ストーリーテキスト/さまよう燐火

ページ名:ストーリーテキスト/さまよう燐火

目次

さまよう燐火[]

さまよう燐火 -前-

闇夜に浮かぶ怪しげな青白い光――。
幽霊を目撃したという報告と、調査の依頼を
受けた殿一行は現場へと向かうことを決意する。

前半
山中城

よーし! 今日の見回りは
これにておっしまーい、っと!

山中城
これだけやれば小田原城さまも
きっと誉めてくれるはずだよね?

山中城
うんうん、それじゃあすぐに帰還して、
見回り結果の報告をしないと――

山中城
って、あれ……?

山中城
なんだろう……向こうにぼんやりと
青白い光がみえるけど……提灯かな?

山中城
(おかしいな……この辺りは兜の出現報告がされてるから、
こんな夜更けに通行人なんて、最近じゃ殆どいないのに……)

山中城
おーいっ! だいじょーぶぅ? もしかして迷子とかぁー?
だったらあたしが村まで送っていくけどー?

???
カカカ……。

山中城
……ん?

???
カカカ…………カカッ……。

山中城
――ひぃ!? ゆ、ゆゆ……ゆゆ……っ!

山中城
幽霊だぁーーーっ!!

山中城
たすけて小田原城さまぁぁああ!
あたし、取り殺されたくないよぉ!

???
……カカ……カカカッ……。

――翌日・所領。

この日、千狐は己が力を高めるべく修行に励んでいた。

千狐
むむむむむぅ……!!

千狐
(精神集中……精神集中……)

千狐
(どんな状況下でも確実に転移術を成功させられるようにしないと……!)

やくも
――んぁ?
千狐ぉー、何をしちょーがやぁ?

千狐
むむむむむむむぅ……!!

やくも
おーい、千狐ぉ!
聞こえないんかや? なーにしちょーがやぁ~?

千狐
(集中集中……やくもの呼びかけ程度で精神を乱してちゃ修行にならないわ)

やくも
だにぃ……?

やくも
……おかしいがや。
呼びかけても全然反応しないだに。

龍王山城
ふむ、座禅を組んで眉間にしわ寄せ、
むむむぅーしてるところを見るに……。

龍王山城
突然の腹痛に襲われ、あと一歩でも動けば色々と
まずいことになってしまう……といったところかのぉ?

やくも
なるほどやね……。だったら、すぐに
厠に連れていってあげた方がいいだに。

やくも
ってことで龍王山城、運ぶのを手伝ってほしいだに。

龍王山城
うむ! 日頃世話になってる身じゃ。
わらわが意外と力持ちってところを見せてやるかの。

千狐
(……ん? 誰かが近づいてきてる……?)

千狐
(ううん……そんなことで心を乱してはだめ……。
千狐……貴方は石……もの思わぬ石なの……)

龍王山城
――よぉし。それでは持ち上げるとするか。
せぇ~のぉ……。

龍王山城
ふんぬぁーっ!

やくも
だ、だにっ――!?
そげに勢い良く持ち上げたら、危な――!

千狐
――きゃぁあああ!?

龍王山城
ま、まずい! 千狐がとんでもない高さで宙を舞っておるぞ!!

やくも
あわわわっ! このままじゃ頭から地面に落下するだにぃ!

???
――危なぁいっ!!

千狐
え!? あ、あなたは……?

山中城
――ふぅ、間一髪だったね! 狐のひと、だいじょうぶ?
いくら良い天気だからって、危険な遊びしちゃだめだよ~!

千狐
せ、千狐は被害者なのぉ……!

山中城
んー? そーなの?

山中城
まぁ、何だかよくわからないけど怪我しなくてよかったね♪

やくも
な、なあ龍王山城……。
あげな城娘さん、所領内におったがや?

龍王山城
いや……あれは外からの来訪者じゃな。

龍王山城
あの風貌……見覚えがある……。

龍王山城
名はたしか……山中城、だったか?
小田原城に付きまとっている城娘のひとりだったような気が……?

