幻影-オリジン・3

ページ名:ファントムオリジン3

 

 

「はっ...はっ......!」

 

 

―くそ、就職して二週間目でこんな事になるとはな...!

 

 

―こっちの方って事しかわからん...方角はあっているはずだ...!

 

 

―間に合ってくれ......!

 

 

 

 


 

 

 

「ん......?」

 

 

―妙に冷たいような感覚がして目を覚ました。

 

 

(......? ここ、どこ...?)

 

 

―昨日は森の中にあった木造の廃墟で寝たはず...なのに今起きたのはコンクリート製っぽい小さな倉庫。

 

―こんな場所は知らない。寝ぼけて跳んでた...? そんなこと今までなかったけど。

 

 

「......ようやくお目覚めか、クソ猫さん?」

 

「...っ!?」

 

 

―周囲の出入り口から人間の男が何人も出てきた。

 

―声で分かった。こいつら、何か月か前に腹いせにぶっ飛ばして回ったあの男たちだ。

 

―さしずめ目の前に出てきたのは『教祖』かしらね。

 

 

「お前のせいで半年かけて練った計画が台無しだ。おまけに離反者まで出る始末だ」

 

「あらそう? 他人を誘拐した上に蹴り飛ばしてるのが知れればまぁそうなるでしょうね」

 

「だからそのツケはお前の身体と命で払ってもらうぞ」

 

「...前に戦ったときの事覚えてないの?」

 

「覚えているとも。だからこそ数か月かけて準備させてもらった」

 

 

―教祖が武器を構えた。あの時と同じ『拳銃』。

 

 

ドォォン!!!

 

 

「ッあ”......!?」

 

 

―...そんな馬鹿な。

 

―銃撃を跳んで避けようとした。なのに、跳べなかった。

 

―左肩が痛い。即死じゃなかっただけマシだけど...拙い。

 

 

「ふふはははは!目に見えて焦りだしたな?

 何故瞬間移動ができないか不思議だろう!所詮アニマルガールなどその程度、人類には敵わないのだ!」

 

「...アニマルガールこそ至高みたいなこと言ってた教祖が、それでいいの?」

 

「ふ、ここにいるのは我が同志たち!主義思想に関係なく、私に忠誠を誓った者たちだ!」

 

「...あ、そう」

 

「おっと動くな! ...さすが勘がいいな?」

 

 

―耳につけられた妙なタグみたいなのを取ろうとしたら止められた。
 これが跳べなくなってる原因ね...。

 

 

「おい、両腕を掴んでいろ。」

「了解」

 

「く......」

 

「さて、と。 思う存分殴らせてもらおうか。

 いや、蹴る方がいいかな?それともいっそヤってみるかな!?」

 

 

 

―...どうやら、そろそろ私も死ぬときらしいわね。

 

―でもなぜなのか...何故だかものすごく『死にたくない』。

 

―別に生きていたって理由も目的もないのに、なぜ私は死にたくないのか、さっぱりわからない。

 

 

 

バァン!

 

 

「んっ!?」

「誰だ!」

 

 

「っととと......間に合ったか!」

 

「...えっ?」

 

 

―後ろのドアを蹴破って唐突に現れたのは、硬そうな棒と半透明な盾で武装した人間。

 

―それは、確かに数か月前に私が成り行きで助けたあの男だった。

 

―ただ、武器もそうだけど格好が完全に戦う前提のそれ。前に見た時はそんな風に見えなかったけど...
 どういうこと?

 

 

「...何その恰好?」

「まぁ、ちょっとした警備会社に就職したからさ。今は警備員って訳だ」

「ここの...?」

「そういう事」

 

「...おーい。こいつが見えないのかな?」

 

 

―教祖が拳銃を私に向ける。

 

 

「妙な真似をするとこのフレンズの頭を柘榴のようにしてしまうぞ?」

「拳銃まで持ってるのか...ま、でもちょうどいいかな」

「ちょうどいいだと?」

「僕、投擲にはちょっと自信があってね」

「...ハッハッハ! 銃に投げ警棒で挑むかね! いいだろう、その蛮勇は評価しよう!
 やってみたまえ!」

 

 

―男は警棒を構える。
 もちろん盾はこっちに向けて、しっかりと防御したまま。

 

 

「...ちょっと痛いかもしれないが、我慢してくれ!」

 

 

―男は警棒を......私に投げた。

 

―両脇で私の腕を掴んでいた二人が驚くのとほぼ同時に、警棒が猫の耳を掠める。

 

―少し痛い。でも、同時に耳についていた妙なタグが衝撃で取れたのを感じた。

 

 

「な、おい―」

 

 

―制止など聞かない。教祖の脇に『跳び』、思いっきり蹴り飛ばす。

 

―壁まで吹っ飛んだ教祖はぐったりして動かなくなる。

 

 

「うわぁお......怖っ」

 

「さてどうするの?同志の皆さん?」

「ひぇ...」

「も、もう無理だ...逃げるぞ!」

 

 

―男たちが逃げようとして両開きの扉を開け放った。そうしたら、

 

 

「...え?」

 

「やあ」

 

 

―ニット帽を被った男が立っていた。

 

 

 


 

 

 

「...どうして私が捕まってるとわかったの」

 

「ほんの偶然さ。君が男たちに担がれてくのが見えたんだよ。

 君の能力ならすぐに抜け出せるはずだから、これは何かやられているんじゃないかと思ってね。大事に

 至る前でよかったよ」

「...そう。礼は言っておくわ」

「やっと借りが返せたよ」

「...まさか返しに来るなんて思ってなかったわ」

「ははは。 あぁ待ってくれ、話したいことがある」

「...何?」

 

 

「君、前に存在価値がないって言ってたけど、それはどうしてなんだい?」

「...一々言わないとダメなの?」

「すまないね。僕は君ほど賢くないから」

 

―...ハァ。

 

「私はエイリアン・ビッグ・キャットのフレンズ。

 私を含めたUMAっていうのは、二種類に分けられるのよ」

「二種類?」

「普通の動物みたいに子孫を残せるやつと、子孫を残せない代わりに神獣みたいに特殊な役割のあるやつ。

 ...でもね、私は子孫を残すことも出来なければ何の役割もない」

 

「生物として明らかに欠陥品でしょ?

 そんなのがフレンズ化したって何の意味もない」

 

「...なぁるほど。

 なら、なくてもいいんじゃないか?」

 

「......は?」

 

 

 

「君が言うには、他の生物には皆『役割』か子孫を残すっていう『目的』があるんだろ?

 けど逆にそれは、他の生物は皆それに『縛られてる』って事だよ。僕も例外じゃない。

 それがない君は逆に『自由』じゃないか」

 

「自由...? 私が?」

 

「そう、自由。何にも縛られずに、君のやりたいことをすればいい。
 そうすれば、おのずと自分の意味も見えてくるんじゃないかな?」

 

 

 

―.........。

 

 

 

 

―...そうか。

 

―そういう考え方も、あるのね。

 

 

 

 

 

「...でも、やりたい事とかないんだけど」

 

「そうか? んー......

 そういえば君、食べるものに困っていると聞いたことがあるけど、本当なのか?」

 

「まぁ...事実ね。昨日だってじゃぱりまん一つしか食べられなかったし」

 

「なら、もう少し人間と接触してみるのはどうかな?

 悪い事ばかりではないだろうし―」

 

 

―男は、じゃぱりまんを私に差し出した。

 

 

「その辺は少し楽になるかもしれないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

~おしまい~

 

 

 

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