Upsidonia(Archibald Marshallの小説)

ページ名:Upsidonia(Archibald Marshallの小説)

登録日:2025/12/16 (火曜日) 23:24:00
更新日:2026/06/12 Fri 23:23:38NEW!
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※日本語未翻訳の作品のため解説に固有名詞など意訳を含みます。


Upsidonia──それは、現実の不条理を映す鏡


Upsidonia』は、イギリスの作家アーチボールド・マーシャル(Archibald Marshall)によって1915年に発表された経済学的諷刺小説であり、
SF的要素を含むパラレルワールドを舞台にした物語である。
現代日本では未翻訳ながら、社会制度と階級意識を逆転させた奇妙なユートピア=ディストピアとして、英語圏では「最も雄弁な経済学的諷刺小説」と称され、風刺SFの古典として高く評価されている。


■概要

Upsidoniaは、利潤追求の動機が逆方向にはたらく世界。富者は消費を強いられ、貧者は自由で尊敬される。通常の資本主義的価値観を反転させ、経済活動の根本的前提を揺さぶる
「経済学の陰気さに対する優れた解毒剤」として機能し、経済学的諷刺小説の金字塔とされる。
Upsidoniaは風刺を目的とした並行世界として描かれ、現実の社会制度を相対化する装置として機能。ロイド・ビッグル『Esidarap ot Pirt Dnuor』等後の風刺SF作品に影響を与えた先駆的作品。
『Upsidonia』は、諷刺SFの代表作として、オーウェン・M・ジョンスン『The Coming of the Amazons』やフレデリック・フィリップ・グローヴ『Consider Her Ways』と並び称される。
G.K.チェスタトンは本作を「fantastic(幻想的)」と呼びつつも、「現実の社会のほうがはるかに不公平で非論理的(far less fair and logical)」と評し、Upsidoniaの一貫した論理性と寓話性を高く評価。
Upsidoniaの世界では、以下のような逆説的なルールが支配する

  • 金を借りれば乞食になり、金をもらえば犯罪者になる。
  • 公共地でも私有地でも寝れば逮捕される。
  • 子どもを家に残せば罰せられ、学校に行かせなければまた罰せられる。

チェスタトンは、Upsidoniaのような世界が現実の不条理を映す寓話的な鏡であるとし、庶民の「逆立ち的」な生き方を通して、現実社会の矛盾を浮き彫りにしていると述べている。



■あらすじ

放浪中の主人公ジョン・ハワードは、偶然迷い込んだ洞窟の先で「Upsidonia」という奇妙な国にたどり着く。そこでは価値観が完全に逆転しており、貧者が権威を持ち、富者が社会的に抑圧される。主人公は「金を押し付けた罪」で逮捕され、Upsidoniaの倒錯した社会制度に翻弄されながらも、次第にその世界に順応していく。
Upsidoniaでの生活を通じて、主人公は富者の苦悩、召使いの権威、恋愛制度などを体験し、Perry家の娘Miriamとの恋を育む。
Upsidoniaの社会的矛盾や階級制度に疑問を抱きながらも、主人公はUpsidoniaを離れてイギリスで新生活を始めることを決意する。


Upsidoniaでの生活が深まるにつれ、ジョン・ハワードは富者階級の矛盾と召使い制度の倒錯に直面する。
義兄Edward Perryは富者解放運動を開始し、Bolster家の籠城や「主人と女主人の組合」の結成など、Upsidonia社会に波紋を広げる。
主人公はイギリス帰還に備え富者救済の名目で株式を譲り受けるが、暴落により莫大な借金を抱え、主人公は脱出を試みる。
しかしUpsidoniaを離れてMiriamと静かな結婚生活を送る計画は、Lord Potterの陰謀によって危機に瀕する。
単身脱出経路を確認していた時、洞窟の崩落でUpsidoniaを離れることになるが、主人公はMiriamの存在を信じ、再びUpsidoniaを目指す決意を固める。


