SCP-1968

ページ名:SCP-1968

登録日:2018/8/26 (Sun) 20:21:30
更新日:2024/03/21 Thu 13:44:24NEW!
所要時間:約 20 分で読めます


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scp scp foundation scp財団 keter thaumiel scp-1968





何百回、何千回K-クラスを遅らせたとして、それから逃げられるはずもなく。




SCP-1968は、シェアワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つ。
オブジェクトクラスはKeter。




概要

SCP-1968はブロンズ色の円環である。材質は例のごとく不明で、一部が隆起しシンボルが刻まれている。
光を歪める性質を持っており、画像ではオブジェクトが激しく歪曲してしまう。更には重力変動まで起こしているらしい。


こいつの異常性は人によって力が加えられた時に発動する。直後にこいつは急速に変形し、力を加えた人の周りを高速で渦巻き、しばらく経過すると元に戻る。
その後被験者を調査すると、被験者の記憶は深い領域まで改変されていることが判明する。
例として、ある財団職員が実験の為にこいつを起動した後、インタビューで自身の来歴を説明したが、その来歴は財団に保管されている人事記録とは一致しなかった。


結果として被験者は動揺状態に陥り、しばしば人間不信を誘発する。円環の変形が激しいほど、改変の程度は大きくなるようである。
また、先述の絵文字がこの異常性の発現を制御しているという仮説が立てられている。




発見経緯と収容手順

SCP-1968は2001年末ごろ、グリーンランド、ザッケンブルグ周辺の石油調査中に地下から回収された。調査の結果、こいつは約31万年前のものと推定されている。
財団職員は発見時の無線通信を傍受し1968を確保。グリーンランド関係者にはBクラス記憶処理が施された。
ところが職員が到着したとき、近辺にいた調査員が丸三日間にも渡って拘束された状態で発見された。
この調査員、どうにもこいつの異常性を食らったらしく、周囲の同僚に対し暴行をしたんだそうだ。


現在こいつは地下300メートルのシェルター状の収容室に保管されており、アクセス手段は一基のエレベーターのみとなっている。
搭乗口には武装警備員が常駐しているが、何か侵入事案が発生した際はエレベーターシャフトの自爆装置を起動することになっている。
警備員達は「自己の消耗」を考慮するように指示されている。*1
だが、これだけならこいつに触れなければいいという話に思える。KeterどころかSafeでも良いんじゃないだろうか。




追記・修正は記憶を改変してからお願いします。

[#include(name=テンプレ2)]

[#include(name=テンプレ3)]









































































機密事項

以下の資料の無認可閲覧は、O5レベル監督官の過半数の同意無しには禁止されています。この指令への抵触は当人の終了だけでなく、この資料を認識した他の職員の終了にも結び付きます。


注記: CK、VK、XK、ZK、あるいはDedekind-uuクラスイベントが差し迫った場合には、この指令は撤回されます。


[復号化キーを入力する]






















警告: 直近エリアから退去しようとしないでください。セキュリティのため、一時間以内に限り中和可能な致死性ミーム媒介が投与されています。セキュリティ担当者を待ち、あなたの身元を確認できるよう準備してください。



どう説明するつもりだってんだ?真実を覆い隠すために理論を延長させでもするのか?分かるだろ、たった2つの可能性しかない。


俺の知る世界は消え失せちまったのさ。変更に変更を重ねられて、今は19回目だ。


あんたは変化し続ける。何もかもがそうだ。それでも、俺は変わらないまま。俺は覚えているただ一人の人間なんだ。


教えてくれ、もし君がそう・・・











博士、あんたを啓蒙してやるよ。








   *   *
 *   +嘘です
  n ∧_∧ n

  1. (ヨ(*´∀`)E)

  Y   Y  *



上記の説明は殆どがカバーストーリー、つまり「本当の概要を隠すための嘘」である。
SCP-1968の真のオブジェクトクラスはThaumiel
そう、あのSCP-2000(機械仕掛けの神)やSCP-2140(過去改変画像)と同じ、「財団の切り札兼最終兵器兼諸刃の剣」である。
特にこいつはその中でも最も重要性の高い部類。つまり



