[20◾︎◾︎年12月24日 ゴコクエリア イラス爬虫類園]
ゴコクエリア南西部にある動物展示施設、イラス爬虫類園
その館内で2人の女性がクリスマスの飾り付けをしていた。
「白浜さーん!本館内の飾り付け、だいたい終わりましたよ!」
「ラッセルさん。お疲れさまでした。」
ラッセルと呼ばれた少女は褐色の肌と臙脂色の髪で腰から尻尾が生えている。いわゆるアニマルガールと呼ばれる存在である。
一方、白浜と呼ばれた女性は爬虫類園の制服であるベストを着込んでいる人間の職員である。
「しっかし、今年のクリスマスは凄いよね…
主にあのクジラの子が原因だけど」
白浜の言葉にラッセルが釣られて苦笑いをする。そして、視線を窓の外に向けるとライトアップされた巨大な樅の木が瞳に映っていた。
「メルビィさん…この大木をわざわざ持ってくるなんて…どこで手に入れたんでしょうか?」
「さぁ…あの子の行動は読めないよね…」
「と、とりあえず他の準備を急ぎましょう!あの子が出勤する前に!買い出しに行ってる館長たちが戻ってくる前に全て終わらせて驚かせちゃいましょう!」
ラッセルの言葉に白浜は無言で頷いて、クリスマスの準備を再開した。
その頃、爬虫類園が存在するイラス山の麓で一台の黒い車が繁華街に向けて走行していた。運転席にはオールバックの髪型をした青年が、助手席には黄色いパーカーを着込んだ蛇のアニマルガールが乗っていた。
「そーいや、ライキと2人で出かけるのって初めてだな。ライキがイラスに来てから結構経つのに」
「そうですね。色々あって爬虫類園の外に行く機会も無かったですし…」
「まぁ、そうだね。ラッセルちゃんの新人研修は厳しかっただろ?」
「そ、そんな事はないです!」
ライキと呼ばれた蛇のアニマルガールは慌てて青年の言葉を否定する。
「本当に?」
「………。」
ライキは言葉に詰まって視線が明後日の方向へと向いてしまう。
「そ、それよりも入谷さん。何で私を買い出しに同行させたのですか?」
何とか話題を逸らそうとライキは問いを投げてみる。
「んー、特に理由はないよ?真っ先に目に入ったからかな」
「な、なるほど…」
「さて、目的の店まで5分ぐらいで着くよ。ライキちゃんも何か欲しいのあったら買っていいよ。今日の買い出しのお手伝い報酬として」
「本当ですか!?」
入谷の言葉を聞いたライキの目はキラキラと輝いていた。
イラス山を下って行く登山電車の中、2人のアニマルガールが会話をしていた。
1人は藍色の髪で魚のようなヒレを持つアニマルガール。もう1人は迷彩服をイメージするようなパーカーとニーソを見に纏ったアニマルガールである。
「それで?樅の木を持ってきたのはいいが、付ける飾りがなく仕方ないから買いに行くと…
そこまではわかる。だが、何で私まで一緒に行くんだい?」
「仕事なさそうで暇してそうだったからな。それにお前は強そうだし、時間が空いたら手合わせでも…と」
「断る」
迷彩の方のアニマルガールに即答で手合わせの申し出を断られ、藍色のアニマルガールはやや俯き気味になっていた。
「だってさ…ライノセラスアダーとか強そうな名前だし、毒蛇なんだろ?絶対強いじゃん
しかし…私が言うのも何だが名前長いな…
略してセラスでいい?」
「そんなに私は強くないよ。メルビィだっけ?私から見たらアンタの方が化け物だよ
あんな大木を一人で運んで来るなんて…
あ、名前を略すのは構わない」
「怪物を自称してるけど、他人から言われるとグサっと来るものがあるな…」
メルビィと呼ばれた藍色のアニマルガールの苦笑いを見ると、セラスはそっぽを向いた。
「まぁ、暇なのは事実だし…買い物の方は付き合ってやるよ」
その言葉にメルビィは顔を上げてセラスに視線を向ける。そして、そっと口を開く。
「ツンデレ?」
「違う!」
セラスが否定の言葉を返すのに0.1秒もかからなかった。
話は戻って、入谷&ライキはクリスマスパーティーの買い出しのため、イラス山から少し離れたショッピングモールに来ていた。
「はぁぁぁ………」
ライキは初めて来る巨大商業施設に目を輝かせていた。
「す、すごいです!」
普段の大人しさからは想像できないほどにライキのテンションは上がり、その場でピョンピョンとしていた。
「初めてのショッピングモールで興奮するのはわかるが、目的を忘れないでくれよ?」
「そ、そうでした。クリスマスパーティー兼あの子の歓迎会の買い出しでしたね」
我に返って、恥ずかしくなったのかライキの顔は真っ赤になっていた。
「まあ、まだ時間はあるし少し他の店も覗いてみるか」
「はい!」
入谷の提案にライキは即座に返答を返した。
「………………。」
「………………。」
((気まずい…))
電車の中でメルビィとセラスは無言のまま窓の外に流れる風景を眺めていた。
さっきの会話が途切れてから他に話す話題もなく、二人はただただ流れる時間と風景を眺めていた。
(まずい…毒吐き過ぎたかな?気まずいよ。
私とメルビィって共通点とかもないし、話題が…ど、どうしよう
そうだ!)
