2021年第82回菊花賞

ページ名:2021年第82回菊花賞

登録日:2021/10/28 (木) 22:15:42
更新日:2024/06/06 Thu 13:53:42NEW!
所要時間:約 12 分で読めます



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競馬 阪神競馬場 名勝負 タイトルホルダー g1 群雄割拠 菊花賞 福永祐一 逃げ切り クリストフ・ルメール オーソクレース ディヴァインラヴ 5馬身差 変則ラップ 横山武史 親父の忘れ物を取りに来た息子 偶然にしては出来すぎ 情報量過多 父子のドラマ 幻惑逃げ 王者ならここにいる ステラヴェローチェ 令和のセイウンスカイ




父に捧げる初タイトルは三冠最後の忘れ物


──netkeiba 公式Twitterより



2021年第82回菊花賞とは、2021年10月24日に阪神競馬場で開催されたクラシックGⅠレースである。
勝ち馬の圧倒的なパフォーマンスと、人馬双方に紡がれた23年前から始まる大きなドラマが話題を呼んだ。




出走馬


枠番馬番馬名騎手オッズ人気
11ワールドリバイバル津村明秀85.416
2アサマノイタズラ田辺裕信13.15
23タイトルホルダー横山武史8.04
4ロードトゥフェイム丹内祐次60.115
35レッドジェネシス川田将雅3.91
6セファーラジエル鮫島克駿90.817
47ディープモンスター武豊18.17
8(外)エアサージュ藤岡佑介36.310
59ヴェローチェオロ幸英明44.112
10モンテディオ横山和生46.413
611ディヴァインラヴ福永祐一17.36
12ノースザワールド和田竜二105.518
713アリーヴォM.デムーロ40.311
14ステラヴェローチェ吉田隼人4.12
15ヴァイスメテオール丸山元気21.79
816グラティアス松山弘平59.714
17ヴィクティファルス池添謙一18.48
18オーソクレースC.ルメール5.43


王者不在の世代最終戦


まず本レースの前評判と注目度はというと、はっきり言ってそう芳しいものではなかった。
というのも近年の長距離需要低下の傾向もあって、ホープフルステークス馬ダノンザキッド、皐月賞馬エフフォーリア、ダービー馬シャフリヤールが揃って出走を回避。
元々別路線に進んでいる朝日杯フューチュリティステークス馬グレナディアガーズ、NHKマイルカップ馬シュネルマイスターも当然ながら出走せず、GⅠ馬0頭という本命不在の一戦となってしまったのだ。


結果18頭フルゲート揃うものも、条件戦レベルの上り馬も多数出走するというメンバー的な魅力がイマイチ足りない顔触れに。


前週には、阪神ジュベナイルフィリーズ馬にして桜花賞馬ソダシやオークス馬ユーバーレーベンを筆頭に、この年様々な意味で注目を集めた3歳牝馬の世代最終戦・秋華賞が、翌週には前述のエフフォーリア含めた超豪華メンバーが揃った天皇賞(秋)*1があった事もあり、様々な意味で谷間のGⅠとなってしまう。


昨年の菊花賞がコントレイル無敗三冠が懸かった運命の1戦であった事を差し引いても、売上は昨年度比から見て大幅な減少だったと言わざるを得ず、かなり盛り上がりに欠ける前評判となってしまった。フラグですねわかります。


とはいえ、見所がないかと言われればそういうわけではない。
そもそも2021年の3歳馬は、スプリンターズステークス馬ピクシーナイトをはじめ早くから各路線で古馬を撃破している馬も多く、レベルの高さが評価されていた*2。そんなレベルの高い世代の世代代表を決めるクラシックなだけあり、有力馬には魅力的なメンバーが揃っていた。
悪く言えば王者不在ではあるものの、よく言えば各馬の力が拮抗した群雄割拠の一戦とも言え、オッズにも表れている通り多くの予想家が頭を悩ます緊張感ある一戦であったと言えるだろう。


