SCP-4266

ページ名:SCP-4266

登録日:2021/06/06 Sun 10:13:36
更新日:2024/05/27 Mon 13:10:12NEW!
所要時間:約 11 分で読めます



タグ一覧
scp scp foundation keter 倫理 コロニー scp-4266


全ての人間の身体には現実の世界に具体的にはたらきかける能力があり、この能力が他者の意志に対して強制的にくわえられると暴力となる。

ーWikipedia「暴力」より引用


SCP-4266は、シェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスKeter


概要

Keterクラスと言えば、財団的には収容が極端に難しい、もしくはもう手遅れのオブジェクトにつけられる事が多いクラスだが、大体の場合、いくつかのパターンに分かれる。


1.クソトカゲチート棺桶のように、強すぎて収容できない。
2.SCP-169のように、規模がデカ過ぎて収容できない。
3.かつての消照闇子のように、原因が分からないので収容できない。
4.○○|○○○○○|○○|○のように、すぐ突破されてしまうので収容できない。


SCP-4266は2と3に近い。


こいつが何なのかと言うと、現在でも原因が分からない感染ベクターである。感染すると、知的生命体の共感性だとか、協力性とかいったものを下げ、人間同士の暴力や犯罪を引き起こす。要は「やはり暴力‥‥!!暴力は全てを解決する‥‥!!」という状態にさせるのである。


厄介なことに、コイツの引き起こす暴力性にはある程度の強制力が伴っている。人類は今まで様々な喧嘩、犯罪、戦争を引き起こしてきたが、全部こいつの仕業である。こういった暴力的振る舞いには、人口密度に比例するなど当然のことを除いて決まった法則は見られない。


財団、ひいては人類の行動圏が地球に留まっていたらこんなオブジェクトに気付けるわけがない。これが初めて確認されたのは2080年、火星に人類の居住圏を作ることに成功した5年後のことである。*1当然、火星コロニーには地球と同じように、暴力や犯罪の火種となる要素があったが、発生率は予想よりも遥かに少なかった。


当初、財団は火星が異常なのかと考えたが、その後、月や木星の衛星、小惑星に出来たコロニーでも同じように、暴力犯罪がほとんど起きなかった為、実は地球の方に異常があるということが発覚した。つまり、効果範囲は地球全体。そりゃあ貫禄のKeterなわけだ。


補遺4266-a: 当面における財団の対応

財団は、SCP-4266を発見してすぐに、それによってもたらされる効果を隠匿することを決定した。SCPオブジェクトとして認められたから、それだけの理由ではない。このオブジェクトの詳細が明るみに出てしまったら、最悪の場合社会が成り立たなくなるからだ。


「私がアイツを殴ったのはSCP-4266に強制されたから。私だって好きでやったわけじゃない」「僕が人を殺したのはSCP-4266のせいなんだ、本当はそんな人間じゃないんだ」こんな道理が通ってしまったら、まともに犯罪者を裁くことも出来ず、司法制度が崩壊する。暴力による恐怖政治で成り立っている独裁国家が暴走する可能性もあるし、そうなればその後の紛争、壊滅的な被害は避けられない。


それに、火星に人類を移住させることが出来たとはいえ、当時の技術では大規模な移民には耐えられるコロニーなど作れないし、資源の問題だって無視できない。


というわけで、財団はSCP-4266発見から暫くの間、地球外で暴力・犯罪を再現することで時間を稼ぐことにした。具体的には、財団エージェントと市民がグルになって、またエージェント同士が争いを行ったり、もしくはそのふりをしたり*2。普通の死体を他殺体に見せかけたり、コロニーの平和維持軍に暴力犯罪を水増しして報告するなど、とにかくありとあらゆる手段を講じた。


表面だけの偽装工作では隠しきれなくなると、財団は「新たなる世界に、新たなる尊重の形を (New World, New Respect)」と題したプロパガンダを実施。共感性の向上にもっともらしい理屈をつけ、暴力に偽装をだんだん減らしていった。一般人には、人間は「進化」したと伝えられている。


補遺4266-b: 地球からの退去

こうして、コロニーでSCP-4266が発覚するリスクは除去できたが、最終的にはやはり、人類からSCP-4266の影響を取り除くのが適切だろうと判断された。どうするのかって?


