【とある鳥と蛇の出会い】
「んー、これはまた懐かしいものが出てきたね~」
何となく思いつきで住処である古い木製の小屋の整理をしていると古びた日記帳が出てきた。表紙の文字は掠れて読めないがめくってみると中身の方は綺麗で細かな文字も読み取れた。
「うんうん。そういえば私達が出会ったのもこの頃だったけなぁ…」
時を遡ることかなり前。
気がつくと私は森にいた。私の体の数倍太い幹、青々と生い茂った葉、その葉の中から木漏れ日が光で編まれた絹のように差し込んでいる。そんな森の中の一本の木にもたれかかっていた。
記憶が曖昧だった。
何故ここにいるんだっけ?
何をしていたんだっけ?
そんな事を考えていると、目の前の茂みの向こうから足音が聞こえてきた。その音の主が誰なのかを見に、茂みの向こう側へと足を運ぶ。
茂みを抜けた先には背中にノコギリを背負い、グレーのパーカーを着た褐色肌の少女がいた。
明らかに物騒ではあるが、何故かそこまで警戒心が湧かなかった。
「ん?見ない顔だな?」
その少女はこちらを見てそう呟く。
「この前の噴火で新しく生まれたのか?」
「噴火?」
「あぁ、この前キョウシュウでかなりデカイ噴火があったんだよ。
かなりデカイ噴火ですげぇ量のサンドスターが空に散っていったんだ。ゴコクやリウキウでも新フレンズが出たらしくてな
お前もその一人かい?」
「えーと…ちょっと待って~
少し置いていかれてるから、待ってくれないかなー」
と、困惑する私を見て彼女は数秒の間をおいてから、何か思い出したかのように手をポンと叩く。
「あ、すまないな…フレンズ化したばかりだからわからない事あるよな
順を追って話してやるよ」
と、褐色の少女は先ほどの言葉の意味を説明し始める。
「ここはジャパリパーク。その中のリウキウエリアって場所なんだ。
そして、パークの中には火山があって噴火の度にサンドスターが散って、動物たちがフレンズになるんだよ」
「なら…君もフレンズなのかな?」
「あぁそうだぜ!俺はカーペットバイパー!蛇のフレンズだ!」
と、言いながら彼女は蛇特有の細長い尻尾で私の太ももを小突く。
「カーペットバイパーね~
ちょっと長いし、略してカイパーなんていうのはどうかな?」
「お、いいな!気に入ったぜ!」
と、彼女は嬉しそうにニッと歯を見せた笑顔をする。
「ものはついでにだ。案内するぜ」
「どこに?」
「とりあえず、他のフレンズたちがいる場所までな
俺は、そこに飯を食いに行く途中だったんだ
今回は特別に奢ってやるぜ」
「んー、それじゃお言葉に甘えてついて行くよ~」
こうして、私とカイパーは食事ができる場所に向けて歩み始めた。
そうして数十分ほど歩くと森を抜け、辺り一面に海が広がっていた。
「ほら、見えてきたぜ?」
カイパーが右前方を指差すと遠くにうっすらの船らしき影が見える。
「あれが目的地だ!それじゃ、もうひと歩きするとしようぜ!」
と足を動かすカイパーを私は制止した。
「なんだよ?」
とカイパーが機嫌悪そうな表情でこちらを睨んでくる。これが蛇睨みというものなのだろうか?そんなのことを考えながらも私はカイパーに向けて言葉を放つ。
「行き先がわかってるなら、飛んで行こうよ
私は鳥のフレンズだし、一人ぐらいなら運んで行けると思うよ~」
それを聞いたカイパーは右手の人差し指で頬を掻きながら何かを考え始める。
5秒ほど考えた後にカイパーは口を開いた。
「たしかに…まっすぐ飛んで行けるなら歩くより早そうだな…
けど、いいのか?」
「ん~、別にいいよ~