また有力馬が出走回避したのはコース事情もある。というのも例年ならば菊花賞は京都競馬場で実施されるが改修工事により阪神競馬場に変更。
阪神での開催は同様に改修工事で代替開催となった1979年以来42年ぶりであった。
「たったそれだけ?」と思うかもしれない。確かにどちらも2回坂を上るのは共通しているが問題は坂を上るタイミングである。
京都は第3コーナー手前に坂があるためスタート直後・後半に坂を上り最後は平坦な直線コース。
一方阪神はゴール前に坂があるため中盤・最後に坂を上る必要があり3000m持つスタミナと最後にタフさが求められる過酷なレースなのである。
それゆえ出走馬の顔ぶれ・実力のみならず、3歳馬で阪神3000mを走ったデータが圧倒的に少なかったことも予想が混迷した一因である。



群雄割拠の有力馬達


そんな中でもまず飛び抜けて注目されたのが神戸新聞杯を優勝し菊花賞へコマを進めたステラヴェローチェである。
クラシック戦線でも皐月賞、ダービーで連続して3着をとる安定した実力と星を意味するその名の如く流れ煌めくような末脚が魅力の1頭である。


同じく神戸新聞杯にて2着を手にしたレッドジェネシスは近年の菊花賞を支配するディープインパクト産駒の最有力馬。
そのステイヤー素質をうかがわせる胴長な体格や母系にサドラーズウェルズを持つ血統、鞍上川田将雅への信頼感、更には好枠に恵まれた事もあって最終的には1番人気に躍り出た。


彼ら神戸新聞杯組はそこでシャフリヤールを撃破してきている上に、栗東所属である分輸送が有利であった事から特に有力視された。


そこに待ったをかけるのが関東からの刺客、オーソクレース。リーディングジョッキー・ルメールを鞍上に乗せた良血馬はホープフルステークスで2着と活躍するも骨折という悲運により春を振り、休養明けのセントライト記念で早速3着と好走した1頭。枠こそ大外となったものの、それを補って余りある鞍上への信頼感とまだ底の見えない実力を買われ3番人気となり事実上の東軍総大将を務めた。


弥生賞馬にして皐月賞で2着の成績を修めた4番人気のタイトルホルダーはステラヴェローチェと同じくクラシックの王道を突き進み好走を続けた1頭。更にお姉ちゃん(半姉)に、JRAの誇る最小アイドルにして菊花賞5着馬メロディーレーンという母系のスタミナ血統が魅力。
実績面ならメンバー最上級ではあるものの弥生賞以来久々に前走セントライト記念で復帰した騎手・横山武史の判断ミスと展開に大いに嫌われ、まさかのブービーに屈した事や菊花賞で逃げ馬が勝ったケースが少ない事もあり、やや前3頭とは離れた穴気味人気馬となった。


上記4頭が全員単勝オッズ3.9~8.0倍となっており、更には単勝万馬券を超える馬が最低人気のノースザワールドのみだった事からも混戦模様がわかるだろう。


他にもセントライト記念の勝ち馬であり素晴らしい末脚を披露したアサマノイタズラ、牝馬ながらも安定感ある鞍上を迎え長距離条件戦も制した上り馬ディヴァインラヴ、美しい尾花栗毛に父が菊花賞馬ゴールドシップであるヴェローチェオロ等々どの馬にもそれぞれ魅力と長所がある。
実力差がほとんどない面々が最後の一冠奪取を目指し準備を進めてきた。
この中で最後の一冠を手にするのはどの馬なのか──
ファンが静かに見守る中、京都競馬場大幅改修により仁川へ舞台を移した菊花賞のゲートが開いた。



混戦を断つ


スタートと同時にワールドリバイバルが早速いつものように逃げを打つが、その横を激しく手綱をしごきながらタイトルホルダーが駆け上がりハナを主張した。
基本先行馬であり、誰もいかなかったときだけ消極的に逃げる、という形の多いこの馬がここまで激しくハナを主張するのは初めてであり、そのままワールドリバイバルを交わして先頭につけるとハイペースで飛ばし続け後方とのリードを3馬身、4馬身と広げた。
そのまま隊列は縦長に広がり、大逃げを打つタイトルホルダーをどのタイミングで捕まえに行くのか──いや、そもそも3000mをハイペースで逃げる馬を捕まえにいく必要があるのか?
仕掛けどころの難しい一戦となり早速場は盛り上がる。


