ストーリーテキスト/あまき名残に報恩を

ページ名:ストーリーテキスト/あまき名残に報恩を

目次

あまき名残に報恩を[]

あまき名残に報恩を -序-

――摂津に兜軍団の侵攻する影あり。
その報せを岩手山城から聞いた殿一行は、
柳川城らと共に遠征を開始するのであった。

前半
――所領。

高島城
ふふ、ちょっと高かったけど、ようやく欲しかった素材が手に入ったわ。
これがあれば新型の花火を作れるかもしれな――

高島城
――っ!?

………………ぜぜ………………ぜぜ………………ぜぜ………………。

高島城
こ、この感じは……。

高島城
間違いない、彼女がここに近づいているんだわ!

古河城
あら? 高島城じゃない。
なによ、またひとりで不審な挙動を――

高島城
ちょうどいいところにっ!!
お願い古河城、コレちょっと預かっておいて!

古河城
はぁ? 何よいきなり?
こんなよくわからないガラクタをどうして私が――

高島城
――いいからお願いよ! 頼んだからね!
私は少し旅に出るわ、殿にもそう伝えておいて!

古河城
旅って……あんたいったいどこに行く気よ!

古河城
……って、もういないし。

古河城
ったく、いったい何だって言うのよ。
ぼっちをこじらせすぎて、いよいよおかしくなっちゃったのかしら?

???
――もし、そこの御方。

古河城
なによ、こっちは今取り込みちゅ……

古河城
って、あんたは!?

――四半刻後。

殿
…………。

膳所城
初めまして、お殿さま。
私は膳所城と申します。以後お見知りおきを~♪

殿
…………。

殿
…………。

膳所城
ふふ、松江城ちゃんが言っていた通り、
笑顔の素敵なお殿さまですねぇ。

やくも
松江城が言ってた通り……?

千狐
あの、膳所城さんは松江城さんと仲がよろしいのですか?

膳所城
ええ、仲良しもなにも、日の本三大湖城同士ですからね、大親友ですよぉ。

柳川城
日の本三大湖城ということは、高島城さんとも旧知の仲なのですか?

膳所城
はい♪

膳所城
何を隠そう、今日は此の地にお世話になっているという
高島城ちゃんの様子を見に来たのですぅ~。

古河城
(なるほどね……)

古河城
(だから高島城のやつ、急に所領内を飛び出したってわけか)

古河城
(膳所城って城娘に苦手意識を持ってる
ってのは聞いてたけど、まさか逃げるほどとはね……)

膳所城
あのぉ、古河城さん……でしたよね?
松江城ちゃんから聞きましたよ。高島城ちゃんと仲良くしてくれていると。

膳所城
……で、肝心の高島城ちゃんは今いずこに?

古河城
え?

古河城
ああ、うーん。そうねぇ。たしか、
友達と出かけるとか言ってたような言ってなかったような……。

膳所城
ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?

やくも
だにぃ!? それほど驚くことがや?

千狐
きっと入れ違いになるとは思ってなかったのよ……。

柳川城
せっかく御足労いただいたのに、申し訳ないことを――

膳所城
高島城ちゃんに、私や松江城ちゃん以外の
お友達がいるなんて思いもしませんでした!!

古河城
――そこぉっ!?

膳所城
だって、昔の高島城ちゃんは、
毎日毎日、花火作りばかりで忙しそうにしてましたし……。

膳所城
だから、私は高島城ちゃんが集中できる環境を維持するために、
彼女の工房に誰も近づけないよう腐心してましたから。

古河城
(いや、それが原因であいつがぼっちになったんじゃ……)

膳所城
いやぁ、でも。
高島城ちゃんがまさかお友達とお出かけとは……ふふっ♪

膳所城
いつまでも薄暗いお部屋で花火作りばかりしていては
ダメだと、ようやく分かってくれたみたいですねぇ。

膳所城
では、邪魔しちゃ悪いでしょうし、今日のところは私は帰りま――

岩手山城
とーのぉっ!! 大変だよぉーっ!!

やくも
だに!? そんなに慌ててどうしたがや!?

岩手山城
どうしたもこうしたもないよ!
摂津の方で兜たちの軍勢が悪さしてるって報せが届いたんだよぉ!!

千狐
何ですって!?

殿
…………!!

柳川城
はい、すぐに遠征の準備をしてきます!

膳所城
あらあら、何だか大変なことになっているようですね。

膳所城
でしたら、この膳所城も力をお貸ししますよぉ?
お殿さまには高島城ちゃんのことで色々とお世話になっていますからね。

古河城
三大湖城のひとりが力添えしてくれるのなら頼もしい限りだわ。
今回の遠征は楽できそうね。

古河城
よし、それじゃあすぐにでも摂津に――

膳所城
あ、いえいえー。
古河城さんにはここに残ってもらわないとぉ。

古河城
……え? どうしてよ?

膳所城
だって、高島城ちゃんが帰ってきた時に引き止めていてほしいですからぁ。

古河城
いや、そんなの私じゃなくてもいいんじゃ……。

膳所城
…………。(うるうる)

古河城
ハァ。分かったからそんな顔しないの。

古河城
ま、戦なんてそもそも好きじゃないしね。
大手を振って所領内にいられるっていうなら甘んじて受け入れてあげるわ。

古河城
それじゃあ殿、私はここに残るけど、しっかりやってきなさいよ?

殿
…………。

古河城
ええ。留守の間は私が色々とうまくやっておくから。

古河城
それじゃ、いってらっしゃい。

――摂津国。

兜軍団
……殲滅……制圧……。
…………激滅……鏖殺……。


くそっ! なんて数だ……!
このままでは押し切られるぞ!


弱気になってどうする! ここからは気持ちの戦ぞ!
我らの鉛と刃の味がいかなるものか異形共に教え込んでやれ!


おおおおおおおおおおおおお――っ!!

???
馬鹿野郎が! 少しは頭ァ冷やしやがれ!


……っ!?


おおっ、貴方様は!?


尼崎の姉御ォ!?

尼崎城
誰が姉御だ――!

尼崎城
ったく、お前らはすぐに頭に血が上りやがる……。

尼崎城
いいか? 此処を守れとは言ったが死ねとは言ってねぇんだ!
お前らみたいな非力な雑兵は無理だとわかったら逃げりゃいいんだよ。


非力って……そのような言い方はあんまりではないですか!


そうですぞ! 此処は我らの故郷なれば、


死なんと心に決めて挑まねば勝利など掴めはしません!

尼崎城
うるせぇ、軽々しく親からもらった命を賭けてんじゃねぇ!

尼崎城
お前らが真に守るべきは生まれたばかりの
子どもたちと、情を分かち合った妻だろうが!


あ、尼崎城さま……。


……そこまでお考えであったとは。


ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおんっ!!

尼崎城
ばっ……なに泣いてやがるんだ、気色悪ィ!

尼崎城
ほらっ、分かったんならさっさと後退しちまいな!

尼崎城
後のことは、この尼崎城さまに任せて……な。


かたじけのう存じます……。


……ですが、尼崎城さまもご無理をなさいますな。


いくら敵無しの強さと称される武をお持ちとはいえ、
単身では戦術に限りがありましょうぞ……。

尼崎城
へっ、誰にもの言ってやがる?

尼崎城
妙な心配してねぇでさっさといけ、戦の邪魔だ!

