私は木を登り、枝に腰かけた。
チョウシュウ鳥類館(だったかな)でこの姿になった私は、リウキウエリアって呼ばれるこの島に住むことになった。
この島、私みたいな鳥のフレンズもいる。ヒクイドリ、ヤンバルクイナ、ジャイアントモア…だけど、みんな飛べないことをまるで気にしてない。
私にはわからない。鳥は飛んでこそ鳥なのに、飛ぶことをやめたヒクイドリ達が、何故堂々と「鳥」を名乗れるのか。 始祖鳥が鳥と呼ばれたのは「翼があって飛べたから」なのに。
私は一応飛べはする、けどかなり苦手だし、野生解放しても爪が生えてついでに泳げるだけ。これじゃ爪生やしたペンギンだし、爪が重くて飛ぶのが大変。 もしこのまま飛べなくなったら、私が鳥でなくなったら…私は、きっと独りぼっちになる。中途半端な動物になる。
「あ、もしかしてあなたは鳥のフレンズさん?」
声をかけられて振り返ったら、初めて会うフレンズが居た。
全体的になんというか、鳥というよりメモリアルで見た始祖鳥の剥製に近い雰囲気だった。
「…そうだけど」
「やっぱりー!私はディアトリマ」
「…ツメバケイのケイよ」
ディアトリマ。
このフレンズの鳥も、メモリアルで見た。しんせいだいだいさんき…だったか、とにかく割と最近まで地球にいた大きな鳥。
だけどディアトリマもまた、飛ばなくなった鳥だった。
「…あなたはこの島に住んでるの?」
「ううん、私はね〜、自信なくした鳥のフレンズに、「鳥は地上最強!」って事を教えてあげてるんだ」
「…地上最強? 空じゃなくて?」
おかしな事を言うフレンズだと思った。
「うん、私は飛べないけど、全体で見れば飛べるし、かしこいし、カッコいい! だから最強なの!」
「…じゃあ飛ぶのが下手な私は?」
「飛ぶのが下手なのは他に進化したからよ! ペンギンさん達は泳ぎが得意だし、私は足が速くてキックはすごいから!」
私はムッとした。 私にはそんな特技ない。
「木には登れるけど猿より下手、野生解放で泳げるけどカワウソより下手な私は?」
「え?」
「私には他の誰かより優れたところなんてない。このまま飛べなくなったら、いつかあなたみたいに絶滅する」
ディアトリマは少し驚いてた。でもこんな程度じゃ諦めなかった。
「私にはあなたがそんなに弱い風には見えないけどなぁ」
「野生解放しなきゃ、武器もないからろくに戦えないけど」
「戦うだけがフレンズじゃない。 PIPって知ってる?」
「…知らない」
「ペンギンさん達のアイドルよ。私もあの子達結構気に入ってるの」
何それ…アイドル? もうそれ鳥じゃなくて人間なんじゃ…
「鳥は飛べなきゃ鳥じゃない。 空を捨てたら鳥は…」
そこまで言ってたら、なんだか怖くなってきた。何が怖いのか私にもよくわからなかった。
「あっ、待って!」
私は木の枝伝いに林の奥へ飛んだ。飛んだと言うより枝の上を走ってるのが近い。
「明日もまたここに来るからねー!」
え?そんな馬鹿な。
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翌日、林の外れの海岸…要は昨日と同じところに来た。 別にディアトリマに会いに来た訳じゃない。ここが単に気に入ってるだけだった。
そしたら、ディアトリマも居た。 私が来るのを待ってた…としか思えない。
「こんにちは」
「…本当に来た」
私は軽く驚いた。前にも私を説得しようとしたフレンズはいたけど、日を跨いで来るのは初めてだった。
「あなたには私のセミナーに来てほしいなぁ。そしたら、鳥がいかに強いかわかるのに」
「昨日も言ったけど、私が特技何もないのは変わらないから」
「飛べて泳げて木登りもできる鳥って中々いないよ?」
「飛ぶ以外が全然鳥らしくないじゃん…」
ディアトリマは少し考え、こう聞いてきた。
「鳥らしくない、かぁ…じゃあ逆に『鳥らしさ』って何かな?」
「え…そりゃ翼があって空を飛べる事じゃ…」
「じゃあペンギンさん達とかダチョウさんは鳥じゃないの?それに私も飛べないけど」
「う…」
言葉に詰まった。確かに、何故だかペンギンやダチョウも「鳥」と呼ばれる。けど、私にはそれが説明できない。
「本当に『飛べたら』鳥らしいの?」
「…じゃああなたの中での『鳥らしさ』って何?」
「えーっと…翼とくちばしがあったら鳥らしいかな〜?」
え、と私は呟いた。