財団の切り札、世界を救う最終手段である。



実験記録

さて、真の概要について話す前に、まずはこのオブジェクトに関する実験記録について説明する。
最初の実験の後、被験者*2は肉体的・精神的共に問題ないことが分かり、報告会終了後に彼の宿舎に戻った。
しかし、その際に彼は自身の備品が変更されているようだと思ったらしく。その後彼のシフトが組まれた際、それを伝えられた彼はそれに強い混乱を示した。
ここまでは上記の概要と矛盾しない。


二度目の実験の後、被験者は精神に不安をきたした。実験場所の変更、担当者不足、見知らぬ職員、彼を混乱させる要素は山ほどあった。
尋問の結果、彼自身の来歴、財団の歴史、オブジェクトの性質などについて、「根本的に異なる記憶を」彼は所持していた。



被験者: 何度も何度も話したじゃないか… 少し眠らせてくれよ。


インタビュアー: すぐそうさせてあげるとも… これきりで報告会はお終いだ。


被験者: あんたW██████博士をどうしたんだ?


インタビュアー: 何度も言い続けてるように、そんな人物は存在しない。君も職員名簿を見ただろう… 私が君を騙そうとしているとでも言うのかい?


被験者: (返事なし)


インタビュアー: 君はB██████を覚えていないのかね?以前から何度も君と一緒に働いてきたじゃないか。彼によれば、それなりに友情を築いていたとか…


被験者: 彼のことなんか聞いたこともない。そいつが誰なのかまったく分からない。


インタビュアー: だが、彼が君の個人的な情報を知っていることは認めるね?君が大学時代に付き合っていた娘のことから君の妹の子供の名前まで、どうやって彼がそれを知り得たと言うんだい?


被験者: (うんざりして) 知るもんか。俺の知ったこっちゃない。


     10分間の休憩。被験者にはソフトドリンクやタバコが支給された。

インタビュアー: 君は、我々が知っている筈だという… あー…(メモを見る)… SCP-████とSCP-████について発言していたね。君によれば、SCP-████は[データ削除済]で、[データ削除済]が可能。そして、SCP-████はある種の未来予知コンピュータということになっているんだったね?


被験者: ああ。俺がそれらの収容手順を作成した。ここでの仕事が割り当てられるまでは、二ヶ月の間SCP-████の研究をやっていたんだ。原稿に詳しく書き上げて…


インタビュアー: 君が語ってくれたようなSCPは存在しない。我々だって聞いたことがないんだ。


被験者: (不可解な表情)


インタビュアー: どうかしたかね?


被験者: 俺は“あんたが将来知るだろうこと”を喋ったのか… そんなら、間もなく聞き知る事になるだろうさ。█████████に実地エージェントを派遣してるか?俺達がそのSCPを見つけたのはそこだよ。


(中略)


インタビュアー: 君はソーダを購入した際に気付いた変化についても述べていたね…。10セント硬貨の肖像に見覚えが無かったとか。


被験者: (うんざりして) ああそうとも。


インタビュアー: 君によると、誰がダイムの肖像になっているんだったね?


被験者: FDRさ。


インタビュアー: あー、うん、それは誰だね?


被験者: おい…そんな…彼の横顔じゃないだって?(中略)彼の特徴的な…薄ら笑い?俺の言ってる意味が分かるよな。


インタビュアー: いや…


被験者: (わめき叫ぶ) 何故こんなことをやってる!?これは心理学的な…… 俺を混乱させようと、そう出来上がっちまうまでどのくらい掛かるか観察しようって魂胆なんだろう…?