尼崎城
こっからは城娘と兜の喧嘩さね、
巻き添えくらっても文句は言えないよ!


はっ! どうか、尼崎城さまに良き武運があらんことを……!

尼崎城
……ったく。最後の最後までてめぇよりも城娘の心配か。

兜軍団
城娘発見……城娘発見……。
……即時激滅……即時鏖殺……。

尼崎城
ふッ、そう慌てんなって。
逃げも隠れもしやしねぇんだから――。

尼崎城
……ん? いや、兜だけじゃねぇ。
何だ、遠くに見えるあの光は?

千狐
――殿っ! どうやら此処が岩手山城さんが言っていた地点のようですわ!

やくも
わざわざ言われんでも見れば分かるだに!
兜さんがそこらじゅう、えっぱいいるがや!

岩手山城
うわわわっ!? もうすぐそこまで兜が迫ってる!?

岩手山城
と、とんでもない所に転移してきちゃったみたいだね!

膳所城
ですが、わざわざ敵を探す手間が省けたというもの。

膳所城
これも日頃の行いが良いからですかねぇ、うふふ♪

柳川城
そ、そんな呑気なことを言ってる場合ですか!?

柳川城
すぐに戦いの準備を――

尼崎城
おいっ! そこのあんたたち!

殿
…………!?

尼崎城
見たところ何人か城娘がいるようだね。
ちょうどいい、こっち来て手ぇ貸しなッ!

岩手山城
おお、なんか男らしい城娘がいる!
いったい誰なんだろう……?

膳所城
あらあら、あれは尼崎ちゃんではありませんか。

千狐
ご存知なのですか!?

膳所城
ええ、尼崎ちゃんの城主さんは、
膳所との縁を強く持つ方ですからねぇ。

柳川城
そういうことなら話は早いですね。
殿、尼崎城さんと共に此の地の兜を撃退しましょう!

殿
…………!

岩手山城
うんっ、分かったよ!
殿、指揮は任せたからね!

後半
尼崎城

ふふ、どこの誰かは知らないが、
あんたたちなかなかやるじゃないか!

膳所城
あらあら、ひどいですねぇ~。
この膳所をお忘れですか、尼崎ちゃん?

尼崎城
――げぇっ!? 
なんかキラッキラしたやつがいると思ったら膳所のお嬢様かよ!?

膳所城
お嬢様だなんてそんなぁ。
ふつーですよ、ふつーぅ♪

尼崎城
あんたが普通だってんなら、
そこいらの城娘のたいがいが極貧城娘になっちまうっての。

殿
…………。

尼崎城
っと、悪ぃ悪ぃ。名乗りが遅くなっちまったな。

尼崎城
私は尼崎城。此処を守護してる城娘だ。
さっきは助かったぜ。

尼崎城
膳所がいるってのを差し引いても、あんたらの戦いぶりは
なかなかに見所があったぜ。いったい何者なんだい?

柳川城
私たちは――

――そこで、殿一行はこれまでの戦歴を尼崎城に語って聞かせた。

尼崎城
なるほどねぇ。あんたが噂に名高き殿ってことか。

尼崎城
前々から気になってはいたんだが、
まさかこれほどの偉丈夫だったとはねぇ。

尼崎城
私らの窮地を知って駆け付けてくれたってんなら、
その厚意、ありがたく頂戴させてもらうよ!

岩手山城
…………。(じぃぃ)

尼崎城
……って、なんだい嬢ちゃん?
さっきから黙ったまま私のこと見つめて。

岩手山城
嬢ちゃんじゃないもん!

尼崎城
……え?

岩手山城
僕は男の子なの!

岩手山城
ねぇ、どうやったら尼崎ちゃんみたいに
男らしくなれるか教えてよぉ~!

尼崎城
おわっ!? ちょ、離れないか!

尼崎城
おい膳所、これはどういうことなんだい?

膳所城
ふふ、どうやら先の戦における
尼崎ちゃんの立ち居振る舞いに惚れちゃったみたいですねぇ♪

尼崎城
何がそんなに響いたのかはよく分からんが、

尼崎城
まぁ気に入ってくれたってんなら悪い気はしねぇか。

尼崎城
って、それよか仲間たちに私が無事だってことを報せねぇとな。

尼崎城
とりあえず城内に来てくれ。
詳しいことはそこで話そうじゃねぇか。

殿
…………。

膳所城
はぁいっ! それではお殿さまぁ、
尼崎ちゃんにぜぜっとついていきましょ~♪

あまき名残に報恩を -破-

当地の城娘、尼崎城との出逢いを果たした殿一行。
城内の兵から多くの期待を受ける彼女と共に戦場
へと向かい、兜たちの魔の手から摂津を守り抜け。

前半

おいっ!尼崎城さまがお戻りになられたようだぞ!


おおっ! さすがは姉御!
やはり兜など敵ではなかったようですな!


さぁ、皆で我等が尼崎城さまを出迎えようでは――

膳所城
――どうもぉ、ぜぜっとお邪魔させていただきますよぉ♪


……っ!?


な、なんか……。


尼崎城さまが可愛くなって帰ってきたぁッ!?

尼崎城
馬鹿野郎が! どうみたって私じゃねぇだろうが!


んぉっ!? よ、よかった……!
姉御、無事だったんですね!

尼崎城
だから姉御じゃねぇって言ってんだろうが、ったく。

尼崎城
それよか喜べ。心強い助っ人がきてくれたぜ。
お前たちも聞いたことがあるだろ? 殿一行だ。

殿
…………。


おぉぉ……この方が、あの!?


ということは、こちらの御嬢さんがたも城娘なのですか?

岩手山城
ちがうよぉ! 僕は御嬢さんじゃなくて男なの~っ!!


え? ということは城娘ではないのですか?

岩手山城
ううん! 城娘だよ!


けれど、男と申すか?

岩手山城
う、うん! そうだよ!

岩手山城
だって僕、男の子だもん!


え、えっと……ど、どういうことなんだ?


分からぬ、城娘にも色々と事情があるのかもしれない……。


それよりも、どうして貴方がたは我らに助力を?

岩手山城
尼崎ちゃんの男っ振りに惚れ込んだからだよ!


分かるっ!!


尼崎城さまは男も惚れる男の中の男ですからな。

尼崎城
男男うるせーなぁっ!
話が進まねぇだろうが!


……しゅん。

尼崎城
なんにせよ、こっからの戦は私と殿たちで何とかする。
お前らは城内に残り、民の安全を確保してくれ。


……本当に、お手伝いせずともよろしいのですか?

尼崎城
ああ。

尼崎城
あんたらが私の後ろにいてくれるのが分かってれば、
それだけで意気が燃え立つってもんだからな。

尼崎城
分かったら、お前たちは黙って私に守られろ、いいな?


おお、なんという男気!?


それでこそです、尼崎城さま!


俺たち、全力で姉御に守られます!

やくも
何だかヘンな言い回しやね……。

千狐
けれど、それだけ皆さんが尼崎城さんを信頼してるってことだわ。

殿
…………。

殿
…………!?

尼崎城
ああ、どうやら第二陣が来たようだな。

柳川城
こうしてはいられません!
すぐに前線へと戻りましょう!

