［裏］真田丸

裏]真田丸

（チャリン……チャリン……チャリン……）

……貴殿か。
今日は、話をしたい気分じゃない。
足を運んでくれたのに、すまない。

一文……二文……三文……
四文……五文……六文……

銭を数えていなければ、一瞬で獣に喰われる。
聞こえるんだ。まるで、すぐ隣にいるかのような、
獰猛なうなり声が……。

戦場でもとっくに、抑えるということをしていない。
解き放ち、身をゆだねる。

しかしこれが……この上なく心地いい。

思ったんだ。
そもそも内なる獣など、
存在しないのではないかと。

拙者とは違う、別のナニカのせいにしているだけで、
元来の拙者の持つ衝動――渇望が、
表に出ただけではないのかと。

拙者を信じた数多の命を、
背負わなければならないと思っていた。

彼らの死を、生きた証を、
拙者自身が立てなければと、
そう考えていた。

真田は勝てなかった。
主君を守れぬ戦に、胸を張れるものか。

敵将に一矢報いることができない戦に、
誇りを持てるものか。

勝ちたい……勝ちたかった。
その生涯に、勝利こそが欠けている。

拙者は何のために生み出された？
なぜ、最期まで役目を果たせず、
取り壊されなければならなかった？

何が真田丸だ……！

真田の名を冠することすら……拙者には苦痛なのだ。

無駄死にだったんだな。無念だったろうな。ああ、そうだ。拙者はもう、獣に身をゆだねるのが怖い。
拙者が、拙者でなくなるのが怖い。せっかく、
守るものを手に入れたのに、自ら壊してしまうのが怖い。
後生だ、今すぐ介錯してくれ。せめて、貴殿の手で……。念などとうに無い……もはや、生き続けることこそが苦痛だ。
かろうじて自我を保つことすらも、今や億劫だ。
六文銭を手放せば、楽になれるのだろうか。
ゆく当てもなく、六道輪廻に囚われ続ける方が、ずっと……。それでも貴殿は、拙者に生きろと言うのか。
酷なことを言う。

拙者が獣になるのは、きっとそう遠くない未来だ。
きっと、貴殿をも喰らってしまうだろう。

だが、『一度も負けたことが無い』貴殿のことだ。
きっと拙者のことも、難なく退けるに違いない。

拙者も、貴殿の歴史の一部となることが、
できるのだろうか。

ありがとう、拙者を見つけてくれて。
ありがとう、拙者の生に意義を与えてくれて。

この盾は、生と死を別つものにあらず。
せめて今わの際までは、
貴殿のために有りたいと願う――