インタビュアー: それが真実でないことを君は分かっているね。


被験者: (不可解な表情)


(中略)


被験者: ……自分が何を考えているか分からない。でき…できれば明日にしてもらえないか?俺には…そう俺には睡眠が必要なんだ。


インタビュアー: 宿舎まで警備に護衛させよう。


(中略)


被験者: とにかく眠りたいんだ。


インタビュアー: 調剤部に寄っていきなさい。何か処方してくれるだろう。


被験者: 精神安定剤なんざいらんよ。


インタビュアー: お好きなように。


末尾陳述:

    ポリグラフの結果は、応答が意識的な虚偽ではないことを示した。

彼は当時発見されていなかった*3SCiPについて言及した。財団所属の博士、インタビュー担当者、ひいては10セント硬貨の肖像まで記憶と違うことを説明した。
そうして出されたのが初期の結論、現在のカバーストーリーである。しかし、精神に影響を与えたにしては被験者の記憶は細部まで筋の通ったものであった。また、彼はわざと嘘をついているわけでもなかった。
そして、彼は不可解な発言をした。


被験者: 俺は“あんたが将来知るだろうこと”を喋ったのか… そんなら、間もなく聞き知る事になるだろうさ。


…勘のいい財団職員の方々はすでに気付いたかもしれない。だが、もうしばらく続けさせて貰いたい。


三度目の実験の後、恐ろしい事実が発覚した。


#openclose(show=これは被験者に対するインタビュー記録B抜粋である(長文注意)){


被験者: 俺達が何を話し合っていたか覚えていることを教えてくれないか?


インタビュアー A: 何だって?


被験者: この実験は何度目だ?


インタビュアー A: 三度目だが、それが何か?


被験者: 三度目だと?


インタビュアー A: 君に言わせれば何度目だと言うんだ?


被験者: これは第十九回試験だろ。


インタビュアー A: そんな筈はない。


(中略)


被験者: …それなら、あんたも照合できる別のネタだってあるぞ。あんたらが俺を信じてないことは分かってるが、最後に実験を行った時、俺達はあるものに関係する奇妙な現象を発見したんだ。…あるものというのは確かそう… カシミール力だったか?


     (インタビュアーたちが互いに相談する。)

インタビュアー A: (インタビュアー Bに向けて) ああ、任せる。


インタビュアー B: カシミール力とはどういう意味ですか?


被験者: ああ。そのまんまの意味さ。アーティファクトはそれに作用する。


インタビュアー B: そのようなことをどうやって知り得たんです?


被験者: あんたらがそれについて話してるのを立ち聞きしてたからな。


インタビュアー B: 何時そんなことがあったというんですか?


被験者: あんたは覚えちゃいないさ。第十七回試験の後だったか。頼むから分かってくれよ。あんたらはコレが俺の記憶に影響を及ぼすと考え続けてる。俺の思い違いだってな。もしそうなら、俺はどうやってSCP-████とSCP-████について知り得たんだ?もし俺の言う現象を確認しちまったら、そん時はどう説明するつもりだ?


インタビュアー A: 君は…


被験者: どう説明するつもりだってんだ?真実を覆い隠すために理論を延長させでもするのか?分かるだろ、たった2つの可能性しかない。俺がイカれてるか、あるいはそうじゃないかだ。


インタビュアー A: 未だ究明中だ…


被験者: 納得したら、また話そうぜ。それまで俺は用済みだ。宿舎に連行して、監禁するなり解放するなりしてくれ。


(インタビュー中断)
(中略)
注記: その後すぐに、███████助研究員(このインタビューを補佐していた人物)が自分自身を被験体として用い、非承認の実験を行った。
その後に彼と会話した職員は確認できなかったものの、彼が財団の非機密データベースを利用しての調査に二時間従事していた際に母親に電話をかけたことが分かっている。
だが、実際には███████助研究員が母親への通話をし損なったこと(少なくと十数回以上、それ以上の時間を費やして通話を試みたにも関わらず)が確認されている。彼は母親のボイスメールメッセージを繰り返し再生した。
間もなくして、███████助研究員は自殺した。
(インタビューは50時間後に再開)


被験者: 助手はどうしたんだ?


インタビュアー: 転任したよ。


(中略)


インタビュアー: もう一度聞く、私に信じて欲しいこととは何だ?