地球を放棄するのである。


きらいきらい星<おいふざけんな


まず第一段階として、大規模な移住に耐えられるコロニー、そのインフラを整備することが挙げられた。かなりの長丁場になることが覚悟されたが、幸運にもコロニー内の住民は、SCP-4266の効果から逃れたお陰で、前例のない協力性を発揮した。これに気づいた財団はSCP-4266の情報をコロニーの上層部に共有。財団の戦略に賛成した上層部と共同で仕事にあたり、計画完了を数十年と大幅に繰り上げた。


第二段階としては、人類に対し地球外に移住するよう説得することが実施された。単に「皆で宇宙に移住しましょう!」と言うだけでは説得力に欠ける。かと言ってSCP-4266の情報を明かすのは上記の通り危険すぎる。ここは財団お得意のカバーストーリーの出番である。簡単に言うと、「地球でいま流行り始めている病気のせいで不妊が引き起こされてるから、皆で宇宙に行ってこれを回避しよう」という内容。


財団はカバーストーリーに説得力を持たせるため、人類に一時的な、しかし大規模な不妊を起こす█████████████-31という化合物を散布。急落した妊娠率を目の当たりにした人類は、実に90%が自分から地球外に移住していった。ようは壮大な自演、マッチポンプである。しかしここで問題が発生。


残り10%の人類の抵抗に、ついに暴走した地球の財団グループが█████████████-22という化合物を散布してしまったのである。これは先述の-31と同じ系統の化合物だが、あちらが一時的なものなのに対し、これは治すことの出来ない不妊を引き起こすため、早くから却下されていたものだった。


(恐らくコロニーに居る)財団上層部はこの行動を糾弾した*3…が、皮肉にもこの行動すらカバーストーリーに説得力を持たせたようで、その後の移住はスムーズに進んだ。最終的に地球に残った人類はわずか十万人、それも2271年に最後の一人が死亡。これを以って、地球は完全に放棄された。


特別収容プロトコル

現時点での残りの計画は、SCP-4266を完全に解明することである。今のところ地球でしか発生していないとは言え、他の星で同じことが起きないと誰が保証できるだろうか?


現時点で、地球は人類から放棄された状態を維持することが決められている。もし地球に着陸しようとする宇宙船があれば、それを削弱、つまり地球への着陸を難しくする。それでも強行突破しようとするのなら、乗組員を殺さないように宇宙船を無力化し、宇宙港に送ったあと、記憶処理を施す。


肝心の地球はというと、SCP-4266を研究するため、少数の財団職員が滞在している。各職員は常に距離を保ち、監視される。また、人類に対して敵対的なSCPオブジェクトは全て地球に隔離されている。他のオブジェクトも、暴力的な挙動が見られたら早急に地球に輸送する。


何にせよ、人類の恒久的な平和は実現できた。果たしてSCP-4266の原因は解明されるのだろうか。


追記・修正は、ガニメデのコロニーからお願いします。


[#include(name=テンプレ2)]

[#include(name=テンプレ3)]













[+ 倫理委員会報告書を表示する]

































誰しも汚れ仕事はやりたがらない。でも誰かがやらなければいけない。



元記事の最後には、SCP-4266に関する倫理委員会の報告書が置かれている。その内容を掻い摘んで要約する。


補遺4266-c: SCP-4266に関する倫理委員会報告書

まず、SCP-4266の報告書だが、先程説明したのは、コロニー内の財団が認知している報告書である。実は地球上の財団グループが認知している報告書は、これと異なる部分がある。一つ言えるのは、そちらが真実ということ。


SCP-4266のベクター。それは未知などではない。こいつは地球の大気にのみ存在する、脳に作用する病原体である。この病原体、隔離されるとすぐに死滅するなど、生命力はあまり強くない。それに加えて、コロニーでは独自のシステムで酸素を生み出しているため、SCP-4266の影響が無かったのである。