そのまま大きくリードをとったタイトルホルダーは1000mを60秒フラットで通過。
予想通りのかなりハイペースなラップとなった。
しかし流石選ばれた18頭の優駿達。自分の競馬を大逃げに惑わされず崩す事なく遂行。隊列が決まれば競馬はスムーズに流れていく。スタート直後こそ大きく動いたが、後は予定通り先行馬達が逃げるタイトルホルダーにじわじわ迫り、後続が足を溜めて直線勝負を目指す流れに。
ややかかり気味に後方から早くに上がっていったセファーラジエルが2番手に付けると先行集団もこれに従うように先頭に迫る。
一方で先頭はもうスタミナ切れしたのだろう、最初はあれほど大きく開いていたタイトルホルダーと2番手との差は、第3コーナーが近づいてきた今や3/4馬身程度まで縮まってしまっていた。


そして直線勝負へ。3000mの阪神競馬場、タフなレースで多くの馬がスタミナを切らし、末脚を伸ばせない中、前目につけていたディヴァインラヴが粘る。
そこへ外から迫るオーソクレースとステラヴェローチェ。多くのドラマを演出したクラシック最終戦に相応しいたたき合い。
後続はこの3頭に付いてこれない。残り100mほどで3頭が一直線に並ぶ──!




「オーソクレース、ステラヴェローチェ、ディヴァインラヴが争う!」



「しかし!」



「これは一頭桁が違った、タイトルホルダー!!




──関西テレビ放送実況・川島壮雄アナウンサー




そんな2着争いの激戦を尻目に遥か前方で3番・タイトルホルダーがゴール板を横切った──。
第82代菊花賞馬の誕生である
勝ち時計は3:04.6。
なんと2番手との着差は5馬身の大圧勝であった。



1着 タイトルホルダー
2着 オーソクレース
3着 ディヴァインラヴ
4着 ステラヴェローチェ
5着 ディープモンスター
6着 ヴェローチェオロ
7着 アリーヴォ
8着 エアサージュ
9着 アサマノイタズラ
10着 ヴィクティファルス
11着 セファーラジエル
12着 ロードトゥフェイム
13着 レッドジェネシス
14着 モンテディオ
15着 グラティアス
16着 ヴァイスメテオール
17着 ノースザワールド
18着 ワールドリバイバル


払い戻し

単勝3800円4番人気
複勝3290円4番人気
18210円3番人気
11480円6番人気
枠連2-81,600円6番人気
馬連3-182,420円6番人気
ワイド3-181,050円7番人気
3-112,590円28番人気
11-181,410円12番人気
馬単3→185,220円15番人気
三連複3-11-1814,610円42番人気
三連単3→18→1179,560円222番人気


「……何が起こった?」
「後先考えずハイペースで大逃げしていたタイトルホルダーは終盤にスタミナ切れして、オーソクレースたちに飲まれて負けたんじゃないの?」
と思うのも当然だろう。



まずはタイトルホルダーがゴールする1分ほど前に時間を戻そう。
レース開始から2分4秒が経過した頃。タイトルホルダーは1900mを過ぎたあたりにいた。あれ?
そう、スタートこそ1000m60秒というハイペースでラップを刻んでいたのに、1000-2000m区間は65.4という超スローペースで足を溜め続けていたのだ。というか冷静に考えたらスタートから飛ばして大逃げして60秒はむしろ遅いくらいなので隊列が決まったあたりから既に脚を休ませていたと考えられる。
つまり後続が差を詰めていたのではなく、タイトルホルダーが後続をただゆっくりと待っていたのである。なんせ、道中最遅のハロン間タイムは良馬場どころか重馬場ですら滅多に見ない14.3。スタートやゴール前を11秒台でまとめていたことを考えると相当な落差であり、このラップを刻める操縦性のなせる妙技であった。
最初の大逃げも途中に追いつかれかけたのも失策どころか、むしろれっきとした作戦の内だったというオチである。


下り坂から3・4コーナーに入って再びギアを上げたタイトルホルダーはそのまま後続を再び大きく突き放し始めた。
タイトルホルダーを捕まえようと早くから足を回していた先行集団に最終コーナーまでたっぷりじっくり休んでギアを上げ始めたタイトルホルダーを改めて追いかける脚など残っているはずもなく、逆に直線まで我慢していた後続馬達が直線に入った時にはもうどう足掻いてもひっくり返せない絶望的なリードが広がっている。
そもそも、この時のタイトルホルダーは休んでいたとはいえ逃げていたのに上がり35.1とメンバー6位タイの末脚を披露。
さらに2000m-3000m区間なら59.2、ラスト800mは46.8と歴代の菊花賞勝ち馬と遜色ない末脚*3を逃げながら出されては後続でも追いかけられるのは僅か一握りであり、最速の上がりを出した馬でさえ600mかけてその差を3馬身縮められたかどうかという有様ではどうしようもない。
加えて、これでもかなり余裕をもって走っていたというのだからほとんどの馬にとっては戦略どうこうより3000mを走る上での地力が違ったと言わざるを得ない。