被験者: 12週間、俺はアーティファクトでの任務に従事してきて、[注記:実験開始からまだ一週間しか経過していない。] 財団や大統領の変更、地球の土地配置の改変、そしてあんたの変化…髭無い方が良く見えるぜ、まあ今言ったようなことをこの目で見てきた。ついでに言えば… それらは全て過ぎ去った。


インタビュアー: 何だって…


被験者: 俺の知る世界は消え失せちまったのさ。変更に変更を重ねられて、今は19回目だ。まだ同じ言葉を話せてるだけラッキーだな。いいかよく聞け。俺がモルモットにされ続けてるのを承知するただ一つの理由は、今後もう俺自身の歴史が存在することはないからだ。あるいは歴史の外側か。自分の妹、持ったことがない子供たち、結婚したことがない妻に見覚えなんてない。俺は過去の無い亡霊なんだ。アーティファクトを使って失うものなんて何一つ無いんだよ。


(中略)


被験者: あんたは変化し続ける。何もかもがそうだ。それでも、俺は変わらないまま。俺は覚えているただ一人の人間なんだ。あんただって本当は██████████博士じゃない、少なくとも俺が知っていた人物じゃない。




(この時、インタビュアーと立会人███████の間でテレタイプを介した意見交換が密かに行われた。)


インタビュアー: カサンドラ・コンプレックスを伴うカプグラ症候群かもしれない。


Observer: おそらく。


(中略)


インタビュアー: 彼が持つ未解明の知識は?


Observer: 多分潜在感覚と作話症によるものだろう。文献上には彼のようなケースがある。


インタビュアー: それと、███████助研究員の自殺については?


Observer: フォリ・ア・ドゥでは。




インタビュアー: …どういう意味だ?


被験者: どういう意味。どういう意味かだって?ならこの説明でどうだ。:もしあんたが████████博士を尋問すりゃあ、████████████の痕跡を見つけられる筈だ。数日中に、彼からのどデカいサプライズに直面することになるだろうさ。それを何で今の俺が知っているんだろうな?


インタビュアー: 馬鹿馬鹿しい。君が保有する未解明の知識について、君は説明することができるのか?


&bold(){被験者: 俺はこの…&bold(){世界交替状態 が前回よりもゆっくり展開され、出来事が起こるのもより遅くなっていると考えてる。}手に負えないほど事象が分岐しないのなら、&bold(){この現象は効果的に近い将来の予知を可能にしてくれるんだ。}俺がちょうど第一九回試験をやってた所から来たことを考えると、ここでは…


インタビュアー: そんな説明を信用できる訳がないだろう。単刀直入に聞こう。君は第三者に強制されているのか?君の知っていることを明かさないようにという明確な指示の下に行動してるんじゃないのか?私が言ったように、もし…


被験者: 俺をおちょくるな。理解してくれ。アーティファクトは近い内に██████████████████████する。███████████████。███、████、█████████████████████████。およそ数週間でな。


インタビュアー: 教えてくれ、もし君がそう…


被験者: 博士、あんたを啓蒙してやるよ。██████████、████████████。███████████████?███?████。██████。████████████。████████████████████████████████████████。 ██████████████████。████。█████████████████████████。██、████████████████████、███████████████。███。██████████████。████████████████████████。█████████、█████████、████████████。████████████。█████、████、█████████████████████████████████████████████████████████。█████████████████████████████


██████████████████、████████████████████████████████████████████████████。█████████████████ ██████████████████████、██████████████████████████████████████████、███████████████████████
██████████████████████████、█████、████████、██████████████████████、██、███、██、████、████、██……}


(O5監督官 ███████の権限により、インタビューはこの時点で突然終了された。)


末尾陳述:
ポリグラフの結果は、応答が意識的な虚偽ではないことを示した。



明らかに様子がおかしい。
まず、被験者はこの実験が19回目であると主張している(実際は先述のようにまだ3回)。
そして、この円環が「記憶を改変する」訳ではないとの仮説を述べる。証拠として、「インタビュアーの二人から立ち聞き」したという「カシミール力の変化」なる現象について語ったが……当の二人はその力について会話した記憶はなかった。
そして直後にこの現象は実験によって確認された。つまり、彼は知り得るはずのない知識を本当に知っていた。