――最前線。

突撃式トッパイ形兜
……此地ヲ侵セ……我等ガ主ノ為ニ……。

尼崎城
ちっ、先のヤツらよりも厄介な兜たちがいるようだな。

岩手山城
ど、どうするの?
何か作戦とか考えた方がいいんじゃないのかな?

尼崎城
んー。

尼崎城
いや、下手に策を弄するよか、このまま真っ向勝負の方がいいだろうさ。

膳所城
ふむふむ。

膳所城
でぇ、その心は?

尼崎城
考えるのが面倒ってだけさ!

柳川城
そ、そんないい加減な……。

岩手山城
けど、それってすっごく男らしい!

尼崎城
へへ、どうやら岩手山は気に入ってくれたみたいだぜ?

尼崎城
どうする、殿?
あんたが不満ってんなら戦い方を変えてもいいが。

殿
…………。

殿
…………!

尼崎城
ふふ、話の分かるヤツで助かるぜ。

柳川城
あ、あの……。
これで本当にいいのでしょうか?

膳所城
心配することはありませんよ、柳川城さん。

柳川城
……え?

膳所城
先の戦もそうでしたが、此地を攻めている兜軍の戦術には、
敵ながら潔さを感じさせるものがあることは間違いありません。

膳所城
恐らくは、指揮する者の豪快さゆえなのでしょうが、
お殿さまや尼崎ちゃんは、それを見越して斯様な決断をしたのでしょう。

柳川城
そ、そこまで見抜いていらっしゃったとは……。

柳川城
(さすがは日の本三大湖城のおひとりです……!)

尼崎城
それじゃ行こうか! 
岩手山、私の戦いっぷりが気に入ったってんならついてきな! 
特等席で見せてやるよ!

岩手山城
うん! いくいくーっ!!

岩手山城
でも、ただ見てるだけじゃないよ!
僕だってたくさん兜たちを倒すんだから!

膳所城
それでは参るとしましょう。
お殿さま、指揮はお任せいたしますねぇ♪

後半
膳所城

は~い、悪い子にはおしおきですよぉ♪(ずっぷり)

突撃式トッパイ形兜
ギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!

兜軍団
ヒ、ヒィ……ッ!
何ダ、アノ城娘……トンデモナク強イゾ!?

膳所城
いえいえ~。ただ単に貴方たちが弱すぎるだけかとぉ♪

岩手山城
すごいや! あんなに強いのに驕る素振りをみせないなんて!

尼崎城
岩手山、あんまり膳所の言うことは真に受けるな……。

尼崎城
あいつにとっちゃだいたいが弱いヤツって認識だからな。

尼崎城
天賦の才と財の所為か、
膳所には持たざる者の気持ちが分かんねぇのさ。

岩手山城
じゃあ、悪い人なの?

尼崎城
いいや。とんでもなくイイ奴だ。

尼崎城
だが、それが日陰者にとっちゃ
悪魔めいたもんに映る時もあるのは間違いねぇ。

尼崎城
眩しすぎる光がその場に居座ってた
気弱な闇を取っ払っちまうように、な。

岩手山城
んー。何だかよくわかんないけど、
膳所ちゃんもある意味、男らしい気もしてきたよぉ。

岩手山城
よぉし! 僕も負けてらんないよ!
もっともっと兜たちを討ち取ってみせるんだから!


――ヒィッ!?

兜軍団
マ、マズイ……コノママデハ……。

兜軍団
ボク達ダケジャ……ドウニモデキナイヨ!

???
何ヲ情ケネェコト言ッテヤガンダ、コラァァァァアァァアァ!
後一歩デ此地ヲ落トセルッテノニ、ビビッテンジャネェゾ!

兜軍団
コ、コノ声ハ――ッ!!

殿
…………!?

福島正則
チッ、誰カト思エバ……ウザッテェ野郎共がイヤガルジャネェカ。
マサカ、テメェラガ尼崎ノ輩ニ手ヲ貸シテタトハ思ワナカッタゼ。

あまき名残に報恩を -急-

旗下の後退を知り、ついに大将首である
福島正則の名を冠する巨大兜が姿を現した。
尼崎城らと共に眼前の巨悪を打倒せよ!

前半
福島正則

チッ、誰カト思エバ……ウザッテェ野郎共がイヤガルジャネェカ。
マサカ、テメェラガ尼崎ノ輩ニ手ヲ貸シテタトハ思ワナカッタゼ。

柳川城
あ、あの巨大兜は!?

千狐
福島正則の名を冠する巨大兜ですわ!!

尼崎城
はっ、そういうことかい。
どうりで攻め込む流儀が潔いと思ったんだ。

尼崎城
桜尾城から先の一件は聞いてるよ。あんた、瘴気だか何だかを
使って亀居城を自分のもんにしようとしたって話じゃないかい。

福島正則
カビノ生エキッタ大昔ノ話サ。
……ンナモン覚エチャイネェヨ。

尼崎城
ふっ、女々しい過去は忘れたいってのかい?

尼崎城
それとも、姑息な手段を使った己を恥じているのか?

福島正則
テメェ……挑発ノツモリカ?

尼崎城
つもりじゃなくて挑発してんだよ。

尼崎城
おら、かかってこいよ巨大兜!
将几で踏ん反り返ってちゃ冠する名が廃るぜ?

福島正則
イイゼ、ソノ喧嘩……買ッテヤロウジャネェカ。

福島正則
此地ヲ奪エリャソレデ良シトスルツモリダッタガ、

福島正則
テメェダケハ跡形モナク打ッ潰シテヤルゼゴラァァアアアアアアアアアッ!!

岩手山城
あわわわっ!? あの巨大兜、すっごく怒ってるよ!?

膳所城
ですが、手に汗握る男同士の喧嘩が始まる予感ですぅ♪

尼崎城
だから私ぁ女だって言ってんだろうが!

柳川城
み、皆さん! ふざけている場合じゃないですよぉ!

やくも
柳川城の言う通りだに、あの巨大兜さんはとんでもなく
強いけん、気をつけんと一瞬でやられてしまうがや!

尼崎城
んなことはヤツが戦場に現れたときから分かってんだよ!

尼崎城
さぁ、どっからでもかかってきな兜共!
此地を侵そうとしたことを後悔させてやらぁ!

後半
福島正則

クッ……ゥゥ……尼崎城……!
テメェ、思ッタヨリモヤルジャネェカ。

尼崎城
はっ、敵方に褒められたってひとつも嬉しかぁないね。

尼崎城
それよりも何だい、そのへっぴり腰は?
本気で私を倒そうって気はあんのか?

福島正則
……馬鹿ガ、囲ンデンノハコッチダロウガッ!
戦ハ未ダ始マッタバカリ、焦ル必要ガ何処ニアル?

尼崎城
へぇ、思ったよりも知恵はまわるみたいだねぇ。

尼崎城
だったら言い訳できないくらいに戦支度を整えてきな。

尼崎城
あんたが二度と尼崎に楯突こうなんて思えなくしてやるからよ。

福島正則
ハッ、セイゼイ今ノウチニ吠エテイヤガレ。

福島正則
オラァッ! 全軍、一時撤退ダッ!
包囲網ヲ維持シツツ来タル決戦マデニ戦力ヲ蓄エルゾ!

膳所城
あらあら、あっさりと退いていきましたねぇ。

膳所城
強そうなのは見た目だけだった……ってところでしょうかぁ?

