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PHSの端末例 ドコモPHS 633S(シャープ)・ウィルコム AH-K3001V(京セラ)・同 WX310SA(三洋電機)
PHS(ピーエイチエス、Personal Handy-phone System)は、長距離を携帯して移動した先で長距離間の通信に使用できる、小型電話機のこと。また、同電話機による移動体通信サービスの事を言う。
通信手段として有線通信の通信線路(電話線等)を用いずに、基地局との間で電波による無線通信を利用する。マルチチャネルアクセス無線技術の一種でもある。
日本においては、電気通信役務の区分など法令上や公的な資料・統計においては、PHSは携帯電話と明確に区別されている。もっとも両者は相違点よりも類似点の方が大きいため、本項目のほか日本における携帯電話の項目も併せて参照のこと。
屋外では事業者の基地局に接続し移動先で電話として利用できる。そして、企業や家庭の内線ではコードレス電話の子機としても利用可能となっている。ただし、子機を親機やシステムに登録する必要がある。
開発当初からデジタル方式を採用し、第二世代携帯電話と無線アクセスとの間の中間的な性能を持つ。当初の開発名称を第二世代デジタルコードレス電話と言い、第三者が受信機で通話の内容を聞くことが難しいデジタル方式にし、企業や家庭で内線コードレス電話の子機として、屋外では簡易な基地局により公衆交換電話網に接続するという発想で日本で規格が作られた。
開発当初は Personal Handy Phone の略でPHPと呼ばれていたが、松下電器産業の関連会社・PHP研究所と紛らわしいことから、1994年4月22日にPHSに呼称を変更すると発表された。PHPからPHSに呼称が変更された際に、PHSを「ピーエイチエス」または簡略化して「フォス」と発声するという発表があったが、前者は事業者や報道関係でも広く知れ渡る一方で、後者は殆ど定着せず、程なく消え去ることとなる。その後、若者を中心に「ピッチ」という呼び方が広がり始め、その影響を受けて、1997年以降には事業者もCMやパンフレットなどでこの呼称を時々使うようになった。
また、当初は本来の用途からすると不適切な「簡易型携帯電話」が法令上の呼称であったが、1998年11月に、郵政省(当時)により「PHS」に改められた。ただし、一部新聞メディアや、電話会社の契約約款などの文面では、依然として「簡易型携帯電話」が使われている。一例として、NTT東日本・電話サービス契約約款における当社が別に定める内容(別紙1)内に、「簡易型携帯電話に係るもの」という記載がある。
当初より長らくストレートタイプが多かったが、2000年以降は携帯電話端末のように大画面化に有利な折りたたみ式が主流になって来ている。
日本では、携帯電話と同様に1999年11月から自動車・オートバイを運転中の使用が法律で禁止された(2004年11月から無条件・罰則対象となった)ため、運転者は停車中を除いては通話したり、電話機の表示画面を見てはならない(ハンズフリー通話等は対象外)。運転中に通話やボタン操作等を行うことは非常に危険である。また、自転車に乗ったり歩行中の際も、法律で禁止はされていないが、通話やメールに夢中になりすぎて交通事故に遭う事例も多く、注意が必要である。
また、2005年5月に、携帯電話不正利用防止法が施行され、携帯電話・PHSについて契約者の本人性確認の義務付けや、不正な譲渡の禁止等がなされた。
PHSの主な特長を列挙。
日本国内では、サービス上の料金制度として、月額基本料に無料通話分を含んだ、通話の状況に合わせたパック料金がある。なお、料金前払いのプリペイド式PHSも過去にはあった(「プチペイド」)。
日本の場合、特殊簡易公衆電話(いわゆるピンク電話)、および新幹線公衆電話(秋田・山形新幹線を除く)からPHSに発信はできない。また、電報・コレクトコール・ダイヤルQ2・ナビダイヤル・テレドーム等は利用不可。また、フリーダイヤル等は掛ける先(着信)側での契約がされてないと掛けられない。
また、留守番電話・転送電話機能を備えたサービス・端末が一般的である。なおキャッチホン機能は提供されないことが多い。
一部のPHS事業者(ウィルコム)では、音声通話定額制サービスを提供している。詳細はや音声通話定額制を参照。