山中城
なんですか、その覚え方はぁ!?

山中城
付きまとってるんじゃなくて、
あたしは小田原城親衛隊のひとりなの!

山中城
――って、そうではなくて!
実はあたし、この所領にいるという殿に頼み事があるのです!

龍王山城
ふぅむ。まーたそういった手合いか。
最近の殿ときたら引っ張りだこじゃのぉ。

やくも
なんにせよ、千狐を助けてくれた恩人だに。
すぐに殿さんとこに連れていくがや~!

――半刻後。

殿
…………。

山中城
でーすーかーらー! 何度も言っているように!
幽霊ですよ、幽霊! 幽霊が出ちゃったんです!

殿
…………。

殿
…………?

やくも
幽霊って言われても、何かの見間違えじゃないかや?

山中城
ちっがうよぉー! あれは絶対幽霊だって!

山中城
だってねだってね! こう、ふわふわぁっとして!
どろどろどろ~んって感じで、カッーってなってたんだから!

千狐
……そ、そうですか。

山中城
あー、いまの絶対信じてないやつだよぉ!

山中城
うぅぅ……あたし、ちゃんと見たんだから……。
怪しくて恐ろしい青白い光が、夜闇に浮かんでるのを……。

龍王山城
青白い光……か。

龍王山城
のう、山中城よ。その青白い光は、
カカカッ、と音を立てていなかったか?

山中城
カカカッ……?

山中城
ああっ! うん、そうそう!
言われてみればたしかにそんな感じの音を出してたよ!

龍王山城
ふむ、なるほどな……。

龍王山城
となると、もしかしたら…………。

山中城
え!? 龍王山城さん、心当たりあるの!?

龍王山城
あるにはあるが、あまり口に出すべきものでもないじゃろう。

龍王山城
不吉な名とは、言葉にて発することで災いを呼ぶからの。

山中城
そういう理屈は小田原城さまも仰るけど、
でも……正体を知ってるなら教えてほしいよぉ……。

龍王山城
まぁ、そう慌てるでない。話を聞いてしまった手前、
ぬしの窮状を無視するなどという酷いことはせぬ。

山中城
ってことは、調査に協力してくれるの!?

龍王山城
ああ。ちょうど退屈していたところじゃしな。

龍王山城
殿も、異論はないな?

殿
…………。

殿
…………!

山中城
ありがとう、殿!

山中城
それじゃあ、みんなの準備ができ次第、すぐに出発しよう!

――数刻後。

千狐
殿、どうやらこのあたりで山中城さんは幽霊を目撃したらしいですが……。

柳川城
見たところ、幽霊がいそうな感じはしないですね……。

やくも
だいたい、その幽霊ってのは山中城の見間違いなんじゃないんかや?

龍王山城
ほぉ、どうしてそう思うのじゃ?

やくも
幽霊さんなんてのはだいたいが見間違えだに。

龍王山城
意外とそこらへんは現実的なのじゃな……。

千狐
いえ……そう自分に言い聞かせておかないと、
不安になってしまうから、という方が正しいと思います。

殿
…………。

やくも
殿さーん。さっさと辺りを調査して、
はやいとこ所領へ帰るだにぃ~!

???
――カカカッ。

やくも
ん?

???
カカ……カカカッ!

やくも
だにぃーっ!? と、殿さーんっ! 
お、おばけぇ!! ほ、ほほ、本当におばけが出たがやぁ~!!

山中城
ほらぁ! やっぱりあたしが見たのは間違いじゃなかったでしょぉ!

殿
…………!?

龍王山城
ふむ……。

龍王山城
……やはり、青白き光の正体は『鬼火』じゃったか。

柳川城
鬼火……?

千狐
き、聞いたことがありますわ。

千狐
土に染みこんだ牛や馬といった動物らの血が歳月を経て変化し
たいまつの火のように宙に揺らめき、散っては集まり、人を襲う妖怪だとか。

龍王山城
さすがじゃな、千狐……。
まさにぬしの知識通り、アレは危険な妖怪じゃ。

龍王山城
だが、正体がわかってしまえば話は早い。

龍王山城
何故なら、わらわは鬼火の弱点を知っておるからな!