結果として先行勢は早くからタイトルホルダーを"追いかける"のではなく"これ以上離されない"ように立ち回ったディヴァインラヴ以外全滅、後続もある程度ポジションを確保した上でタイトルホルダーを追いかけられる一握りの馬であったオーソクレース、ステラヴェローチェだけがディヴァインラヴとの2着争いを演じる事を許された。


かくしてそのまま悠々とリードを広げ切ったタイトルホルダーはゴール板を駆け抜け1着。
見事クラシック最後の一冠の栄誉に輝いたのである。




「阪神の3000m一人旅!!」




──ラジオNIKKEI実況・小塚歩アナウンサー


タイトルホルダー及び馬主の山田氏、管理厩舎の栗田厩舎にとっては初の中央GⅠ制覇となり、鞍上の横山武史は皐月賞のエフフォーリアと併せて別馬での変則クラシック二冠達成となった。生産牧場の岡田スタッドも何気にクラシック制覇はこれが初である。
母父にMotivatorを持つ馬が国際GⅠを獲るのも世界初。凱旋門賞連覇の実績を持つ名牝Treve誕生以来繁殖成績の振るわなかったMotivatorにとってこの勝利が大きい……かは分からないが、タイトルホルダーを通じて今後その血を残せる可能性が浮上したのは確かだった。
日本調教馬で父子三代クラシック制覇も日本初であり、キングカメハメハは日本調教馬史上初のGⅠサイアーを3頭産んだ(ルーラーシップ、ロードカナロア、ドゥラメンテ)種牡馬となるなど記録ずくめの結果となった。


グレード制導入以降逃げ馬の菊花賞勝利は2例目。また、2着以下に5馬身以上差をつけての勝利もスーパークリーク(5馬身)、ビワハヤヒデ(5馬身)、ナリタブライアン(7馬身)、エピファネイア(5馬身)と4例しかなくいずれも競馬史に名を残す名馬ばかりであり、王者不在を野次るのも野暮ったく感じる程の強さをタイトルホルダーは見せつけたと言える。
そしてタイトルホルダーもまた、このラインナップに肩を並べるに相応しい、歴史に名を残すに足る名馬である事を後々証明する事となる(後述)。


「タイトルホルダー」。その名の通り「王者ならここにいる」と示し菊花賞を勝ち取ったのだ。


また、戴冠を逃しはしたもののディヴァインラヴはグレード制導入以降の牝馬史上菊花賞最高順位*4を記録。
また一つ牝馬の常識が破られる事になったという意味でも注目に値する結果となった。
秋華賞の設立に伴い既に事実上実現不可能(というより挑む理由があまりにもない)となっている牝馬によるクラシック三冠達成の夢もいずれは現実のものとなるのかもしれない。


2着となったオーソクレースは不利な大外枠からの出走にもかかわらず縦長の隊列を利用して上手く内側に潜り込み、ロスを減少させられたのがディヴァインラヴ、ステラヴェローチェとの差となった。
仕掛けタイミングでステラヴェローチェを楽させなかった鞍上の手腕も光ったと言えよう。
枠さえ恵まれればあるいは……と思わざるを得ない。


人気だったはずの4着ステラヴェローチェと13着のレッドジェネシスはやはり不良馬場となった前走の反動があったのか期待されたパフォーマンスからは程遠いものになってしまった。
特にレッドジェネシスはまさかの最後方組で待機しそのまま全く足を伸ばせないまま落ちてきた先行馬を拾うのがやっとという内容に。ステラヴェローチェも末脚こそ本レースでも最速タイだが、どうにも仕掛けが間に合わずに勝ちきれない善戦キャラが定着し始めてしまっている。