2008年1月現在、日本でのPHS事業は、次の事業者により行われている。
日本では、PHSや携帯電話の事業者は、当初地域ごとに別の会社でなければならなかった。その後DDIポケット(現ウィルコム)は、全国地域会社を統合している。詳細はウィルコムを参照。
かつて存在した事業者[]単なる社名変更や地域統合に止まるものは扱わない。
PHSは携帯電話と比べ、特に基地局が設置コストも含め大幅に安価なこと(日本の場合、1基地局につき、PHSは20万~200万円程度、携帯電話は1億円超)、ユーザにとっても端末や料金の面でまだ大幅に安価なこと、更に競合関係にあると一般的には考えられている第三世代携帯電話(3G,IMT-2000)自体の世界的展開がまだまだ不透明で模索中であることなどもPHSのアドバンテージと考えられている。
そのため1990年代後半から、中国のほか台湾、タイ、ベトナムなどアジアの中進国各国でも一定の普及を見ている(全世界では2006年10月現在、約1億台[1])。更には全世界の中進国各国でもPHS事業立ち上げやフィールド試験が行われるなどの国際展開も見せている。現在導入又は検討中の国地域は、インド、バングラデシュ、ナイジェリア、マリ、タンザニア、ホンジュラスなど、三十数ヶ国に及ぶという。PHS以外の現地名も多数付いており、小霊通、PAS(Personal Access System)、CityPhone などとも呼ばれている。
また、一部の中進国・発展途上国の電話回線が導入されてない地域において、固定電話の代替としてPHSが普及したり、また無線による固定電話回線(PHS FWA、TDD-TDMAを採用)として導入されたりしている。
2003年4月にはDDIポケット(現ウィルコム)と台湾のPHS事業者「大衆電信」との間で相互ローミングサービスが開始された。後に、タイの「Asia Wireless Communication」との間でも開始された。
中国ではPHSが「小霊通」の名で2006年6月末時点で9300万台と一時は爆発的な普及を見せたが、その後は端末生産台数の急減が報じられ、加入者数は頭打ちとなり減少を続けて、2007年9月末現在9000万台を割り込んでいる。安価な音声端末がほとんどであり、また固定電話会社の「中国電信」が主要PHS事業者としてPHSを固定電話の延長として展開している。
台湾ではGSMとのデュアル機を含め数多くの新型の音声端末が発売されている。日本には台湾での発売の後に音声端末の機種が日本向けとして言わば逆輸入されるなどの逆転現象も見られる。
これら「小霊通特需」を始めとするアジア展開のおかげで、国内PHS関連メーカーにおいても、PHSのベースバンドチップや基地局等、更にはPHS音声端末の製造開発までも、日本国内での需要は冷え込んでいたにもかかわらず、強く底支えする事ができた。
中国のPHSは都市単位(日本の県単位くらい)の地域別電話番号が割り振られ、他地域では使えない不便さがあった。しかし、小霊通SIMカードに電話番号を書き込む方式に2005年5月17日に統一され、各都市の電話番号が書き込まれたSIMカードを差し替える事により、同一端末を他地域でも使えるようになった。これはPIMカードとして国際展開されている。中国国外での展開はUTStarcom社のベトナムでのIPベースの無線用インフラなどが有る。
また、PHS相当の移動体通信規格としては、ヨーロッパではDECTが主流である。
日本国内においては、携帯電話と比較した場合、以下のような特徴がある。
現行PHS方式においては、音声の符号化方式には32kbpsのADPCMを使用する。周波数は1.9GHz帯を使用する。通話用キャリアは、同帯域内においてFDMである。1つの通話用キャリア上に、複信・多元接続方式としてTDD-TDMAを採用する。1フレームを5msとし、これを625μsのスロット8つに分割する。TDDとして、前半4つのスロットを下り(送信、基地局→端末)、後半4つを上り(受信、端末→基地局)、として独立して使用するので、多重数は4となる。また、8スロットの内2スロットは制御スロットとして使用するので、1つの周波数(1つの通話用キャリア)で同時に使用できるのは3通話となる。1通話スロットあたりのトラフィックチャネル(通話チャネル)のデータレートは32kbpsであるので、64kbpsのデータ通信を行う場合には、送受信スロットを2つずつ束ねて使用する。
