刹那の信頼 (中編)

ページ名:setuna_memo_2

たどり着いた川の向こうには、アニマルガールがいた。その子は―――――。





セツナ「・・・・あっ。」
???「!・・・誰?」


全身が黒く、耳は大きくて先端は丸い。動物知識はそれなりにある方ではあるが、さすがに何のアニマルガールかは判別できない。


セツナ「えっと・・・君は?」
???「サーバルよ。」
セツナ「え・・・」


サーバル?サーバルって・・・サーバルキャット!?
おかしいぞ。確か噂に聞く、女王事件を解決したアニマルガールの1人に入るサーバルは、こんな全身真っ黒な訳が無い。それにこの子は耳も少し垂れ下がっている。目つきも鋭く、僕の知っているサーバルとはかけ離れている。


セツナ「僕はセツナ。このパークの人間だ。実はさっき、あの崖から落ちちゃって。あの上まで戻る道を知らないか?」
黒サーバル「さぁね。アタシも最近ここ辺りに来たばかりであまり詳しくないの。」
セツナ「そうか・・・あ、そうだ。サーバルって名乗ったけど、ならどうしてそんなに黒いの?」
黒サーバル「よく聞かれる質問ね。アタシ、生まれつき黒いのよ。」


生まれつきの突然変異・・・・!


セツナ「メラニズムの濃い個体か。確かにそれなら納得いくかも。ホワイトタイガーやブラックジャガーも普通の種と同時期にフレンズ化しているから、そう考えると不思議じゃない。」
黒サーバル「そう。アタシはレアなの。そして垂れ気味の耳は、大人だった証拠よ。」
セツナ「へぇー・・・黒の変異種で成体のサーバル。確かにレアだ。」


・・・っと、そんな流暢に話をしている場合ではないな。


セツナ「道は自分で見つけてみるよ。・・・一応教えるけど、さっきセルリアンを見かけたから気を付けて。」
黒サーバル「そうなの?ありがとう」


そう言って後を去る。川沿いに崖方面へと進んでいく。早く合流してしまわないと・・・隊長達に迷惑は掛けられない。


Prrrrrrr・・・Prrrrrrr・・・Prrrrrrrrr・・・ピッ


セツナ「はい、セツナです・・・・隊長!」
隊長「やっと繋がったか!先程から何度も掛けていたんだがね。」
セツナ「すみません。どうやら電波が届いていなかったみたいです。崖に近づいたから恐らく繋がったのだと・・・」
隊長「なるほど。そちらはどうなっている?」
セツナ「はい。奇跡的に怪我はありませんでした。今、川を沿って崖方面に向かっている途中です。」
隊長「それなんだが・・・セツナ隊員。セルリアンは見かけたかね?」
セツナ「いいえ、まだ一度も。ハンターさん達が片したのでは?」
隊長「・・・・逃げたよ。」
セツナ「・・・え?」


背筋が凍る。


隊長「私たちが戦っていたセルリアンは、逃げるように崖の下へ行ってしまったんだ。」
セツナ「そんな・・・!」
隊長「今下に降りる準備を進めている最中だ。なるべく奴らに見つからないよう身を隠しておいてくれ。ではまた連絡する」ピッ
セツナ「・・・・・・・・。」


なんてことだ。まさかこっちに来ているなんて。
となると・・・さっきのサーバルが危ないな。少し様子を見に戻るか。




彼女の姿はなかった。代わりに残っていたのは、交戦の痕跡だろう荒れ具合だ。
ついさっきなのに、もうこんな近くに・・・隊長達が来るより先にセルリアンとご対面だなんて真っ平ゴメンだ。


セツナ「・・・・、・・・・、・・・・グゥ~」


腕時計を見る。14時・・・そういえば昼飯はまだなんだっけ。
いやいや、食べてる場合じゃ・・・・!


セツナ「グゥ~」


自分の胃袋が栄養を欲している。こんな状態で逃げきれる自信がない。仕方がないので昼飯にしよう。とりあえず、薄らと暗い木の陰で隠れながら食べることにした。バレない自信がないが隠れないよりはマシだ。


セツナ「モグモグ・・・・木漏れ日差し込む木々の間で食べるおにぎり・・・なんと美味か。」


グルメリポート風の独り言をしている場合じゃない。でも誰もいないこの空間は、何より自分を癒してくれる・・・多分。


はぁ・・・こんなことなら、彼女と出会った時点でお昼にして一緒に食べても良かったな。独りもいいが、今は心細いだけだ。・・・そういえば、サーバルのいた場所が荒れていたな。


セツナ「・・・あの痕跡、セルリアンに出会って戦ったってことだよな・・・無事だといいけど。」


ふと眠気に襲われる。あれ、これヤバいんじゃ・・・・必死に頬をつねって覚まそうとする。
何か考えないと・・・うーん・・・・・・・・・あ!
そうだ。襲われた時を想定して、何か武器になりそうなものを用意しておこう。


複雑な思考回路を持つダークハンターはともかく、普通のセルリアン相手なら人の知恵で倒せなくもない。確か身体の何処かにコアとなる結晶があるんだったな。それを壊すためには・・・ブツブツ




ガサガサガサ・・・・


セツナ「!!?」


何か近づいてくる。まさかセルリアンか!?
・・・・・・いや・・・・これは・・・・!