岩手山城
いや、充分強かったと思うんだけどぉ……。

柳川城
尼崎城さんと膳所城さんたちがいたから、
難なく退けられた、というのが正確かと。

尼崎城
いいや、事はそう単純なもんじゃなさそうだぜ。

柳川城
……え?

尼崎城
(あの巨大兜……どういうわけか迷いが見える)

尼崎城
(力の半分も出してないのは、様子見というだけでは説明がつかねぇ)

尼崎城
(何か、この戦いに意気を奮い立たせられない理由があるのか……)

尼崎城
(いやそれとも、戦う理由そのものが見つからないといった方がいいのか?)

岩手山城
あ、尼崎ちゃん?
どうしたの難しい顔して?

尼崎城
……ん?

尼崎城
ああ、悪ぃな。ちょっと疲れちまっただけさ。
此処まで戦い続きだったからな。

やくも
だにぃ……転移してから戦続きやったけん、
うち、お腹ぺこぺこがやぁ。

千狐
貴方は特に何にもしてないでしょうが……。

尼崎城
あっはっは、腹が減るのは生きてる証だ。
やくもの腹の虫こそが戦で勝ち取ったものの一つさね。

尼崎城
さて、一時的とはいえ敵を退けたんだ。
差し当たっては腹拵えといこうじゃないか。

やくも
おおっ、何か食わせてくれーがや?

尼崎城
ああ。一寸豆や、尼いもで造った焼酎なんかがあるからな。
盛大とまではいかねぇが酒宴で戦意をたかめようじゃねぇか!

膳所城
あらあらまぁまぁ。尼崎ちゃん特製の雫酒とは豪勢ですねぇ。

膳所城
松江城ちゃんや高島城ちゃんも一緒だったらよかったのになぁ。

岩手山城
ね、ねぇ……。
籠城中だってのに酒宴なんてひらいちゃっていいの?

膳所城
あら、これくらいの豪気さを見せられなくては
男らしくなれませんよぉ、岩手山くん♪

岩手山城
むぅ……。

柳川城
(膳所城さん、岩手山城さんの扱い方を心得てきてますね……)

岩手山城
わかったよ! ぼ、僕だって男の子だもん!
誰よりもいっぱい飲み食いしてやるんだから!

尼崎城
食うのはいいが、あんまり無茶すんなよ?
腹壊したら元も子もねぇんだから。

膳所城
ふふ、いずれにせよまずは城内に戻るとしましょうか。

殿
…………。

膳所城
はいっ♪ お殿さまとこうして戦う仲になったといえど、
まだまだ出会ったばかりですからね。貴方様との親睦を深めるためにも、

膳所城
今日は、膳所が寝かせませんからねぇ♪

あまき名残に報恩を -絶壱-

殿が尼崎城と共に摂津で激闘を繰り広げている頃。
所領内の一室では、菩提山城が病床に伏していた。
そんな彼女の隣に、もうひとりの城娘の姿が……。

前半
――殿たちが尼崎城と共に巨大兜と戦っている頃。

菩提山城
こほっ、こほっ…………。

菩提山城
……うぅ、まさかこれほどまでに
風邪をこじらせてしまうとは……こほっ、こほ……。

小牧山城
まったくじゃ! だから常日頃から
もっと厚着をせいと言っておろうに。

菩提山城
こほっ、こほっ……貴方にだけは言われたくないです。

菩提山城
それに、元はと言えば貴方と稲葉山城が
私を敵情視察なぞに連れ回すからこんなことに……こほっ、こほ。

小牧山城
仕方なかろう? あの時は戦力的にも
戦術的にもおぬしが必要だったのじゃからな。

菩提山城
こほっ、こほ……私の能力を買ってくれるのは嬉しいですが、

菩提山城
偵察帰りの折、偶然見つけた雪山の温泉に
入る必要はどう考えてもなかったかと思うのですが……。

小牧山城
何を言うか、温泉は魂の洗濯じゃぞ!

小牧山城
久しぶりに三人揃ったのじゃから、
背中の流しっこくらいはして当然であろう!

菩提山城
魂が清められても身体を壊しては元の木阿弥以下でしょうに……。

菩提山城
こほっ、こほっ……あぁ、何だか頭も痛くなってきました……うぅ。

菩提山城
これでは、殿たちのもとへ駆け付けることができるかどうか……。

小牧山城
なんじゃ、まだ然様なことを考えておったのか?

小牧山城
諦めろ。いまの其方なぞ、向かったところで足手まとい。

小牧山城
そもそも何を心配することがあろうか?
其方の先代であるところの……ええと、何といったか。

菩提山城
岩手山城さまにございます。
忘れないでください……こほっ。

小牧山城
おお、そうじゃったそうじゃった。

小牧山城
あの者の槍術は余とて目を見張るものがある。

小牧山城
それにあの勝ち気に、生来の快活さが加われば
並大抵の兜には負けぬじゃろうて。

菩提山城
……それがそうもいかないのですよ。

小牧山城
どういうことじゃ……?

菩提山城
考えてもみてください。

菩提山城
先代の性への執着は時に諸刃となりえる……。

菩提山城
そこを兜たちに狙われでもしたら――――、

岩手山城

菩提山城の脳内先代。

岩手山城
おりょ? あそこにいるのはもしかして……。

兜軍団
――ザザッ!!

岩手山城
出たな、兜め!

岩手山城
僕が成敗してやる!

古桃形兜
マ、待ッテクレ!
キミヲ男ノ中ノ男ト見込ンデ頼ミガアルンダ!

岩手山城
え? 僕?

岩手山城
僕が男の子に見えるの!?

古桃形兜
当然ダ! 斯様ニ凛々シイ武士ヲ前ニスレバ
誰ダッテ其方ノコトヲ男子ト認メルダロウ!

岩手山城
えへへ、そっかぁ♪
誰が見ても僕は男の子なのかぁ、まいったね。

岩手山城
で、頼みってなーに?

古桃形兜
ヨクゾ聞イテクレタ!
此処ハ男ラシク端的ニ言オウジャナイカ!

古桃形兜
ズバリ――我ラト共ニ憎キ殿ヲ倒シテホシイノダ!

岩手山城
ええっ!?

岩手山城
む、無理だよ! 僕は殿の味方なんだから!?


コノ通リダ!

兜軍団
頼ムゥゥ!

兜軍団
足デモ何デモ舐メルカラァァ!

岩手山城
で、でも……。


クッ……コンナニ頭ヲ下ゲテモ素知ラヌフリダナンテ。

兜軍団
困ッテル者タチヲ見捨テルナンテ、男気ゼロジャン!

兜軍団
見損ナッタヨ、岩手山城! ナンテ女々シイヤツ!

岩手山城
そ、そんな……。

岩手山城
ぐすっ……ひどいよぉ。

岩手山城
お願い……何でもするからそんなこと言わないでぇ……。

古桃形兜
…………。(ニヤリ)

桃形兜
(薄ク瘴気ヲ散布シテイタノガ効イタミタイダネ)

古桃形兜
ダッタラ、分カッテルヨナァ?

岩手山城
う、うん……きみたちに協力すればいいんでしょ?

古桃形兜
ナラサッサト付イテコイ!

岩手山城
はぅっ……待って、そんなに強く引っ張らないでよぉ!

古桃形兜
ウルセェ! 男ガソウ簡単ニ泣クンジャネェ!

