ストーリーテキスト/願いは泡沫の月夜に

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目次

願いは泡沫の月夜に[]

願いは泡沫の月夜に -序-

月見の宴の招待を受け、備中高松城の御城に到着
した殿たち。団子の山を前に目を輝かせる一行
だが、そこに招かれざる客が姿を現す――。

前半
千狐

到着しましたよ、皆さん!
備中高松城さんの御城です!

殿
…………。

やくも
団子、団子……!
団子はどこにあるがや……?

千狐
こらやくも、着いて早々何を言ってるの。
本当にあなたは食べ物のことばっかり……。

柳川城
ふふ……今夜の主役は空のお月様ですよ、やくもさん。

やくも
そうかもしれんけど、『お団子を沢山用意して待っているのです♪』
なんて書かれたら、期待しないわけにはいかないだに……!

備中高松城
くす……そんなに急がなくても、
お団子は逃げたりしないのですよ……?

やくも
おぉ……!

柳川城
備中高松城さん……お久しぶりです。

備中高松城
お久しぶりなのです、柳川城さん。

備中高松城
殿もお久しぶりなのです♪
今日は、お手製のお団子とお料理でいっぱいおもてなししますから、
楽しんでいってほしいのです!

殿
…………!

備中高松城
それではこちらへどうぞ。
皆、殿たちの到着を待ちかねているのです♪

――――。

やくも
おおお!

やくも
あそこ! あそこを見るだに!
団子が山積みにされてるがや~!

殿
…………!

柳川城
はい、思っていた以上の量ですね……。

千狐
『沢山』とは書いてありましたが、まさかこれ程とは……。

千狐
備中高松城さん一人で、
あれだけのお団子を用意したのですか?

備中高松城
いえいえ。もちろんお手伝いしてくださった方がいるのですよ♪
ちょうど今こちらに――

新宮城
妾じゃー! 久しぶりじゃのう、殿よ!

殿
…………!

千狐
新宮城さん!

やくも
新宮城って……幼い城娘を集めて、
自分だけの理想郷を作り上げようとしていた、あの新宮城だに!?

やくも
確か、今は更生のため、
佐賀城に見張られながら奉仕活動に励んでる、と聞いた気がするんやけど……。

新宮城
どこで聞いた情報じゃ、それは!

新宮城
かつての過ちについては、深ーく反省しておる……。
今は心を入れ替え、真っ当な道を歩み始めたのじゃ!

備中高松城
その通りなのです! この宴を成功させるために、
新宮城さんはいっぱい力を貸してくれたのです♪

新宮城
ほら!? 信じてくれるじゃろ? なぁ、殿?

殿
…………。

備中高松城
手伝ってくれたのは、新宮城さんだけではないのですよ。
加えてもう一方……今夜のためにお手伝いを願い出てくださったのです!

津城
どうもー! はじめまして!

津城
僕の名前は津城……今夜はお団子以外にも、
色んな料理を用意してるから、じゃんじゃん食べていってねー!

殿
…………!

新宮城
……まぁ、津城の奴は始めっから最後まで餅をついてただけじゃがの。

新宮城
繊細な技術を要する団子作りは、
妾と備中高松城の手によるものじゃから、そこを忘れぬように!

津城
何だい新宮城。僕が楽をしてたっていうの?
餅つきってそれなりに重労働だとおもうんだけど。君もやってみるかい?

新宮城
良かろう! この程度、妾にはお茶の子さいさいじゃ!
自分のひ弱さを思い知るがいい!

津城
そんなことを言って君は、
またその兎たちに働かせるつもりなんだろう?

津城
はぁ、なんて可愛そうな兎たち。
自分の運命を呪って生きていくなんて。従者は主を選べないからね……。

新宮城
勝手なことを言うでない!
兎たちにはいつでも自由を許しておるぞ!

新宮城
餅つきも団子づくりも、
此奴らが勝手にやっていることじゃ!

新宮城
ったく、年増な上に生意気とは、まっこと残念の極みじゃの。
お主がもう少し幼かったら、もっと楽しく口喧嘩ができたのに……。

津城
僕がもう少し幼かったら、
君と言葉を交わす前にここから逃げ出してるよ!

備中高松城
……準備をしている時からこの調子なのです。

備中高松城
賑やかなのは大歓迎なのですが、
時たま、少々白熱しすぎてしまうことがあるのです……。

千狐
少々、ですか……。
宴が始まってから言い争うようなことがなければ良いのですが――

千狐
――コンッ!? こ、この気配は……!


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

兜軍団
ダンゴ……ダンゴ……。
  ダンゴ……ダンゴ……。
    ダンゴ……ダンゴ……。

千狐
兜ですっ! 殿、合戦の準備を……!

殿
…………!

新宮城
声を揃えて何か唱えているようじゃが……?

津城
そんなことより、今はこいつらを追っ払う方が先!

津城
殿、下知をお願いするよっ!

後半
津城

兜は、これで全部かい……?

