ピルイーター(相棒)

登録日：2017/04/13 (水) 21:21:30
更新日：2024/05/12 Sun 20:48:36
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奴が女と心中するとは思えない

「ピルイーター」とは、2004年2月25日に放送された『相棒 Season2』第18話のエピソードである。

【概要】

タイトルからもわかる通り、Season2からレギュラーとして加わった大河内春樹にスポットを当てた回であり、彼のある秘密が明かされる回である。

以下、ネタバレにご注意下さい。

【あらすじ】

ある日突然、首席監察官である大河内春樹が特命係の部屋を訪ねてきた。
いったい何の用かと訝しがる二人だったが、大河内の口から出たのは「あなた方の力を貸してほしい」という予想外の言葉だった。

彼が調べて欲しいと言ってきたのは、彼の部下である監察官・湊哲郎が死亡した事件だった。
昨夜、品川のとあるホテルで女性と共に亡くなっているのが発見され、寄り添うようにして横たわった遺体の小指同士が靴ひもで結ばれていたことから、警察内では愛人との無理心中と考えられていた。

だがその結論に納得がいかない彼は、組織に縛られない二人に非公式に依頼することにしたのだった。
「断れば聴聞会」などと言われ捜査に乗り出す二人だったが、事情をよく知るスナックのママから二人はまだ肉体関係を持っていなかったらしいことを聞かされる。

肉体関係が無いのにいきなり心中などするだろうか？　疑問を抱きながら捜査を進めるうち、現場写真を見ていた右京はあることに気付く…

【登場人物】

■事件関係者

◆湊哲郎
演：山中聡
警視庁警務部監察官で、大河内の腹心の部下。既婚者で子供はいない。
ホテルの一室で剃刀で里香と共に頸動脈を切って失血死しているのが発見された。
監察医によれば、切り傷の方向から見て自分で頸動脈を切ったのは間違いないらしく、里香を殺害してから自らも命を絶ったと考えられている。
一年ほど前に里香の働く店を訪れて一目惚れし、熱心に口説いていたらしい。
普段の勤務態度は真面目で女性関係にだらしない様子もなかったらしいが、警察官が不倫の末に無理心中に至ったとあれば警察の威信に関わるため、上層部は対応に苦慮している。

余談だが、演じている人はトリオ・ザ・捜一の芹沢役である山中崇史氏の実弟である。

◆中村里香
演：櫻井ゆか
湊哲郎の浮気相手。
本業はOLだが、夜はスナックでアルバイトをしていた。
ホテルの一室で湊と共に失血死しているのが発見された。湊と違って頸動脈は別人によって切られているという。
湊の口説きを受けてすっかり彼に熱を上げていたが、スナックのママによれば肉体関係はまだ持っていなかったらしい。
ホテルの記録によれば、事件当夜部屋を予約したのは彼女だった模様。

◆湊杏子
演：川越美和
湊哲郎の妻。
浮気の兆候には気づいていたが何もできなかったようで、事件の後は大河内に土下座して謝罪していた。

◆スナックのママ
演：前沢保美
里香が働いていたスナックのママ。
湊に入れ込んでいる里香に警告をしていたが、その甲斐なく二人は恋仲になってしまったと言う。
だがある時「私が好きならどうして抱いてくれないの？」と湊に詰め寄る里香を目撃しており、自分から口説いておいてなぜ、と不思議がっていた。

◆阿部
演：石山雄大
警視庁警務部部長。刑事部長の内村とは犬猿の仲。
自らの責任問題に発展することを恐れて穏便に済ませたがっており、内村が湊の立件を強行しようとしていることを知った際には「立件したところで上層部は喜ばないぞ」と詰め寄るが、「お前のキャリアに傷がつくなら別に構わん」などと言われ苦々しい表情をしていた。

■特命係

◆杉下右京
演：水谷豊
ご存じ特命係係長の警部殿。
相変わらずの洞察力で現場写真を見て事件の真相を見抜き、さらに大河内の漏らしたある言葉から、その裏に隠れていた真実までも突き止めていく…

◆亀山薫
演：寺脇康文
右京の初代相棒。
「依頼を断ったら聴聞会ですか？」と大河内に聞いたところ「そんなこと考えてもいませんでしたが、それが有効ならば…」などと返され、余計な事を言ってしまったと悔やんでいた。

■トリオ・ザ・捜一

◆伊丹憲一
演：川原和久
トリオ・ザ・捜一のリーダー。愛称「イタミン」。
内村から湊を殺人で立件するよう命じられるが、その裏にある内村の思惑を理解しているようで「やりがいが感じられねぇ」と憤慨している。

◆三浦信輔
演：大谷亮介
トリオ・ザ・捜一の一人で、一番のベテラン。
伊丹とは対照的に、上層部との対立を経て事件がどういう結末を迎えるかを楽しんでいる様子が見受けられる。

