いのちのみほしに攫われてから凡そ数ヶ月。春菜は、漸く解放された。
あの孤独の檻から。
彼女が常夜から脱出した場で一番苦労したのは、替えの服を手に入れる時だった。
なにせ気に入っていたお洋服は攫われてから無くなっていて、今の和装のような馬鹿げた格好に置き換わっていたからだ。
一先ずは"クダギツネ"たちにぶかぶかでも新しい服、靴を揃えてもらい、漸く「普通」の女の子に戻った。
そう、街に繰り出して、帰してくれる人の元へ行くには、それで十分だった。
…友達から大丈夫なのかと引き止められ、結局のところ3人で街に舞い戻ったが。
彼女はそれでよかった。闇を抜け、もう一度光溢れる場所に戻った瞬間から、春菜は行かなければならない場所が一つだけあった。
今までの活動を通して知っていた、ある存在がいる場所へ。
春菜は、かつてないほど怯えていた。でも、逃げるわけには行かない。
ただ帰って来た少女として持て囃されるより、一番に顔を見せたい友達が、親がいたのだ。
彼女が、彼女であるときに初めてADLBの職員に近づいた。心優しく、怖く、頼り甲斐のある警備員。
かれらに事情と、名前を明かせば…晴れて、春菜は本土へと戻れるのだ。
しかし、春菜はまだどこか不安を感じて居る。
恐らく時はたって、自分の親も新しい子供を迎えているかもしれないと、無性に心配で身体が震え始めるのがてとまらなかった。
だがそれでも一目だけでいいから会いたいと。新しい子供が、自分にとっての妹か弟が居るなら、ぎゅってしてみたい。と。
警備員に一声かければ、戻れるのに。
…彼女の身体はなかなか動かない。…もし、話を聞いてもらえなかったら。そんな一抹の不安が頭をよぎっていく、
どうした、春菜。貴女は怖い大人と戦った。こんなのはどうって事無いはずだ。
ほのかに覚えていた名前を警備員へ言ったところで、声が響いた。
「…!」
女の子が立っている。ピンク色の服で、茶色の髪、小さいコウモリの髪飾りが輝いている。
背は同じくらいで、元気なことが伝わるくらいには肌の血色が良い。
春菜は視界がぼやけるのを感じて、手を伸ばした。
少女は春菜の伸ばしていた手を取り、彼女にとって最高の言葉を口にした。
「はるちゃん」
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