孤島の鬼(小説)

ページ名:孤島の鬼_小説_

登録日:2022/07/05 Tue 21:08:55
更新日:2024/06/20 Thu 11:04:38NEW!
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小説 長編 江戸川乱歩 男色 bl 探偵 密室殺人 暗号 孤島 舞台化 コミカライズ 人体改造 障害者 孤島の鬼




神と仏がおうたなら


巽の鬼をうちやぶり


弥陀の利益をさぐるべし


六道の辻に迷うなよ




【概要】

孤島の鬼江戸川乱歩の探偵小説(後半は怪奇冒険小説としての面が強い)。
博文館の雑誌『朝日』の1929年1月号から翌1930年2月号まで連載された長編作品で、森鴎外の随筆に着想を得て執筆された。
探偵小説ではあるが、乱歩作品おなじみの探偵・明智小五郎は登場しない。


また、同性愛の要素を取り入れた男色小説でもあり、美青年の主人公に片想いする美男子がもう一人の主人公的存在として登場する。
乱歩の筆により艶めかしく、生々しく描かれる二人の関係はドキドキもの。…だが異性愛者の主人公と同性愛者の友人という致命的な違いは、数々の事件の果てに、終盤で地獄絵図とも悲恋とも取れる情景へと二人を追い込むことに…。


本作では密室殺人や衆人環視の中で起きる殺人トリックが描かれており、筒井康隆氏など乱歩の最高傑作とする著名人もいる。
猟奇趣味要素も多分に用意されており、後半ではかなりエゲツナイ人体改造描写も現出。現在ではNGとなるだろう差別的表現も頻繁に登場する(「かたわ」「きちがい」など)。



単行本は現在でも様々な出版社から出ているが、アニヲタ的な内容を含むものとしては海王社が発行した宮野真守による朗読CD付文庫本が存在する。
また、長田ノオトによる耽美な絵柄のコミカライズ版(全一巻)や、naked ape作画によるコミカライズ版(全三巻)が出ている他、山口譲司の「江戸川乱歩異人館」(12~13巻)にも収録されている。
変わったところでは大須賀めぐみがゲッサンで連載中の演劇漫画『マチネとソワレ』に舞台の原作として登場する(8巻〜10巻)。


また本作自体の実写作品は平成に入ってからの舞台化(長田版漫画をベースにした2014年版と石井幸一脚本の2015年版・2017年版)と2023年の朗読劇版(明智小五郎ものとしてリメイク)くらいなものの、
江戸川乱歩作品複数の要素をミックスして制作された猟奇映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年 石井輝男監督)は本作のストーリーラインをベースに構築されており(但し同性愛要素はカットされ、簑浦・諸戸を足して2で割ったような立ち位置な主役の名前やオチは別な乱歩作品が原作)、本作後半に現れる「ある登場人物」のリメイクキャラも登場。映画の象徴的ビジュアルとしてポスター(とそれを流用したDVDジャケット)を飾っていた。
余談だが『恐怖奇形人間』で素顔が分からぬ程の特殊メイクを施して「ある登場人物」の「1人」を演じたのが、後に名優として知られる近藤正臣氏である。




小説作品としては、江戸川乱歩から大きく影響を受けたと語る綾辻行人の中編小説「フリークス~564号室の患者~」には本作へのオマージュが込められており、作中でもその事が語られている。


【物語】


私はまだ齢三十にも満たぬというのに頭髪は老人のように真っ白になっている。人は私に出会うと、必ずその理由を聞きたがる。
私の妻の左腿にあるおそろしく巨大な傷痕も同様だ。それらは我々の経験した恐るべき体験が真実だという証拠である。
いちいち人に説明するのも疲れたので、手間を省くために書物にまとめてみようと思う。
これは二た月ばかり間をあけて起きた二件の変死事件あるいは殺人事件を発端とする、戦慄すべき大規模な邪悪、何人も想像しなかった罪業に関する、私の体験談である。




それは蓑浦金之助(私)が二十五の時だった。同じ会社に入ってきた木崎初代に心を奪われ、交際の後に婚約を申し込んだのだ。
初代は幼い頃、親に捨てられたという身の上を持ち、捨てられた時から持っていた身元のてがかりである系譜図をプロポーズの返事として渡す。


ところが初代に言い寄る男が現れる。
その男・諸戸道雄は簑浦の学生時代からの友人であり、簑浦に片想いする美男子だった。
諸戸が自分と初代の仲を引き裂こうとしていると考えた簑浦だったが、初代が密室の中で胸を刺された遺体となって発見される事件が起きる。


