刹那の信頼 (後編)

ページ名:setuna_memo_3

――現在の時刻、15時過ぎ。2人は木陰で身を潜め、標的が近づくのを待つ。


セツナ「セルリアンは黒いのと青いのが1体ずつ、君はそう言ったね。」
黒サーバル「ええ、青いのはもう1体いたけど倒したわ。でもそれ囮だったみたいで、黒いのにまんまと釣られたわ。」
セツナ「やっぱり僕が最後に見た数と一緒、しかも戦法も同じか。それを想定して罠を作って良かった。」
黒サーバル「念の為に聞くけど・・・」
セツナ「あ、罠の内容だね。簡単なものさ。」


身振り手振りで仕掛けた罠について説明する。


セツナ「2本の木の低い位置にロープを巻いて足を引っ掛けさせる罠。木の根っこの段差があって、ちょうど降りそうな位置に仕掛けたよ。上の段からだと見えないように計算したから多分大丈夫。これで青い方を転ばせて、石を砕くって作戦。これが1つ目。」
黒サーバル「ロープを踏んだ場合は?」
セツナ「固く結んであってバネみたいに上方向に飛ぶだろうから、木の枝に突っ込んで身動きが取れなくなる、それも同じくスキを狙ってパッカーンだよ。」
黒サーバル「・・・やけに雑ね、ホントに大丈夫なの?」
セツナ「青い方は単純な思考しかできない、8割の確率で上手くいく。黒いのが囮としてソレをけしかけてくるなら尚更さ。それに罠は他にもあるんだよ。」
黒サーバル「もう1つは、もしかして黒いセルリアンを倒す罠?」
セツナ「嗅覚が優れる黒いセルリアンだと言ったね。それを逆手に取るんだ。」


そう言って、黒サーバルに巻いていた包帯を解いた。


セツナ「今からそこの川に浸かって水浸しになってきてくれ。」
黒サーバル「は?」
セツナ「君の血を向こうは覚えてるからな。まず君自体の匂いを最小限抑える。」
黒サーバル「・・・・わ、わかったわよ。」


2分後、ずぶ濡れの彼女が帰ってきた。


セツナ「おかえり、サーバル」
黒サーバル「で、どうやって黒いセルリアンを倒すって?」
セツナ「さっきも言ったでしょ。優れた嗅覚を逆手に取るんだって。」


そう言って新しい包帯を傷口に巻いていく。






数十分後、セルリアンが近くにやってきた。
黒サーバルは、1つ目の罠を張っている木の陰で身を潜めている。
ダークハンターは何やら地面を嗅いでいる。すると川へ続く真正面を見つめている。
お付の青いセルリアンに何やら伝える。そして青いセルリアンが進んでいき、根っこの段差飛び降り・・・・・・・・仕掛けていたロープに躓いた。


黒サーバル「みゃーッ!」


影からの黒サーバルの奇襲。その爪で、セルリアンの背中から石を砕き・・・


ぱっかーーーーーん!


四角形の何かが辺りに散らばり、青いセルリアンは消滅した。
しかし、それを見逃すダークハンターではなかった。
狙いを黒サーバルに定め、スピードを上げて近づいていく。


黒サーバル「ふっ!」


役割を終えた筈のロープに向かって、黒サーバルは突進。そしてありったけの力を両足に乗せ、真横からロープを蹴った。ネコ科の脚力に加え、フレンズ基準を超えるであろう威力をバネにも等しいロープに加えると・・・。


ビヨーーーーーーーン


まるでジェット機かと疑うような反射した力で、黒サーバルは川へと続く森林を飛んでいった。その場にいたダークハンターはそれを目で追えはしたものの、やがて茂みに突っ込んでいった後の彼女の姿を捉えることはできなかった。