■登場人物

イギリス

  • John Howard

イギリス出身の旅人。Upsidoniaに迷い込み、異なる価値観に触れて思索を深める。
UpsidoniaでMiriamと恋に落ち、社会の矛盾に翻弄されながらも脱出を試みる。


  • 最初の案内人

洞窟探索に誘う男。崩落の兆候に怯え逃げる。Upsidoniaへの入口を示す存在。


  • 宿屋の人々と医者

洞窟崩落後の主人公を救助・看病するが、Upsidoniaの存在を否定する。

Perry家

  • Mr. Perry / Lord Magnolia

Perry家の家長。富者支援を使命とする「慈善家」。主人公の時計を奪ったことで出会う。
Upsidoniaの制度に忠実だが、穏健な改革派で、家族への愛情も深い。
後に富者支援活動の功績で貴族に昇格。Upsidoniaの政治的象徴となる。


  • Mrs. Perry

Perry家の母。保守的な価値観を持ち、召使いや恋愛制度に厳格。娘の幸福を願いながらも家族の調和を保ちつつ、
Upsidoniaの制度に柔軟に対応する。


  • Edward Perry

Perry家の長男。時計を奪った件の裁判で父をかばうよう主人公に頼みにきて出会う。
理想主義的な改革者で、Upsidoniaの富者解放運動を主導する。主人公の理解者であり、社会秩序の維持に尽力。
召使い制度に反旗を翻す。


  • Miriam Perry

Perry家の娘。快活で思慮深く、Upsidoniaの価値観に葛藤を抱きつつ、主人公との自由な結婚を望む。
後に婚約者となり、共にイギリスでの新生活を夢見る。


  • Tom Perry

Perry家の次男。Edwardの思想に影響を受け、貧者の価値観に共感し、富者生活に反感を持つ。主人公に皮肉を言いつつも祝福する場面も。


  • Mollie Perry

Perry家の末娘。率直で好奇心旺盛。Upsidoniaの制度に疑問を抱き、主人公との交流を通じて成長する。


  • Mr. Blother

Perry家の執事。Upsidoniaでは召使いが道徳的・社会的に上位に位置する。
家族の健康管理や空間管理を担い、召使いとしての権威を持つ。社会的境界を超えて発言する場面も多い。
主人公を擁護し、Upsidoniaの召使い制度における権威を象徴する。


  • Lord Arthur

貴族出身の足軽。召使いとして働きながらも誇り高く、Upsidoniaの倒錯した階級制度を体現し、富者を冷笑する。
主人公に皮肉を交えるが、後に尊敬を示す。


  • Arthurの婚約者

隣家の家政婦。Upsidoniaの恋愛制度に則った関係を築く。


  • Mr. Hobbs

厳格な庭師長。庭の管理権を持ち、富者の行動を監視・制限する。
Miriamに忠誠を誓い、Potterの追放に協力する。


  • Sir Herbert

庭師。子どもたちの釣りを手伝う。富者に対して警戒心を持つ。
Potterの横暴を制止。Potterを力ずくで排除し、過去の因縁を晴らす。


Eppstein家

  • Amelia Eppstein

Perry家の長女。階級を超えた結婚をしたが、上流意識を保とうとする。
冷静に状況を見守る。召使いとの摩擦も描かれUpsidoniaの階級制度に対する不満を抱く。


  • Herman Eppstein

Perry家の親族。証券業出身の婿。株式譲渡の仲介役。冷静な判断力を持つ。
Upsidoniaの富者義務に不満を持ち、粗野な言動で風刺の対象となる。
主人公の株式譲渡を担当し、秘密保持に協力する。