さて、本レースは目を瞠る記録づくしのレースだったが、それ以上にファンの心をとらえたのは23年前から始まる人馬の父子の物語であった。



人馬に紡がれる父子のドラマ


菊花賞は基本的に逃げ馬が不利とされている。前述した通りグレード制導入以降、本レースを含めて僅か2例しか全コーナーを先頭で回って優勝した馬がいないのだからどれだけ不利かは推して知るべし*5
さて、その第1例こそが他でもない23年前の菊花賞──1998年第59回菊花賞。横山武史の父、横山典弘がセイウンスカイで制覇したレースである。
この時のセイウンスカイもタイトルホルダー同様スタートから大きく逃げ、その後ペースダウン、最終直線で一気に加速するという変幻自在のペースメイクで優勝しており、これを23年後に今度はセイウンスカイの騎手の息子が、しかも父と同じ2枠の黒い染め分け帽子をかぶって達成するのだから運命とは不思議なものである。
実際に横山武史は父が勝利した菊花賞の映像を研究し、参考のひとつにしていたという。
また、横山武史が生まれたのがその1998年の冬であり、その後誰も菊花賞での逃げ切りを達成しなかったのだから、ある意味このドラマは23年前に横山武史が誕生した時から宿命付けられていたのかもしれない。
ついでに勝利後のポーズも、見比べてみればわかる通り父親のそれと同じものであった。
これら往時のレースを彷彿とさせる数々の事項から「セイウンスカイの再来」「令和のセイウンスカイ」チャンミで嫌という程見たと話題となった一方でこのレースには直接的には全く関係ないセイウンスカイがTwitterトレンド入りを果たした
なお、余談だが今回の菊花賞には23年前の菊花賞にも出走していた騎手がいた。
牝馬ディヴァインラヴの福永祐一と、中盤馬群に埋もれてしまったディープモンスターの武豊、かつてセイウンスカイと共に3強を形成していたキングヘイロースペシャルウィークの主戦騎手だった2人である。
彼等がかつて同じ作戦で勝利するライバルの姿を目の当たりにしていた事は、この2頭が最終的に性別や展開の不利を覆して掲示板に名を連ねる事が出来た事実と決して無関係ではないだろう。
実際、武豊はタイトルホルダーと横山武史の作戦に途中で感づいていたという(ただし、上述した通り馬群に埋もれていて何もしようがなかった)。


父子のドラマは鞍上だけではない。優勝馬タイトルホルダーにも大きな大きなドラマがあった。
時は2015年。この年のクラシックを支配する1頭の馬がいた。
その名はドゥラメンテ。荒々しい気性とその気性に見合った大迫力の走りにより皐月賞、ダービーの二冠を制覇するも最後の一冠を前にケガの悲運に泣いた馬である。
三冠は確実かと期待された競走能力は度重なるケガにより失われ、その夢を後世に託すも2021年8月31日に急性大腸炎により夭逝。僅か5世代しか産駒を残せなかったのだが、その最初の世代の産駒の内の1頭こそがタイトルホルダーであった。
そして、上記の通りドゥラメンテが取り逃し挑む事さえ許されなかったタイトルこそが菊花賞であり、タイトルホルダーの勝利はまさに父子の夢の結実であったと言える。
ケガしなかった世界線のドゥラメンテがいたとしても菊花賞いった可能性はそんなに高くない?*6知らんな
かくしてこの孝行息子の活躍によりドゥラメンテの血は時を超えた三冠達成に成功した。アニヲタ的に言えばこの馬*7のようなドラマだったと言えばわかりやすいか。
そしてこれに続くように、彼の半姉メロディーレーンも一週間後の10月31日に菊花賞と同じ場所・距離設定で行われた阪神3勝クラス「古都ステークス」にて勝利しオープンクラス入り。ドラマは多重に繋がることとなった。


ドラマはこれだけではない。ドゥラメンテは生涯最後のレースとなった宝塚記念で一番人気に推されながらも一頭の伏兵により勝利を阻まれた。その伏兵の名はマリアライト。──二度に渡りタイトルホルダーのキャリアに立ちふさがり、本レースでも2着につけたライバル、オーソクレースの母である。
この父子揃って実はマリアライトとオーソクレースの母子に負け続けており、クラシックもラスト一冠になったこの大舞台でついにリベンジを達成したという事になる。また、オーソクレースの父母父が前述したセイウンスカイに菊花賞で敗れたスペシャルウィークだったりする*8。このライバルとの出会いもまた競馬の神が導いた運命だったのだろう。