岩手山城
でも……ぐすっ……やっぱり、殿を裏切るなんて男らしくないよぉ……。


何ヲ言ウ!
謀叛シテコソ戦国男子ダロウガ!

兜軍団
岩手山城、今コソ男ニナレ!

兜軍団
漢字ノ漢ト書イテ――オトコッ!!

岩手山城
な、何だかよくわからないけど……、
きみたちの熱意はなんとか感じるよ。

岩手山城
うん! 僕、男の子になるよ!


イイゾ、ソノ意気ダ!

兜軍団
然ラバ往カン! 我等ガ男道!

兜軍団
ヒト~~~ツッ! 男道トハ――

岩手山城
謀叛することと見つけたりぃぃっ!!

後半
岩手山城

うぅぅ……僕、男の子だもん……。

岩手山城
負けたけど、男の子だもん……ぐすっ……。

菩提山城
――――などということになって、
先代が殿に迷惑をかけてないか心配で心配で……こほっ。

小牧山城
よくもまぁ、そのような訳の分からぬ想像を……。

小牧山城
ほれ、横になれ。奇っ怪な妄想をしてしまうのは、
それだけおぬしが弱っている証拠じゃ。

菩提山城
ですが……こほっ、こほっ……。

小牧山城
いいから、大人しゅうせい。

小牧山城
あまり駄々をこねるようならば、
余が添い寝して無理矢理寝かしつけるぞ?

菩提山城
それだけはご勘弁を……。

小牧山城
……即答とは、さすがの余も傷つくのじゃが。

小牧山城
まぁよい。そろそろ稲葉山のヤツめが
精の付くものを持ってくる頃合じゃろうからな。

小牧山城
彼奴が到着したら粥と共に余が食わせてやる。
ふふ、ありがたく思うのだな!

菩提山城
はぁ、これから稲葉山城もくるのですか……こほっ、こほっ……。

――また熱があがりそうだな。

なかなか安静に休ませて貰えぬ我が身を憂い、
菩提山城は内心で、深い溜息をつくのだった。

あまき名残に報恩を -離-

互いに戦力を整え、再びの戦に臨む両陣営。
尼崎城は殿一行と共に兜軍団を迎え討たんとするが、
一方の巨大兜には未だ惑いの色が浮かんでいた。

前半
福島正則

…………………………………………。

三十二間星形兜
……準備ガ整イマシテゴザイマス。
後ハ正則様ノ御下知ヲ待ツバカリ。

福島正則
…………アア。

福島正則
(戦ダ……)

福島正則
(……新タナ戦ガ始マル)

福島正則
(ソウ――頭デハ理解シテルハズナノニ)

福島正則
(ドウシテ意気ガ燃エ立タネェ?)

福島正則
(地気ヲ求メ此地ヲ攻メタハイイガ、
本当ニ俺様ガ求メルヨウナ戦果ハアルノカ?)

亀居城
―――――――。

福島正則
――ッ!?

福島正則
(クソッ、何ダッテコンナ時ニアイツノ顔ガ浮カビヤガル?)

福島正則
(イラツク……)

福島正則
(……訳モ分カラズ焦レテイク)

福島正則
(前ハモット、単純ニ戦場ヲ駆ケルコトガデキタハズナノニ……)

三十二間星形兜
……正則様?

福島正則
悪ィ……何デモネェヨ。

福島正則
(ソウサ。コンナ懊悩ナゾ……此世ニオイテハ糞ホドノ価値スラネェンダ)

福島正則
(進メ……)

福島正則
(思考ヲ放棄シ……此世ノ暗愚ニ応ジ、只管ニ……進メ……)

福島正則
サァ、殿達トノ喧嘩ニ片ヲ付ケニ行コウジャネェカ!
テメェェェェラァッ! 準備ハデキテンダロウナァァアッ?


応――ッ!!

兜軍団
イツデモイケマスゼ!

兜軍団
何処マデモオトモシマス!

福島正則
ッシャア! 今コソ尼崎ニ集ッタ馬鹿餓鬼ドモヲ
盛大ニ喰ライニ征クゾォォォオオオォォ――ッ!!

――半刻後。

殿
…………。

岩手山城
殿っ! 見てっ、兜たちがまた攻めて来たよ!

柳川城
それも、前とは比べものにならぬほどの大軍です!

尼崎城
なぁに、慌てるこたぁねぇぜ!
こちとらただ酒ばっか飲んでたわけじゃねぇんだからな。

膳所城
ええ、ちゃーんと尼いもさんたちも
いっぱい食べてましたからねぇ♪

やくも
うちは生醤油もえっぱい飲んだがやぁ~!

千狐
コンッ!? 塩分とりすぎると死ぬわよッ!


千狐殿、心配はいらぬでござる!


尼崎の醤油は塩分少なめ!


そのうえ香りもよく、まろやかな味わいが――

尼崎城
んなこと言ってる場合か、阿呆!

尼崎城
それより何でお前らまで出て来てんだよ!


知れたこと!


我らとて尼崎の武士!


たとえ非力であろうと、お役に立ちとうございます!

尼崎城
お前ら……。

膳所城
ふふっ、尼崎ちゃんったらモテモテですねぇ♪

尼崎城
ちげぇよ。互いに此地にぞっこんってだけさ。

岩手山城
なら、兜なんかに負けるわけにはいかないよね!

尼崎城
あたぼうよ! みんなァ!
今こそ敵さんに尼崎の意地を見せつけてやろうじゃないの!


おおおおおおおおおおおおおおおっ!!

三十二間星形兜
――ムッ、彼奴ラメ、何トイウ喊声ヲ!?

福島正則
ソレダケ士気ガ高エッテコトダ……。

福島正則
ダガ、テメェラモ気合ジャ負ケチャイネェ!
福島旗下ノ勇猛サヲ敵ニ叩キ込ンデヤレ!

兜軍団
――応ッ!!

殿
…………!

柳川城
はいっ! 既に準備はできています!
殿、どうか我らに聡明なる御下知を!

後半
尼崎城

おらぁッ!吹っ飛びやがれぇ!

兜軍団
ギャァアアァアアアアアアアアアアアッ!!

膳所城
はいはーい、討ち漏らしなんかしませんからねぇ♪(ずぷぷー)

兜軍団
ウグゥァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

三十二間星形兜
ソ、ソンナ……我々ノ部隊ガ壊滅、ダト!?

三十二間星形兜
ソレニシテモ尋常ナラザル武ヨ……。
尼崎ダケデナク、アノ膳所城ナル城娘ハイッタイ?

福島正則
(誤算ダッタゼ……)

福島正則
(尼崎城ダケナラ容易ニ落トセルト踏ンデイタガ、
アノ蒼イ城娘ノ武威ハ規格外スギル……!)

岩手山城
せいやぁ――っ!!

福島正則
(ソレニ、アノ槍ヲモッタ小僧モトンデモネェ手練――)

亀居城
――――――。

福島正則
――――ッ!?

あまき名残に報恩を -結-

尼崎の地を狙う兜との戦いもついに天王山。
しかし、奇妙な言動を見せる巨大兜を目にし、
尼崎城は単身、仇敵の眼前へと歩み寄る……。

前半
亀居城

――――――。

福島正則
――――ッ!?

福島正則
クソッ、ダカラ何ダッテ俺ハアイツノコトヲ……!!