財団のとある研究グループは、研究開始から十年でこの事実を発見したが、すぐにその情報を隠蔽、財団の他の科学者による研究が及ばないよう諜報活動を行った。表面上、SCP-4266が未知の感染ベクターとして認知されているのはこのためである。


何故こんなことをしたのか?組織に所属する人間・団体である以上は、それの掲げる目標に従うべきである。ましてやその組織はSCP財団。もしこの事が知られれば、終了は免れないほどの背信行為であろう。


倫理委員会も、地球の放棄には賛成し、協力している。しかし、彼だか彼女だかは、コロニーの財団が気づけない事実を一つ知っている。


財団は暴力によって機能している、ということである。


最たる例はDクラス職員だろう。おなじみ財団の捨て駒ブライト博士の残機だが、彼らはオブジェクトの異常性を調べたり、収容の手伝いをしたりといったことに必要不可欠である。でもそんな事、共感性がカンストしているコロニーで出来るわけがない。


人型のオブジェクトに対する待遇だって、全員が全員普通の人間と同じような扱いを受けさせてもらえるわけではないし、何なら普通の職員に求められる対応の中には、ある程度死を覚悟しなければいけないものもある。


更には、元文書における「長期的延命をもたらす実用的な選択肢」、平たく言うとクローンを作る技術の弊害となってしまう。現在でもクローンというのは、倫理面から反対意見が出ることの多い話題だが、SCP-4266の影響が無くなった場では満場一致で反対されるであろう。


だから地球上の財団グループは、上層部からの糾弾は承知の上で化合物を散布したのだ。倫理委員会の報告書では「リボキシデプロジェスタロン-22(RDP-22)」という名前が明らかになっているが、これはSCP-4266の研究の産物である。確かにコイツは永久的な不妊をもたらす代物だが、クローニングには全く影響しない。彼らは暴走していたように見えて、賢く動いていたのだ。


財団を裏切ってまで、倫理委員会は何がしたいのか?何が目的でこんなことをしたのか?答えは簡単。


人類の平和、倫理という二文字では片付かない部分を引き受ける為。


汚れ仕事を引き受ける為である。


SCPオブジェクトの研究のためには、ある程度倫理から外れた行動をすることも必要である。だから、彼らは「倫理」という概念をコロニーに置き去りにし、暴力を伴う活動を地球で行っているのである。それだけではない。


この先コロニーでは、話し合いではどうにもならない事態だって起きるだろう。人類なのだから当然である。全ての平和的な解決法が、結果的に酷い損害をもたらすことだって有り得る。その時コロニーの財団は対処できるのか?恐らく、無理だ。
だが、地球の財団なら、倫理委員会なら出来る。90%の人類が捨てた、暴力を用いた解決法を使える。


更には、非人類による侵略の可能性だってある。SCP-4266が抑え込んでいただけであって、人類は生まれつき共感性に恵まれている。でも宇宙人はどうだろうか?他の知的生命体に共感性がある、そんな事誰が保証できる?コロニーの人間には先制攻撃など行えない。外部からの攻撃に気づいたときには、既に手遅れだった。そういった事態もあり得るだろう。
倫理委員会だけが、それを防げるのだ。


コロニーの住民には、暴力と犯罪を忘れ、平和と秩序のもとで、倫理を持って暮らしてほしい。そのためなら、自分たちの共感の消失なんて安いもの。倫理委員会と一部の職員は、自らが汚れ仕事を引き受けて、残る大多数に今後を生きてほしかったのである。


その”一部の職員”には、この報告書を記した人物も含まれている。


要約すれば、平素の通り3つのシンプルな言葉となります。あなたもこれまでの人生でこの言葉を聞いたことがあるでしょう −− 慣れ親しみすぎて、あなたにとっては陳腐な常套句クリシェかもしれませんが。今、私はこの言葉について真剣に考えるようあなたに求めます。あなた自身にとって、我々のミッションにとって、そして全人類にとって、これがどういう意味を持つのか考えてみてください。


