「そういえばイザベラ、あの子達ってなんであんなに焦ってるのさ?」
隕石の情報処理で忙しそうにしてる職員をしり目にAthenaは私にそう聞いてきた。
あの子達...ルナやジョウガ達のことだろうか。
「焦ってる、というのは?」
「ほら、他のフレンズ達ってみんな穏やかに過ごしてるのにあの子たちだけ異様にピリピリしてるでしょ。私がいうのもなんだけどさぁ~、アポロなんてほったらかして遊べばいいのに。」
確かに。彼女たちはジャパリパークのみんなと比べて少し過激的ではある。
しかしそれには理由がある。恐らくAthenaもなんとなく察しはついてるだろう。そのうえで聞いてきたかのように彼女の顔は満面の笑みだった。
「はぁ...あなたも性格悪いわね...」
「いくら私が動物のココロが読めるからと言って過去を知れるわけではないからね。ささ、わかりやすい説明頼んだよイザベラ君。」
だそうだ。全く、図々しいヤツである。
話さない限りここから出してもらえそうなので仕方なく話すことにした。
「はぁぁ...彼女たちには私が話したってことは内緒ね。どうせ喋るでしょうけど。」
「ご名答!!!」
「あのねぇ」
そう自信満々に返事されても困る。
__彼女たちは女王騒動時からパークにいるフレンズである。そして悲しいことに、あの時の騒動で何人かの仲間を失ったそうだ。当時、ルナはまだ野生解放というものを何なのか理解していなかった。初めて野生解放した時もセルリアンに相当追い詰められてからだったらしい。つまり、彼女は仲間が自分をかばって倒れていくのを何度も見ていることになる。つい先日まで楽しく笑いあってた友達を唐突に失うのだ。目前の危険を放置することができないのは、そういうことらしい。一見リーナもルナと同様に焦っているように見えるが、彼女よりは幾分か冷静である。
という説明をしたら、Athenaは「あぁ~やっぱりね~」とだけ言ってその場を後にした。顔は笑っていたがその目にいつもの無邪気な、いたずらっぽさはなかった。
LAS支部の職員たちは、そろそろ彼女たちを安心さてやらねば、と思い始めてきている。
保護している対象として、ではなく長らく一緒に暮らしてきた「仲間」あるいは「家族」としてである。
彼女たちの様子を見ていると、いつか無茶をするのではないか、と不安になる職員も多い。実際私もそうだ。しかし、具体的な解決策が思い浮かばない。
私は場の空気を読むのは得意だが、他人の心を理解するのは苦手である。以前もニホントカゲの子を怒らせてしまった。こういうときだけ、少しAthenaが羨ましかったりする。
「...そういえば」
なんとなく嫌な予感がして私は最近配備されたばかりの環境調査型ラッキービースト、通称クローバーに向かってこういった。
「クローバー、今日の天気は?」
「雨ダネ。」
「...降水確率は?」
「90%ダヨ。」
嫌な予感が的中した。今日もしかして月出ないんじゃないのかしら...
何もないといいけど...
「...くるわね」
ルナがそういうとミイラ型のヒビがさらに大きくなる。
一応水で囲んではいたが、三人は身構える。
「あれは...ギアーズ...?」
中から出てきたのは意外にもあのギアーズである。
しかし、あの時見たギアーズとは違い、黄色い三角マークがいくつか付いている。彼女ら二人は少し混乱していた。
「推測だけど、まさかあいつ、セルリアンすらコピーするの?」
ルナの推測が当たっていれば、目の前にいるのはギアーズではなくミイラ型ということになる。
「...なるほど、もしそれが本当なら厄介ね。」
「セルリアンがセルリアンをコピーする。か、なんとも厄介だな。」
しかしセルリアンは水の中で思うように動けていない。或いは新しい体にまだ慣れていないのか。
くるくると回転して水中から出ようと試みるがセルリアンの努力もむなしく水から出ることはできなかった。
「早いうちに石を壊しておこうかしら...模倣したのがギアーズなら弱点があるはずだけど...」
ルナがギアーズの石を叩こうと近寄ると湖の水が不自然に跳ねる。
後ろでそれを見ていた二人は魚か何かだろうと思って気にしていなかった。ルナも同様である。
