「......たまげたわね...」
今、目の前にいるセルリアンは、あまりに懐かしい。
スレイヤー。あの地獄のような事件で、人間たちやその兵器と死闘を繰り広げた屈強なセルリアン。
あの事件以来さっぱり見なくなったけど、生き残りがいたのね...。
「...久しぶりねスレイヤー。 あぁ、あなたにとっては初めましてね。
...やるんでしょ? これ」
拳をボキボキと鳴らしてみせる。 スレイヤーもやる気になって、唸り声をあげながらこっちに来る。
「さぁ、来なさい!」
「起きて、ファントムさん」
「......ん...」
......あぁ、夢。 夢だったのね。
「...あら、もう朝だったのね。随分寝ちゃったわ」
「疲れてたの?」
「さぁ、そんな疲れることはしてなかったと思うけど」
「ねーねーファントムさん!」
「何かしら?」
「ファントムさんってすっごく昔から生きてるフレンズって聞いたんだけど、本当?」
「すごくかどうかは私もよくわからないけど、まぁ本当ね」
「じゃあじゃあ! 昔のジャパリパークって、どんなところだったの?」
「そうねー......」
「昔は今より賑やかだったわね。フレンズも今よりいろんな種類の子がいて、建物ももっとたくさんあった」
「そうなんだ!」
「何より、昔は「人」がたくさんいたわ」
「『ヒト』?」
「ええ。フレンズにそっくりな動物よ。というか、フレンズがヒトにそっくりとも言うわね。
パークのために必死になっていたヒトもいたし、フレンズを見に来ただけってヒトもいた」
「へーえ...! じゃあ、今もパークのどこかにヒト、いるのかな?」
「どうかしら。私はもう長い事見ていないけど...いるのかもしれないわね」
あの頃は、ここも賑やかだった。
色々なフレンズに出会った。多くのセルリアンと戦った。
そして、色々な人間と関わった。
あれからどれくらい経つの?私にはわからない。
カレンダーはすぐになくなったし、腕時計も壊れた。直し方はわからないから、壊れたまま。
あの地獄のような事件からどれくらい経ったのかもよくわからない。
ただ、今のパークはすごく平和。あの頃に比べればセルリアンも幾分か減ってはいる。
欲を言えばいなくなってほしいけど、まぁ無理な話ね。まがいなりにもあいつらだって『動物』だし。
全て、変わってしまった。
人間にはもう長い間会っていない。島の外にはいるのかも知れないけど、知る術がない。
知り合いだったフレンズはいなくなったり、中身が変わったりした。昔のパークを知ってるのは、
多分もう、私だけ。
建物はほとんど使われなくなって、今はもう原型がないものも多い。
あれほど活気に満ちていたセントラルも、今は鉄とコンクリートの瓦礫の山。
空港の滑走路はだだっ広い野原になって、飛行機はもう降りてこない。
港の防波堤も崩れてるし、船だって一隻もいない。
ただ......。
空だけは、あのころと変わらない。
あの頃を知っている誰かも、この空を見上げて、或いは飛んでいるのかしら。
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