負ケルト……分カッテシマッテイルカラ……?

残サレタ道ガ――モウ、武神化シカナイト気ヅイテイルカラ……?

福島正則
――黙リヤガレッ!!

福島正則
降臨之儀ヲ経テシマエバ、俺様ハ……アイツノ事モ――

亀居城
――――――。

亀居城
――――――。

福島正則
違ウッ! コンナノハ俺様ジャネェ……ッ!
俺様ラシクネェェエエンダヨォォオオオオオッ!!


ド、ドウシタノデスカ正則様!?

殿
…………!?

岩手山城
な、何だか……、

膳所城
あの巨大兜、どこか様子がおかしいですね。

尼崎城
…………。

千狐
……あ、あれ? 
尼崎城さん、何処に行かれるのですか!?

柳川城
そのように前に出ては危険です!

尼崎城
心配すんな、ちょいと気勢を煽ってやるだけさ。

柳川城
……え?

福島正則
クソッ……クソォッ……何ダッテンダチクショォォォ!

福島正則
俺様ハ……イッタイ、ドウシチマッタッテンダァァッ!!

尼崎城
騒ぐんじゃないよ、みっともない。
仮にも福島正則の名を冠してるんだろう?

福島正則
……ッ!?
テメェ、イツノマニ!?

尼崎城
んなことに気づかねぇくらい気を乱しやがって、
みっともないったらありゃしないよ。

尼崎城
あんた、この尼崎の地を狙おうって息巻いたんだろう?
だったらそんな中途半端な気勢で戦場に立つんじゃないよ。

尼崎城
それともなにか?

尼崎城
あんたは戯れに此地を狙ったってのかい?

福島正則
…………。

尼崎城
はん、沈黙は雄弁なり……てか?

尼崎城
――馬鹿にするんじゃあないよ!
迷うくらいなら最初から喧嘩売るんじゃねぇ!

尼崎城
所詮、此世の命運なぞ博打の類――。
死ぬまで只管に張り続けるしかねぇだろうが!

福島正則
……ッ!

福島正則
(コイツ……マサカ、俺様ノ内奥ノ状態ニ気ヅイテイルノカ!?)

膳所城
………………ふふ。

福島正則
――ッ!?

福島正則
(尼崎ニ……膳所……)

福島正則
(……ソウカ、ソウイウコトカヨ)

福島正則
(双方共ニ非歴ノ傑廓……)

福島正則
(今サラニナッテ気ヅクトハ、俺様モ焼キガ回ッタモンダゼ)

福島正則
(イヤ……此処マデ気ヅカセテモラエナカッタッテコトナラ……)

福島正則
此度ノ戦モ、己ガ行モ……総テハ、アノ御方ノ筋書キッテコトカヨ……。

福島正則
ナラ……アア、ソウダナ……。
尼崎城……テメェノ言ウ通リダ!

福島正則
俺様モ此刻ノ戦デ命運ヲ張ルダケノコトヨォッ!

尼崎城
フッ、らしくなってきたじゃないか……。

尼崎城
さぁ、互いに決着をつけようじゃないの!
この出逢いにも、この戦にも、そして――

福島正則
コノ惑イニモナァァァァアアアアアアアアア!!

馬場式烏帽子革張形兜
オオッ、ヨウヤクイツモノ正則様ニ戻ラレタヨウダゾ!

兜軍団
行コウッ! ボクラガ少シデモ正則様ノ盾ニナルンダ!

岩手山城
――膳所ちゃん! このままじゃ尼崎ちゃんが危ないよ!

膳所城
ええ。私たちももっと前にいかないとですねぇ。

膳所城
さ、柳川城さんもご一緒に!

柳川城
は、はい!

殿
…………!

岩手山城
だいじょーぶっ! 敵はぜーんぶやっつけるもん!
だから、殿! どこから攻めればいいのか僕たちに教えて!

後半
福島正則

オラァァアアアアアアッ!コレデドウダァ、尼崎城ォォオオオオオオッ!!

尼崎城
く、ぅ……っ! 
まだそんな力を出せるとはねぇ。

尼崎城
だが、そんなんじゃ私は倒せないよッ!

福島正則
ナ……ッ!?

尼崎城
くらいやがれ、巨大兜ぉッ!! 
これが尼崎城さまの大槌さ!

福島正則
グァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?

やくも
だにぃっ!? 巨大兜さんが吹っ飛んだがや!

千狐
信じられない……あの巨体を、一撃で!?

岩手山城
すごい……あれが、男の中の男の戦い方、なんだね?

柳川城
いや、それはちょっと違うような……。

膳所城
ふふ、いいではないですか。
岩手山くんの目指すべきものが色々と見えたようですしぃ♪

柳川城
(帰ったら、菩提山城さんがなんて言うか……)

福島正則
グ、ガ……ッ……ハァ……ハァ…………。

殿
……!?

千狐
そんな……まだ起ち上がる力が残っているなんて!?

福島正則
……尼崎城、テメェ……ドウシテ、ソレホドノ……チカラヲ……。

尼崎城
あんたになら分かるんじゃないのかい?

尼崎城
私の心身には此地の人々の想いが、歴史が、名が刻まれているんだ。

尼崎城
亀居城や広島城にも、福島の名が刻まれているのと同じように……な。

福島正則
――ッ!?

尼崎城
刻まれた万象は魂の力となる。

尼崎城
故に皆が私を求める限り、

尼崎城
刻まれた名があせぬ限り、

尼崎城
私は何度だって起ち上がることができる。

尼崎城
だから、どんな苦難が待ち構えていようと乗り越えられるんだ。

尼崎城
そして、魂が燃え尽きるまで幾度となく戦い続けることで、
いつか私は尼崎の人々への恩返しができると信じている。

尼崎城
それだけのことさね。

福島正則
……フッ。

福島正則
ドウリデ強ェワケダ……。

福島正則
(ナラ、紛物デアル己ニモ……消エヌモノガ、キット在ルハズダ……)

福島正則
(タトエ武神トナロウガ……コノ虚魂ニ刻マレタ想イハ……――)

岩手山城
……あっ!? 兜たちが退いていっちゃうよ!
ねぇ、追いかけなくていいの?

膳所城
無理に追撃する必要はないでしょう。見たところヤツらは
当分の間、人に害を成すことはできないでしょうからね。

膳所城
それに、あの巨大兜の言動からして、既に次戦の在様を決心したようですし。

膳所城
ね、尼崎ちゃん?

尼崎城
ああ、十中八九まちがいねぇだろう。

尼崎城
まっ、決着をつけるのが私じゃねぇのは確かさ。今回の戦は
ヤツを武神に至る階段へ足かけさせてやったまでに過ぎねぇし。

尼崎城
後は、其の時、其の場所に相応しい城娘が片を付けるだけさね。

やくも
……んぅ。
なんやよくわからんけど、

やくも
とりあえずは兜さんたちを追っ払えたってことでえーんかや?

膳所城
ええ。とどのつまりはそういうことですねぇ♪

殿
…………。

尼崎城
殿、あんたらのおかげで色々と助かったよ。
感謝してる。

膳所城
とか言ってますけど、何だかんだで尼崎ちゃんが大立ち回りしていましたよねぇ。

膳所城
実は、助けなんて要らなかったのでは?