PHSを利用したデータ通信に関しては、サービス開始当初は、アナログ電話回線におけるモデムと同様に、PHSの音声通話チャネルに対してモデムによる変復調を適用する、いわゆる「みなし音声」と言う規格により無線データ通信が行われていた。これは、デジタルデータをモデムによりアナログ音声に変復調したあと、再度その音声をADPCMにより変復調して伝送すると言うオーバーヘッドがあり、非効率で低速であった(概ね14400bps程度)
その後、デジタルデータを直接PHSの通信チャネルに対し伝送する方式としてPIAFS仕様が策定された。詳細は同項目を参照。各事業者のPIAFS規格採用状況としては、PIAFS1.0(日本国内の全PHS事業者が採用)、PIAFS2.0(NTTドコモが採用)、PIAFS2.1(ウィルコムと旧アステル系事業者が採用)となっている。
PIAFSは基本的に回線交換方式であり日本国内および国際的にも各PHS事業者で共通事項が多く、互換性も高い。一方、ウィルコムの「AIR-EDGE」のパケット通信は、W-OAMを含む独自方式により高速化を図っている。詳細はエアーエッジの項目を参照。なお、エアーエッジのパケット通信についてはPIAFS策定事項に含まれていないが、2004年に国際展開を目的として同社がライセンス契約による仕様公開を行った。
日本国外や、他の移動体通信等に関する詳細は、移動体通信#各地域別周波数帯域利用状況を参照のこと。
制御チャネル・通信チャネルが旧3グループで共有しているため、アステル・ドコモ撤退によるウィルコムへの周波数の追加割り当て(W-OAM向けを除く)は発生していない。
電話機は携帯電話と異なり、次の3つの基本動作モードがある。通常PHSという場合は「公衆モード」を指す。なお、2003年頃以降発売された端末では「自営モード」「トランシーバーモード」の動作モードの一部または全部を持たない物が主流になっている。
端末によっては、上記3モードのうちの一部または全部を同時に(モード切替をせずに)待ち受けできる物もある。
PHSは規格に互換性があるため、例えばA事業者用のPHS端末をB事業者の公衆PHSサービスに登録して利用すると言った事も原則は可能である。ただし、この場合は基本的な音声通話やデータ通信(PIAFS)などにサービスが限定され、事業者独自や仕様の異なるサービス(インターネット接続サービス、高速ハンドオーバー)などの機能は有効にならないのが通例である。自営モードに関しては自営規格さえ適合すれば、端末・自営基地局のメーカーに関わらず接続利用可能である。
また、屋内で電波が微弱となった場合に、中継用の簡易型基地局(いわゆるホームアンテナなど)を窓際等に設置して利用することもある。中継用基地局は、端末からの無線接続を受け入れると同時に、公衆用基地局に対して無線接続を行い、電波の中継(再生中継方式)を行う。このうち、端末からの無線接続を公衆モードで行うものと、自営モードで行うものに分かれる。前者は中継用基地局の設置者以外の端末から利用される場合もある。
近年のPHS端末では携帯電話端末と同様に、着信の際、発信者が非通知設定・通知不可能・公衆電話発信の回線等でない限り、ディスプレイに発信者番号が表示される(固定電話のナンバーディスプレイと同等の機能)。また、端末の電話帳機能に登録している番号に合致した場合には、登録した名前も表示できる。
日本国内における携帯電話端末の多機能化と前後する形で、2001年頃からPHS端末も多機能化しており、インターネットに接続できる機種(H"LINK、mopera、ドットi、CLUB AIR-EDGE など)や、カメラ付き携帯電話よりやや遅れる形でデジタルカメラを内蔵して静止画を撮影可能な機種も出た。なお、動画撮影やテレビ電話に対応できる機種は、PHSにおいては限定的である。また、2005年以降はスマートフォンに特化したPHS端末が発売されている。詳細はスマートフォンを参照。
公衆モードのネットワークの基盤には、日本国内ではNTT東日本・NTT西日本のISDNを基盤にしている活用型(依存型)事業者と、独自に構築した接続型(独自型)事業者の2つがある。アステル北海道・東北・北陸・中部・四国が接続型であったが、その他の事業者は全て活用型である。