■レギュラー陣
◆大河内春樹
演：神保悟志
警視庁警務部首席監察官。前述のとおり今回は彼のメイン回である。
タイトルでもある「ピルイーター」は常備しているピルケースから頻繁に錠剤を出して噛み砕いている様子から付けられた彼の渾名である。
過去の話では敵対したこともあるが、今回の話で初めて「個人的にはあなたがたを評価している」と述べており、今回の件がきっかけとなって後のシリーズでも手を回して二人に協力することになる。

◆米沢守
演：六角精児
特命係に協力的な鑑識。
今回は出番は少なめだが、冒頭では心中の場面を脚色も交えながら壮大なイメージで特命係に語っていた。

◆内村完爾
演：片桐竜次
警視庁刑事部長。
普段は保身のことばかり考えて警察にとって都合の悪いことを悉く隠蔽しようとする彼だが、今回は珍しく事件を表沙汰にしようとする。
だがその理由は「仲の悪い警務部長を貶めてやりたい」という極めて利己的なものであった。

【以下、事件のネタバレ注意】

◆湊杏子

どちらの思いが強かったのか、向こうに行ったら主人に訊いてみようと思います…

中村里香を殺害した犯人。　
右京は現場写真に写った3つのコップから湊と里香以外の第三者の存在に気づき、それに当てはまる事件関係者は妻の杏子くらいしかいないと考えて彼女のマンションに向かう。
マンションには杏子と連絡が付かなくなったことを心配した大河内も来ており、共に部屋に踏み込んだところすでに彼女はバスルームで手首を切り絶命していた。
机から発見された遺書によれば、夫の浮気に気付いていた彼女は里香の名を使って部屋を予約し、事件当夜そこに二人を呼びつけ糾弾した。
だが、煮え切らない態度をとり続ける哲郎と「私たちは愛し合っている」と言い切る里香の姿に怒りが爆発し、衝動的に里香を殺害してしまったのだった。
「あとは自分が何とかする」と言う哲郎によって家に帰された翌日、哲郎が無理心中を装って自殺したことを知った。
浮気の罪滅ぼしの想いがあった一方、心中を装う形をとったのは里香への想いの深さを表していたのかもしれないと述べ、間違いなく言えることは里香を殺害したのは自分で哲郎は自殺である、という一文で遺書は締め括られていた。
遺書を読み終えた後、捜査一課や鑑識によって現場が騒然となる中で右京は大河内の姿が見えないことに気付く。
ベランダで佇んでいた彼は小瓶から錠剤を取り出そうとしているが、手が震えてうまく取り出せず、その眼には涙を浮かべていた。

全てが明るみになった後も、内村は諦めなかった。
「湊の立件は間違っていない。こんな遺書にどれだけの信憑性があるというんだ、デタラメだと言う証拠を上げろ、何が何でも無理心中で通すんだ！」と伊丹たちに命じる。

すると…

勝手にやれよ…
勝手にやりゃあいいだろ！　つまんねえ！　まったくつまんねえ！何だよ！

自身のエゴのために事件を捻じ曲げようとする内村に、ついに伊丹は怒りを爆発させるのだった。
唖然とする内村たちをよそに、廊下に飛び出す伊丹。三浦に声を掛けられて我に返ったのか「ヤバかったかな？」と青ざめた顔で口にしたが、三浦も思うところがあったようで「ま、たまにはいいさ」と共犯者じみた笑顔を浮かべるのだった。

一方、薫は自分たちがもう少し早く気づいていれば杏子を死なせずに済んだかもしれない、と役に立てなかったことを悔やんでいたが、右京は大河内の涙を回想しながら「自分たちは本当に真相に辿り着いたのか」と疑問を抱いていた。

【以下…最後のネタバレ】

大河内を呼び出した右京は、湊の浮気相手は本当に里香だったのかと言う疑問を彼にぶつけた。
おおっぴらに口説いて彼女もその気になったにもかかわらず、肉体関係を持たなかったのは不自然である。
湊がプラトニックな恋愛を求めていただけかもしれないし、警察官としての倫理観が邪魔をして…という事も考えられなくはないが、他に理由があったのではないか、と薫が言葉を継ぐ。
それらを踏まえ、里香は本当の浮気相手を隠すためのカモフラージュだったのではないか、と右京は推理した。
それならば肉体関係を持っていなかったことにも納得がいく。しかしそうまでして隠そうとする浮気相手とは何者なのか。
ここで右京が引っ掛かったのが、以前大河内が言った「奴が女と心中するとは思えない」という言葉。
普通に考えれば「湊は心中などしない」、それだけの意味だろう。
だが「女と」心中などしない、と解釈すればどうか。
浮気相手が男…となれば、見せかけの浮気相手を作って隠そうとしても無理はない。