尼崎城
はんっ、何を言うかと思えば。

尼崎城
ひとりきりの私なんて非力なものさ。

尼崎城
支えがあるからこそ、こうして豪気でいられる。

尼崎城
だからこそ、これからも私は此地の皆と歩んでいくし、

尼崎城
こうして巡り会えたあんたたちとも手を取り合っていきたい。

柳川城
……ということは。

尼崎城
ああ。これからはあんたらの為にも、この力をふるうつもりさ。

尼崎城
それに、恩を受けっぱなしじゃ寝覚めが悪いからね。


ひゅーっ、さっすが姉御ぉ!


俺たちも協力させていただきますぜ!


どこまでもついていきやすっ!!

殿
…………。

殿
…………!

膳所城
ふふ、よかったですね、お殿さま。

膳所城
では、一件落着ということですし、
所領へと戻るといたしましょうか。

岩手山城
……ん、あれ? 
膳所ちゃんも一緒に戻るの?

膳所城
ええ♪ これだけ此の地に長居したのですから、
そろそろ所領に高島城ちゃんが戻ってる頃でしょうし。

膳所城
うふふ、今から会うのが楽しみですねぇ♪

殿
…………。

千狐
はい、それでは帰還するとしましょう。

千狐
殿、此度の遠征も誠にお疲れ様でした。

あまき名残に報恩を -絶弐-

福島正則の名を冠する巨大兜との戦から数日後。
所領を訪れた尼崎城は、岩手山城らの出迎えを
受けて、殿の拝謁を賜らんとするのだが――。

前半
――福島正則の名を冠する巨大兜との戦いから数日後。

尼崎城
へぇ、ここが殿の所領か。
思ってたよりも良いところじゃないか。

尼崎城
――っと、どうやら出迎えが来たみたいだね。
あのちっこいのは……おおっ、岩手山の嬢ちゃんかい。

岩手山城
もうっ、僕は男の子だってば!

尼崎城
おっと、こいつぁ悪かったね。岩手山の坊ちゃん。

岩手山城
…………。

尼崎城
ん? どうしたんだい、急に大人しくなって?

岩手山城
なんか……。

岩手山城
今日は尼崎ちゃんが女の子みたい!

尼崎城
失敬な! 私はいつだって乙女さね!

膳所城
あらあら、こんなところで大声だなんて、
他の皆さんの迷惑になっちゃいますよぉ?

膳所城
って、そこにいるのはもしかして……。

尼崎城
おおっ、膳所か。ちょいどいいところにきた、
ちょいと岩手山の坊ちゃんに注意してやってくれよ!

膳所城
……あのぉ、どちらさまでしょうかぁ?
見慣れぬ御婦人のようですがぁ、もしかして殿のめか――

尼崎城
――っと、そこまでだ!

尼崎城
それ以上は、さすがに……、

膳所城
さすがに……何でしょうか、尼崎ちゃん?

尼崎城
なんだい、やっぱり気づいていたんじゃないか!

膳所城
うふふ、ごめんなさい。
あまりにもお綺麗だったものでついつい♪

尼崎城
まあいいさね。
それよか、殿へ挨拶に行きたいんだが案内を頼めるかい?

膳所城
ええ勿論。
さぁ、岩手山くんも一緒にいきましょう。

岩手山城
うん! 僕が男らしく案内してあげるよーっ!

尼崎城
よろしく頼むぜ。岩手山の坊ちゃん。

――数刻後。

尼崎城
…………。

膳所城
あらあら、どうしたのですか尼崎ちゃん?
殿への拝謁も済ませたというのに、何だか元気がないですね。

尼崎城
いやな、まさか殿や柳川城までもが
私だって気づかないときたもんだからさ……。

尼崎城
そんなに戦場での私とは違うもんかね?

岩手山城
うん! 僕もびっくりの転換っぷりだよ!

尼崎城
変身っぷりだ!
色々と危ねえから間違えんな!

膳所城
ですが、喜ぶべきことだと思いますよ?
驚くほど綺麗に変身できてしまうわけですから。

尼崎城
ふんっ、物は言い様だね……まったく。

尼崎城
それよか膳所。

膳所城
はい?

尼崎城
結局、あれから高島って城娘とは会えたのかい?
たしか親友なんだろ……?

膳所城
ああ、そのことでしたか。

膳所城
実はまだ帰ってきてないんですよねぇ……。

膳所城
何でも花火師としての修行に出たという噂もあれば、
友達百人作りの旅に発った――などと言う方もいまして。

尼崎城
なんだい、その豪傑っぷりは!?

尼崎城
聞いてた話じゃ、えらい人見知りで、くらーい室内で花火ばっかり
作ってる城娘って聞いてたけど、随分と豪気じゃないかい……。

膳所城
ええ。どうやら私の知らないところで高島城ちゃんは変わってしまったようで。

膳所城
何だかちょっぴり哀しいですぅ……。

岩手山城
でも、殿のおかげで高島ちゃんは元気な城娘になれたんだからいいじゃん!

尼崎城
……ふぅむ。城娘の在様を変えるたぁ、
やっぱり殿はただものじゃないってことさね。

尼崎城
まっ、膳所のお目当てがいないってんなら、
気晴らしに私とどっか行くかい?

尼崎城
天気もいいし、所領のヤツらを誘って海にいくとかさ!

膳所城
わぁ、素敵なお誘いですねぇ♪

膳所城
ええ、ぜひに。岩手山くんもどうですか?

岩手山城
うん! いくいくーっ!

岩手山城
あっ、そうだ!
ちょうど良い機会だし、菩提山城も誘おうよ!

尼崎城
ああ、構わないぜ。

尼崎城
たしか『今孔明』の異名をもつ城娘だろ? 
一度でいいから会ってみたかったんだ。

膳所城
では三人揃って、いざ出発ですねぇ♪

――――。

菩提山城
こほっ。こほっ……何ですか、先代?
私はまだ、あまり身体の調子が――

岩手山城
海いこーっ!

菩提山城
ハァ……。
ですから、まだ体調が良くないと言ってるじゃないですか。

菩提山城
それに、今日の気温をお分かりですか?
こんな日に水に入ろうものなら……。

菩提山城
うぅ、想像しただけで熱が……こほっ、こほっ。

尼崎城
なんだい、聞いてた三倍増しくらいで病弱な城娘のようだね。

菩提山城
おや、あなたは……?

尼崎城
おっと、名乗りが遅くなっちまったね。

尼崎城
私は尼崎城。先日、あんたの先代に世話になった身さ。

菩提山城
……ああ。なるほど。貴方が噂の。

菩提山城
こちらこそ、先代が色々とご迷惑をおかけしたようで……こほっ。

尼崎城
っと、大丈夫かい?

菩提山城
……すみません。まだ身体がふらついてしまうようで。

菩提山城
ですが意外ですね。聞いていた話では、
巨大兜を素手で地平線まで殴り飛ばす豪傑だと聞いていましたが、

菩提山城
こんなにも可憐な御婦人とは……こほっ、こほっ。

尼崎城
ふふ、あんた見る目あるじゃないか。まさに、その通りさね。

膳所城
あらあら~、何だか尼崎ちゃんが珍しく乙女な顔してますねぇ♪

尼崎城
るせぇ! いつでも乙女だって言ってんだろうが。

尼崎城
ま、菩提山城がまだ本調子じゃないってんなら、
無理には誘えないな。なら、ここは私らだけで――

鬼ヶ城
――おーいっ!! 