黒サーバル「うぅ・・・」
セツナ「サーバル・・・あっ・・・!」


脚に怪我をしている。やはりセルリアンと戦ったのか。


セツナ「大丈夫!?足を引きずってるじゃないか。」
黒サーバル「何とか撒いたわ・・・けど、それも時間の問題。嗅覚の優れるセルリアンだった・・・もうすぐで見つかるかも・・・」
セツナ「セルリアンにそんな能力が・・・!」


ハンターでもなければ研究者でもないから詳しいことは知らない。ダークハンターについてもまだまだ解析中らしいからな。それよりも・・・・。


セツナ「脚を見せて。いま止血する。」
黒サーバル「え・・・ちょっと!」


触ろうとして突き放される。


セツナ「布で巻くだけだから・・・そのままだと傷口から菌が入って病気になっちゃうって。」
黒サーバル「へ、平気よ。今までだって放っておいたら治ったんだから・・・!」
セツナ「そうはいかない。僕もパークの一員だ。怪我した動物を放っておけないんだよ。」
黒サーバル「そんなのそっち側の都合じゃない・・・それにヒトは信じられないわ。」
セツナ「信じられない?」
黒サーバル「・・・死んだヒトを蘇らせようとするヒトがいるらしいじゃない。絶滅したはずの動物が教えてくれたのよ。」


カコ博士のことか。しかし死んだ人を・・・?


黒サーバル「一度殺しておいて、蘇らせようだなんて・・・都合のいいものね、ヒトって。そんなのだからセルリアン女王が生まれるのよ・・・!」


やけに毒を吐きまくるな。弱っている故の防衛本能か?はやく止血したい。


黒サーバル「死んだ生き物は蘇らない、弱肉強食は当たり前、それなのに・・・なんなの?なんで私たち動物を守ろうとするのよ。」
セツナ「・・・・・・いなくなってほしくない、からじゃない?」
黒サーバル「え・・・?」
セツナ「頑張って生きようとしたのに、死んじゃうなんて悲しいじゃないか。死んだらもう見られない、出会えない。100年先まで生き残っている保証はどこにもない。そんな不安な未来を恐れて、僕たちは動物を保護してるのかもしれない。」
黒サーバル「でも滅ぼしたじゃない。絶滅した動物はどう説明するのよ。」
セツナ「それは・・・今を生きる僕たちには説明も弁明もできないよ。彼らも生きるためだったんだから。こんなこと言ったらアレなんだけど、それこそ弱肉強食に入らないか?」
黒サーバル「・・・・・・。」


貧血気味か、少し顔色が悪い。彼女の脚に布を巻き始める。


セツナ「今は昔とは違って動物の保護は進んでいる。いつでも会いたい動物に会える、動物を愛する人達の願いが着実に実現に向かっている。もしかしたらそんな願いを汲み取って、サンドスターが現れたのかもしれないね。だとするなら今こそ共存の時なんだって。」
黒サーバル「共存?」
セツナ「ヒトは動物と分かり合える。友達になれる。希望論だと思われても仕方ない。でも僕らはそれでも、君たちを必死に生かすことに全力だ。」
黒サーバル「・・・・ねぇ―――――」


木々が揺れる。強風か?
黒サーバルは自身の特徴たる耳をきかせる。


黒サーバル「!!・・・セルリアンがこっちに向かってきてる。」
セツナ「・・・一瞬でいい、案に乗ってくれないか?」
黒サーバル「案?」
セツナ「普通のセルリアンの方なら僕でも倒せる。でもダークハンターは難しいから、罠に嵌めて動きを止めて、君が倒すって作戦。肝心の罠はもう仕掛けた。後は君が了承するかしないかだけ。」
黒サーバル「そう言われても・・・」
セツナ「そうだね。君はいつも通りに力を発揮できないだろう。これは掛けだ。生きるか死ぬかの大博打。・・・僕の話で和解できるなんて思ってないよ。だから一瞬協力するだけでいい。僕を、ヒトを信じてみてはくれないか?」


黙り込む黒サーバル。少し考え、そして・・・


黒サーバル「・・・一瞬だけよ、セツナ。」
セツナ「・・・ありがとう、サーバル。」


通信機を取り出し、隊長に連絡する。


セツナ「セツナです。実は―――――」





続く。



Tale

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