その日、私はケアとホッカイエリアに探検に来てた。
『超秘境温泉』...ホッカイエリアのどこかにあるっていう、秘密の温泉。 それを見つけるために来てた。
「うぅ......」
「ケイ、大丈夫か...?」
でも、こんなに寒いなんて聞いてなかった......雪?なんて冷たいもの、アマゾンじゃ降ってきた事ないし、風もものすごく冷たい。
足の震えが止まらないし、このままじゃ...。
「ケアぁ...寒いよ...」
「そっか、ケイはこういう寒さってダメなのか...! まずいな、どこかに暖まれる場所は......」
その時、私とケアは同時に見つけた。
雪道の先でこっちを見つめる、一匹の赤毛の狼。
「...あれって...」
「本格的にまずいかも...ケイは後ろに隠れて!」
「うん...!」
ケアは私を背中に隠して枝を拾って、それを向けながらゆっくり狼に近づいてく。
狼は微動だにしない。
「...ケイを食べようったってそうはいかないぞ!私が守るんだからな!」
「...覚えておいた方がいいよ、君。 狼は群れで生活する」
「え...?」「ふ、フレンズじゃないのに喋ったぞこの狼!?」
驚いたのはいいけど、狼の言った通り、いつの間にか周りに同じ狼たちが出てきてた。 完全に、囲まれちゃってる。
「そしてもう一つ覚えておくといい。 『ホッカイには【狼王】がいる』と」
そう言ったのは、狼たちの中から出てきた、フレンズだった。
「ははは、驚いた? 僕はクルトー。 安心して、君たちを食べたりはしないよ」
「ケイちゃんとケア君、か」
「なんで私だけ君付けなんだ...?」
「雰囲気でなんとなく、かな」
......。
「クルトーさんは、なんて狼なんだ?」
「ああ、イベリアオオカミだよ。といっても僕たちが暮らしていたのはパリ郊外だけどね」
「ぱり...ああ! 『ふらんす』っていう国か!」
「よく知ってるね。 フランスの首都だよ。 僕のいた時代は大きな壁で囲まれていたね」
「壁で? そりゃすごいなぁ...」
......。
「...ケイ?」
「...ん...?」
「...寝てたのか?」
「んぁう...暖かくてつい...」
「ふふ、それはよかった。 随分寒そうにしていたからね」
あれから私は、クルトーさんに頼んで狼たちの中に埋まるように混ざってた。すごく暖かくてちょっと寝ちゃってたみたい。
「...アマゾンはこんなに寒くなかったから、凍っちゃうかと思った」
「ああ、君は熱帯出身なのか...冬によくこんなところに来ようと思ったね」
「こんなに寒いところって知らなかったから...」
「それについては私もごめん。ケイが寒いの苦手って今日初めて知ったから...」
「まぁまぁ、遭遇したのが僕でよかったじゃないか。 最近、なぜかセルリアンをよく見かけるからね」
「そうなの...?」
セルリアン。 私も一度だけ見た事があった。
あの時はセルリアンハンターが倒して、後で『見かけても戦わずに逃げるように』って言われた。
「僕はハンターじゃないから戦わないけど、向こうから襲ってくるからね。倒す事もある」
「へぇぇ、クルトーさん強いのか!」
「これでも『王』だからね。 それに倒すときはみんなの力を借りるから、僕が特別強いってわけでもないよ」
「そういえば、クルトーさんは『超秘境温泉』って聞いたことあるか?」
「う~ん...? 人の手が入ってない温水の湧いてくるところって割とあちこちにあるからなぁ...」
「そうなの?」
「なんなら行くかい? ここの近くにもあったはずだよ」
「う~ん...」
「あれって...」
「セルリアン...だよな...」
セルリアンが湧き出てる温泉の周りをうろうろしてる...。 数は、3匹。
「歯車のセルリアンか。 最近減ってはいたけどまだ生き残りがいたんだね」
「どうするんだ?」