インタビューは一度中断されたが、インタビュアーによってその間に行われた実験も異様である。
彼は、何かを確かめるように母親のボイスメッセージを繰り返し再生した後、なんと自殺している。
おそらく、彼が聞いた人物の声は、記憶している「母親」の物ではなかったのであろう。そして悟ったのだ、自分が取り返しのつかないことをしてしまったと。
インタビューはその後再開された。


再開後、被験者は12週間この円環への任務に就いていたと語った(実験を開始してからまだ1週間しかたっていないのに)。
彼は、自身の記憶ではなく、世界のほうが変わったのだと語った。彼の知るそれらは過ぎ去って、既に消え失せてしまったとも。
この時点では、インタビュアーとその立会人はこの被験者が精神疾患を患っていると考えていた。


しかしその後、被験者は近い将来のことを予測できると語り、鼻で笑うインタビュアーを遮って、こう発言した。


被験者: 博士、あんたを啓蒙してやるよ。


その後の彼の発言は全て黒塗りで規制されており、傍聴していたと思われるO5監督官の一人に突然インタビューは終了させられた。



財団による追加の調査

被験者の発言の裏付けをするため、財団はこのオブジェクトが効果を及ぼすと思われる範囲内の調査・測定を行った。
すると折しも、この円環が異常性を発現した際、CERN(欧州原子核研究機構。実在の組織)から「ある現象」についての報告が入った。財団でも調査を行ったところ、ニュージーランド、南アフリカ、南極*4、果ては木星周辺でも発生が確認された
そして結論づけられる。この現象は宇宙全体に、そして瞬間的に、超光速で拡散している。ただある地点を除いて。
その地点とは、



SCP-1968の動作範囲、もっと言えば被験者がいる場所だった。



真の概要

さあ諸君、大分待たせたが、このオブジェクトの真の概要について説明しよう。
このオブジェクトは、お察しの通り、被験者の記憶を改変するものではない。このオブジェクトが改変している本当の物は、


我々の過去、


もっと言えばこの宇宙全体の過去である。


ここで、「因果関係」というものについて説明する。
因果関係というのは、「Aを原因にBの結果が生じる」という関係。通常の時間軸において、この関係は絶対に一方通行であり、逆転することはない。
ひいては、「過去の出来事や行動を原因に今が形作られ、そして今の行動や出来事が未来の形を決定する」=「過去があるから今があり、今があるから未来がある」と言い換えることもできる。


このオブジェクトの作用は、その因果関係を逆転させてしまうことなのだ。すなわち、「今をもとにして過去を作り直す」という事である。
先ほど触れた「ある現象」とは、被験者が言及した「カシミール力の変化」である。変化は超光速で伝播した……つまり、相対性理論のやぶれ、因果の逆行が起こったのだ。


この再構築の基準となる「今」。これは恐らく、宇宙全体の「今」を意味しない。
唯一、カシミール力の変化が及ばないとされるSCP-1968の動作範囲内の「今」。つまり、被験者と周囲の大気を基準として、過去の世界が「もっともらしく」作り直されるのだ。
もちろん、こんな僅かな情報を「因」としているので、再現される細部は元通りとはいかないだろう。*5


そしてこの急ごしらえの過去の世界に、SCP-1968と被験者はちょこんと再配置される。
被験者の視点からすれば、単純に過去へとタイムスリップしたようにも見えるだろう。これが、


被験者: 俺はこの… 世界交替状態 が前回よりもゆっくり展開され、出来事が起こるのもより遅くなっていると考えてる。


の示す、「出来事が遅くなる」である。


そして、再構築とはいえ元いた世界と大きく変わることは少ないため、SCP-1968起動の直前に起こっていたようなイベントは、起動後の世界でもほぼ確実に、そう間もなくして発生する。
「手に負えないほど事象が分岐しないのなら、この現象は効果的に近い将来の予知を可能にしてくれる」とはそういう意味なのである。



どういうことだ!まるで意味がわからんぞ!