他にもクラシック三冠連続3着の珍記録を惜しくも逃したステラヴェローチェだが、逆に中山(千葉県)で始まり、阪神で終わったクラシックの最終成績を334にしたとネタにされる*9、等変なドラマもいくつか生えた。困った事に阪神関係あるのである。



余談 出走馬達のその後

このレースに集った18頭のその後も少しだけ触れておく。
勝ち馬タイトルホルダーについては個別項目を参照。


クラシック三戦全てで好走したステラヴェローチェは世代最高峰の馬の一頭としてファンからも強く認知された。ただ、有馬記念ではタイトルホルダーにリベンジを果たしつつも4着。好走ではあるのだが妙に勝ち味に遠い。続く翌年の日経新春杯では同期のヨーホーレイク相手にハンデ差も響いて2着、とどうにもブロコレ倶楽部期待の新人善戦キャラから抜け出せなくなってしまいつつある。
ドバイシーマクラシックでは1度は下したダービー馬、シャフリヤールの9着に終わり、その間に勝ち負け繰り返したタイトルホルダーが快進撃を続けるなど、徐々に世代の王達との差が開きつつある。このままこの差は広がるのか、あるいは自身もその王の一角であると示してみせるのかは今後次第となる。
確かな実力を持つ馬なだけにその活躍には期待したい所…だったがその矢先にまだ50代だった馬主が急逝、馬主はカーレースチームも持っていたがそのチームも解散してしまい、彼の競走馬は父に移管されたものの予定が白紙になってしまった。
その後も1年以上音沙汰なく、その間に共にこの菊花賞を走り馬主も同じで仲良しだったヴェローチェオロも長らく音沙汰なかったがダイヤモンドSで復帰するも大敗し更には引退。
なおも音沙汰ない状況が続いたが2023年5月になり放牧に出されたと発表され、同年10月の富士ステークスで復帰(7着)。これにファンが胸を撫でおろしたのは言うまでもない。
さらに、2024年3月には大阪城ステークスで約2年5ヶ月となる勝利を挙げた。勝利後のインタビューで長期休養は屈腱炎が原因だったと明かされた。
次の大阪杯で2年ぶりのG1参戦となったが上りの脚を伸ばして4着入着と故障から立て直して復調の様子を見せた。


一方本レースで確かな実力を見せたはずのオーソクレースは次走AJCCでは6着と着外。しかも屈腱炎が再び見つかり、登録抹消となってしまった。トルコでの種牡馬入りも計画されたが、最終的に岡山県の繋養施設で乗馬となった。


同じ血統背景を持つ3着の牝馬ディヴァインラヴも長距離の自己条件戦からキャリア積み直しを図るも松籟ステークスで5着。しかも、オーソクレース同様その後の復帰もないままに登録抹消し繁殖入りとなってしまった。*10


また16着のヴァイスメテオールはこの後小倉大賞典での4着を経て2022年5月のリステッド競走メトロポリタンステークスを勝つも、6月にエプソムカップ前の追い切りで予後不良となり他界。半弟イクイノックスの快進撃を見る事は叶わなかった。


そんな中でも本レースでは7着と決して目立った存在ではなかったアリーヴォはその後も条件戦を順調に勝ち上がり、昇格初戦の小倉大賞典で初重賞制覇を決めると、大阪杯では3着と好走。中距離で期待の馬となっていたが、宝塚記念にタイトルホルダーに惨敗(14着)後に長期休養に入ってしまい、結局復帰することができないまま2024年2月に引退が発表された。


他の馬たちも現時点では重賞戦線で目立った活躍ができているとは言い難い。とはいえ遅咲きでもいずれ花は咲くと信じて、彼らは今日もターフを駆けている。



まとめ


かくして地味な前評判とそれを裏付けるかのような売上減を見せた菊花賞だったが、終わってみれば内容は後々の競馬史で間違いなく語られる一戦となり、そこに刻まれる物語も多くのファンの記憶に残る一戦となった。
情報量が多過ぎて一時期「横山武史がセイウンスカイ産駒で亡き父の悲願だった菊花賞勝利」なんて何もかもが間違った情報が流れたりしたのはご愛敬。


