenaは、今後の活動をどうするか、大きく三つに分けた。

 一つは、パークで仕事を探してもう一度最初からやり直すこと。多分、これが一番現実的で平和だろう。だが謎は何も解決しない。

 二つ目に、パーク来園者として行動しAthenaを知っている人を探すこと。もしかしたら誰もAthenaを知らないかもしれないが、イザベラのような例もあるかもしれない。
どちらの結果でも、一応の進展はある。

 最後に、森月鋼夜を探すこと。理由は、彼が居なくなったのと、私のことがみんなの記憶から消えたのは、何か関係があるのかもしれない。と思ったからだ。上手くいけば、すべての謎が解けるかもしれないが、そう簡単じゃないことも重々承知の上だ。


「はは、私の愚痴を聞いてくれてありがとう。」


「いーのよー!気にしないで!」


「今日はありがとう。私はもう疲れたから寝ることにするよ。」


「うん!おやすみなさい!風邪には気を付けてね!」


 Athenaはバジルにニッコリ笑い返して、一枚の毛布にくるまった。
すると、バジルが「それから…」といって進みかけた道を引き返す。

「みんなが敵になっても、私は貴方の味方だからねっ!」


 Athenaは毛布越しに「ありがとう」とだけ返した。
彼女のプライドは、バジルに涙を見せることはできなかった。

(あぁ、もう…だめだなぁ…大人になったっていうのに…涙もろいなんて…)

そんなことを考えながら、Athenaは眠りに落ちた。
目が覚めたら、いつも通りLASで目が覚めることを期待しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、痛っ」


 突然、彼女の右腕に激痛が走り、目が覚める。場所は先ほどの公園だ。LASじゃない。折られた方の腕じゃなかったので、Athenaは痛みに違和感を覚える。

 痛む方の腕を見たが、特に外傷などは見当たらない。そしていつの間にか痛みも引いている。


(なんだったんだ…?そして今の痛みは…)


 Athenaはその痛みに覚えがあった。否、思い出した。そう、この痛みはファイルを整理していた時も感じたものだった。彼女はもう一度、あの時のことを鮮明に思い出そうとする。


(あの時、ファイルを整理してて、鋼夜が入ってきて…それで私を庇って……?)

 

「あれ?」


 そこでAthenaはハッと気づく。私は一人でファイルを整理していたはずだ。廊下でイザベラに出会うまでは誰も入ってきていないはず。あるはずのない光景が、Athenaの頭をよぎった。それに、“二年前”に消息不明になったはずの鋼夜が…?それに、『何から』私を庇ったんだ…?


「ついに…私の頭も狂ったか…?」


今夜は綺麗な満月だった。
Athenaはその満月を睨みつけて、深い眠りに入った。
 


tale 透明な壁の向こう側

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