要するに、このオブジェクトは、
起動するたびに、今の世界によく似た世界の、その過去に飛ばされる
異常性を有しているのである。
世界を包むこの円環は、因果関係をひっくり返し、世界を、過去を、再構築する。




SCP-1968


Global Retrocausality Torus世界を包む逆因果の円環







本家記事の最後に、SCP-1968の最近の動向について書かれている。
実験から二か月後、この円環は「人間による操作を伴わずに」起動した。実験時とは全く違う現象が起きたのだ。すると、実験の被験者とよく似た人物が出現した。相違点は、未知の化学的熱傷を全身に負っていたことであった。インタビューする試み空しく、程なくしてこの人物は息絶えた。
それからさらに一か月後、再び円環は勝手に起動し、今度は重武装した非人型実体を放出した。その実体は財団の職員に攻撃し、12人殺害、多数のけが人を出し、最終的に無力化された。実体の持っていた兵器は、今の物理法則に逆らう性質を有しており、その外見はSCP-1968と似たものだった。


この二つの補足と、先のO5によるインタビューの突然の停止。
考えられるのは、かつての世界で少なくとも3回、非人型実体によるサイトの襲撃・占領イベント……最悪の場合、K-クラスシナリオ*6が起こったというものである。
2回目のイベントでは、先の人物が致命傷を負いながらもSCP-1968を起動。しかし起きる未来を伝えられぬまま死んでしまった。
その結果再構築された世界でも再びイベントが発生。この3回目では財団はSCP-1968を起動できなかった。しかし幸運なことに、イベントを起こした生物自身が1968を起動。また世界が再構築された。
そしてこれらの2つの起動が、今の財団世界で「予期せぬ起動」として観測されたのだと思われる。……1回目はいつだって? 被験者がインタビューで言及した、「アーティファクトは近い内に――」の経験が1回目である。


被験者は、この未来のイベントの発生について言及し、機密の漏洩、職員の動揺、あるいはタイムパラドックスの危険を感じたO5によって制止させられたのだと予想が付く。
…しかし、このオブジェクトの特性は「出来事を遅らせる」だけである。「無いことにできる」訳ではない。つまり、人型実体はいずれ必ずやってきて、財団に対処を迫るだろう。
果たして財団は、この報告書が存在する世界でそれを回避できたのだろうか?
もし失敗すればどうなるのか? 実は、その結果は既に示されている。


SCP-1968の正体

兵器の外観はSCP-1968に類似していることが分かっています。


当該アーティファクトは31±2.3万年のものと推定されています。


被験者: 俺はこの… 世界交替状態 が前回よりもゆっくり展開され、出来事が起こるのもより遅くなっていると考えてる。


……人型物体の武器、これに関する不気味な特徴について、気になった読者も多いのではないだろうか。
外観がSCP-1968に似ている――まるで、SCP-1968も元々は彼らの道具であったかのように。


これは、通常のタイムスケジュールを考えれば有り得ない。なぜなら、SCP-1968は地下深くから発見された30万年前の遺物。これが人型実体のものだとすれば、彼らは我々人類がようやく原人から脱したような古代に、既に高度な技術をもって地球に住んでいたことになるからである。


しかし……SCP-1968は出来事の発生を遅らせる。言い換えれば、擬似的にタイムスリップを引き起こす。
もしも、オブジェクトが暴走したり、人型実体が操作を誤ったりして、幾百、幾千万回という世界の再構築を起こしていたとしたら? そしてその度に、SCP-1968を過去へと、人型実体の社会を遠い未来へと移動させていったとしたら?


もしかしたら、我々人類は既に一度、生存競争に敗退支配シフトした後なのかもしれない……。


被験者: 俺の知る世界は消え失せちまったのさ。変更に変更を重ねられて、今は19回目だ。まだ同じ言葉を話せてるだけラッキーだな。


被験者の懸念のひとつに、再構築された世界において、重要な法則……言葉さえも変わってしまうことがあるのではないか、というものがある。
実際、他ならぬSCP-1968自身の作用機序がそれを体現している。


被験者がカシミール力の――(中略)――表面上その速度に影響を及ぼす可能性がある要素は — 理論的にも — 存在しません。


これは、今やどこにも存在しない、かつてあった世界の物理法則の名残といえよう。しかし……


その実体が保有していた兵器は、現在理解されている物理法則とは矛盾する性質を示しました。


……この人型実体は本当に、現在の宇宙からやってきたのだろうか?



