不純なる動機

ページ名:Tube_Fox_Not_Midori

それは、ある夏の出来事


“僕”は見てしまった。

突然どこからか現れた大人が、子供に話しかけている現場を。

間違いなく事案だ。普通は通報するところだろう。

でもしない。というかできない。
だって巻き込まれるかも。動いたら気付かれる。

大人は何か話しかけている。そして何かを手渡す。
なんだあれ・・・ネックレス?

そして大人は姿を消した。

 

今思い返せば、どうやって消えたのか思い出せない。
とりあえず僕はその場をあとにした。

 

 


数日後、雨の降る日。
その子供が神社の裏に駆け込むところを見てしまった。

 

その夜。こっそり神社の裏に行ってみた。

キツネがいた。しかも小さい、子供だ。
近くにパン屑が落ちていた。

そっか。あの子供はこのキツネを・・・・。

 

 

数ヶ月後、何の因果か、キツネに出会う。
その子は、どこからか庭に迷い込んだ野良。見つけたのは母親。
雨の中で見かけたのは違う。

そのキツネは、アカギツネと呼ばれる種類らしい。
飼い主はいないかの届け出をし、暫く預かることになった。


その間に不思議なことが起こり出すようになった。

宝くじで一等、大金の積まれた忘れ物、とにかく“裕福”に繫がる奇跡が何度も起きた。
この子を拾ってからだ。こんなに我が家が潤うのは。

数ヵ月後、届け出に反応する声もなく、飼うことが決まった。

母はこの子を「ミドリ」と名付けた。豊穣の神たる稲荷神の生まれ変わりやもしれぬと豪語し命名した。アカギツネなのにミドリなのは、まぁこの当時突っ込んだけど。
うちは貧乏というほど貧しいわけでは無かったが、これも何かのご縁なのだろうと都合良く解釈し、その子を迎え入れることとした。

得た金で、得た縁で、大抵のことが上手くいった。いつの間にか僕も染まっていた。

しかし、その幸せも永くは続かなかった。


ある日、父が死んだ。
原因不明。真相はわからない。


そして、母も死んだ。
父が死んだ反動の暴飲暴食によるツケだ。


数日後、独り身のこの家に差し押さえが来た。
一体どういうことだろう。父は何をしでかしたのか。


家を手放し、ミドリと共に祖父母の家に行くこととなった。
地元は近くにお寺があった。念仏でも聴いてれば少しは変わるかもと思い訪れた。

 

ミドリは取り憑かれていると、霊媒師に言われた。
曰く、「生まれながらにして裕福、そして災厄を招く」らしい。
とんでもないことだ。現にそうなってしまったんだから。
そしてお祓いやら除霊やらしてもらった。その後日から、気分的には前向きになった。


ある日テレビを見ると、とある島のテーマパークのコマーシャルが流れた。
この子にはもう妖怪の類は居ないはずだ。今どういう心境なのか、聞いてみたくなった。


やがて親戚の叔父さんに連れられ、ジャパリパークに遊びに来た。
繁栄している。そこに陰りは・・・・僕からは見えない。

昼間に銀色のキツネのアニマルガールに相談したところ、「“女々しい男ね。他人の心配よりまず手前の心配をすることだわ。”って言ってるわね」と意訳された。そんな男気口調かな、メスだよコレ?


その夜、ミドリと二人きりで森の道を散歩した。
意味は特にない。自然に触れたいと思ったからだ。それに今まで、目先の欲望ばかりに囚われ、この子をちゃんと見てなかったようにも思ったので、まぁアレだ・・・仕切り直しだ。
これからは、ちゃんと面倒を見よう。


直後、背後に何かが襲いかかってきた。
鳥だ。デカイ鳥だ。後に知ったけど、カンムリクマタカというらしい、しかも大型。
咄嗟に頭を守る為に両手を後ろに回した。その為に、抱えていたミドリを落としてしまった。

その鳥に両手を蹴られ、子供だった僕は前方に押された。

その先は、川であるというのに。

 

 

 


翌朝、ずぶ濡れの僕は救助された。奇跡に近い生還だった。
叔父さんにはこっ酷く怒られた。僕も安堵で泣いていた。


ミドリは・・・・・数日後に亡くなった。
発見当時はまだ生きていたようだけど、病院で息を引き取った。

そして何の仕打ちか、その骸が忽然と消えた。
捜索は続いたが、僕が「もういいです、ありがとうございました」とお願いして止めてもらった。

あの日、庭に現れたキミは、僕らに何を運んできたのか。
死んでもそのカラダは供養できず、そのまま消えるし。

もしかして、除霊は失敗していたのか。
それとも、僕に申し訳ないと思って、僕の前から消えたか。

「生まれながらにして災厄を招く」、霊媒師はそう言った。なら前者かもしれない。
ああ、不幸な日々だった。少なくとも、僕の家は破綻した。でも“キミ”は悪くないよ。この日を待っていたんだろ?いずれ訪れる神秘の島で別れようとしたんだろ?


なら、少しの間だけ待っててくれ。今度こそ君を楽にしよう。
キミは、いや、お前なんかオイナリサマなワケがあるか。

 


お前の名は、妖怪“クダギツネ”!!

 

 

終わり。


Tale

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