奢ってもらえるしお礼ぐらいはしたいからね~」
「よし!じゃ、お願いするぜ!」
私はカイパーの背中側に回って、彼女の脇の下から自分の両腕を前側に通す。そして、両手を繋ぎ後ろから抱きしめるような体制にする。
「それじゃ飛ぶよ~
しっかり捕まってね~」
私が頭から生えている羽を動かすと少しずつ、脚が地面から離れ空へと身体を浮かせていく。
「おおお!空を飛ぶのは初めてだがすごいな!」
「ちょっ!暴れないでよ!落とすかもしれないから!」
「あ、悪な…ついはしゃいじまったよ。」
「それじゃ、いくよ~」
体の向きを船が見える方向へと変えて、移動を開始する。
海風がそっと私とカイパーの頬を撫で、その度にカイパーが少しくすぐったそうにピクッとする。
「すげぇな…空を飛んでみたいとは思ったことあったけど、本当に飛べる時が来るなんてな…」
とカイパーから漏れた言葉を聞きながら、速度を上げていく。
「もうそろそろ着くよ~」
約3分ほど飛行を終え、船着き場の端に着陸をする。
「はえーな!歩いてたら倍以上はかかってたぜ
ありがとな!」
着陸した途端、初めての飛行に興奮しているカイパーは目をキラキラさせながら、私の手を握りぴょんぴょん飛び跳ねた。
「どういたしましてだよ~
それよりも早く入ろうよ」
「お、そうだったな」
私の言葉にカイパーはハッと我に返って船へ乗り込んでいく。
その船に乗り込む際、視界の端に1枚の立て札があった。
「フレガータ?」
どうやら、この船の名前らしい。
「いらっしゃいませ」
船に入ると、1人のフレンズが出迎えてくれた。白を中心としたセーラー服に魚のようなヒレを持つのが特徴的だ。
「2人だけど、席空いてるかい?」
「はい。空席はありますよ」
と、白いフレンズは海が一望できる端側の席を指差す。私とカイパーはその席まで歩き、2つある椅子にそれぞれ腰掛けた。
「綺麗だねー」
海の方を眺めながら私は口を紡ぐ。
「あぁ、確かに綺麗だよな。だが、ここはそれだけじゃなくて飯も上手いぜ?ほら、好きなの選びな」
と、カイパーがメニュー表を差し出してきたので受け取って中を見開く。
「んー、それじゃあ私はフレンチトーストってのにしようかなー」
「それじゃ、俺はアラビアータ。おーい、注文するぜ」
と、カイパーが言うと先ほどの白いフレンズがやってくる。そして、互いに選んだ料理を注文すると、白いフレンズは厨房へと消えていった。
「そういえば、お前の名前を聞いてなかったな」
料理を待つ間にカイパーがそんなことを聞いてくる。
「ん?私の名前?」
「私の前にはお前しかいないだろ?」
「私の名前か~
これで合ってるかは不安だけどピトフーイって名前が脳裏を過ぎるんだよね~」
「まあ、フレンズ化直後は記憶が曖昧だったりするしな。俺もそうだった。
とりあえず、ピトフーイ。よろしくな♪」
「そうだね。よろしく~」
「ピトフーイはどんな動物なんだ?覚えるところだけでいいから、教えてくれないか?」
「ん?いいよ~
まずはさっき飛んだ時点でわかると思うけど、鳥だよー」
「うんうん。それで?」
「それと…あ、そうだ。思い出した。私は体に毒を持ってるんだよ」
「ほお!俺と同じだな!」
「カイパーは毒ヘビなの?」
「そうだぜ!インド4大毒ヘビなんて言われてるんだ!すげーだろ?」
と、カイパーは自慢げに語る。そこで私は1つの疑問が頭に浮かんだので投げ掛けてみることにした。
「4大ってことはカイパーに似た蛇のフレンズが3人いるの?」
「いや、フレンズ化してるのを見たのは2人だな