補遺

CK-クラス:現実終焉シナリオ発生時に、このオブジェクトを使用することを誰かが提案した。しかし、このオブジェクトを使用することは「世界の消滅を確実なものにする」と書かれている。同時に、「何もしないことは同様の結果を約束する」とも言及している。
そりゃそうだ。こいつが起こしているのは世界そのものの再構築だ。はっきり言えば「K-クラスをもっともマシなK-クラスで上書きしている」も同然である。
しかし1968を使わなければ、より凄惨なK-クラスシナリオで世界が終わるだけなのだ。だから使うしかない。
それは財団の目的の一つ「正常性の保護」を否定することに繋がる。だが、現行世界の報告書においてこいつがThaumielに指定されていると言うことは…
少なくとも、そのときが来ればやるつもりなのだろう。今の財団は。




財団の明日はどっちだ。




余談

1968自体は2000コンテストより前に投稿されたSCPであり、当時はKeterクラスのままだったが、コンテスト終了後に機密指定のThaumielクラスに変更された。
そのため、単純な執筆時期だけで言えば1968が二番目に古いThaumielである。




「SCP-1968が起動したら再構築されるのに、なぜ起動する瞬間の変化が観測できたのか」と疑問に思うかもしれない。
しかしよく考えてみると、この「観測できた」という事実自体が、再構築された過去の一部であることが分かると思う。
そもそも財団の報告書が、オブジェクトを研究し、その結果を報告する文書であり、過去を記したものである以上、それもまた1968の改変の産物なのだ。
もっと言えばここまでの「1968発見→実験→インタビュー→カシミール力の観測→真相の判明→Thaumiel指定」という一連の流れそのものが、度重なる再構築の末に生まれた過去だといえる。
1968の正確な起動回数が把握できないのもこれが理由。こいつにとっては「自身が起動した」という事実さえも、改変の対象となる過去に過ぎない。
幾度も改変を繰り返す世界の中で、唯一一貫性があるのは、「以前の世界を知っている人間が1968から出てきた」という出来事だけなのである。




追記・修正は、過去を再構築してからお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示


SCP-1968 - Global Retrocausality Torus
by equitefahrenheit
http://www.scp-wiki.net/scp-1968
http://ja.scp-wiki.net/scp-1968