やくも
そ、そうなんかや!?

龍王山城
ふふふ、妾は龍王山城じゃぞ?
火に関連する事柄に関しては城娘の中でも――

山中城
――じ、自慢はいいから、はやく鬼火の弱点を教えてよぉ!

龍王山城
むぅ……せっかちなやつじゃのぉ……。

龍王山城
コホン……えぇ、鬼火の弱点は確か……。

龍王山城
馬の鐙を打ち合わせた音をたてると消滅する……と聞いたことがあるのじゃ!

やくも
そげなことでいいなら簡単だにぃ!
よっしゃ! さっそく鐙を打ち合わせるがや!

龍王山城
うむ! では任せたぞ、やくも!

やくも
……だに?

やくも
龍王山城が持ってきてるんじゃないがや?

龍王山城
……ん?

龍王山城
いや、わらわは鐙なぞ持っておらぬが。

山中城
じゃあ、殿は?

殿
…………。

殿
…………?

やくも
だにぃ! そういえば千狐の転移術で来たから、
お馬さんには乗ってなかったがやぁ!

山中城
ど、どど、どするのさぁ!
このままじゃ襲われちゃうよぉ!

千狐
……って、ちょっと待ってください!

千狐
確か言い伝えによれば、鬼火が生じる原因のひとつに、
強き力を持った妖怪が集った時、というものがあったはずですが……。

柳川城
……と、いうことは……もしかして……。
鬼火だけでなく、他にもこの地に妖怪がいるのでは……?

殿
…………。

殿
…………!


グガガッ……コンナ所ニ人間ガイルド……!

河童
クケケケケッ! 退屈シノギニャ丁度良イゼッ!
オラァッ! オレト一緒ニ相撲シヨウゼェッ!!

やくも
あわわわっ! やっぱり他にも妖怪がいたがや!

柳川城
思った以上に数が多いですね……。

山中城
でも、相手がお化けじゃないなら、
ぶっ倒せばいいだけのことだよ!

龍王山城
ふっ、急に威勢を良くしおって……。

龍王山城
じゃが、箱根十城がひとりであるぬしとならば、そう手こずる相手でもあるまい!

龍王山城
殿、急ぎ出陣の準備をするのじゃ!!
我らの粋な戦い振りを見せ付けてやろうではないか!

後半
山中城

これでぇぇ……どうだぁっ!!

鬼火
カカ――ッ!?

やくも
だにぃ! 山中城が最後の一体を倒したがや!

龍王山城
いや……喜ぶのはまだ早いぞ、やくも。

やくも
……え?

鬼火
カカ……カカカッ!

鬼火
カカ……カカカッ! カカ……カカカッ! カカ……カカカッ!

やくも
そ、そんなぁ!?
さっきよりもえっぱい出てきただにぃ!!

山中城
ってことは、他の妖怪たちもまだまだ大勢いるってことか……。

山中城
でも、こんなところで諦めたりするもんか!

山中城
みんな! こっから気合い入れ直してくよぉ!

柳川城
…………。

山中城
……って、あ、あれ?
どうしたの、柳川城ちゃん?

山中城
今から戦いだってのに、なんで武器を下ろしちゃうの?

柳川城
あの……私……。

柳川城
もう、帰ってもいいですか?

さまよう燐火 -後-

次々と出現する鬼火や河童たちを前にし、気合いを
入れ直そうとする山中城。だが、そんな一方で
柳川城のやる気は地の底にまで落ちていたのだった。

前半
柳川城

もう、帰ってもいいですか?

山中城
か、帰る……?

山中城
いや、ちょっとまってよ、柳川城ちゃん!
帰るって…いったい何処にさ!?

柳川城
所領……ですけど。

山中城
所領って……で、でも妖怪退治はどうするの!?
すぐそこに、たっくさん危険なやつらがいるんだよ?