初代を殺した犯人への復讐を誓う簑浦は、友人の探偵・深山木幸吉に初代から貰った系譜図を見せ、調査を依頼する。
ところが、深山木の元に犯人からの脅迫状が届き、簑浦たちが見守る衆人環視の中、深山木も殺害されてしまう。
その場で諸戸の姿を見た簑浦は彼への疑惑を深め、ついに諸戸の家に赴き彼を問い詰めるが、諸戸は「自分は犯人ではない」と言う……。



【登場人物】

蓑浦みのうら金之助
物語の語り部。当時25歳の美青年で、貿易会社に勤めるクラーク(事務員)。
実業学校*1出身。実家は裕福ではなく、給料も薄給。
趣味は小説、絵、芝居、活動写真で、空想好きで内気な性格。同い年の友人はいないが、諸戸や深山木のような年上の一風変わった友人には恵まれている。
同性愛の気はないのだが、自分の容姿がそれなりに魅力的なのは理解していて、時おり諸戸たちに甘えるような態度をとっている。
婚約者の初代を殺害され、彼女の遺灰を食べながら犯人への復讐を誓う。
深山木に相談した後、誰かが家に侵入したことに気付く。


諸戸もろと道雄
簑浦の6歳年上の友人で、彼に恋焦がれる美男子。本作の探偵役。
女嫌いで女性に憎悪や恐怖すら感じるらしく、ゆえに同性しか愛することが出来ない性的倒錯者。
大学に所属する医学者で、自宅でも動物たちを活体解剖する趣味嗜好を持つ。
簑浦が学生時代、同じ下宿に住んでいた頃からの付き合いで、簑浦に勉強を教えたりしていた。
よく一緒に銭湯に通っては簑浦の身体を丁寧に洗っていたらしいが、上述したように簑浦も気持ちに気付きつつも拒否せずにいた。
一度だけ強引に簑浦を手籠めにしかけたものの関係が切れることはなく、簑浦にラブレターを送ったり帝国劇場へ一緒に出掛けたり(ようはデート)し続けていた。


初代の家に通って求婚を申し入れており、二人の仲を引き裂こうとしたのではないかと疑われており、初代殺害後も数度木崎家に通っていた。
深山木の殺害現場にも居合わせたことから怪しまれるが、自分も事件を独自に調査していたと語る。


・木崎初代はつよ
簑浦の婚約者。当時18歳。
一般的な美人とは言えないが、簑浦にとって絵に描いたような理想の女性。
簑浦と初めて会話した時には、タイプライターの前で俯き気味に「HIGUCHI HIGUCHI HIGUCHI…」と熱心にタイピングしていた。
その様子に興味を惹かれた簑浦が声をかけた事をきっかけに恋仲となり、9か月ほど付き合った末に婚約するが、
大正14年6月25日の早朝、自宅の部屋で遺体となって発見された。死因は心臓を一突きされたことによる即死。
部屋の扉は襖だったが表口も裏口も、もちろん窓も施錠されており、外のぬかるみや天井裏にも足跡のようなものはなかった。
唯一侵入できそうな床下には金網が張ってあり、いずれも侵入は不可能だった。
貰ったばかりの月給が入った手提げ袋と、なぜかチョコレートの缶が盗まれていた。


3歳の頃に大阪の川口という船着場で、一族の系譜図を持たされて捨てられていたところを義両親に拾われた過去を持っており、
その系譜図に「樋口」という名前が書いてあることから、自分の本名は樋口だと考えていた。
なぜかその系譜図を高値で買い取ろうとしていた人物がいたらしいが…。


・初代の義母
初代の遺体の第一発見者。
少々耳が遠い。初代の寝室とは離れた玄関近くの部屋を寝室にしている。
家の中には彼女しかいなかったため、当然疑われたがそもそも娘を殺害する動機はなく、検察も証拠不十分として釈放している。


・古道具屋
初代の家の隣家で同じ平屋建ての店。
深山木はこの店で売られていた七宝の花瓶(二尺五寸≒75cmほどの大きさ)に注目していた。
その花瓶は対になっており、その一方が事件の前日に売買が決まり、事件当日に使いの者が持って行ったらしい。


深山木みやまぎ幸吉
簑浦の友人で探偵。当時40歳過ぎ。
身寄りはなく、結婚もしていないが時おり女性と暮らすも刹那的にとっかえひっかえしていた。
幾らかの貯えがあり仕事はしておらず、様々な事件に首を突っ込んではその知識を活かして有益な助言をすることもある。
意外にも子供好きで、近所の子供たちを集めては一緒に遊ぶガキ大将的なところもある。


簑浦から初代の事件の調査を依頼され、五日間の調査の末に犯人の本拠に辿り着いたらしいが「何か」を見て逃げ出したという。
さらに家に帰ると何者かからの脅迫状が投げ込まれており、ひどく怯えていた。
犯人を上げるだけの証拠を得られておらず、警察の介入を先送りにしていたが、
簑浦と海岸に行き、4人の子供たちに砂に埋められて遊んでいる際中、心臓を抉られて死亡。衆人環視の中、誰も犯行に気付かなかった。
警察の捜査により、傷口の癖や使用した短刀が同じだったことから初代殺しの犯人と同じ人物の犯行であることが判明した。