「そういえば、メルビィはどこであの木の飾りを買うつもりなの?」
「ん?あぁ…サカシラシオって所に大きなショッピングモールがあるからな。そこで買うつもりだ」
「ふーん。まあ、大きなショッピングモールなら確かにあるかもね。それと、一つ気になったんだけど、なんでメルビィは爬虫類園のスタッフでもないのに、準備を手伝ってくれてるの?」
「んー、 ラッセルとは腐れ縁というか何というか…付き合い長いし、先週パーティーに誘われたからな。暇だったし参加するけど飛び入りで参加するのも気まずいから、準備を手伝ってるってだけさ」
「なるほど。メルビィはラッセルの事が好きだと」
「そんな事ないから!」
メルビィの頰は微かに赤く染まっていた。
「ムキになるところが怪しいよな」
「違うからな!そんなんじゃないからな!」
その後、数日間メルビィがこのネタでセラスに弄られた事は別の話である。
メルビィがセラスに弄られている頃、爬虫類園では…
「順調に進んでますね♪」
「そうね。レストランの人もパーティー始まる前に料理を作り終えると言っていたし、本当に買い出し組を驚かせられそうね」
館内の飾り付けを終え、その他の準備もあらかた終えた二人は小休止を挟んでいた。
「あの子の出勤って何時からだっけ?」
「えーと…あと1時間半ぐらいですね」
「なら、かなり余裕あるわね。30分もあれば準備終わるし、もう少し休んでようか
お茶淹れてくるけどラッセルは何飲む?」
「あ、ストレートティーでお願いします」
「了解。淹れてくるから待っててね」
そう言って白浜は給湯室へと向かって行った。
入谷とライキがショッピングモールに着いてから30分が経過していた。
「見てください!入谷さん!このケーキ可愛いです!」
二人はショッピングモールにテナントを構えるケーキ屋でクリスマス限定のサンタの形をしたマジパンが乗ったショートケーキを見ていた。
「そうだな!それでいて美味しそうだ…」
「買いましょう!」
「あぁ、買ってこう。すいません!このケーキを2つください」
そして二人はケーキ屋のイートインコーナーに入って行った。
[イラス爬虫類園 職員寮の一室]
窓をカーテンで締め切った薄暗い部屋の中、1人のアニマルガールが身支度をしていた。
「………………。」
薄ピンクの髪のショートボブをした彼女はシャワーで汗を流し終え、軽く食事をとっていた。
「もう少しで出勤…今日も…頑張ろう…」
白浜たちが小休止を挟んでから約1時間が過ぎた頃、入谷が運転する車が爬虫類園の駐車場へと入ってきた。
「あ、館長とライキさんが帰って来たみたいですよ」
たまたま窓の外を見ていたラッセルは入谷の車に気づき、その事を白浜に伝える。
「遅かったわね」
「まぁ、間に合ったしいいのでは?」
そう言ってラッセルは職員通用口へ2人を迎えに行く。
「「ただいま」」
入谷とライキはお菓子やジュース、パーティーグッズがたくさん入ったビニール袋を掲げて、迎えに出て来たラッセルに帰りの挨拶をする。
「はい♪おかえりなさい♪お二人ともお疲れ様でした」
「そーいや、愛理のやつは?」
「あ、白浜さんなら会場でスタンバイしてますよ」
「りょーかい。んじゃ、俺たちも行きますか」
入谷の言葉にラッセルとライキは頷いて、パーティー会場である爬虫類園4階へと向かって行った。
その頃、メルビィとセラスは…
「とりあえず、こんなものか」
樅の木に飾る用の装飾品を買い揃えた2人は先程、入谷たちが買い物をしていたショッピングモールにいた。
「けど、今から爬虫類園に戻ったんじゃパーティーに間に合わないんじゃないのか?」
「そうだな…仕方ない。セラス、私の服の端を掴みな」
「?」
セラスは言われるがままにメルビィの服の端を掴む。
「ここじゃまずいな…少し移動するよ」
そう言ってメルビィはセラスの手を引き、人気の少ない裏通りへと向かう。
「ちょっ…メルビィ。駅とは逆方向に向かってどうするの?」
「私を信じな。絶対にパーティーに間に合わせる
少しだけ目を閉じてくれ」
「わ、わかった」
メルビィの言葉通りに目を閉じると再びメルビィは歩き出す。
訳がわかないが今はメルビィを信じてみるしかない。
そして、3分ほど歩くと…
「もう目を開けていいぞ?」
目を開くと、そこは爬虫類園裏の細道だった。
「え!?ど、どういうこと!?電車でも3、40分はかかる距離だよね!?
