飛行機の窓から、青い海に緑の島々が浮かんでいるのが見える。
あれが俺たちが修学旅行で一か月過ごす、『ジャパリパーク』だ。
修学旅行...というのは俺たちが『LAS学園』の生徒だからだ。うちの学校は『LASAPO』という組織が運営している。
LASAPO、通称LASは数ある動物保護団体の一つ。だが、動物保護だけではなく身寄りのいない子どもたちに教育の場を与えたり、災害時に被災地復興ボランティアや救助活動を行ったりしている。このジャパリパークも以前なんらかのトラブルがあってその復旧作業をLASが協力したらしく、それ以来ジャパリパークとLASの関係は良好。ついには修学旅行まで提案してくれた。
...そして察しての通りここにいる生徒は俺も含めて全員家族がいない子どもだ。
といっても、実際みんなは家族がいないことを悲しんだり「普通に過ごしている人」と比べて劣等感を感じたりはしていない。なぜなら、俺たちが、生徒たちが、LASの職員までもがみな≪大切な仲間≫だからである。普通に過ごしてきた人間たちより大切なものが多い。それだけで俺たちは十分幸せだ。
「すげー!まるで南の島じゃねぇか!ヤシの木とかあるのかな!!」
と、隣の席に座ってる優斗が興奮気味に窓からジャパリパークを見下ろす。佐々木優斗は俺の親友の中の親友だ。俺たちは二人でバスケットボール部の主将をやっている。
おぉ~、と他の生徒も感嘆の声を上げ、窓から外を見る。
自分も、慣れない飛行機の揺れに耐えながら外を見てみると、そこには絶景が広がっていた。
「おぉ...!」
思わず声を出す。初めての飛行機で若干修学旅行が嫌になりつつあったが、この景色を見て酔いに耐えた甲斐はあったかな、と思った。
着地の衝撃が思ったより強くてびっくりしたのもつかの間、機内にアナウンスが流れ、俺たちはその指示に従う
「あ~...まだふらふらする...」
「あれ?鋼夜って乗り物ダメだっけ?」
森月鋼夜、俺の名前だ。
優斗が不思議そうに聞いてくる。
「まぁそれもあるけど...俺高いとこダメなんだよ...」
「その身長でか~?」
「うるさいな」
...俺は身長186cmあるが、高所恐怖症なのだ。それゆえにたまにこーやってからかわれる。もう慣れたけど。
その後、パークの人たちから説明を受け、班行動することになった。俺たちの班は、親友の佐々木優斗、小太りで大食いの横山翔太、バレー部主将の木内咲良、同じくバレー部の鈴木唯。そして俺、森月鋼夜の5人だ。
パークガイドさんの案内を受けてまずは「セントラル」と呼ばれるエリアを見ることになった。そこではさまざまなアニマルガール...フレンズを目にした。見たこともない動物が沢山だった。
例えば...
「あなたたちはお客さんかな?!ようこそ!ジャパリパークへ!私はサーバルキャットのサーバルだよ!」
「サーバルキャット...?」
「簡単に説明すると、サバンナに住むネコ科の動物ですよ」と、ガイドさんが教えてくれた。
「サバンナ...?どうして空港に?」
「えへへー、お客さんがたっくさん来るって聞いてついここまできちゃったよー!!」
「そうだったのか、わざわざお迎えに来てくれてありがとうな、サーバル。」
と、いったように最初は人間のコスプレかと疑うくらい人間にそっくりな姿をしていた。しかし、行動は元動物に依存しているような気もする。俺たちは、動物園にきた感覚でジャパリパークに降り立ったが、
実際は動物園とは似つかない、とても不思議な世界だった。日本にある動物園がどれも安っぽく見えるほどに。言い換えれば、俺たちはこの世界に魅了されてしまったのだ。
そしてガイドさんの説明もとても上手だ。俺たちが何に興味を示しているのか、まるで心でも読んでいるかのように何も言わなくても的確に説明してくれる。そのうえわかりやすい。
期待の修学旅行、一日目はここで終了。セントラル内のホテルに泊まることになった。
二日目は、LASの支部がある「ホートク」と呼ばれるエリアに向かうことになる。ここからホートクへは徒歩だと時間がかかりすぎるため、電車を使っての移動となる。
俺たちはここで、スケールの違いを見せつけられることになる。パークからパークに移動するのに電車が必要なのだ。もはやここが動物園だということは二日目にしてみんなの頭の中から消え去った。乗り継ぎや、軽くホートクの案内を受けて、なんだかんだで結局あれから数時間、昼時となった。LAS支部は目と鼻の先だが、近くに飲食店がある、ということなのでそこで昼食をとることにした。場所は「オクバネふるうつ」。野菜、果物専門店で、鳥系のフレンズに大人気なんだそうだ。中に入ると丁度俺たち6人分の席が空いていた。各々、注文を取り、そこで新鮮な野菜料理を食べた。
食べてる途中、一人の少女が目に入った。あの顔...どこかで見たような...?
