12月のある日、そう、丁度クリスマスが目前に迫って来ている時期だ。
アクシマ地方O.A.S.D.A スペースフロンティアもまたクリスマスの準備で忙しく、職員たちが走り回っていた。
そんな師走の風景とは無縁の、一つのヘビが居た。
「んにゅむ…なんかみんなバタバタしてるね」
「クリスマスの準備なんだって。ロスちゃん」
そのヘビ、ウロボロスの飼育員であるすばるは、飾り付けをしながら彼女のふとした疑問に対し嬉々として応える。ロスが何かに興味を示すと言うことはすばる自身とても喜ばしい事の一つだ。普段から気怠いウロボロスは、他のものに対して興味を示すことは余り例が無いからだ。
「くりすます…?なにそれ」
「えーとね…プレゼントを貰ったり…サンタさんが来るように飾り付けしたり…とかかな?」
「そうなんだぁ…」
興味も長くは続かなかったのか、彼女はそれだけ聞くとぐでんと身をソファに預け、話を終えたと判断して尻尾をしゃぶり始める。
だがここで退かず、もう一度話題を投げかけていく。
「ろ、ロスちゃんは何か欲しいもの無いの? サンタさんが持って来てくれるかもよ?」
「…おかし!」
やはり彼女も欲しいものと聞いて興味が再び湧いて来たのか、一言だけ、珍しく大きめの声で主張した。その反応をしてくれるだけでも十二分に珍しかったが、まだもう一声欲しいとすばるは感じていた。
「う、うーん…もうちょっと素敵なものを頼んだら…?」
「えー」
「例えば…こう、絵本とか、ゲームとか!」
「おかしがいいな…」
だがどうも彼女の関心はクリスマスで欲しい物に行っており、提案されたプレゼントの事は眼中にない様だ。
ソファに身を沈め、クリスマスでも変わらずぐでんぐでんのままの少女を見て、もう一歩踏み込む。
「…ふわふわのケーキもあるよ?」
「ケーキ…なにそれ、あまいの?」
どうしても中々動かないロスだが、お菓子の事となると明確に反応を示す事を熟知していた。
よし、しめた。このままクリスマスに興味を持たせられれば。
一人喜びの姿勢を取り、勝利を確信する。
「甘くて美味しいよ~?後で持ってきてあげるから、ロスちゃんも食べよ?」
「…えへ。わくわくする」
ロスがにへっと笑い、プレゼント…というよりは、ケーキを待ちわび始めた顔を浮かべる。
それと丁度同じ時に彼女の部屋の飾り付けが終わり、一息ついて胸をなでおろす。
「ふー…こんな感じかなあ」
「おー」
ロスはというと自分の部屋がクリスマス一色にされ、その飾りの量に息を飲んでいる。何時も虚空を見ている目が、部屋中のイルミネーション、完全装備のモミの木などに向けられ、あちこちを観察していた。
(ふふ、あっちこっち見てる…カワイイ!)
飾り付けを眺めているロスを見て、思わず笑みが零れる。やっぱりフレンズたるものこうでなくちゃ。
そんな思考を巡らせて眺めていると、目線が再び動かなくなっているのに気付く。
(…ええっ、もう飽きちゃったとか…?)
「…すばる。あれ、なあに?」
「え?」
彼女がゆっくりと指を指した場所には、丸い木の輪っかの飾りがあった。
「えっとね…これ、「リース」って言うんだって。花とか葉っぱで作る輪っかの飾りなんだよ」
「クリスマスとか、冠がわりにも使われてたんだって」
「…そうなんだ」
それだけ呟くと、彼女はそのままリースから目を離さないでいる。
特に興味を惹かれたのか、じっと見つめている。
「…あれがいいな。プレゼント」
「へっ?リースが欲しいの?」
「うん…欲しいな。 クリスマスの"シンボル"なんだよね…?」
口から出たシンボルという言葉に、ちょっとした疑問符が浮かぶ。
むしろ、クリスマスのシンボルに近いのはツリーの方だ。
(…ま、いっか!)
…そんな野暮な事を言ってしまいかけたが、ぐっと堪える。
彼女が折角、この行事に興味を持ってくれたのだから。
「じゃ、ロスちゃんのプレゼント…サンタさんにお願いしておくからねっ」
「…えへ。ありがと」
いつにも増して幸せそうなロスを見て、飾り付けや準備で疲弊した心が、ふんわりと癒えていくのを感じる。
いざプレゼント貰ったらどんな反応をするのか。すばるは今からちょっと楽しみで仕方がなかった。
(輪っかの飾り。輪っかのシンボル)
(…あたしとお揃い)
まるで、ともだちを見つけたような顔でソファに寝転ぶ少女。
リースが来たら絶対に大切にすると、ロスはまだ届いていない内から心に決める。
あまいケーキに、欲しいプレゼント。
二つが揃ったロスの過ごした初めてのクリスマスは、一際幸せな1日になった様だ。
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