第7話 もう一人の月兎

ページ名:第7話 もう一人の月兎

 

「邪魔するよ」

 職員が見つかり、半ば気が緩み始めたLASに黒いフレンズが訪れた。
姿格好はまるで私そのものだった。

「ルナ...じゃないよな...めちゃくちゃ似てるけど...」

リーナがそういうほどに私達は似ていた。

「ルナ...ね、時間が経って少しは変わってるかと思ったら...大して変わらなそうね」

「...そういうあなたこそ昔のままじゃない。ジョウガ」

ジョウガ、それが彼女の名である。彼女の見た目は私を黒くしたようなもので、胸には中国旗のようなものが描かれたリボンを付けている。

「それで、何の用かしら?」

私がそう問うと、彼女は天井に人差し指を向けてこう言った。

「あと7秒」

その7秒後、地面が大きく揺れる。はじめは地震かと思ったが、彼女の様子からしてこれはジョウガの”能力”だ。
私は以前に見たことがあるからなんとなく察しがついた。

「なんだ!地震か!?」
「大変です!このパーク内に隕石が落下した模様!」
「なんだと!?」

LASの職員たちはこの通り大混乱だ。無理もない。それが彼女の能力なのだから。

「北の方でセルリアンを見かけたからトドメをさそうとしたところ。まぁでも、あの程度じゃ野生解放するまでもなかったかな。」

北の方...まさかヤマドリがいる方角!?彼女はまだ帰ってきていない。
そう不安げにしているとジョウガは私にこう言った。

「心配しなくていいわよ。あの鳥のフレンズはよくやったわ。いや...頑張りすぎて倒れてるかも...でもまぁ、彼女は無事よ。」

...彼女の言っている意味が分からない。それは無事なのか?

「私はとあるセルリアンを退治して回ってるんだけど、たまたま彼女と出くわしちゃってね、凄い歌だったわね。あの歌のおかげで難なく倒せたわ。」

なるほど、大体だが言おうとしてることが理解できてきた。
つまりヤマドリは”ドラミング”でセルリアンを気絶させたはいいが、自身も本気を出し過ぎて軽いサンドスター不足になってるってとこか。

「さて、あんたたちに見せたいものがあるわ。こっちに来なさい。」

そういって、ジョウガが外に出ようとすると...

「まて!お前は何者だ!隕石を落としたのはお前なのか!?少し話を聞かせてもらう!」

と、うちの職員に引き留められる...まぁこうなるわね。
はあ、とジョウガはまるで酔っ払いのオヤジに話しかけられたかの如くため息をつき、職員をにらみつけてこう言い放つ。

「止められるものなら止めてみたら?どうせ無理でしょう?黙ってなさい。」


 


 

 

~LAS北東の湖~

 

「それで?見せたいものって?」

「あれよ」

ジョウガが手を向けた先には包帯のような何かで巻かれた球体があった。

「あれは...たしか...!」

リーナが何かを思い出した。そうだ、アレは確かLASの玄関前の粗大ごみ置き場にあったものと同じだ。なぜここに...?

「見たことあるかしら?あれはセルリアンよ。一目見ただけじゃわからないけどね。」

「あれがセルリアン?石も目もないじゃない」

「石がないのはこいつが第一世代のセルリアンだから、ね。目がないのには少し説明がいるわね...順を追って説明するわ。」

 ジョウガの説明はこうだった。
 まずアレは第一世代のセルリアン。つまり女王セルリアンがいたころの個体だ。だから石はない。当時のセルリアンは周りから”輝き”と呼ばれるものを奪っていた。目的は分からない。また、奪ったものに変形することもある。完全にコピーはできないはずだ。だがあのセルリアンは奪ったものに関係のある姿に必ず変化するようだ。今の目のない状態というのは変化している最中で、それが終わると外殻を破って出てくるらしい。さなぎのようなものだろうか。
 私達は変化中の今が倒すチャンスなのでは、と提案したが却下された。あの状態になってしまったらほとんど攻撃が効かなくなってしまうらしい。ジョウガも月兎。野生開放に違いはあるものの戦闘スペックは私とほぼ同じである。彼女が月の公転速度で殴っても壊れないというのだから破壊はまず無理だろう。
 余談だが、彼女の能力は先ほどの通り、隕石を落とす能力である。落とす__というよりは自身に引き寄せる自滅型の能力だ。引き寄せる隕石の個数や大きさは月の満ち欠けで変わる。満月ほど大きく、少ない。新月に近いほど小さく、多く自身に引き寄せられる。
___当然のことながらこの能力は使用するとかなり目立つ。今まで一個も落ちてこなかったことを考えると、あの時私と出会ったとき以降は使ってないか、或いはCDC等の人たちに隠ぺいされてるか。
よって彼女が戦う時はほとんど自身の戦闘スペックに身を任せる。能力は使わない。先ほど使ったのは威嚇のためだろう。

「で、こいつはいつ出てくるんだ?」

「さあね。いつもなら輝きを奪ってから平均二時間ぐらいで出てくるけど、奪った時間がわからないからね。」

「そうか」

リーナがうなずいて、水を具現化し始める。

「ちょっと、何してんのよ。攻撃は効かないって言ったでしょ?」

「あぁ、だから今のうちに先手を打っておくんだ。」

リーナはそういって半径2mほどの大きな水の球体を作り、あのセルリアンが中心に来るように水を誘導した。

「仮に出てきたやつがすばしっこいやつでもこれで封じれるし、何より空気なくて呼吸できないだろ。まあセルリアンが呼吸してるかはわからんが。」

「ふぅん。便利な能力ね。」

「だろ?」

「でも」

「でも?」

「能力に頼ってると足をすくわれるわよ。」

能力を使わず自身の力のみで多くのセルリアンを倒してきた彼女の言葉には説得力がある。それはリーナも重々承知していた。

その時、あのセルリアンにヒビが入った。


 

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