そのとき、湖から水色の何かがルナめがけて飛び出した。あぶない!とリーナは声をかけるが心の中ではルナなら避けられるだろう、とさして心配はしていなかった。が、リーナの期待も悲しくルナは水色の何かに湖の中に引きずり込まれた。あのセルリアンは見たことがある。セイレーンだ。昔の仲間も何人かあれにやられている。人やフレンズを襲うときは水の中でじっと待って、近づいたら体に巻き付き、水の中に引きずり込むのだ。
「おい!ルナ!」
セイレーンは第一世代のセルリアン。ルナも見たことがあるはず。
なにやってんだ!と声を出そうとした瞬間、ほっぺに冷たい感触が走る。湖の跳ねた水ではない。ふと空を見上げると黒い雲が空を覆っていた。雨だ。
「月が...出ていない...まさか...!」
「はぁ、これだから”オモテ”は!」
と若干ヤケになりつつもジョウガは後を追う。
「おいまて!一人で突っ込むな!水中は奴の独擅場だ!」
彼女は警告を聞かず、水の中に入ってしまった。水中は兎にとって苦手地形なはずだ。
リーナも後を追おうとしたがギアーズを思い出した。
私にとって水中は特異地形だった。それでも、全員が湖に飛び込むのはまずい気がしたのだ。仕方なくルナはジョウガに任せることにした。リーナは目の前でもがいてるギアーズと向き合った。
(こいつ...倒してもいいのか?確か中途半端に倒すとアポロは姿を現さないはず...倒すなら全て倒さないと...
いや、でも待てよ?こいつはミイラ型がギアーズをコピーしたものだし...)
その心配はないか、と水の中に手を入れてギアーズを裏返し、石を割った。
ギアーズの撃破は簡単だったが、辺りの警戒は解かない。こいつらの強みは群れだ。一体一体が弱くても...ん?
そこでリーナは遂に気付く。忘れていたのは水のココロではない。そうだ、私たちフレンズは...
待つこと数分。ジョウガがルナをわきに抱えて湖の中から姿を現した。
そしてルナを木陰に下した。
「ルナは?」
とリーナがジョウガにルナの安否を尋ねるが、ジョウガは答えない。不愛想な奴...と思いつつルナに駆け寄る。
「おい、ルナ、起きろ!」
とルナに触ったリーナの顔が青ざめる。
「今、触って思った通りよ」
「ま、まさか...」
ルナから体温が感じられない。連想したのは死。だがそれはあり得ないはずだ。フレンズが元動物に戻る話は聞いたことがあるが、死ぬだなんて話は聞いたことがない。きっと、湖水で体温が下がっているだけだろう。そう自分に言い聞かせてるとジョウガが口を開いた。
「フレンズって...死ぬのかしら...」
「それは...元動物に戻るって話か?」
「いいえ、フレンズという生命体としての話よ。」
「それはないんじゃないか。今までそんな話一度も聞いたことがないぞ。」
それに、とリーナは続ける。ジョウガと話して少し冷静になったのか、ルナの首元に手を当てる。
その感触は温かかった。脈もある。
「ルナは一度寝ると二時間は目を覚まさないからな。そのことをすっかり忘れていたぜ。」
そう、ルナは体質上生活周期が月に依存している。月が隠れると彼女は異常なほどの睡魔に襲われ、行動ができなくなる。今回のがそれだろう。普段なら雲ぐらいで寝たりはしないのに...と思ったが、空を見てみるといかにも分厚そうな雨雲だ。私はルナを連れて帰ろうとする。
「そう...ルナは生きてるのね。私は他のフレンズと滅多に関わらないからそういう情報に詳しくなくてね。死んだのかと思ったわ。
「もう少し他のフレンズと関わった方がいいぜ。お前マジで戦うことしか頭にないだろ。私も最近忘れかけてたけどな、ここはジャパリパークだぜ?”困難は群れで分け合え。”そうだろ?なにもお前ひとりが悩むことじゃないさ。」
「...そんな言葉、聞いたことないわ。」
「だろうな、一度森の賢者に会いに行ってみたらどうだ。少しは考えが変わるかもな。脳筋。」
「な、なんですって...!?」
「おまえが脳筋じゃなかったら誰が脳筋になるんだよ!」
気のゆるみからか、ジョウガとリーナはしばらく互いをからかい合っていた。
その後、ルナが目を覚ましたかどうかは彼女たちにしかわからない。
その後、ジョウガは他のフレンズのように楽しく生きることができるようになったのか、それも彼女たちにしかわからないだろう。
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