第2話 水に沈んだ女王

ページ名:テット 4-5

 

 

 私の名前はリーナ。とあるパークで旅をしながら生活しているフレンズさ。女王襲撃事件…あれからいくらか時間が経った今では、少しずつ客も増えてきているようだ。私は当時からこのパークで生活しているけれど、これほどまでに平和だったことはないと思う。みんな少なからず、セルリアンに恐怖を抱いていたから__

 だからこそ、女王という存在が倒されたのは私達フレンズにも、彼ら人間たちにも大きな影響を与えた。この時を境に、セルリアンは急激に弱くなっていった。弱点となる〈石〉が出現し、人間でもセルリアンを倒せるようになった。みんな、セルリアンという存在を強く意識していた。

 

 そして時は水のように流れ、私はとあるフレンズと出会うことになる。何も知らない、無垢で生まれたばかりのフレンズ__ヤマドリに。

 

 水とは不思議なもので、様々な一面を見せてくれる。勢いのある激しい姿や、静かで穏やかな姿。ヤマドリに出会った時、私は心の中にある水のような柔軟性を失っていたことに気が付いた。

 

 自分が偏った考え方に陥ったのは、女王襲撃事件の時だった。セルリアンは力で倒せると思っていた。大切な仲間は力があれば守れると思っていた。...しかし現実はそう上手くいかなかった。奴らには「数」と「女王」のチカラがあるのだ。だから単独で力任せに突撃していっても囲まれて輝きを奪われてお仕舞いである。それだけではない。奴らは、セルリアンは、日に日には進化していった。

 

 先程も言ったように、この事件はとある人間とフレンズの協力で女王を倒し、解決するに至った。ここで私はあることに気が付いた。ハンターと呼ばれるフレンズたちには他のフレンズよりもはるかに戦闘能力が高い。が、彼女らには現場をまとめる「指揮官」がいなかったのだ。それぞれが強い力を持っていたとしても、ばらばらに行動しては空回りするだけである。だからハンターでも今回の事件でかなり苦戦していた。しかし今回の事件の終息は力こそないものの、その頭脳を活かし人間が指揮を執り、力のあるフレンズがそれに従うというものだった。当時私は力のない人間がこの事件を終わらせたのは不思議なことだった。統率がとれるだけでこんなにも変わるものなのか、と。

 

 統率といえば、女王騒動が終わる少し前、私は奇妙なフレンズを見かけた。大きな耳と尻尾を持ったフレンズだった。ネコ科だろうか?よくわからないが彼女はなんと、セルリアンを指揮していた。私は彼女から少し離れた位置で彼女を観察していた。しばらくして、あの人間達がやってきた。そして彼らの中にも同じような姿をしたフレンズがいることに気が付いた。

 

 会話の内容を聞く限り、おそらく人間側にいる方のフレンズの輝きをセルリアンが奪い、セルリアンが形を「コピー」したものだという。いままでセルリアンには輝きの「奪取」しかないものだと思っていたが、姿かたちの「模倣」、そしてそれに基づく「進化」もあるとは思いもしなかった。ハンター達がセルリアンを見たら戦わずに「逃げろ」と警告して回ってたのはそういうことなのかもしれない。

 

 この二つの経験から、私は生きるためには、力を合わせる方がいいのかもしれないと考えた。得意なことは人それぞれ、フレンズそれぞれ違うのだから。なら、足りないものは、みんなで補い合えばいいじゃないか。

 

 同時に、私自身がもっと変わらなければいけないと考えた。力に執着しても、いいことは何もないのではないのだろうか。少なくとも、今のジャパリパークでは。


 

 冷静で、穏やかな心を持つ必要がありそうだ。彼女のように。


 

 ...いや、彼女に冷静という言葉は似合わないな、どうも。女王騒動を体験してしまったからか、少し気がピリピリしていたのかもしれない。穏やかになった日常に闘争心だとか冷静さだとかは似合わない。かつて伝承の存在だった頃に「水の神」と言われてきた私が、戦いにしか目が向いてないのであればその名は廃れていくだろう。私は忘れていた水のココロを思い出した。

 

 ___あれ?忘れていたのは、失っていたものは本当にそれだったのだろうか。



 

私は妙な違和感を覚えた。

Tale

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