メルビィ!一体、何をしたの!?」
驚きを隠せず、声を荒げるセラスとは真逆にメルビィは落ち着いた状態でセラスの問いに答える。
「まぁ、話すと長くなるから別の機会に
それよりも、パーティー会場へ急ぐぞ」
「え、あぁ…うん…」
メルビィに流されるまま、パーティー会場である爬虫類園に向かい歩き始める。
[約30分後]
薄ピンクの髪で目元を隠したアニマルガール。アホロテトカゲことロテは、職員通用口から爬虫類園に入ってきた。
「………?」
いつもなら点灯してるはずの廊下の蛍光灯が今日は何故か消えていた。
(蛍光灯切れてるのかな?薄暗くて私は好きだけど…)
そんな事を考えながら、ロテは4階へと向かう。
(館長から出勤した時に、4階の大広間に来るように言われたけど…
なんだろう?)
呼び出された理由を考えながらも階段を登り終え、大広間の入り口である戸を押して開く!
すると、パァン!という音が響き渡った。
「!?」
びっくりして動きが止まったロテは目の前の光景を見て更に驚愕する。そこにはお菓子やケーキ、ご馳走が並べられ、天井には「アホロテトカゲ歓迎&クリスマスパーティー」という文字が掲げられていた。
「ロテちゃん。黙っててごめんね。今日は君の歓迎パーティーをサプライズで開こうと思ってたんだ」
この爬虫類園の館長である入谷はそう言って大広間の真ん中へとロテを押していく。
「ロテさん。改めてよろしくお願いします♪」
「ラッセル先輩…その…ありがとうございます…」
「ノリが悪いな。今日はお前が主役なんだから楽しんでくれよ」
そう言って肩を叩くのは、偶に爬虫類園に足を運ぶアニマルガール。メルビィであった。
「こら、メルビィさん。無理強いはしないでくださいよ
色々手伝ってくれるのはありがたいですが、最近は悪ノリが過ぎる事が多いですよ」
2人の間にラッセルが割り込み、メルビィに小言を言いはじめる。
「まぁ、けどメルビィの言う通り今日はアンタが主役なんだ。少しは楽しそうにしてもいいと思うよ」
と、セラスが付け加える。
「ライノセラスアダーさん。ラッセルさんの言う通り、無理強いとかはしないでくださいよ」
「まぁまぁライキちゃん、ラッセルちゃん。メルビィとライノセラスアダーが言いたいこともわかる。それに今日はせっかくのパーティーだ。細かいことはやお説教は後ででもいいだろ?
「むう…館長まで…」
「とりあえず…みんなグラスを持って。乾杯と行こう」
入谷と白浜は人数分用意されたグラスにシャンメリーを注いで全員に配っていく。
「全員、グラスは持ったか?」
「「「「「はーい!」」」」」
蛇3人にメルビィ、そして白浜の返事にロテも小声で「はい…」と返事をする。
「あれ?ロテちゃん少し笑顔になってる?」
ふと白浜の言葉に全員がロテの顔を覗く。
「あ、本当だ。珍しく笑ってるじゃん」
とセラス。
「楽しそうで何よりです♪」
と、ラッセル。
「それでは!ロテちゃんも楽しんでくれたところで…」
入谷の声と共に全員がグラスを上に掲げていく。
「「「「「「乾杯!」」」」」
「………乾杯…」
こうして、イラス爬虫類園でのアホロテトカゲ歓迎パーティーがスタートした。
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