簑浦が警官と共に彼の家に行くと、嵐が去った後のように荒らされていた。
脅迫状には「ある品物」を渡すよう書かれていたため、犯人がその品を探したものと思われる。
だが、深山木は死ぬ前に簑浦宛にその品物──鼻が欠けた乃木大将の石膏像──を郵送していたため、簑浦の手に渡った。


・子供たち
深山木と一緒に海岸で遊んでいた4人の子供たち。
4人の内一人は東京から遊びに来ており、残りは地元の子供だった。
夢中になって深山木に砂をかけていたが、いつ深山木が刺殺されたのか目撃した子はいなかった。


・怪老人
事件前、初代の家の格子窓から中を三度も窺っていた奇妙な老人。
初代の見立てでは80歳以上で腰が二つに折れ曲がっており普通の人の半分程度の背しかないように見えるらしい。
顔もかなり醜悪で、上唇が二つに裂けているのが特徴。
深山木の事件後、簑浦が諸戸の家を訪ねようとした際にそれらしき老人を発見し、諸戸の家に入っていくのを目撃したが消えてしまった。




※以下、中盤までのネタバレ注意。























・友之助
曲馬団に所属する軽業師の少年で、初代と深山木を殺害した実行犯。
12歳だが発育不良で10歳くらいにしか見えないほど小柄。その小柄な体躯と柔軟な身体を使い、壺に入る芸を得意としている。
義務教育は受けておらず字も知らない。常識は欠乏しており悪事にかけては知恵が回る。


初代事件の密室は木崎家と平屋で繋がっていた隣の古道具屋の家から、台所の炭や薪を入れておく上げ板から軒下を通り侵入した。
そして犯行が終わると再び軒下を取って古道具屋へ戻り、花瓶の中に入って隠れたのだった。
深山木の事件はもっと簡単で、彼と遊んでいた子供たちの中に混ざって他の子どもが砂をかけるのに夢中になっている隙を突いて犯行に及んだ。
まさか10歳前後の子供が怖ろしい殺人を犯したとは誰も思わず、盲点となっていたのだった。
諸戸は深山木の件から犯人が子供たちの中にいると考え、初代の事件後に花瓶が消えたことから真相に思い至った。
また、初代の寝床からチョコレートの缶がなくなったことも子供が犯人という考えを裏付けていた。
もちろん、彼に犯行を行わせた黒幕は別にいる。


友之助は諸戸に誘導されて事件を洗いざらい暴露するが、突如窓の外からピストルで撃たれて絶命してしまう。
はたして真犯人の正体には辿り着けなくなってしまったかに思えたが……。


・諸戸道雄
友之助の死後、警察に事情を聞かれた際に推理を披露するも、やはり荒唐無稽すぎて無視されてしまった。
このため神田の神保町近くにあるレストランの2階を秘密の探偵本部として借り、簑浦と共に事件を追う事を決める。


・蓑浦金之助
諸戸の提案に乗って一緒に事件を追い始めるが、その関係をどこか楽しみ始める。
二人は例の乃木大将の石膏像に隠されていた初代の系譜図に隠れた暗号(ページ冒頭の四行詩)とある人物の書いた手記を発見する。
その手記を読んだ諸戸は、その手記内にある「医学的に自然ではあり得ない存在」に疑問を持ちつつも全体の内容からひどく動揺し、自分の身の上とある疑惑を語る。


そして二人は運命の「岩屋島」へと向かい、ついに全ての真相が明かされる……。





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  • 秀ちゃんのアレは漫画だと手術じゃなくて鉄枷になってたな -- 名無しさん (2022-07-05 22:14:37)
  • 乱歩要素満載だけど展開としては綺麗にまとまってて長編の中では一番 -- 名無しさん (2022-07-05 22:25:51)
  • シナリオライターのトノイケダイスケ氏が、人生変わった一冊に挙げていた。そりゃこんなもんを小学生とかその頃に読んだら人生歪むわな。 -- 名無しさん (2022-07-06 01:03:56)
  • 日本のMJは怖いなあ。 -- 名無しさん (2022-07-06 12:33:02)
  • 3巻本のマンガだと、奇形関連は全部マイルドにされてたな -- 名無しさん (2022-07-06 22:35:12)
  • 「片●者は心までも歪んでいる」云々という件があるバージョンと削除されたバージョンがある(旧角川文庫にはあったが創元推理文庫には無い)。 -- 名無しさん (2022-08-24 02:04:21)

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*1 現代における専門学校

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