第6話 ヤマドリの本気

ページ名:ヤマドリの本気

「はぁ~?職員が一人消えたぁ?」

ルナがあきれた声を上げる。せっかくの楽しい日常を邪魔された苛立ちか、自分たちのことぐらいは自分たちで何とかしろ、と言わんばかりの口調だった。

「それで、最後に見たのはいつなの?」

それでも結局協力してしまうのがルナというフレンズなのだ。LASの人たちにはお世話になってるし、たまには恩を返さないと...とでも思っているのだろうが、彼女は嫌な予感がしていた。それが一番の理由である。

「昨日の晩よ」

 昨日の晩。その日は新月で彼女は一日中寝ていた。そういう体質だからである。それを聞いたルナは正体不明の焦燥感に駆られていた。

 

 しばらくして、その職員はLASから南西のほうで見つかった。が、無事ではなかった。
彼は気象観測チームの一員で常に白衣を身に着けている、いかにも研究者という感じの男だった。

 彼が帰ってきたとき、その白衣はズタズタに引き裂かれ、顔にもいくつかの傷がみられた。だがそんなことより、彼には「輝き」がないように感じられた。人一倍テキパキしっかり仕事をこなす彼が、今では自殺をぼやいてるレベルだった。彼女___ルナはこの症状を見たことがある。

 かつて、女王と名乗るセルリアンがパークにいたころのセルリアンは周りのありとあらゆるものから『輝き』を奪っていた。輝きを取られた人間はやる気を失ったり、彼のように自殺を志願するようになったりと、ネガティブな性格になってしまう。その奪われた輝きは、基本的には奪ったセルリアンを倒すことで元に戻る。が、そうならないときもある。

ルナは一層迷惑そうな表情で彼を一瞥し、外に出た。

 


 

ヤマドリはLASよりの北の方を探していた。そのため、彼がすでに見つかっていることを知らない。

 

「どこにいるんだろー?おーい、職員さーん」

 

言葉は当然かえって来ない。が、近くの茂みがガサガサと返事をする。

 

「うん?職員さん?」

 

その時、茂みから現れたのは、まるで白衣をまとったような恰好をしたセルリアンだった。

 

「!」

 

 ヤマドリは目の前にいるのがセルリアンだとわかったとたん、目つきが変わった。
手にはフレンズ固有の武器である『羽根型のナイフ』が具現化されており、戦闘態勢に入っていた。そしてセルリアンも近くの石を拾い上げ、それをヤマドリに向けて投げてくる。それをヤマドリは余裕でかわし、空を飛んでセルリアンの背後にまわった。

(...!石がない...!?)

 彼女は数年前の女王襲撃事件を体験していない。ヤマドリが生まれたのはそのあとだったからだ。
ゆえに、セルリアンには必ず弱点となる石があり、大型のセルリアンならば見えなくとも埋まっているだけという事しか知らない。つまり、彼女にとって石がないセルリアンは弱点のない存在に見えた。

(どうする...このまま引く...?それとも...)

 ヤマドリは目の前のセルリアンに対してかなり恐怖していた。あのアポロでさえ弱点はあったのだ。
が、それでも好奇心のほうが強かった。

(強いならちょうどいい...!試したいことがあったんだ...!!)

試したいこと、とはフレンズの『わざ』であった。

ヤマドリは自身の歌の下手さを十分理解していた。歌のひどさならトキとタメを張れるだろう。
普段はもちろんのこと、あの時も抑えて使うように言われてる「わざ」も今は一人。安心して全力を出せる。

「野生解放!『ドラミング』!」

辺りに凄まじい轟音が鳴り響く。

ミシミシと木々は悲鳴を上げ、大地が震える。さすがのセルリアンもこれに耐えきれなかったのか、気を失ってしまった。


 一通り『歌い』終わるとヤマドリはいかにも疲れ切った顔でその場を後にした。
全力で歌って気を失わせられれば上々だろう。なにより彼女は自分だけではアレを倒せないと自覚していた。

疲れ切ったヤマドリは知る由もなかったが、近くの木々の葉は全て落ち、地面には亀裂が入っていた。

 


 ヤマドリがその場を後にしたとき、ある一人のフレンズが茂みから顔を出す。

 

「ったく、とんでもない爆音ね。私まで気絶するところだったわ。でも、まさか歌うだけでセルリアンを気絶できるなんて...世の中広いわね。...あぁ...トドメは私が刺すしかないか。仕方ない」


その時、小さな流れ星がパークの空を覆った。

 

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