柳川城
わかっていますが……その……何だかやる気がでなくて……。

千狐
きゅ、急にどうしたのですか!?
何だか柳川城さんらしくないですよ!

柳川城
……だって。

柳川城
殿は最近、まったく私のことを気にかけてくれませんし……。

柳川城
……二人きりになる時間も、ほとんど無いし…………。

柳川城
はぁ……。

やくも
……な、何だか柳川城がめちゃめちゃ気落ちしてるだにぃ!!

やくも
どうしたらええんかや、龍王山城!?

龍王山城
どうもこうも……べつにどうでもいいのじゃ……。

龍王山城
だいたい何故わらわが色々と教えねばならぬ?

龍王山城
色々と頑張ったところで、わらわに褒美が出るわけでもなし……。

龍王山城
……あぁ。こんなことなら所領でゴロゴロしてればよかったのじゃ。

千狐
龍王山城さんまでぇ!?

やくも
な、何が起こってるがや?

千狐
――はっ!?

千狐
そ、そういえば……。

千狐
鬼火は人に近づいて精気を吸うと言われているのを忘れていたわ!

山中城
……ということは、柳川城さんも龍王山城さんも
鬼火に精気を奪われたってこと!?

千狐
間違いありません!
どう考えても二人の様子がおかしいですもの!

やくも
けど、理由がわかったところで、どうすればいいがや?
うちらじゃ、二人を元気づけるのは無理だにぃ~!

山中城
……うぅぅ。

山中城
こうなったらーっ!!

千狐
……え?

山中城
みんなぁ! あたしの大槌で気合いを注入してあげるぅ!

千狐
い、いけません! 大槌で叩いたりなんかしたら、
気合い云々の前に、お二人の命が――。

山中城
大きく振りかぶってぇ……どーんっ!!

自らの霊気を込めた大槌を振り上げると、
山中城は勢いよく地面を叩いた。

柳川城
――はっ!?

龍王山城
――な、なんじゃ!? 何が起こっておるのじゃ!?

山中城
二人とも! 鬼火なんかに屈しちゃだめだよ!

山中城
ここで妖怪たちを野放しにしたら、
人里にまで下りて悪さするに決まってる……。

山中城
だから……あたしたちで何とかしないとぉ!!

柳川城
……そ、そうでした!
私ったら、どうしてあのような弱音を……。

龍王山城
くっ、わらわとしたことが……。
鬼火たちに精気を奪われていたとは……。

龍王山城
山中城! ぬしのおかげで気合いが入ったのじゃ! 恩に着るぞ!

山中城
感謝してるなら、お礼は武働きにて返してちょーだい!

山中城
ってことで、決着をつけにいくよー!
みんなー、一緒に戦闘開始だぁ!

後半
山中城

く、ぅぅ……。
まだまだぁーっ!!

鬼火
カカカッ! カカカッ!! カカカッ! カカカッ!! カカカッ! カカカッ!!

龍王山城
無茶をするな、山中城! 
わらわたちもいるということを忘れるでない!

柳川城
山中城さん! 私たちが援護します!
その隙に、大槌の一撃を――!!

山中城
柳川城ちゃん……龍王山城さん!

山中城
ありがとう! あとはあたしに任せて!!

山中城
おぉんどりゃーっ!!

鬼火
カカ……カッ……カ…………。

千狐
鬼火の消滅を確認……!

千狐
殿、やりましたわ!
この地に集っていた妖怪たちを全て退治できたようです!

殿
…………!

山中城
ふぅ……これで、一件落着だね。

山中城
……けど、どうして急に鬼火が現れたんだろう?

千狐
確かに、今までは妖怪たちが密集した地でも、
鬼火の姿は確認されていませんでしたね……。

龍王山城
となると、考えられることは一つじゃ。

柳川城
はい……妖怪たちの力が以前よりも
強くなってきているということでしょうね。

龍王山城
うむ。そう遠くないうちに、これまでとは比べものにならないほど
強力な妖怪が出現する可能性も、充分ありえるということじゃな。

やくも
……そ、そげな怖いこと言わないでほしいがやぁ。
幽霊さんが出た方が、まだマシだにぃ……。

龍王山城
ふふ、そう怯えるな、やくもよ。
我ら城娘も日々強くなっておるのだ、何も問題はあるまい。

柳川城
問題はない……ですか。

柳川城
ふふ、龍王山城さんが言うと、
本当にそんな気がしてくるから不思議ですね。

殿
…………!

