~ミライの日記~
2040年3月×日
私はジャパリグループの最終面接に来ています。
今まで何度も筆記試験や面接を受けてきたけど、今回はジャパリグループ最高顧問の鷹峰遥理事長じきじきの面接です!
これを乗り越えれば私は晴れて憧れのジャパリパークの職員になれる!
あぁ~、緊張するな~。
ハルカ「〇〇ミライさん、どうぞ」
ミライ「は、はい! 失礼します!」
ハルカ「初めまして。ジャパリ・インコーポレイテッド代表取締役会長の鷹峰遥と申します。本日はわが社にご応募頂き、誠にありがとうございます」
ミライ「こ、こちらこそ初めまして。〇〇ミライと申します。ほ、本日は何卒よ、よろしくお願いいたします!」
ハルカ「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あなたはこれまでの筆記試験、面接試験ともに、非常に優秀な成績を修めています。それとジャパリパーク動物研究所のカコ研究員からも、あなたのことを伺っています。知識もさることながら、何より動物達への愛情がとても深い方だと」
ミライ「カコさんが……あ、ありがとうございます!」
ハルカ「最終面接と言っても、今回行うのはそんな大したことではありません。言ってみれば、パークで働く前のちょっとした確認のようなものです。ですから肩の力を抜いて、素直な気持ちで私の質問に答えて頂ければ大丈夫ですよ」
ミライ「は、はい、わかりました!」
ハルカ「では、さっそく始めていきましょう。まず最初に」
「あなたはけものがお好きですか?」
ミライ「は、はい! 夢に出てくるくらい大好きです!」
ハルカ「ふふ、まあこれはもう確認するまでもないことですね。ではもう一つの質問です」
「あなたは動物園はお好きですか?」
ミライ「……え……は、はい、もちろんです! 動物園は動物達とじかに触れ合うことの出来るとても素晴らしい施設です。加えて昨今の環境問題の深刻化で絶滅の危機にある動物達を保護するという点でも重要な役割を担っています。だから私はぜひそこで自分の力を役立てたいと……」
ハルカ「……ふふっ!」
ミライ「え? あ、あの……私、何か変なことを言ってしまいました?」
ハルカ「ごめんなさいね。あなたは何もおかしなことなんか言ってないわ。ただあんまりにも優等生な答えだったものだからついおかしくなっちゃって」
ミライ「ゆ、優等生、ですか」
ハルカ「ええ、文句の付けようのない100点満点の模範解答だわ。……よっぽど練習したのね?」
ミライ「え、えぇと……その……」
ハルカ「ふふ、それだけこのジャパリパークで働きたいってことでしょう? 寧ろ好印象よ。ただ、そんなあなただからこそ、一つ言っておきたいことがあるの。実を言うと私ね」
「動物園が嫌いなのよ」
ミライ「え……?」
ハルカ「あなたの言ったことは、いわゆる建前というやつよ。確かに間違いではないけれど、所詮それは動物園というものを正当化するための単なる後付けの理屈に過ぎない。動物園というのはね、ミライさん」
「動物達を捕えて檻に閉じ込め、それを見世物にして金儲けをするところなのよ」
ミライ「っ!」
ハルカ「……どんな尤もらしい言葉で取り繕っても、その本質はごまかし切れないわ。狭い檻に閉じ込められ、ただ餌を与えられながら一生を終えていく……そんな動物達を見るたびに、私は胸がかきむしられるような思いになるの。動物園というのは、私達人間のエゴをそのまま形にした場所なのだと」
ミライ「……」
ハルカ「ミライさん、あなたが心から動物を愛しているというのはよく分かる。だからこそ改めて確認しておきたいの」
「あなたは本当に……動物園で働きたい?」
ミライ「…………」
ミライ「……………………」
ミライ「…………はい……それでも……いいえ……だからこそ……! 私は動物園で働きたいんです!」
ハルカ「……」
ミライ「……もし、動物園がなかったら……私こんなに動物を好きになることはなかった。動物園のお陰で私は動物のことを好きになれたし、大切な人に会うことも出来た。私にとって動物園はかけがえのない場所なんです!」
ハルカ「……」
ミライ「私、本やパンフレットで、ハルカ理事長のお言葉をいくつか拝見させていただきました。理事長は『慈愛の心』って言葉をよく使われてましたよね?」
ハルカ「……」
ミライ「確かに動物園は人間のエゴによって出来たものなのかもしれません。だからこそ、動物園で働く人間には動物達へ慈愛の心を持って接する義務があると思うんです!」
ハルカ「……」
ミライ「確かに本当は野生で暮らすのが、動物達にとっては一番幸せなのかもしれません。でも私達人間と一緒に暮らしても動物達が幸せになれる道はきっとあるはずです。私は動物達と一緒にこれからも人生を歩んでいきたい、人間も動物も幸せだと思えるような動物園を作っていきたいと、そう思ってます!」
ハルカ「……ふふ、見た目によらず、中々熱いのね、あなた」
ミライ「あ、す、すいません……勝手に一人でしゃべっちゃって……」
ハルカ「あなたの思いや人柄は十分に伝わりました。あなたをジャパリグループの一員として、正式に採用します」
ミライ「あ、ありがとうございます!」
ハルカ「ただし! そこまで言ったからにはあなたには相当頑張ってもらうわよ。座学でも実践でも、勉強することは山ほどある……覚悟しておきなさい!」
ミライ「は、はい! 頑張ります!」
ハルカ「あなたも知っているでしょうけれど、今、世界では動物園の在り方そのものが見直されようとしているわ。当然このジャパリパークでもね。アニマルウェルフェアの理念に則り、環境エンリッチメントを最大限に施した新しい動物園の在り方を模索している……つまり極力檻や柵を使わず、その動物本来の生態を可能な限り再現した環境でのびのび暮らしてもらうことを目標としているの。当然その分知識や経験、何より動物達への慈愛の心が必要不可欠になってくるわ」
ミライ「だから私、ジャパリグループに入りたかったんです! ここでなら……ハルカ理事長の元でなら人間も動物も、どちらも幸せになれるだろうと思って!」
ハルカ「…………」
ハルカ「……そう……ありがとう、ミライさん。あなたにならきっと、動物達を幸せにすることが出来るわ」
~ミライの日記~
2040年3月×日
ふ~、緊張した~
まさか理事長からあんな質問をされるなんて思いも寄りませんでした。
……
「動物園は人間のエゴ」か……
そうかもしれない、だからこそ頑張らないと!
今からジャパリパークで働くのが楽しみです!
~ハルカの日記~
2040年3月×日
あのミライという娘、中々面白かったわね。
何だか若い頃を思い出しちゃったわ。
あの頃は私も一介の飼育員で、動物達の暮らしを少しでも良くしようと必死だったっけ……
飢えや捕食者に常に怯えて生きなければならない野生と、自由と引き換えに餌と安全を手にすることのできる動物園。
どちらが動物達にとって本当に幸せなのか。
私達人間如きがそれを推し量ろうとすること自体が、そもそもエゴなのかもしれない。
それでも私は動物の幸せについてこれからも考えていきたい。
私達人間が、動物園の動物達から大切なものを奪っているのは確かなのだから。
とりあえず、あの娘にはしばらくは普通の動物達を担当させて、そのうち『試験解放区』に回してみようかしら。
あそこの『アニマルガール』達の相手はそれはそれは大変だろうけど……
ふふ、今後が楽しみだわ。
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