「ここは僕たちの縄張りさ。彼らには立ち退いてもらう。 ...ま、話なんて聞いてくれるわけないから、倒さないとね。
ここで待ってて」
クルトーさんはそう言って、狼たちを引き連れてセルリアンの前に立った。
それから、手振りで狼たちに指示を出して、戦い始めた。
狼たちは集団で吠えたててセルリアンを分断して、そこをクルトーさんが攻撃してる。 石は裏面にあるみたい。
「ギギィィィ!」
「ん? ...おっと、そういうことか...そっちを頼む!」
「ウォンッ!」
「...え?」
「ゲッ...ケイ、後ろから別のが出てきたぞ!」
狼たちの何匹かがこっちに戻ってきたと思ったら、森の中から別の歯車のセルリアンが出てきた。
その時、ケアが近くの木の枝を折って構えた。
「こうなったら...あんまりやったことないけどやるぞ!」
そう言って、狼たちに吠えたてられて後ろを向いてるセルリアンの石を思いっきり枝で殴った。
でも、セルリアンは痛がっただけでパッカーンってならなかった。 逆に起こってケアを突き飛ばした。
「うわぁ!?」
「ケア、大丈夫!?」
「いてて...枝じゃあんまり効かないかぁ...」
私は正直、セルリアンは怖かった。
でもその時、私の視界にクルトーさんが飛び込んできた。
「よし...はぁぁッ!」
「ギギ...」
群れのリーダーなのに、あの人自ら前に出て戦ってる。
きっとあの人だって、セルリアンは怖い。でも戦ってる。 それはきっと、群れの仲間や私たちを守るため...
「...やらなきゃ」
「え? ケイ?」
いつの間にか、私は野生解放してた。 両手に鉤爪を生やして、私はゆっくり歩きだす。
「ケイ? ...やる気なのか?」
「私も...自分の力で...!」
セルリアンがこっちに気付いた。身体を回転させて突っ込んできた。
私は咄嗟に鉤爪を盾にする。 私の鉤爪は思っていたよりもずっと硬くて、セルリアンを簡単に弾いた。
弾かれた拍子にセルリアンは裏側を向けた。
「おぉ!? ケイ、今だ!」
「やぁぁぁ!」
力任せに鉤爪で石を叩いた。
そうしたら、セルリアンは糸が切れた操り人形みたいに落っこちて、パッカーンってなって消えた。
「...やった...!」
「すごいじゃん! でもまだいるぞ!私も手伝う!」
ケアが枝を構えてセルリアンに向かっていった。 そのまま一度枝で殴って、セルリアンの気を引く。
私はその後ろから鉤爪で石を殴る。
でも今度のセルリアンは私に気付いた。 直前でこっちを向いて身体を回転させて、鉤爪を弾いた。
「わっ!?」
「ケイ!」
「やるね!」
その時、クルトーさんが飛び込んできて、セルリアンの石を叩いた。 セルリアンは動かなくなって消えた。
「大丈夫か?」
「うん、痛くないよ...終わったの?」
「そうだね、今のが最後の一匹だったみたいだ。 それにしても驚いたな、君の野生解放は爪が生えるのか...」
「うん...でも、こんな風に使ったのは初めて...」
「そうなの? 結構軸もしっかりしてたし、気付いてないだけで実は使いこなせているんじゃないかな?」
「え...」
考えた事なかった。この鉤爪を木登りとかじゃなくて、『戦う』事に使うなんて。
...でも、こんな爪を持ってる鳥は、きっと私だけ。 使い方は、私次第...。
「ケイ? 何をそんな難しい顔してるんだ?」
「え...難しい顔って?」
「なんというか、不機嫌だけど一生懸命っていうか...説明できん!」
「えぇぇ...?」
「疲れたんじゃないかな? ほら、セルリアンもいなくなったし、温泉に入ろう」
鉤爪は本来、大人になったら消えてしまうもの。 だけど、私にはそれがある。
それが神様のくれたものなら、私は―
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