セイウンスカイの勝利から23年。既に古い時代の物語となった1998年の菊花賞が今再びこうして多くのファンの胸に思い起こされた、という意味でも競馬史にとって大きな意味を持つ一戦であったと言えるだろう。


1998年から2015年、2016年、そして2021年へ。時も場所も違えど、快晴の空はあれからも変わらず青く広がっている。




追記・修正は阪神3000mを逃げ切ってからお願いします。


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  • たまにノリさんがまとめて亡き父にされるのは不謹慎だけど笑う -- 名無しさん (2021-10-28 22:50:54)
  • これ1週間ルール的に大丈夫なのかな? -- 名無しさん (2021-10-29 01:05:28)
  • ゲームや漫画のネタバレと違うし気にするもんでもないと思うが -- 名無しさん (2021-10-29 02:25:35)
  • 豊は中盤脚をためてるのに気付いてたんだってね。でも馬群の中で動けなかったという -- 名無しさん (2021-10-29 09:44:09)
  • 競馬のレースにネタバレもへったくれもないでしょ。動画も上がってんだし -- 名無しさん (2021-10-29 12:12:04)
  • 上のタイトル、帰ってきたウルトラマンにそのまま乗せて歌えるな -- 名無しさん (2021-10-29 20:34:28)
  • 亡き父に捧げる弔いの華(菊)ってのが更にドラマを感じるわ -- 名無しさん (2021-10-29 22:05:33)
  • 2コメの人です。みなさんご意見ありがとうございます。これはネタバレではないということにしておきます。ちなみに私も最初はてっきりセイウンスカイ産駒が勝利したんだと勘違いしてました。 -- 名無しさん (2021-10-30 00:39:09)
  • もはやいつもの事だが現実にしては脚本出来すぎだろ -- 名無しさん (2021-10-30 04:23:09)
  • ドゥラメンテ産駒が菊花賞勝つだけでも充分すぎるくらいのドラマなのに鞍上とか戦法とかマリアライトのとの因縁まで絡んでくるから凄いことになった… -- 名無しさん (2021-10-30 04:31:25)
  • オーソクレースとのライバル関係が完全にもう漫画の世界なんよね。お互い美浦所属超距離適性も見せ合ったし、この後もお互い怪我とか無い限り何度も戦うと思うと胸熱 -- 名無しさん (2021-10-30 11:25:06)
  • そしてしれっと翌週に同じ阪神3000mで勝つ小さい姉(メロディーレーン)というネタも追加された模様 -- 名無しさん (2021-11-01 08:44:01)
  • ↑ しれっと翌週、親子三大秋天制覇という偉業を成し遂げる鞍上も追加で -- 名無しさん (2021-11-01 10:39:42)
  • 追記修正するには阪神大賞典にまず出走しろと? -- 名無しさん (2021-11-01 11:28:11)
  • 馬よりも速く、それも3000mも走れる人間なんている訳がな「いるさっ、ここにひとりな!」 -- 名無しさん (2021-11-01 11:46:58)
  • ↑ こ、この孤独なsilhouetteは・・・まさか! -- 名無しさん (2021-11-01 14:17:30)
  • この翌週に今度はお姉ちゃんが同じコース同じ馬番で勝って、鞍上が2週連続G1勝利&父子3代秋天勝利とかドラマが欲張りセットすぎる…… -- 名無しさん (2021-11-01 19:29:26)
  • 優駿劇場の93年オールカマーの回みたいだな -- 名無しさん (2021-11-03 10:44:34)
  • 前フリなのはわかるが前走セントライト記念のように若さ故の過ち云々の下りは流石に横山武史に失礼な気もする。セントライト自体騎乗ミス0では無いと思うがそもそもグラティアスが大ヨレしてその周りに他馬が壁作った時点で無理なレースだったし -- 名無しさん (2021-11-03 17:27:20)
  • ↑だから「展開に大いに嫌われ」って併記されてんじゃねえかな… -- 名無しさん (2021-11-03 22:47:27)
  • ↑いや、そこじゃなくて後先考えない騎乗云々のところ。武史がセントライトに何も考えず乗ってるように取れるのよ。他の人の同意があればちょっと削除したい一文だなと -- 名無しさん (2021-11-04 11:02:02)
  • まさか天皇賞・春が菊花賞以上の着差での圧勝になるとは思わなかった 色々あったけど強いわ -- 名無しさん (2022-05-02 09:50:38)
  • ↑しかもこの勝利を以て3冠分け合った牡馬全頭が古馬混合G1制覇という偉業を達成した模様 -- 名無しさん (2022-05-03 11:28:05)
  • 最初はアモアイから続く牝馬注目の流れでソダシの話題性から始まったけど、エフが三歳秋天制覇し、シャフがダービー馬初でドバイを勝ち、タイホが最強ステイヤーになるという歴代でも屈指の牡馬の強豪世代になったな -- 名無しさん (2022-05-03 11:41:03)
  • 締の台詞が粋で震えたわ、編集者に感謝。 -- 名無しさん (2022-06-24 07:47:51)
  • タイトルホルダー、宝塚も獲っちまったよ・・・マジで凱旋門狙えるんじゃねぇの? -- 名無しさん (2022-06-26 16:30:07)
  • 本当に凱旋門を狙うなら宝塚記念になんか出るべきじゃないとレース前は思ってた。だがこの圧勝ぶりは……。 -- 名無しさん (2022-06-26 20:10:27)
  • 記事立ち上がった時はまさかこの後ミホノブルボンやサイレンススズカ、タップダンスシチーにキタサンブラックと比べてどうかって馬になるとは思わなんだぞタイトルホルダー…… -- 名無しさん (2022-06-27 06:02:05)
  • タイトルホルダーの個別記事できたから、タイトルホルダーのことはそっちに誘導したほうがいいと思うが、如何か。 -- 名無しさん (2022-10-22 02:38:49)
  • まさかたった1年でレコード破られるとは -- 名無しさん (2022-10-23 15:49:14)
  • ゴール時の左手を大きく上げるガッツポーズ、鞍上の勝負服も西山オーナーは『黄、緑三本輪、白袖』(※現在は青三本輪)で山田オーナーは『緑、黒袖、黄鋸歯形』で色味も似ていたから余計オーバーラップするという -- 名無しさん (2023-06-15 16:13:49)
  • タイトルホルダーのその後については本人の項目に直接リンクでいいと思いますがいかがでしょうか? -- 名無しさん (2024-02-04 06:01:16)
  • その後の部分を直接リンクにしました。編集前のバックアップは取っています。 -- 名無しさん (2024-02-04 06:13:11)
  • アリーヴォ、結局経過が良くなく引退とのこと。 -- 名無しさん (2024-02-22 10:23:46)
  • 抽選漏れした馬の中にテーオーロイヤルがいた事実 -- 名無しさん (2024-05-25 17:33:03)