山中城
まぁ、何はともあれ、
みんなのおかげで幽霊事件も解決できたわけだし!

山中城
これで胸を張って小田原城さまに報告しにいけるよ!

山中城
それじゃあ、殿! あたしは自分の故郷へ帰るね!

山中城
またいずれ、きちんとお礼をしにいくからー!
たっくさん期待して待っててねー!!

龍王山城
…………まったく、慌ただしいやつよな。
もう姿が見えなくなってしまったのじゃ。

柳川城
ですが鬼火の襲撃にあっても精気を失わずいた
あの心の強さや快活さは見習わないといけませんね。

龍王山城
何を言うか。ぬしはお淑やかなればこそ柳川城なのじゃぞ?

龍王山城
あのように気忙しい城娘になどなってみろ?
殿が悲しむぞ……。

やくも
…………。(想像中)

柳川城(妄想)
と~のぉ~! 今日も元気にが~んばりましょ~!!

やくも
……うぅ~ん。

柳川城
た、確かに……私にはちょっと荷が重いようですね。

殿
…………?

柳川城
あ、い、いえ……な、何でもありません、殿。

殿
…………。

殿
…………!

千狐
はい! それでは、所領へ帰還するとしましょうか。

千狐
殿、此度の遠征もお疲れ様でした。
しっかりと休んで、また明日からの戦に備えましょう。

さまよう燐火 -絶-

鬼火との戦いにおいて協力してくれた殿一行に対し、
お礼をしようと所領にやってきた山中城だったが、
持参してきたあるものが、波乱を巻き起こす……。

前半
――鬼火との戦いから数日後。

山中城
おお~いっ! 殿~っ!! やっほーっ!!

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
山中城さん、今日はどうなされたのですか?

山中城
ほら、このまえ鬼火と戦った時に言ったでしょ?
ちゃんとお礼をしにいくからーって!

山中城
だから今日はぁ……じゃ~んっ!

やくも
だにぃ! そ、それは――

柳川城
――ウナギ、ですか……?

山中城
そう! ウナギ!
それも取れたばっかりのピッチピチのやつ!

山中城
これで山中特製ウナギの炊き込みご飯を作ってあげるぅ!

龍王山城
なに? ぬしが料理じゃと?

龍王山城
はは、また面白い冗談を言うのぉ。

山中城
むぅ、もしかして龍王山城さんってば、
あたしが戦いと穴掘りしか能が無いとか思ってる?

龍王山城
違うのか?

山中城
ぜんっぜん違うもん!

やくも
………………。

山中城
って、やくもちゃんも驚きすぎだってば!

山中城
もぉ、こうなったらとびきり美味しいの作って
ぜったいに見返してやるんだからー!!

山中城
ってことで殿! とりあえず調理場かりるよ!

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
それでは山中城さん、どうぞこちらへ。
私も微力ながらお手伝いさせていただきます。

――半刻後。

山中城
それじゃあ、私はお米の準備をするから、
柳川城ちゃんはウナギをいい感じに捌いちゃって!

柳川城
はい!

柳川城
って、ええ!? わ、私がウナギを担当するのですか?

山中城
あれ? ウナギを捌くの、無理だったりする?

柳川城
い、いえ……できないことは、ないと思いますが……。

柳川城
(うぅぅ……ぬるぬるしていて、ちょっと……独特な匂いがする……)

柳川城
(ですが、殿のためです! 喜んでもらえるよう頑張らなくては!)

柳川城
それでは、柳川城……いきますっ!

柳川城
てやぁ――っ!(ぬるぅ)

山中城
あっ!? 柳川城ちゃん!
そんな掴み方したらウナギが逃げちゃうよ!