活用型PHSではNTT地域会社の加入者電話交換機にPHS接続装置(PSM:PHS Subscriber Module)を接続し、PSMと基地局(CS)の間の通信にはISDN回線が使用される。乱暴な言い方をすれば、既存のISDN網の末端にPSMやCS等の設備を取り付けてシステムを構築したものである。自前のネットワークを構築するよりも短期間でサービスエリアを広げることが可能で初期の投資も抑えることができるが、回線やPSMの使用料が毎月発生する。
接続型PHSは活用型PHSとは異なり、ISDN網ではなく地域系通信事業者の網を経由してNTTの市外系交換機(IC)または加入者交換機(GC)に接続する。NTTのネットワークを利用する部分が少なくて済み、またPSMも不要である。NTTへの依存コストは無い分、自前のネットワークの構築・維持コストが掛かる。また他の通信事業者とのローミングの整備も必要となる。
近年の動向としては、市中の末端ネットワークを光回線として、低コスト、高スループットを実現するもの(eo64エア、W-OAM typeG)や、基本は活用型でありながら、電話局間の幹線網をVoIPでバイパスし、コスト削減・高スループットを実現するもの(ウィルコム)も出てきている。
高度化PHSは、現行PHS規格の改良型で、高速無線アクセスシステム的性能を持つ。詳細は高度化PHSの項目を参照。
次世代PHS (XG-PHS)[]次世代PHS (XG-PHS)は、「高度化PHS」とは別に現行のPHS規格を基に発展させた、全く新しいPHS規格のことである。現行のPHS規格を、最新の無線技術を用いることができるよう改良したもので、通信速度が格段に向上している。
主な経緯
日本国外ではデータ通信より通話がメインの利用者が多い為、日本とは方向性の違う高度化PHS規格である「ターボPHS」が提案され検討がなされている。主な変更点として新制御チャンネルの設定、SMSの容量拡大、音声コーデックにAMRを追加、端末出力の高出力化などがあげられる。
高度化PHSに関する2001年6月25日の総務省情報通信審議会の答申においては同時に、従来のPHS帯とIMT-2000帯域(日本における第三世代携帯電話用の帯域、2.0GHz帯)との干渉問題の解決のためPHSの公衆用共通制御キャリア(BCCH、単に制御チャネルとも呼ばれる)を低い周波数の方にずらす対策を取る事も示された。
なお、IMT-2000側においては、PHS帯と隣接するIMT-2000帯内の5MHz分がガードバンドとされ、相互の干渉抑止のため使用不可とされた。なお、この部分はKDDI(au)帯域であったが、他のIMT-2000・2.0GHz帯参加2社(NTTドコモ・ソフトバンクモバイル)についても当初は、公平を期するため同様に各社の5MHz分とも使用不可とされた。後にこれら2社のガードバンド帯域は外されている。前述のPHSの制御チャネル移行後に、KDDI(au)分の5MHzの帯域が使用可能となる予定。具体的には、現行の公衆制御キャリア1915.85 - 1918.25 MHz が、移行後は1906.25 - 1908.05MHz となり、1915.85 - 1919.45MHzは移行期限後に使用できなくなる。
移行期限は2012年5月31日。このため移行期限後は、制御キャリア移行に対応してない、相当に古いPHS端末は、公衆モード端末としては使用できなくなる。
なお、制御キャリア移行対応が必要となるのは、移行期限後も存続する計画がある事業者の基地局および端末に限られる。
ウィルコムについては、遅くとも2003年頃以降発売された端末については、全て制御キャリア移行に対応していると推定される。
PHSが開始された当初の売りは、携帯電話が使えない地下鉄駅や地下街でも使え、基本料金や通話料金が安いという点であった。
1994年に、携帯電話に旧デジタルホン(現ソフトバンクモバイル)とツーカーグループの新規参入があって携帯電話間で激しいシェア争いや価格競争が始まったもののまだ高額であった。それに対してPHSは本体価格・基本料金・市内通話料金が携帯電話に比べて格段に安いことから、初年度の1995年度には総計で150万台に達した。
その後、通話エリアの拡大や本体機能の充実、本体及び新規手数料を無料とした契約促進キャンペーンや販促用景品やクイズなどの賞品への利用なども頻繁に使われたためにPHS加入者は急激に増加し、1996年末には総計600万台を突破する。