オクバネふるうつを出た後、俺たちは徒歩でLAS支部に向かう。ここから徒歩五分だそうだ。
「歩き疲れた!」
遂に翔太が悲鳴を上げる。
「翔太、それは日ごろの運動不足のせいじゃない?」
と、唯が彼の日ごろの生活習慣を指摘する。
実際、彼はほとんど運動したがらない。食うことと寝ることが唯一の幸せ...という典型的なおデブちゃんだからだ。
しかし彼にもいいところはある。それは頭の良さだ。
将棋部の主将であり部長である彼は、いまだ学園内無敗である。おまけにテストの結果も常に上位十位以内に入っている。人は見かけによらず、という言葉が一番似合いそうな人間だ。
LAS支部についた。見かけは本部とは大きく異なるが、ところどころに本部のような雰囲気を感じ取れる。
ここでは、動物保護を担当するチームは動物だけでなく、フレンズ達も保護してるそうだ。LAS支部の生い立ちや今の状況の説明を受けながら、二階に上がっていく。二階には食堂があった。翔太はここで少し休むと言っていたので、俺たちは先に宿舎に向かうことにした。まあ大体翔太のたくらみは目に見えるが。
食堂の奥に、宿舎へとつながる渡り廊下があった。俺たちは、宿舎の二階と三階から合計五部屋借りることになっている。今回はここに二泊だ。
そして俺たちはそれぞれ指定された番号の部屋に向かう。翔太の部屋番号はメールで伝えておいた。
さて...俺の部屋は二階の一番奥なわけだが...
進んでいくと、突き当りに階段が見える。どうやら俺の部屋は階段の隣らしい。ドアノブに手を触れ、鍵を差し込もうとしてふと思いとどまる。
あれ...?ここ本当に俺の部屋か...?名前が書かれたドアプレートがかかっている。これ、職員さんのミスか?
「あの、すみません、俺にわりあてられた部屋が職員さん?の部屋だったんですけど。」
と、近くを通りかかった職員さんに声をかける。あ、この人は見たことがある。イザベラさんだ。この人に限らず、元々本部から派遣されてここに配属されている人は大体わかる。
「ん...?あぁ、鋼夜君じゃない。」
「あ、覚えててくれたんですか。」
「当然じゃない。あの大会の君はとてもかっこよかったわよ。」
「ありがとうございます。」
まさか優勝した大会を見に来てくださっていたとは...俺はバスケ部のキャプテンとして素直に嬉しかった。
「それで、部屋...ね...あら、この部屋は...」
そういってイザベラさんはドアプレートを取る。
「取っちゃって大丈夫なんですか?」
「ええ、ここは職員じゃなくてフレンズの部屋だったのよ。部屋の主はもういないけどね。それと部屋も多分初期の状態に戻ってるハズよ。」
「ありがとうございます。」
そうだったのか。確かに今まで見てきたフレンズ達もみな自由奔放だった。なら、ここに住んでいたフレンズもきっとそうに違いない。いわれてから気付いたことだが、確かにドアプレートに書かれた名前が職員にしては単調だと思ったのだ。
そのプレートには【ルナ】と書かれていた。
部屋はすごく質素で、白を基調とした家具が多かった。
それと、意外にきれいな部屋だったので少し見惚れてしまった。すると、翔太からメールが来た。なんだ?部屋番号は確かに伝えたはずだが...
『たすけて』
...正直意味が分からない。食べ過ぎで動けなくなったのか?とりあえず食堂まで行ってみるか...
食堂では、二人の男女が言い争ってるように見えた。一人は翔太だ。もう一人は...ん?あの時オクバネふるうつにいた少女だ。
「あ!鋼夜!助けてくれよ!」
「なんだよー!逃げるのか?」
あぁ...思い出した...この少女は...
「おい、Athena、そこまでにしてやれよ。翔太が困ってるだろ。」
「!鋼夜じゃーん!おっひさー!元気してたー!?ここにいるってことはー...私に会いに来たのかなー?!やっぱり私がいなくて寂しかったー?!」
「んなわけあるか、修学旅行だ。」
「はぁー?なに私抜きでたのしそーなことやってんの!?」
「いや、だってお前職員じゃん...」
疲れる...今すぐにでも逃げ出したい...翔太は......あっ、あのヤロー俺を置いて逃げたな。
くそ...あいつの晩飯盗み食いしてやろうかな...
「あ、それと鋼夜たちの班は私が担当することになったから、よろしくねー!!」
...なんだか嫌な予感がするのは俺だけだろうか。
この修学旅行は...例年より楽しいものになるのだろうか...それとも......
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