コブラとラッセル。アマガサヘビのフレンズはまだ見たことないな」
「ふーん。そうなんだ。その2人はカイパーとそっくりだったりするの?」
「いやいや、全然違う」
とカイパーは手を横に振りながら即答する。
「コブラの方はチラッと見ただけだからよく知らないが、ラッセルは凄く大人しかったな。
たしか…イラスとかいう施設で働いてたな」
「ほおほお、それはいつか会ってみたいね~」
「いいぜ!機会があれば紹介してやるよ!」
そう言ってカイパーはニッと笑ってみせる。
「しかし、鳥にも毒を持つやつがいたんだな~
同じ有毒生物として親近感がわくぜ」
「そんなに珍しいの?」
私の言葉にカイパーはコクコクと頷く。
「おまたせしました。」
先ほどの白いフレンズが厨房から出てくるとメニュー表の写真と同じ料理を2つ私たちの座る席に並べていった。
「美味しそうだね~
自己紹介はこれぐらいにして食べようか」
「おう!」
そして私とカイパーは両手を合わせ、こう口にする。
「「いただきます」」
食事を終えた私たちは、カイパーの提案で私の事を調べるためヒトが管理する施設を目指していた。
フレガータがある地点から北上し、海を越え、キョウシュウエリアと呼ばれる地域の上空をカイパーを担ぎながら飛んでいた。
「ほら、目の前にデカイ山があるだろ?」
と、カイパーが視線を向けた先にはいくつかの山が見えるがその中でも一際大きな山からは虹色の何かが吹き出していた。
「あそこからサンドスターが溢れて、それが触れる事で私たちみたいなフレンズが生まれるらしいんだ。私も詳しい事は知らないがな」
「ふーん…」
なんとなく、その山の方を眺めているとカイパーが
「休憩がてら寄ってみるか?」
と聞いてきた。私は特に断る理由もなく少し疲れてきたこともあってカイパーの提案に乗ることにした。
私たちはサンドスター火山の麓で休息を挟むことにした。
「そういえば、カイパー。とりあえず言われるままに飛んでたけど、どこに向かってるの?」
「ん?このキョウシュウを越えた先にあるアンインエリアだぜ。そこにチョウシュウなんとかっていう鳥に詳しい施設があるらしいんだ!」
「なるほど~
そこで私の事を調べようって訳だね~」
「そうだぜ!俺、頭いいだろ?」
「うんうん。いいアイデアだよー」
「だろ!もっと俺を称えてもいいんだぜ?」
と胸を張るカイパーを見て、何故だか笑えてきた。
「む…笑う事はないだろ…」
「ごめんごめん。色々と楽しくてね~」
「むむむ…」と頬を膨らませるカイパーを横に青空へと目を向ける。
その時だった。
この空に何か叫ぶような声が響いたのは…
その声に私もカイパーも驚き、そして音がした方へと振り向く。
2人の視線の先には小さな影があった。その影はこちらに少しずつ近づいている。
「上だ!」
カイパーが上空を指差すと、その先には巨大な竜がこちらに向かって空を駆けていた。
その竜は博物館に飾ってある恐竜の骨格模型がそのまま意思を持って動き出したかのようだった。
竜はこちらをジッと睨み…
「ぎぎゃぁぁぁ!!!!」
そして咆哮した。その骨だけの体のどこから声を出してるのだろうと思ったが、そんなことよりも逃げることが先だと本能が警鐘を鳴らしている。
「セルリアン!?なんでこんなところに!?」
「セルリアン…?」
「とにかく逃げるぞ!」
カイパーに手を引かれ、一目散にその場を離れ骨の竜から距離を取ろうとする。
だが竜は私たちの逃亡を許さず、空を飛び距離を縮めてくる。
「逃げきれねぇ!奴の方が速い!