#comment(striction)

*1 牡馬クラシック三冠馬コントレイル、短距離とマイルの2路線制覇の快速女王グランアレグリアが出走、エフフォーリアと並んで三強と見られていた。
*2 奇しくもこの一週間後に開催された天皇賞(秋)で、それを更に裏付ける出来事が起きるのだがそれはまた別の話。
*3 同計算でライスシャワーが46.6、オルフェーヴルが46.5から6と言った所。
*4 本レース以前はダンスパートナー(1995年)とメロディーレーン(2019年)の5着が最高だった。
*5 この年は舞台が阪神に代わっているが、阪神3000mの全コーナー1位通過で考えても1993年阪神大賞典のメジロパーマー以来であり、不利であることに違いはない
*6 ドゥラメンテの3歳秋は凱旋門賞行きのプランも練られていた為。
*7 作品が終了したのが1998年なので偶然ではあるがアマゴワクチンにもセイウンスカイと似た部分があり、ペースを操って勝つ事を得意とする逃げ馬である。
*8 更に更に言えばタイトルホルダーの母父父はMontjeuなのでそういう意味でもリベンジを果たしたと言える一方で、オーソクレースの母母父の方はよりにもよってエルコンドルパサーだったりするのだが、そろそろキリがないのでこの辺にしておく。
*9 誤解の無いように言っておくが、クラシック全てで掲示板内というのは相当な実力馬以外には出来ない。
*10 余談だが、ディヴァインラヴの1歳下の半弟であるワープスピード(タイトルホルダーと同じ馬主)が、23年ステイヤーズSで重賞初挑戦ながら4着に入り、24年にはダイヤモンドS3着、阪神大賞典2着、天皇賞春5着と3000m以上の重賞で全て入着となり、姉同様に長距離適正を示した。

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