これらをつなぎ合わせて見えてくる答えはただ一つ…

湊の浮気相手は…

◆大河内春樹
湊哲郎の本当の浮気相手。
上層部の判断が間違いだと確信していたのは、「愛しても居ない女と心中するなどありえない」という確固たる根拠があったからである。
ベランダで流していた涙は腹心の部下を失っただけではなく、自分との秘密の関係が恋人の死や悲劇を招いてしまったことに対する涙だったのだ。
何も知らず土下座までして自分に詫びる杏子を彼はどんな気持ちで見ていたのだろう。
自分はどんな罪になるのか、と問う大河内に薫はためらいながらも「別にあなたが悪いわけじゃありませんけど、事件の根っこはあなたと湊さんの関係にあった」と指摘する。

男を愛した罪ですか…男を愛するのは悪いことでしょうか？

重ねてそう問うた大河内に、右京は「そうじゃない。愛するのが悪いことではなく、隠しておいたこと…それが、今回の悲劇を生んだことは間違いありません」と痛撃を与えるのだった。

◆湊哲郎
大河内共々この事件の元凶。
里香に対する愛情など無かったのは言うまでもなく、「女と心中するとは思えない」という大河内の言葉からすれば杏子に対しても愛情は持っておらず、出世等のことを考えて偽装結婚をしたに過ぎない可能性がある。
少なくとも、同性・相手は直属の上司・自分は既婚という三重苦の状態で大河内との交際を続けていたこと、カモフラージュのために里香を口説きながらも手を出さなかったことを踏まえれば、彼の愛が誰に向けられていたかは火を見るより明らか。
周囲の偏見や出世への影響といった様々なものに対する恐れが大河内と彼の口を噤ませたたのだろうというのは分からなくはないが、右京の言うとおり隠すという彼らの選択が悲劇を生んだことは間違いない。
どちらから浮気を持ちかけたかや関係が始まった時期など、詳しい事情は不明であるが、いずれにせよ彼に同情の余地はないだろう。

◆中村里香
浮気のカモフラージュに利用された末に殺害されてしまった哀れな被害者。
だが、誘われた側とはいえ既婚者と交際し、（湊にその気がなかったとはいえ）肉体関係を持つことにも抵抗がなく、妻である杏子に対しても一切悪びれることなく開き直った態度をとっていたため、全面的に同情できるかと言われれば怪しい面もある。

去り際、薫は大河内にもう一つの疑問をぶつけた。
いつも噛み砕いている錠剤は一体何の薬なのか、と。

ラムネです。
大好物なんですよ、子供の頃から。

思いもよらない錠剤の正体に唖然とする薫に、大河内は釘を刺す。

他言無用に願います。もし、秘密をバラしたら…懲戒処分です。

その晩、薫と右京が速攻でラムネの件を美和子とたまきにバラしていた頃…大河内の姿は湊の棺の傍らにあった。
棺の中で眠る湊の頬に触れ、大河内は悔恨の情を噛み締めるように瞳を閉じるのだった。

ラストシーンにおける大河内の告白のインパクトが強いためか、「やらないか」的な意味でネタにされることもある今回の話だが、実際は見ての通り極めて後味が悪く救いのないエピソードである。
大河内のしたことは刑法犯罪ではもちろんなく、彼を裁くことはできない。だが、それが原因で3人もの人間が命を落とすことになったのだ。
特に、作中でも右京が言っているようにカモフラージュに利用された挙句殺害されてしまった里香、殺す必要のない相手を殺してしまった杏子の二人は決して浮かばれないだろう。
また、同性愛への偏見・性的マイノリティへの理解が社会問題になっている2020年代から見ると、非常に先駆的だった社会派エピソードとして解釈することもできるだろう。
一方で、普段は命令に従うだけの伊丹が熱く反抗するシーンなどの見どころもある回である。
なお、この話と直接的な関係はないのだが、後に右京の相棒となる神戸尊の車のナンバーは37-10＝み・な・と。スタッフェ…

追記・修正はラムネを噛み砕きながらお願いします。

▷ コメント欄

• 神保悟志って大河内とそれ以外のキャラで雰囲気違いすぎる -- 名無しさん (2017-4-16 08:14:32)
• 「警務部長の名は阿部」で吹いたwwwww -- 名無しさん (2017-10-23 23:25:39)
• この人「ホモ」「ラムネ」が印象的過ぎて本名を忘れるところだった。 -- 名無しさん (2017-10-17 10:15:29)
• ヤラナイカとかネタにされてるけど物凄く悲しい話 -- 名無しさん (2017-10-16 19:25:39)
• 今シリーズ「ジョーカー」では危うく亘ちゃんに過去を見破られそうだったwww -- 名無しさん (2017-11-28 10:12:04)
• これ悪いのは湊哲郎だけだよね -- 名無しさん (2022-11-1 22:31:09)

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