しかしサービス開始当時は価格競争による値下げで普及し始めた携帯電話との相互通話が不可能な問題を抱えていた他、携帯電話に比べて利用可能なエリアが狭い、切れやすいという問題が生じていた。
通話エリアの狭さや電波が途切れる現象に関しては、基地局の設置が電話の普及拡大になかなか追いつかないために地域格差が広がった。特に途切れやすいという状況は、通話エリア拡大が通話エリア高密度化よりも優先されていたことや、ハンドオーバー処理の改良が遅れたために改善されるまでにかなりの期間を要した。
携帯電話との接続もようやく1996年10月に、接続センターを介する暫定接続の形でPHS・携帯電話間の相互通話が可能になったものの、接続センターを介するため、特殊なダイヤル操作が必要であり、また料金が5.5秒10円プラス1通話あたり20円と高額であった。
それでも料金の安さや手頃感から契約増加が見込まれたものの、1997年始めから携帯電話の本体価格や料金の値下げが急激に進んでPHSとの価格差が縮まり、しかも通話エリアの広さでは、当時は携帯電話と勝負にならなかったPHSは、解約が相次いだ。その結果、PHSの契約数は1997年9月の総計約710万台を最高点として、それ以降は減少することとなる。
対応策として、1998年のPHS・携帯電話間の直接接続の開始による通話料金の値下げや、各PHS事業者による基地局の増設(各事業社とも1~2年間で基地局を2~3倍に増加)による通話エリアの拡大と高密度化を行うと共に、携帯電話に比較した音質の良さや、従来の弱点であったハンドオーバー処理の高速化などの改良(また開始当初は電話交換局を跨ぐハンドオーバーができなかったが、1999年2月頃に各事業者とも対応した。)をアピールして対抗したものの、あまり功を奏さず、契約者数の減少傾向に歯止めをかけることはできなかった。
その結果、PHS各社は黒字転換ができず、旧NTTパーソナルグループはNTTドコモへの事業譲渡、DDIポケットは親会社の旧DDI(現KDDI)による財務支援を受け、アステル各社は出資元の電力系通信事業者へ吸収(関東地方は、さらに電力系とは全く無関係な企業へ再売却され、最終的に撤退)されるなどの救済策がとられた。
またこの頃、PHSによる世界初の移動体電話上のテレビ電話や、文字電話と言う手書き文字による通信端末など、意欲的な試みもなされたが、いずれも普及しなかった。
音声端末低迷への抜本的な打開策として、高速な通信速度を生かしたデータ通信を前面に打ち出し、携帯電話(第2世代PDC式)との差別化を図る方針に切り替えた。
1997年4月、各社がPIAFS回線交換方式により、最大通信速度(理論値)32Kbps(実効理論値29.2Kbps)で開始。続いてその後、各社とも64Kbps(PIAFS、実効理論値58.4Kbps)サービスを開始した。
2000年に入り、定額制モバイルデータ通信サービスとして、旧アステルグループの各サービス(北海道「定額ダイヤルアップ接続サービス」、北陸・四国「ねっとホーダイ」、東北「おトーク・どっと・ネット」、関西「eo64エア」、中国「MEGA EGG 64」)、さらにDDIポケットの「Air H"(現 AIR-EDGE)」やNTTドコモの「@FreeD」、といったサービスが各事業者・会社にて開始され、モバイル通信分野での利用がより増加した。また、音声端末単体でもインターネット接続可能な端末が、アステルのドットiを皮切りに、NTTドコモの「ブラウザホン」、DDIポケットの「Air H" フォン(現 AIR-EDGE PHONE)」など登場した。
DDIポケットについては、他社へのPHS網の再販事業(仮想移動体通信事業者=MVNO)に乗り出し、日本通信など他社にデータ通信用として自社PHS網を再販した。
それでもなお、音声通話ユーザによる解約を主としたPHS全体契約数の減少には太刀打ちできず、2004年中に総数500万台を割ることになった。
しかし、2004年5月にOperaブラウザを搭載しパソコン向けのホームページを閲覧することも可能なウィルコム(旧・DDIポケット)の京セラ製端末AH-K3001Vが発売された。また、翌2005年5月からウィルコム定額プランが導入された事により、データ通信と音声通話の双方が定額で使い放題になるなど、人気を博す切っ掛けをつかみ、加入者は増加に転じた。
