燃える髑髏

 

 

研究所にほど近い公園。そのモニュメントの台座に、顔に髑髏の意匠が刻まれた男がもたれて座り込んでいる。普段ならば来園者が彼の容姿に警戒し、通報するところだが、その日の公園にいる人間は彼だけであった。
既に立つこともできない程に満身創痍の男は、けたたましい騒音に顔を上げると、直上を飛行するヘリに静かに笑みを浮かべるのだった。

 

◇

 

彼は親友へ報い、大切な人を護って死ねる喜びに震えた。

 

"例の異変"と後に呼ばれるその日、楽園は突如終焉を迎えた。

 

少佐！カントーエリアの負傷者及び民間人のヘリによる撤収を完了しました！我々は引き続き進軍し生存者の捜索を続行します！-ラムソン中尉

 

少佐！  ホッカイエリアの負傷者の保護及び残存分隊の撤収準備完了！  ロウリー小隊長MIAにつきフランシィが指揮を引き継ぎます！-フランシィ少尉

 

少佐！  ゴコクエリアの負傷者の保護及びヘリによる退避完了！  我々は防衛を続行しますが、増援は不要！繰り返す、増援不要！  少佐、お元気で！-ストロング少尉

 

多くの人々が誘導に従い避難することができたが、奥にはまだ取り残された人々がいることは容易に想像できた。

 

契約範囲の民間人の避難誘導は完了した。ここからは死ぬ覚悟がある者だけが続け。-ザク少佐

 

◇

 

 

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20██/██/██ に複合テーマパーク「ジャパリパーク」で発生した"例の異変"によって人々が退去したのちに、ジャパリパーク跡地のヒノデ港を武力によって不法占拠する武装組織の首謀者"フギン"は、その外見的特徴からかつてジャパリグループの傘下組織であった警備会社Amigos de la bestiaの代表取締役のザク氏と同一人物とされています。
"例の異変"以降しばらくの間姿を消していたザク氏に、最後に会った人々にインタビューを行いました。
 

-救出された来園者への取材記録（不要部分削除済） あの日、私は倒壊した建物の下敷きになっていました。なんとか身をよじって瓦礫の隙間から空を見たとき、ヘリコプターが飛び去るのが見えて、「ああ、見捨てられたんだな」って思いました。 ええ。でも、20分くらいしてからでしょうか。ADLBの隊員達に救出されたのです。その中には"少佐"と呼ばれる男性もいました。 そのあとは少佐らとは別れて、すごく大柄な女性に港まで連れて行ってもらって、他の避難者の人たちと一緒に待機していました。 はい。どんどん避難者が集まって、何台かのヘリコプターがいっぱいになるくらいの人数になったときでした。外の隊員が何かを無線で話していたのですが、その隊員もヘリコプターに乗ってきて、そのあとすぐにパイロットに離陸するように伝えました。その中には私を助けてくれた少佐と呼ばれていた男性と、その側にいた何人かの隊員の姿はありませんでした。私が知っているのはここまでです。そのあとすぐに最後のヘリコプターで避難しましたから。 最近少佐をニュースで見ましたけど、あの後無事でいたようでなによりです。でも"パーク跡を不法占拠するテロリスト"だなんて、何かの間違いだと私は思いますけどね。 [記録終了]

 