柳川城
……きゃぁああっ! う、ウナギが――!?

山中城
ああ、言わんこっちゃない……。

柳川城
あっ、ぅぅ……ウナギが、服の、中にぃっ……んぅぅっ!!
お、お願いです……ふぁっ、ぁ……と、取ってくださいぃ……!!

龍王山城
そういうことなら、わらわに任せておけ!

龍王山城
そうれぃ!(ぬるぅん)

山中城
ああっ! だからそんな掴み方じゃだめだってばぁ!

龍王山城
――ひゃぁんっ!?

龍王山城
こ、これっ……どこに、忍び込んで……うっ、ぁあっ!!
やっ……そこはっ……くっ、ぅぅ……な、なんという粋なウナギじゃ!

龍王山城
こうなれば、わらわの炎で燃やし尽くして――

山中城
――蒲焼きはだめぇっ!
今日は炊き込みご飯だっていったでしょぉ!

山中城
もう、二人ともウナギくらい掴めるようにしてよね。(ぬるるぅ)

柳川城
はぁ……はぁ……あ、ありがとうございます、山中城さん。

龍王山城
……まったく、わらわにも御しきれぬとは、
とんでもないウナギを持ってきたものじゃ。

山中城
もぉ。それじゃあ私がウナギを捌くから、
二人はお米の準備とか、卵をといたりとか、食器を――

三木城
んぉ!? 何作ってんのぉ~?

山中城
え? あなた、いったい……?

柳川城
三木城さん!?

龍王山城
いや、それだけじゃないようじゃぞ!

岩国城
……ふむふむふむぅ。
見たところ、ウナギを使っての料理みたいだねぇ。

柳川城
岩国城さんまで……!?

山中城
どうやら所領内にいる城娘のようだね。

山中城
……で、どんな娘たちなの?

柳川城
な、なんと言いましょうか……。
とてもたくさんご飯を食べるといいますか……。

山中城
なーんだ、ただの食いしん坊さんたちか。
ならこっちも作りがいがあるってもんだよ!

龍王山城
馬鹿者! やつらはそんな生やさしい城娘じゃないぞ!

龍王山城
そう……食となればまさに悪鬼羅刹が如く……!

龍王山城
いや、魑魅魍魎のそれと言った方がいいじゃろうか!?

三木城
もぉ、何を言ってるのさ龍王山城。(涎だらー)

岩国城
私たち、妖怪なんかじゃないよぉ。(じゅるり)

山中城
ぜんっぜん説得力ないんですけど!?

山中城
こうなったら、柳川城さん! 龍王山城さん!
殿にウナギの炊き込みご飯を食べさせるためにも――

山中城
ここは絶対防衛です! 戦闘態勢に入ってください!

後半
三木城

……もぉ、いくらなんでもひどいよぉ!
料理する前の食材を食べたりなんかしないってば!(ぐぅぅぅ)

岩国城
そうそう。まだ三原城ちゃんからもらった
おにぎりがあるから、手を出したりなんかしないよぉ(じぃ~)

山中城
だったら、すぐにウナギから離れてくださいよぉ~!

柳川城
料理ができあがったら、すぐにお二人もお呼びしますから。

三木城
ほんとぉ!? 絶対だよ? 約束だからね!?

岩国城
それじゃあ、それまで所領内に
食べられそうなものが無いかぶらぶらしよーかぁ。

三木城
だねー。

龍王山城
…………ようやく、行ったようじゃな。

龍王山城
はぁ~。なんだか鬼火たちと戦うよりも疲れたのじゃ。

山中城
って、まだまだ料理作りは終わってないんだから
あたしたちはこれから頑張らないとだよーっ!!

柳川城
そ、そうでしたね……!

柳川城
それでは皆さん、気を取り直して頑張りましょう!!

――半刻後。

山中城
……と、いうわけで!

龍王山城
ついにウナギの炊き込みご飯がぁ~、

柳川城
完成しました!

殿
…………。

殿
…………!

やくも
ん~♪ ものすごくいい匂いだにぃ。はやく食べたいがや~!