嗅覚を頼りに進んでいくダークハンター。気が付くと、茂みの多い木々に囲まれていた。だが血の匂いを覚えているヤツからすれば些細なことで、そのまま匂いのする方向へ進んでいく。すると、1本の木のそばの茂みで怪しげな揺れを見つける。ダークハンターはこれから黒サーバルの血の匂いがすると理解し、その茂みにゆっくりと近づく。向こうも気付いたのか、揺れている物体が少しずつ遠ざかる。ダークハンターは物体に向かって飛び掛かり、大きく鋭い爪で切り刻む体勢に入った。そして切り刻んだ・・・のだが。






セツナ「・・・ッ!」


物体の正体はセツナだった。黒サーバルの血を大量に含んだ包帯を巻いた大きめの丸太を持っており、ダークハンターの一撃をそれで防いだ。セツナはアイコンタクトを木の上にいた黒サーバルに送る。そしてダークハンター目掛けて落下して・・・






野生解放を行った。



黒サーバル「んみゃぁぁあぁああああッ!!!」



赤いオーラを身にまとい、目は赤く光り、長く鋭利となった爪で標的に向かって猛ラッシュで切り刻み始めた。ダークハンターの身体がみるみる削れていく。黒サーバルの辺りには小さな風が乱れるように吹き、まるでかまいたちのようだ。獲物に死ぬ気で喰らいつき、確実に仕留めんとするその姿は、『猟犬』そのものを超えたなにかに見えた。


ダークハンターの身体の中の石が外に出てきた。黒サーバルはそれを目掛けて・・・


ぱっかーーーーーん!!


ハンターでも倒すのが困難な新型セルリアンを、奇襲により撃破した。









セツナ「あ~・・・筋肉痛がさらに酷くなるなぁ。」
黒サーバル「一瞬だけって言ったのに、ほとんどアタシ次第だったじゃない!普通のセルリアンなら自分でも倒せるって、あなた言ったよね?」
セツナ「・・・・そ、そうだったかなー(汗)」
黒サーバル「食べられたいの?(怖い顔)」
セツナ「僕を食べても美味しくないよ。」


すると思い出したように、鞄から食べ物を取り出す。


セツナ「ジャパまん、僕なんかより美味しいよ。」
黒サーバル「食べないわよ!」


いいツッコミだ。少しは元気になってくれたかな?


セツナ「今日はどうもありがとね。危険地帯っていうからどんなものかと思ったけど、想像以上に危険な場所だった。今度来るときはもっと装備を充実させないとな。」
黒サーバル「・・・帰っちゃうの?」


思いもよらない淋しい声で疑問を投げかけてきた。


セツナ「ヒトは進化するにつれて、自然で生き抜くことを諦めてしまったんだ。僕にはここで何もなしに暮らすのは難しいよ。」
黒サーバル「・・・そっか。」
セツナ「そうだな・・・君が僕の飼育対象になれば、嫌でも傍にいられるよ。まぁ、君が良ければの話なんだが。」
黒サーバル「ついて行かないわ。アタシは自然で生き抜いていくと決めたんだから。」
セツナ「そうか、なら仕方ないな。それでも、たまにでいいから試験解放区においでよ。君の知らないこと色々見れるし、君の知っていることを他のフレンズにも教えてあげて欲しいな。」
黒サーバル「はぁ・・・・気が向いたらね。」
セツナ「それより、その足の怪我はほっとけないな。すぐ医療施設に・・・・あれ。」


彼女の姿は遠くに消え去っていた。後ろを振り向くと、隊長たちが遠くから走ってくるのが見える。サーバルめ、自慢の耳で気付いていたか。




隊長「大丈夫かね?どこか怪我を・・・」
セツナ「大丈夫です。僕は怪我なんてしていません。頼りになるアニマルガールが助けてくれましたから。」









特殊動物飼育員セツナと黒いサーバルの出会いにより、運命は動き出す。黒い”ネコ”は幸運の象徴と日本ではいわれる。サーバルキャットもネコ科ではあるが、言い伝えのカテゴリーに無理やりはめ込めるものか。これを言ったらライオンでもトラでもいいとかにならないか。そもそも本当に幸運を運ぶのか。それはまだ明かすべき内容ではない。2人の物語は、まだ始まったばかりなのだから。





―――――『刹那の信頼』、完。



Tale

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