ちっ…戦うしかねーか!」
と、カイパーは私の手を離し、腰に背負うノコギリをケースから抜き構える。
「ピトフーイ!お前!戦えるか?」
「いきなりそんなこと言われても…」
「ならば俺を置いて一目散に逃げろ!」
「えっ…」
カイパーのその一言は何故か私の胸を痛めた。カイパーの言うことは正しい。
あの竜と戦うのならば、戦い方を知らない私は足手まといでしかない。ならば、この場をカイパーに任せて離れるのが最善手である。
頭では理解しているが何故か足が動かない。
「ぎゃぁぁ!!!」
咆哮を放ちながら竜は自らの脚で私たちを踏みつぶそうとする。
「ふっざけんなぁぁ!!!」
その脚をカイパーはノコギリで殴り、軌道を逸らす。
「どうした!早くしろ!」
「ごめんね。それは無理だよ」
私の返答にカイパーは目を見開き、あからさまな驚愕の表情を浮かべるがそれを無視して私は言葉を続ける。
「まぁ、初めてなりになんとかやってみるよ。カイパーを放っておけないしね」
「っ…馬鹿野郎!」
カイパーが叫ぶと同時に竜は先ほどとは逆の脚で次の攻撃を繰り出そうとする。
「鬼さんこちらだよー」
私は竜の両脚の間を抜け、背中側に回り込んだ。私に視線を向けてた竜は首をこちら側に向け、カイパーを視界から外す。
「おらぁぁぁ!!!」
するとカイパーは竜の足首にノコギリを叩きつける。攻撃のために片足を上げていた竜は衝撃でバランスを崩し、大きく転倒する。
それを確認した私は最大速度で降下し、カイパーを掴んで森の方へと低空飛行していく。
「ちょっ!?ピトフーイ!何をするんだ!」
「何って…逃げるだけだよ~」
「あのまま殴れば勝てるかもしれねぇだろ!」
「多分無理だね~カイパーが思いっきりなぐっても傷一つついてないしね」
「だが、速度は向こうの方が速いぞ!?」
「大丈夫。考えがあるからさ♪森に入ってしまえば隠れられるし体の大きいセルリアン?にとっては木が邪魔で満足に動けないだろつしね~」
「お…おう…頭いいんだな…ピトフーイは」
「そんなことないよ~」
と、言ってる間にも森は目と鼻の先まで近づいてくる。
チラッと後ろを見ると竜は体制を立て直し、こちらの方を睨みながら飛び立つ体制に入っていた。
「それじゃ~、突っ込むよ~」
と、最高速を維持したまま森の中に突っ込んで行く。木々の隙間を抜け、どんどん奥へと入って行く。背中から骨の竜の咆哮が聞こえるが、こちらに近づいてくる気配はない。
そして、私たちを見つけられずに諦めたかのようにその咆哮は遠ざかっていった。
そして、しばらく飛んでいると森を抜け、蜂の巣のようなハニカム構造が目立つ建造物が瞳に映る。
「あれは…クリミヤだな…」
と、カイパーが口を開く。
「クリミヤ?」
「ああ、俺も行ったことはないが、虫のフレンズたちが中心になってる施設らしい。
ちょうどいい。あそこで休憩の続きといこうか」
「そうだね~ 今のでかなり疲れちゃったよ…」
「すまないな…そして、ありがとな!」
とカイパーは私の顔を見て笑ってみせる。
「お互い様だよ。それにしても疲れたよ~…」
カイパーの笑顔を見た私も自然と笑みが零れていた。
そして、二人はクリミヤ昆虫自然博物館へ休憩も兼ねて足を運び、ピトフーイは初めてパーク職員であるヒトと会話をした。
そして、この後もカイパーとピトフーイは共に行動し、後にアニマルガールズロックバンド「Poison Dead」を結成したのはまた別の話である。
そして時が流れ、この話の冒頭へと辿り着く。
「今になって考えると、カイパーと出会ったばかりの時は波乱万丈だっな~
ま、それはそれで楽しかったんだけどね」
と、1人呟きながら窓際に飾ってある写真立てに目を向ける。そこにはPoison Deadを立ち上げて初めて楽器を持った時の私とカイパーの写真が入っていた。
その1枚を眺めていると、誰かが玄関の戸を叩く音が聞こえる。
「ピトフーイいるか?バンドの練習を行こうぜ」
「はいよ~ ちょっとだけ待っててね~」
手に持っていた日記帳を棚に戻して、訪れて来たカイパーを出迎える為に玄関へと小走りで向かっていった。
-fin-
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