違う。メモリアルの説明と違う。 あそこには『翼があり飛翔能力があったら、そこで初めて鳥と認められる』って書いてあった。その最初の例が始祖鳥なのに。 この人が言っているより範囲は狭いはず…。
「気になるなら他の鳥のフレンズに聞いてきてみたら?」
「え?」
「私だけじゃなくて、いろんなフレンズの意見を聞いたらわかるんじゃないかな?」
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「鳥の条件? なんでしょう…くちばしとかかしら?」 ―オオフウチョウ
「とりあえず顔が怖くても鳥って言われるよ」 ―ヒクイドリ
「考えたことなかったけど…羽があってくちばしがあったら、とか?」 ―ブラウンキーウィ
「飛べなくても鳥って言われますけどね〜」 ―ヤンバルクイナ
(…)
なんというか、曖昧すぎてこれってものがない。というかみんな考えたことないみたい…。
「あれ、初めましてのフレンズさん? 私はダーウィンフィンチのダーだよ! よろしくね!」
「私はツメバケイのケイ…あなた、『鳥』の条件って、なんだと思うの?」
「条件? うーん…わかんない!ダーは鳥だけどね!」
彼女も同じだった。 と言っても彼女は普通に飛べるから私の悩みはわからないと思うけど。
「でもー、条件をつけるの、無理があると思うよ?」
「…どうして?」
「だって、種類が違ったらできることも違って当たり前だよ? ダーたちなんて同じ一族なのにみんな違うし!それに違いがあるっていいことだと思うよ! みんな違って、みんないいって!」
(違うから、良い?)
ダーウィンフィンチのその言葉が、私の中をぐるぐるしていた。 そのせいで、この四日間聞いて回った他の意見が頭に入らなかったけど、それだけその意見が私にとって衝撃だった。
「あ、ケイちゃん! どうだった〜?ここの所聞いて回っていたんだよね?」
そんなことを考えながら歩いていたら、気づいたらディアトリマに会っていた。
「…なんか、みんな曖昧な返事ばっかりで参考にならなかった」
「そうなの? でもそれって、他のみんなが考えないようなことを考えていたってことでしょ?」
「え?」
言われてみればそうかもしれない。 他の飛べない鳥にも、私と同じ不安を抱えてる鳥はいなかった。
「それってすごいことだよ! そんな賢いフレンズさん、鳥だとフクロウさん達以外で初めてみたよ!」
「でも、それじゃあ鳥じゃなくて人間じゃ…」
「そうじゃないよ!」
「? じゃないって?」
「ケイちゃんが鳥っぽくないんじゃなくて、そういう鳥なんだって事だよ! 鳥は地上最強、だから特技もみんな違うし、それが良いところなんだよ!」
(あ…)
違うことが良いこと。 ダーと同じことを言われた。
本当にそうなのだろうか。
「...ねぇ。 他の鳥のフレンズって、どういう事が得意なの?」
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それからどれくらいの日数だったか、私はディアトリマから色々な鳥のフレンズ達の話を聞いた。
前に言っていた『PIP』や、羽ばたいても全く音がしないフクロウ達、眼力がすごくて戦うと結構強いハシビロコウ、超長距離を飛んでも平気なぐらい旅好きなキョクアジサシ。
元の動物は知っていても、フレンズになってからどうなったのかは知らなかったから、聞いているだけでも割と楽しかった。
「色々いるけど、一番古い時代の鳥は私なんだよ。 私よりお姉さんなフレンズって見たことある?」
「いや、ないかな...私が今までまともに関わったのって、私と同じ飛ぶのが下手か、飛べない鳥ばっかりだったから」
「そっかぁ。 じゃあ、ここだけじゃなくて他のエリアにも行ってみたら?」
「他のって...私は海を泳いで渡れる自信ないし、そんな距離飛べないけど」
「飛んでいかなくても、あっちに行くと時々船が来るから、それに乗って行けばいいと思うよ」
ここには―ジャパリパークには、世界中の動物たちがフレンズの姿になって生活している。 初めて会った人間に、そう聞いた。
だったら、世界中の鳥たちもいるはず。 私や、ディアトリマですら知らない鳥も。
会ってみたい。 会って、話して...私が、周りとどう違って、どういう鳥なのか確かめたい。
そんな決意を胸に、私は海に浮かぶ乗り物へ、一歩踏み出した。
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