Blueberry伯爵家

  • Lady Blueberry

Mrs. Perryの姉。伯爵夫人。気品と労働の誇りを体現し、家族の調和を保つ。
上流階級の象徴。Upsidoniaの伝統的価値観を体現する人物。


  • Ladies Susan & Cynthia

伯爵家の娘たち。礼儀正しく、素朴な魅力を持つ。
Trickyの姪。感受性が強く、Upsidoniaの価値観に忠実。


ダーティ・セット

  • Mrs. Claude Chanticleer(Tricky)

「ダーティ・セット」の主催者。極端な禁欲主義者。極端な生活様式で家族を困惑させる。
社交的で機転が利くが、騒動には困惑する。


  • Claudie(Claude Chanticleer)

Trickyの夫。共に極端な生活を送る。


  • Tinker

元Coxford大学の学寮長。「貧困こそ自由」と説く哲学者。
自由と知識を求めて放浪生活を選び、「ダーティ・セット」の哲学的支柱的存在。


クラブ

  • Thompson牧師

クラブの規律を監視する若者。科学教育に熱心で、主人公に親しみを持つ。


  • クラブの召使いたち

高圧的な態度で接客し、主人公に支払いを要求する。Upsidoniaの階級構造を体現。


Hobson家

  • Mr. Hobson

投資成功により富を得てしまったUpsidoniaの「悲劇的富者」。主人公に株式を譲渡するが、後に暴落で逆恨みする。


  • Mrs. Hobson

Hobsonの妻。贅沢な生活に苦しみながらも家庭を支える。


  • Hobson家の子どもたち

富の中で泣くUpsidoniaの「悲劇の子ども」。制度の矛盾を象徴。


反乱者

  • Mr. & Mrs. Bolster

Upsidoniaの富者階級の反乱者。召使い制度に抗議し、家に籠城する。Upsidoniaの「革命」の象徴。
家財を投げ捨て、召使いを追放し、家を要塞化。警察の突入を阻止する。


  • Mr. & Mrs. Slabb

Upsidoniaの富者夫妻。召使いに支配されながらも感謝と従順を示し、反乱には加わらない。


  • Augusta

Slabb家の主導的召使い。掃除日を仕切り、主人の行動を制限する。


  • 自己消化食品の富者

食品の誤解から召使いに食事を強制され、Edwardの運動に参加する。


  • ガラス破壊の富者

Bolsterの行動に触発され、室内の装飾品を破壊して快感を得る。


役人

  • 警官たち

主人公を逮捕するが、盗人*1には無関心。Upsidoniaの法秩序を体現。


  • 警察署長

Bolsterの反乱を鎮圧しようとするが、群衆の反発に直面する。


  • 裁判官

Edwardの理想を認めつつも、法に則り軽い刑を言い渡す。


  • ウェイター

牢屋で高級料理を提供するが、侮蔑的な態度を取り、暴力をちらつかせる。



その他

  • Lord Potter

貧しい身なりながらUpsidoniaの権威者。傲慢で攻撃的なUpsidoniaの貴族。主人公を執拗に追及し、新聞に告発する。


  • 群衆(一般市民)