三木城
――もぐもぐもぐ。

岩国城
――ぱくぱくぱく。

三原城
あ、こら! 二人とも! いただきますもしないで、
いきなり食べるんじゃありません! 行儀わるいですよ!

龍王山城
いいのじゃ、三原城。其奴らは今の
今まで色々と我慢をしてくれてたのじゃからな。

三原城
え? が、我慢……?

柳川城
……って、あれ? 千狐さんは?

やくも
そういえば見当たらんだに。

山中城
んー。というよりあたし、
今日ここにきてから千狐ちゃんのこと見てない気が……。

山中城
よぉし! ちょっとあたし、千狐ちゃん探しに行ってくるね!

柳川城
でしたら私も――

山中城
いいからいいから! 柳川城ちゃんは先に食べてて!
せっかくのご飯が冷めちゃうのはいやだしさ!

山中城
ってことで、行ってきまーす!

龍王山城
…………。

――所領・屋外。

山中城
お~い! 千狐ちゃ~ん!
どこにいるのぉ~? ご飯が冷めちゃうよぉ~?

山中城
……って、あれ?
なんだろう、あの光は……。

山中城
うーん……。

山中城
……はっ!?

山中城
も、もも、もしかして鬼火っ!?

山中城
……って、そんなわけないよね。
所領は清浄なる気に満ちた地だもん。

山中城
となると……あれは……。

千狐
むむむむぅ…………。

山中城
千狐ちゃん!?

千狐
……や、山中城さん!?

千狐
どうしてこんなところに?

山中城
もぉ、それはこっちの台詞だよ!
千狐ちゃんこそ何してるのさ。

千狐
いえ、千狐はただ修行をしていただけで……。

千狐
って、あれ? もう夜……?

千狐
いけない、夕餉の支度をしないと……。

山中城
ぷ……。

山中城
あははははっ!
もう千狐ちゃんったら集中しすぎだよぉ。

千狐
……え?

山中城
夕餉ならあたしたちがちゃんと用意したし、
みんなも食べ始めちゃってるから~!

千狐
……そ、そうだったのですね。

山中城
でも……修行っていうけど、
どうしてそんなに根を詰めるの?

山中城
何だか千狐ちゃん、すごく無理してるような気がするんだけど……?

千狐
そ、それは……。

千狐
もっともっと……千狐は殿の役に立ちたいから……。

山中城
そっか……。

山中城
千狐ちゃんって、主思いの神娘なんだね♪

千狐
そ、そんなに大げさなものではありませんよ……。

千狐
ただ、少しでも殿の助けになれればと、そう思うだけで……。

山中城
うんうん! その気持ち、すーっごくわかるよ!
あたしも小田原城さまのためなら何でも頑張れるもん!(ぴかぁっ)

千狐
や、山中城さん!?
……どうして、急に変身を?

山中城
だってぇ! 千狐ちゃんを見てたら、
何だか妙にやる気が出てきちゃったんだもん!

山中城
今日は所領にお泊まりするって殿には伝えてあるからさ!
明日は朝から千狐ちゃんと一緒に修行してもいいかな?

千狐
……山中城さん。

千狐
ええ、もちろんです!
ぜひともよろしくお願いしますわ!

山中城
えへへ、千狐ちゃんとあたしだけの約束ぅ♪

山中城
よぉし、それじゃあ今日はこのへんにして、
みんなと一緒にご飯たべにいこ?

千狐
はい!

…………。

龍王山城
…………。

龍王山城
(まったく、心配して様子を見に来たのじゃが……)

龍王山城
(ふふ……まったく、元気な奴らじゃのぉ)

龍王山城
(鬼火は人の精気を吸う不吉な光であったが)

龍王山城
(神娘は、他者に精気を与える希望の光なのかもしれぬ……)

龍王山城
……なんて、我ながら粋な発想じゃのぉ。

――そう呟くと、美しい微笑を口端に湛えながら、
龍王山城は殿の待つ大広間へと戻っていくのであった。



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