さらにシャープ・ウィルコム・マイクロソフトの3社が共同開発したスマートフォン・W-ZERO3が2005年12月14日に発売された。それまではスマートフォンは日本国外での市場がメインであったものの日本ではほとんど普及しておらず、この機種の登場によっても人気を博し、加入者が増加した。
これらの動きにより、2004年に280万人まで落ち込んだウィルコム加入者は2007年6月で460万人超に達している。
なお この動きに対抗する形で、携帯電話の各事業者もフルブラウザ対応の端末・サービス、音声通話定額制サービスや、スマートフォン端末などを、追って展開・投入しはじめた。
日本において2000年代前半は低迷が目立ったPHSではあったが、以前からのPIAFSやAIR-EDGEなどの強みであるデータ通信分野に関しては、公衆無線LANと比べて市中の広いエリアで利用できることもあり定評がある。また、日本国外でも幾つかの国では「ラスト・ワン・マイルを繋ぐ手頃な無線技術」として注目されている。
また、基地局からの通話可能範囲が狭い事を逆手に取って、端末所持者の高精度な現在位置を確認できるようにした「位置情報確認サービス」(NTTドコモの「いまどこサービス」、ウィルコム(旧DDIポケット)の「位置情報サービス」)の提供や、安価で高速なデータ通信を利用して自動販売機などの販売機器や監視システムを遠隔管理可能する「テレメトリング」など、PHSの安価・小型・簡単なシステムを活用した運用がなされている。
また、PHS無線通信部分を切手サイズにまとめたW-SIM(ウィルコム)により無線通信技術を持たない会社の新規参入が容易になったため、従来にはない多種多様な端末が登場し始めている(詳細はW-SIMの項目を参照)。
現在の日本では、PHSは安価な定額通話・通信、手軽で機動性に富んだデータ通信手段として契約者数は再び増加に転じており、今後は国際展開や高速化(高度化PHS、次世代PHS)などが注目される。本文各章を参照のこと。
日本の業界動向[]アステルグループは2006年までに、北海道・関東・北陸・中部・四国・九州で事業を停止、関西・中国が音声PHSサービスを停止、沖縄はウィルコム子会社のウィルコム沖縄へ事業継承し、最後まで残っていた東北も2006年12月20日にPHSサービスを終了。アステルグループとしては消滅し、音声サービスは2006年内に全て停止された。また、旧アステル中国地方であるエネルギア・コミュニケーションズのPHSデータ通信定額制サービスMEGA EGG 64も2007年9月30日にサービスを終了した。
また、NTTパーソナルを引き継いだNTTドコモも、データ通信に特化して事業を継続する方針を打ち出していたが、2005年4月30日限りでPHSの新規加入申し込みを終了。2008年1月7日をもってサービスを終了した。[2]
2008年1月時点で、日本国内のPHS事業者としては、ウィルコム(旧DDIポケット)・ウィルコム沖縄と、同社からPHS網の提供を受けるMVNO、旧アステル関西の定額制データ通信専用PHS「eo64エア」だけとなっている。
このように多くの事業者が撤退への一途を辿る一方で、ウィルコムでは2005年5月1日から、音声通話定額制「ウィルコム定額プラン」を導入し、PHS音声サービスの契約者をある程度増加させた。通話定額制には携帯電話のボーダフォンなどが「LOVE定額」で追随した。ソフトバンクモバイル以降に開始されたホワイトプランとも競合している。
日本においては長らく、通信端末の外部にパソコンやPDAを接続しての(定額制)データ通信は、通信コスト面などの理由から、第二世代携帯電話や第三世代携帯電話を抑え、PHSが主役の座にあった。しかし、2007年3月31日にイー・モバイルがHSDPAによるPC接続での定額制データ通信サービスに参入。また、NTTドコモもFOMAによるPC接続での定額制データ通信サービスを2007年10月22日に開始(「定額テータプランHIGH-SPEED」、「定額データプラン64K」)、2007年12月22日にはKDDIが「Packet WINシングルサービス」(「WINシングル定額」)を開始した。各事業者によって速度制限やサービスエリアなどのサービスレベルは異なるが、PHSとの競合サービスとなっている。
上記各項目の詳細、その他の全般的事情に関しては携帯電話の記事も参照のこと。
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