主人公の逮捕に加担する裕福な人々。Upsidoniaの価値観を象徴する集団。


  • John De Montmorency

人気俳優。みすぼらしい外見ながら尊敬されるUpsidoniaの象徴的存在。


  • Albert White

新聞社経営者。読まれない新聞を量産し、損失を出すことで「成功」するUpsidonia式ビジネスマン。


  • 株式投資家たち

損失を誇るUpsidonia式投資家。富者の倒錯した経済観を象徴。


  • Lady Rumborough

質素な格好の貴族。富を隠し、貧者らしく振る舞うことを誇りとする。


  • Lord Charles Delagrange

元農業労働者の貴族。贅沢と怠惰に浸る「堕落した富者」の象徴。


  • Brummer

粗野な富者。遺産を減らす努力をせず、Upsidoniaの倒錯した価値観を体現。


  • Duchess of Somersault

Upsidonia社交界の重鎮。主人公を擁護し、Potterを一喝する。


  • 新聞記者たち

Upsidoniaの社交界を取材し、主人公の正体に疑念を投げかける報道を行う。


  • Master of McGillicuddy

主人公を脱獄犯と断定し、新聞に情報を提供したUpsidoniaの貴族。


  • Beatrice Coghill

Miriamの友人。小さな農場での質素な生活を理想とする。


■設定

Upsidonia

洞窟の先に広がる異世界的空間。文明的な町並みを持つが、倫理・法・常識が現実とは逆転している。
Upsidoniaの住人は外界(イギリスやロンドン)を知らず、自国の常識が普遍的と信じている。
Upsidoniaは洞窟を通じてのみ出入り可能。崩落により通行不能となり、Upsidoniaの存在は「妄想」とされる。
Upside-down(逆さま)を連想させる名で、価値観の倒錯を象徴。

Upsidoniaの階級制度

貧者が権威を持ち、富者は召使いに従い贅沢を強制される。逆転した社会構造が風刺の核。
召使いは高貴な出自を持ち、主人を管理・制限する。労働の誇りは「富者を支配すること」にある。
召使いが空間と規則を管理し、富者は自由を制限される。召使いの教育や感情が優先される。
富者の子どもは贅沢を強いられ、自由を奪われる。贅沢は罰であり、貧しさが美徳とされるよう教育される。
富者は一定額以上の消費を義務づけられ、検査官に監視される。消費が足りないと罰則が科される。
富者は贅沢を強制されるが、浪費や寄付は禁止。富を使い切ることが義務であり、経済は非効率的。
株式は「富者の呪い」として機能し、暴落によって「貧者に戻る」ことが救済とされる。
富を持つことが社会的苦痛とされ、富者は「貧者に富を譲る」ことで救済される。奪うことが「慈善」とされる。
学者は貧しく保たれ、労働の尊厳は「有用性」によって定義される。
貴族は法の制定者だが、執行権は持たない建前。しかし実際には警察を私的に動かすこともある。
召使い制度への反抗として、富者が贅沢品を投げ捨て、召使いを追放する「反乱」が起こる。


Upsidoniaの司法

告発者が貧者、被告が富者という構図。罰金は被告が受け取る。裁判官は質素な服装で、形式は現実と似るが内容は倒錯。
富者用の牢獄は豪華な設備を備えるが、自由はなく、精神的には屈辱的。贅沢が罰として機能する。
政治犯は「第一級囚人」として名誉ある処遇を受けるが、労働と粗食が課される。


マイ・レディの庭

女性が男性に好意を示す際、「庭に招く」ことで交際が始まり、鍵の授与で関係が公認される。


Upsidoniaの文化

結婚には「贅沢の回避」「財産の放棄」が求められ、豪華な式は社会的体裁のために行われるが、個人の感情とは乖離。
精神疾患が離婚の正当な理由とされ、「安心材料」として制度化されている。
招待・出席・振る舞いが厳しく評価され、出自や服装が社会的地位に直結する。
新聞が個人の評判を左右し、社交界の出来事が即座に報道される。噂が事実のように広まりやすい。


Culbut

Upsidoniaの主要都市。「culbuter」は「ひっくり返す,転倒[転落]させる」というフランス語。価値観の倒錯を象徴。


Highlands(高地)

Upsidonia人が外界を想像する際の象徴的地名。主人公はこの誤解を利用して地位を得る。


ダーティ・セット

極端な禁欲や奇抜な生活様式を追求する人々の集団。社会の価値観を逸脱し、物議を醸す存在。


Masters' and Mistresses' Union(主人と女主人の組合)

富者による自衛的組織。合法的改革を目指すが、過激派との分裂が起こる。



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  • 中々マニアックな記事だ...面白そうな本に出会えた -- 名無しさん (2025-12-18 23:22:18)

#comment()

*1 実はUpsidonia式の慈善家

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