岩手山城
……ん?

鬼ヶ城
聞いたぜ? おまえら海に行くんだろ?
だったら俺様もつれていけや! なっ、いいだろ、岩手山?

岩手山城
あっ、鬼っちだぁ! 
うんいいよぉ、また前みたいに男らしい波乗り教えてよぉ!

鬼ヶ城
っしゃ、そういうことならさっそく……。

鬼ヶ城
って、あれ?

尼崎城
…………?

鬼ヶ城
おまえ、見ねぇ顔だな……。
もしかして殿が話してた尼崎城か?

尼崎城
ほう、何で分かったんだい?

鬼ヶ城
お前から海の匂いがするからさ。
聞くところによれば、ずいぶんと海に関わりのある城娘らしいしな。

尼崎城
ははっ、こいつぁいい!
見たところ相当な波乗り屋のようだね。

尼崎城
まさかあんたみたいなヤツも所領内にいるとは驚きだよ。

膳所城
あらあら、尼崎ちゃんったら、
興奮して変身しちゃってますねぇ。

岩手山城
わーいっ、僕そっちの尼崎ちゃんの方がすきだよぉ!

菩提山城
あ、あの……騒ぐなら外でやってくれませんか、先代?

菩提山城
大音声が、頭痛に障ると言いますか……こほっこほっ……。

鬼ヶ城
――っしゃあああああああああああああああああああっ!!
尼崎ぃ! このまま海までどっちが先につくか競争しよーぜ!

菩提山城
……いやだから、鬼ヶ城さんもこんなところで大声だして変身しないで――

膳所城
うふふ、駆けっこなら私も負けませんよぉ~!

菩提山城
膳所城さん……貴方も、ドタドタしないで――

岩手山城
駆けっこー駆けっこぉ! ねぇ、僕も混ぜてぇ!
あっ、そうだ山車も出して盛大に海までいくってのはどう!?

膳所城
山車も出してって、ぷぷ、岩手山くん面白すぎですぅ♪

尼崎城
いやいや、ただのくだらねぇ駄洒落じゃねぇか!

鬼ヶ城
んなこといいからさっさと準備しろってぇ!
いい波が逃げちまうだ――

菩提山城
――うるさいと言ってるのが分からないのですか!!

尼崎城
……え?

膳所城
あ……?

岩手山城
なんで、菩提山城まで変身してるの!?

鬼ヶ城
てかこいつ、目が笑ってねぇぞ!?

菩提山城
頭の頭痛が痛いってずぅ~っと言ってるのに貴方たちときたら……。

菩提山城
……………………先代、今日という今日は許しませんからね!

後半
菩提山城

――病弱だからと甘く見ないでくださいっ!

尼崎城
そんな……この私が気圧されてる、だと!?

鬼ヶ城
お、おいおい菩提山城! こんなところでマジになんなって!
つーか性格変わりすぎだぞ!!

膳所城
ん~。どうやら熱が上がりすぎて
城娘としての魂が暴走しちゃってるみたいですねぇ~。

岩手山城
わ、笑ってる場合じゃないって!
菩提山城が本気を出したら僕らなんて跡形もなく――

菩提山城
――先代、いつまでも男の子男の子いってないで、
少しは大人しくしやがりください……こほっ、こほっ!

岩手山城
うぅぅ……だからってここまでしなくてもぉ……。

菩提山城
私を怒らせるからこうなるんで――

菩提山城
……あ、れ?

尼崎城
ったく、体調が悪いってのに無茶しすぎだぜ菩提山城。

尼崎城
……って、私らのせいか。

菩提山城
お願い、だから…………お部屋では……しずかに……。

菩提山城
菩提山城は、ただ静かに……ねむり、たい……だけ……。

――――むにゃむにゃ。

岩手山城
眠っちゃった……。

膳所城
というより半ば気絶みたいな感じですねぇ。

鬼ヶ城
ふぅ、菩提山城のやつ、こんだけの力を持ってるとは知らなかったぜ。
これからは、あんま怒らせねぇようにしないとな……。

尼崎城
それにしても菩提山城には悪いことをしちまったね。
出掛けついでに何かこの娘の好きなもんでも買って詫びないと。

岩手山城
なら、菩提山城の大好物の――

膳所城
――はいはい、続きはお外でしましょうねぇ♪
これ以上は本当に菩提山城ちゃんの身体に障りますのでぇ。

鬼ヶ城
だな。布団に寝かせたら、そのまま静かに出て行こうぜ。

そうして、部屋には菩提山城だけとなった。

――ように見えたのだが……。

菩提山城
……どうやら、行ったようですね。

菩提山城
もう出て来て大丈夫ですよ。

高島城
…………ありがと。かくまってくれて。

菩提山城
いえいえ。何か事情がおありのようでしたからね。

菩提山城
とはいえ、病気ではないのに病人のふりをするというのも難しいものですね。
まさか重言まで差し挟んでしまうとは我ながら羞恥の極み……。

高島城
ご、ごめんなさい……。

菩提山城
その言葉は膳所城さんに向けた方がよろしいのでは?
ご友人、なのでしょう。

高島城
そ、そうなんだけど……。

高島城
でも、膳所と一緒にいると、
いっつも色んな人たちが集まってきちゃって、

高島城
私には色々とつらいというか、苦しいというか……。

菩提山城
ふむ……。

菩提山城
ならば、一計案じましょうか。
膳所城さんと二人きりになれるような状況をつくる、とか?

高島城
そ、それはそれでまた困るというか……。

菩提山城
では、どうしたら?

高島城
えっと……その……。

高島城
松江城と私と膳所城の三人なら、
なんて言うか、色々とちょうどいいっていうか……。

菩提山城
なるほど。

菩提山城
三者が揃うことで初めて均衡を保つ関係、と。

高島城
……笑ったり、変に思ったりしないの?

菩提山城
むしろ感心しているくらいです。
往々にして対人関係とは、

菩提山城
ひとりでは孤独を、

菩提山城
ふたりでは劣等を、

菩提山城
三者では疎外を感ずるものですからね。

菩提山城
その点、あなたたちの関係は魅力的です。
不安定な間柄だからこそ、満つる時は最上の刻を得られるのですから。

高島城
な、何だかよくわからないけど、褒められてる……ってことかしら。

菩提山城
是。

菩提山城
ただ、いつまでも逃げ回っていては、
膳所城さんがおかわいそうですので、

菩提山城
できる範囲での努力を推奨します。

高島城
う、うん……。わかってるわ。

菩提山城
…………。

――不思議なものだな、と菩提山城は思った。

仲良くしたいと思う相手だからこそ、斯様に意識しすぎて歪となる。

それは自分が先代や小牧山城らに向ける情が如く、
重く、厚すぎれば、不安定となってしまうように――。

菩提山城
けれど、だからこそ……、

菩提山城
分かり合えた時の喜びは無上となる、か。

高島城
……え?

菩提山城
いえ、何でも。

菩提山城
ただ、高島城さんは、
私とは普通に喋れるのだな、と思っただけです。

高島城
そういえば……そうね。

高島城
ふふ、へんなの。

そう言って、静かになった所領内の一室にて、
ふたりの城娘は人知れず小さく笑い合うのだった――。



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