この項目の内容は『クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス』に従います。

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  • 博士、あんたを脱毛してやるよ。 -- 名無し (2018-08-26 20:24:24)
  • 財団の明日はどっちだとかなかったとかのオチちょっと多すぎて霹靂してる -- 名無しさん (2018-08-26 21:24:47)
  • 世界の明日を無くすSCiPが多すぎてそろそろ項目同士の差別化点にはならなくなってきた感はあるよね -- 名無しさん (2018-08-26 22:21:03)
  • このSCiPはタウミエルの中でも根本から変える、超大規模な奴だよね -- 名無しさん (2018-08-26 22:33:14)
  • ↑3本家で色々見たらそうでもない。ただこうして外部でまとめられるのはどうしても派手で印象に残りやすいものになるから… -- 名無しさん (2018-08-27 01:55:56)
  • ↑4「霹靂してる」はツッコミ待ちなのか? -- 名無しさん (2018-08-27 06:04:07)
  • これSCP-3005ぐらい好きなSCPだわ -- 名無しさん (2018-08-27 09:15:24)
  • ↑3いや希望が残ってるやつとか色々とパターンあるのにお決まりのごとく「明日はどっちだ」とか「なかった」とかそんな感じのばかりでワンパターンな記事のオチでもったいなあなあと。あっ誤字すいませんでした↑4 -- 名無しさん (2018-08-27 09:49:23)
  • ↑1説明下手で悪いけどSCPページそのものでなくアニオタの記事のオチの話ね -- 名無しさん (2018-08-27 09:50:45)
  • オチに便利なフレーズだからな。でも使いすぎると陳腐、でしょ? -- 名無しさん (2018-08-29 06:59:33)
  • 財団世界が滅びそうで滅びないのは発動を認識できないThaumielのおかげか -- 名無しさん (2018-09-30 18:30:00)
  • どうしようもないけど首の皮1枚繋がって今のところなんとかなってるってSCPが好きだったけど最近のは詰み確定してるのが多いからなー、滅んだら創作としてお話が続かないけどいいのかってなる -- 名無しさん (2018-10-19 00:51:53)
  • ↑そこはカノン次第、気に入らない設定は頭から排除したっていい。わけだしね。 -- 名無しさん (2018-10-26 16:58:59)
  • 「最近の動向」から読みとれるのは「近い未来にサイトが非人型実体に占領される」ことだけで、Kクラス云々は言ってないんじゃないか? 占領下で被験者がなんとか起動に成功したのが火傷のパターン。しかし先送りされた次のイベントでは、被験者はとうとう起動できなかった。が、幸運なことに、直後に非人型実体がたまたま起動させて、再び先送りに成功したのが最後のパターン。 -- 名無しさん (2018-11-08 21:59:22)
  • ↑別にこいつは起きる未来を確定させる訳じゃない。「逆因果」になっているのは起動した瞬間だけだから、その後は行動次第でいくらでも未来を変えられる。たとえ変えられなくても永遠に先送りにできる。だからThaumiel。 -- 名無しさん (2018-11-17 19:21:48)
  • 因果律の欄を平たい表現になおした上で、来歴の謎を追記しました。また、長くくなりすぎているので若干整理しました。 -- 名無しさん (2019-04-12 22:19:00)
  • えーと、今は何回目のリセット後なんでしょうか?(錯乱 -- 名無しさん (2020-01-10 09:20:57)
  • 記憶処理してほとんど何も覚えてない人が起動したら全然違う世界が出来上がりそう -- 名無しさん (2020-01-28 18:05:20)
  • 「かしみーるか」だと思ってたけど「カシミールりょく」だったのね。 -- 名無しさん (2020-01-28 18:06:41)
  • 誰も死を知覚しない全滅は看過される -- 名無しさん (2020-03-25 18:08:19)
  • プッチ神父のスタンドの最終形態の能力で世界が何巡もしたみたいな感じかな? -- 名無しさん (2020-04-10 12:28:24)
  • 誤字多すぎでは? 改定する時見直してくれよなー(口だけ) -- 名無しさん (2020-06-19 00:16:15)
  • 案外人型実体は「変わってしまった世界の機動部隊」だったりしてな -- 名無しさん (2020-12-12 13:06:30)
  • 指輪くらいの大きさかなと思っていたら,"長径は320cm、短径は90cmです。" デッッッッ -- 名無しさん (2021-08-18 14:08:51)
  • Kクラスしか出ない世界線リセマラで草 -- 名無しさん (2021-08-18 14:45:43)
  • 途中から非人型実体が人型実体に改変されているのもこのオブジェクトの作用なのかい? -- 名無しさん (2022-03-24 17:13:17)
  • 古い記事だからなのか財団側がどうにも現実的というか頭固いよねこれ。どっちがSCPなんだっていう超技術を持ってる最近の財団だと早急に事態解明してそう -- 名無しさん (2023-04-02 02:29:15)
  • 設定とか今でもめちゃくちゃ好きだけど、やっぱり最近のKクラス系の記事と見比べるとネタバレの演出とかそれっぽく見せる研究資料とかが素朴だなって感じがある (むしろ今のがごてごてして双方に負担がある状態になっているという意見もあるのかもしれない) -- 名無しさん (2023-05-11 17:06:35)
  • このオブジェクト辺りからだんだん俺みたいな低脳には理解出来なくなってくる -- 名無しさん (2023-06-24 10:42:01)

#comment

*1 要するにわが身を犠牲にしてでも守れ、という事
*2 先述の「とある財団職員」のこと
*3 つまり現在は発見されている
*4 いずれもデンマークよりもかなり遠い
*5 例えばコインに描かれた肖像が変わったり、いたはずの有名人がいなくなったりする。最愛の母親が別人になったり、もしかしたら言葉すら変わってしまうかもしれない。
*6 SK-クラス:「支配シフトシナリオ」か

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