-現場にいた元ADLB隊員への取材記録（不要部分削除済） はい。その時の事はよく憶えています。蠍座のテロがピクニックに見えるくらいの現場でした。 私が現場の最高階級者でありましたから、最後の救出ヘリを飛ばす判断を少佐に任されていたんです。しばらくしてから少佐に無線で「今戻らせた負傷者と随伴隊員が戻ったら離陸するように」という指示を受けました。 少ししてから数人の隊員と共に負傷者が運び込まれましたが、その中に少佐の姿はありませんでした。おかしいと思って再び無線のコールをしたんです。そうしたら少佐は「最後のヘリが飛んだのを確認したら、俺たちも脱出艇を使って離脱する」と言ったんです。 今考えると疑問だらけですが、その時は肯定するしかありませんでした。私たちが離脱しなければ少佐たちも離脱できないと思ったので。 撤収中のヘリの中で冷静になって、脱出艇なんて絶対に嘘だと思い、涙しました。彼は自分を犠牲にしたんだとその時は思いました。 でもお元気そうで安心しました。そもそも脱出しないなら脱出艇など必要なかったんですね。ニュースではちらっとしか顔は映りませんでしたが、彼の顔を見間違える事はありませんからね。 "島を不法占拠するテロリスト"だなんて報道されていますけど、彼はパーク跡を企業から護りたいんだと思います。私は、支持しますよ。 [記録終了]

 

-元サンドスター研究員への取材記録 その名で呼ばれるのも久しぶりですね。 ご覧の通り…。あるべき姿に戻っただけですよ。私をその名で呼ぶということは事の次第もご存じなのでしょう？ ザクさんとは…言葉にできません。父のようでもありましたし、兄のようでもありました。いずれにせよ、大切な人でしたよ。 占拠しているのはフギン…でしょう？彼もそう名乗っているはずです。…まったく、迷惑な事です。おかげで忘れ物も取りに行けやしない。 いえ、彼はザク少佐ですよ。他の方もそう言っていたでしょう。彼は…ザク少佐本人です。 話を聞くに、彼らはパークへ近付くものは誰であろうと攻撃するテロリストではありませんか。いくら親密だったとして、そんな人たちの所へどうやって行けと？ 詳しく教えて頂けますか。場合によっては…他社を出し抜けますよ 決まりです。パークまでの足を用意して下さい。……件のテロリストに会わせてあげましょう [記録終了]

 

-フリージャーナリストの証言 [削除予定] +[表示しますか？] だから、今いるザクが本物で、偽物は死んだんだ！あの日、例の異変でな！出鱈目じゃない！俺は知ってるんだ！この目で確かめてきた！ダイヤに秘密があるんだ！いや、その前に、だ。フギンとムニンの話からしなくてはいけないな。つまり、ジャパリパークにいたのはムニンってわけだ。わかるかい？例の異変でだよ。 いいから黙って聞きたまえよ！ききき、君たちはそのことを俺に聞きに来たんだろう！だからだ、ダイヤモンド鉱山だよ！資金源はだ！フギンは力を蓄えるために影武者をパークに送り込んで、自分は中東にいたんだ！ なぜかだと！？無知蒙昧の輩め！恥を知れ！中東でテロ組織が解体されたニュースを知らないのか？徹底的に報道規制がされていたのに！境界線を越えるジャーナリストは皆銃殺された！でも私だけは命からがら生き延びた！つまり、肝要なのはそのテロ屋どもは核兵器を所有していたという事だ！ダイヤに秘密だがそこは携帯基地局やレーダーが吹っ飛ばされた後の圏外だった！だから情報が入ってこなかったんだ！みんなが知らないうちに、核の脅威が迫ってたんだよ！ いいから聞け！そこでそういつらをフギンが殲滅したってわけだ！ムニンはフギンが自由に動けるようにするためにパーク内でザク少佐を演じる事が仕事だったんだ！その間フギンは赤の他人として軍備を整え中東に再び侵攻した！１０年前の戦争の時と同じように！資金源はダイヤモンド鉱山だと聞いている。秘密はダイヤだ！ おい！聞け！無視するな！君が訊きたいのはこういうことだろう！？なあ！ [記録終了] 補遺: そのあとは延々と支離滅裂な言動を繰り返すばかりで、インタビューは要領を得ませんでした。我々はこの内容を事実無根として近日削除することを決定しました。

 

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-関連Tale

風の流るるまま刻は過ぎ行く
著: Neko3さん

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^{Tale 負の遺産 クライシス・オブ・ジャパリパーク}