私は誰よりもフレンズ達を愛していたつもりだ。
しかし、そんなことは無かったのだ。
だからこの命を絶つことを決意した。
誰が拾ってくれるかもわからないが、最後に僕の胸中をここに書きなぐり遺そう。
パークはどうしようもない異変に襲われた。キョウシュウエリアの火山が噴火し、セルリウムという物質の作用でセルリアンは大量発生。セルリアンハンターと呼ばれる戦闘に長けたフレンズは皆駆り出された。まるで戦時中の徴兵のようにね。弱音一つ吐かず仲間のためと奮闘する彼女達の純粋さはこんな時でも僕の心を潤してくれた。
アニマルガール向けの診療施設に勤める医者である僕は、当然負傷したフレンズ達の治療を行うこともあった。傷つき、時には五体満足でない子もいた。神経を侵食するセルリアンに取り付かれた痛みのあまり死を請う子すらいた。
全員、僕が救ってきた。失われた手足は最適な義手義足を発注し、神経に取り付いたセルリアンは塩化ナトリウム水溶液を主成分とした薬品や、外科手術を用いて取り除いた。彼女達を愛しているから皆を救える限り救う。当たり前だ。生命を尊び慈しむことはパークにいる人間であれば当然だろう。
今になればわかるが、パークからの完全退去は避けられないだろう。僕だって彼女達の治療に尽力して、運命を共にするか、あるいは最後まで残って治療を施してからパークを去るかすればこの心も壊れることはなかったはずだ。自分が無力ゆえに何もすることができず、自分が人間であるために彼女達の代わりを努めることも、苦しみを分かち合うこともできない。そんな状況が続き僕の心は壊れた。
セルリアン管理番号CEL-1-835/PU、通称“シャドウ”と呼ばれるセルリアンがいたいる。極めて小さい実体と、フレンズの“影の中”に寄生する性質、そして徐々に輝きを蓄積して成長すると、フレンズに激痛を与えながら絶命させ、その輝きを奪い増殖する恐ろしいセルリアンだ。女王事件の収束と共に奴等は完全に駆除されたと言われていた。
そう、言われて「いた」のだ。やつらは地中深くかどこかで息を潜め、休眠していたのだ。例の異変が起きてしばらく経ってから原因不明の激痛を訴えるフレンズが現れた。僕はこれがシャドウの症状であると確信し、倉庫の奥から血液製剤“ミストルティン”を持ち出してすぐに治療した。そしてそれと同時に強い不安を覚えた。
この血液製剤は特定のフレンズの血液からしか作れないのだ。定期健診の欺瞞情報で献血し、密かに製剤してパーク内の各医療機関に運搬されていたのだが、保存期間もそれほど長くないことから数があまり多くなかった。そして次が重要で、この薬品が“ミストルティン”と命名された由来、それは絶滅種やUMA由来の肉体のけものプラズム形成率が50%を超えるフレンズには効果がないことだ。
神殺しのミストルティン、実に皮肉な名前だよ。パークがこんな状態じゃ特別警戒プログラム“攘夷”による予防もままならない。
僕の管理権限はGENERAL-2 / MEDICAL-5だ。だからシャドウの報告書にある隠された部分を読んでいた。
血液製剤“ミストルティン”は絶滅動物や幻獣のような肉体のけものプラズム形成率が50%を超えるアニマルガールには効果が無いことが実証されています。この場合は速やかに欺瞞情報“集中治療”によって殺処分を行ってください。
偽善を振りかざすことで被害を拡大させてはならない。我々は失敗した。――████
そしてついに恐れていたことが起きた。
絶滅動物に由来するフレンズが激痛を訴えて僕の元に来た。
あんまりだ。あんまりだあんまりだあんまりだ。
パークは僕にフレンズを殺すことを要求した。
僕の診療所にも隔離施設はあった。
ひとまずそこに彼女を案内した。
悩んだ。
もし僕が彼女達を真に愛しているなら
決心して安楽死をさせてやるべきだった
僕は失敗した
パークは二度目の失敗をした
僕の振りかざした偽善のためにシャドウの感染者は爆発的に増えた
ミストルティンは底をついた
原料のフレンズから献血も行える状況じゃない
悔やんだ
シャドウは人間には寄生しない
一緒に死ぬこともできない
僕は薬品の保管室に行った
もう我慢などできなかった
もし僕が本当に彼女達を愛していたなら
犠牲を少なくするために最善を尽くし続けただろう
僕の愛などまやかしでしかなかったんだ
救世主気取りのナルシスト
自己満足のクズ
すぐに逃げる弱虫
生まれたときから何も変わらない
だから僕はここで終わる
こうしてまた逃げるんだ
弱虫
みんなごめん
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