確保、収容、保護。


  • O5-3

平和と倫理だけで成り立つほど、世の中は甘くない。


しかし、それらは人類が幾千年も憧れた、世の中の理想である。


だから倫理委員会は、他人の倫理を守るために、自らの倫理を捨てた。


でも、誰もが避ける非倫理を引き受けるのならば、それは。


SCP-4266


The Thing That Makes You Kill Peopleお前に人殺しをさせる物


それは正しく、倫理的と言えるだろう。


余談

この作品は、2019年の「クリシェコンテスト」出品作である。クリシェというのは、使い古されて陳腐になった決り文句、常套句のことを指す。クリシェコンテストは、それを敢えて使ってみようという一種のチャレンジ企画である。


提示された10個のクリシェのうち、SCP-4266で使用されたのは、


1.人に悪い行動を起こさせる、または人を死なせる強制力の効果。
2.[GoI/PoI](要注意団体、準要注意団体のこと)が財団に一泡吹かせ、一連の流れの中で財団が愚かに見えるようにする。


の二つ。この場合、1はSCP-4266の効果そのもの、2は倫理委員会が財団を出し抜いた流れが当てはまる。
「倫理委員会が要注意団体?」と思う方もいるかもしれないが、倫理委員会や誤伝達部門のような財団の内部部門は、タグリスト上は全て要注意団体として分類されているため問題はない。


誰もが避ける追記・修正は、率先してお願いします。




CC BY-SA 3.0に基づく表示


SCP-4266 - The Thing That Makes You Kill People
(本家) http://www.scpwiki.com/scp-4266
(翻訳) http://scp-jp.wikidot.com/scp-4266


この項目の内容は『クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス』に従います。


[#include(name=テンプレ2)]

この項目が面白かったなら……\ポチッと/
#vote3(time=600,10)

[#include(name=テンプレ3)]


  • これ最後の最後でSCPナンバー間違えてないか? -- 名無しさん (2021-06-06 10:50:16)
  • 名前変え忘れました。修正しました。恥ずかしい… -- 項目作成者 (2021-06-06 11:01:15)
  • 001でもおかしくない規模のSCiPね -- 名無しさん (2021-06-06 11:57:37)
  • お前を殺すものをもじったタイトルのやつは秀逸なの多い -- 名無しさん (2021-06-06 12:13:30)
  • 他の人類が光の中で暮らす間、暗闇の中に立ち戦い続ける人達 -- 名無しさん (2021-06-06 12:58:58)
  • 人類は二千年以上暴力と共に過ごしてきたのだから、暴力がある状態の方が正常で地球外に出て暴力が無くなる方が異常ではないのか? -- 名無しさん (2021-06-06 13:01:25)
  • 愛が実は異常性だったなら愛を収容する。暴力が実は異常性だったなら暴力を収容する。個の存在が実は異常性だったなら個の存在を収容する(これは確か失敗したが)。財団はそうやってきたし、そうするだろうとも -- 名無しさん (2021-06-06 13:15:10)
  • 「地球外に暴力を誘発する菌が存在しない」事をSCPとして、地球に合わせる為にコロニーに菌をばら撒くのとどちらが良かったんだろうね -- 名無しさん (2021-06-06 13:19:42)
  • SCP-231の処置110モントークをやる人が一人になったりするんだろうかな -- 名無しさん (2021-06-07 00:09:38)
  • やっぱ地球以外の星で暴力性を失うことの方が異常扱いされて然るべきに思えるな。まぁ宇宙進出が出来るようになったなら、地球だけが例外扱いされるのも当然なんだろうか -- 名無しさん (2021-10-03 14:11:28)
  • この報告書内でも財団が暴力で解決を図ってるっていう皮肉 「毒物撒いて不特定多数を病気にしたろ、どうせ後で治るヤツだからええやろ」とか暴力以外の何物でもない -- 名無しさん (2022-08-23 10:51:41)
  • 最後の書き回しすごい好きだなぁ 倫理委員会の覚悟を感じる -- 名無しさん (2023-11-26 17:27:48)

#comment(striction)

*1 この報告書における財団世界は、地球外コロニーという言葉が当たり前になっている。
*2 例えば化粧品を使って傷跡を再現したり
*3 その結果、全ての█████████████は製造中止となった。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