備中高松城
そのようですね。
ですが、突然の襲撃だなんて……驚いてしまったのです。

やくも
……いったい目的は何なんだに……?

柳川城
目的と言えば先ほどの……、
兜たちの言葉が引っかかりますが……。

津城
ああ、確かにね。
ダンゴ、ダンゴ……って繰り返し言ってたようだけど。

千狐
ダンゴ……備中高松城さんたちが作ったお団子に、なにか……?

千狐
……っ! これは……!

やくも
どうしたんだに、千狐?

千狐
このお団子をよく見て、やくも。
……あなたなら感じ取れるでしょう?

やくも
よく見る……団子を……?

やくも
……だにっ!?

やくも
千狐……この団子、
近くで見てみると……。

千狐
そうなの。
備中高松城さんが作ったこのお団子には――

やくも
この団子……それぞれの大きさに全くバラつきがないがや!
おまけに形まで一緒だに!

やくも
これは……これは、とんでもない技術だに……!

千狐
…………。

千狐
…………やくも?

やくも
冗談、冗談だに!
張り詰めた空気をなごませようとしただけがや!

やくも
千狐が本気で怒りそうだから、真面目に答えると!

やくも
この団子には特別な力が宿っているように見えるがや!
さっきの兜さんたちは、それにおびき寄せられたかもしれないんだに!

備中高松城
お団子に、特別な力?
わたし、そんな覚えはまったく……。

千狐
やはり、意図せず生じたものだったのですね……。

備中高松城
わたしはただ……お友達の城娘さんから、お月見という催事を教えていただいたので、
得意のお団子作りで殿たちを喜ばせようと、思って……。

千狐
その願いです……。

備中高松城
え……?

千狐
その、『お月見を楽しんでほしい』という願いが、
一種の力となって……あのお団子に宿ったのです。

千狐
それが備中高松城さんの権能なのか、
願いの強さゆえなのかは、わかりませんが……。

柳川城
そして兜たちは、その力を求めて集まってきた……。

備中高松城
…………。

備中高松城
そんな……。

やくも
び、備中高松城は悪くないがや。
お月見を楽しくしよう、と願っただけだに。だから……。

殿
…………。

備中高松城
…………。

備中高松城
……すみません。少し、一人にさせてほしいのです。

備中高松城
このまま……ここにいたら、わたし……。

備中高松城
すみません……失礼するのですっ!

津城
備中高松城っ!!

柳川城
行ってしまいました……。

殿
…………。

新宮城
悲しいのう。
月見の準備に励む姿を見ていただけに、なおさら……。

津城
涙を見られたくなかったんだろうね。
きっと、あれ以上は堪えられなかったんだ……。

新宮城
…………。

新宮城
のう、津城よ。

津城
なんだい、新宮城。

新宮城
妾と主はどちらも、この御城に呼び寄せられ、
月見を成功させることを任じられた同志じゃ。

新宮城
いわば今の妾たちは、一時的にせよ……、
彼奴の従者のような立場にあるわけじゃ。そうじゃろ?

津城
従者か……うん、
そうだね。間違いない。

新宮城
ならば、この宴……失敗させるわけにはいかんな?

津城
勿論。
あの子を悲しませたまま終わるなんて、あっていいはずがないよ。

新宮城
然り。ならば妾たちに残された道は、
兜を倒し、なおかつ月見も成功させる……それ以外にないわけじゃ。

殿
…………。

新宮城
殿よ……すまぬが、力を貸してもらえぬか?
この戦を乗り切るには、おぬしの力が必要じゃ……。

殿
…………。

殿
…………!

新宮城
感謝するぞ……殿よ……!

津城
それじゃ、まずは守りを固めよう!
兜たちはまた攻めてくるだろうからね……。

願いは泡沫の月夜に -破-

単独行動をとる備中高松城の前に、新宮城が
姿を現す。果たして殿たちは、迫りくる危機から
幼い城娘を救うことができるのか……?

前半
備中高松城

ぐす……うぅ、ぐす……。

新宮城
大丈夫か……備中高松城よ……?

備中高松城
新宮城さん……。

新宮城
すまぬ……。
一人にしてくれと言われたが、どうしても心配でな。

備中高松城
…………。

備中高松城
新宮城さん、わたし……。

新宮城
わかっておる。
お主に悪気がなかったことなど、皆わかっておる。

新宮城
そして……おぬしが今、
深い悲しみに囚われていることも……よくわかる。

新宮城
じゃから今は泣いていいのじゃ、備中高松城。
妾の胸の中で好きなだけ、泣くといい……。

備中高松城
ありがとうなのです……少しだけ、胸を貸してほしいのです……。

備中高松城
うぅ……う……ふえぇ……。

新宮城
…………。

新宮城
……ぐふ。

津城
……鼻の下がのびてるよ。

新宮城
…………。

新宮城
水を差すでないわ。
せっかく良い雰囲気じゃったというのに……。

津城
このままだと、
取り返しのつかないことになる予感がしたからね。

備中高松城
新宮城さんも、津城さんも……、
心配してくれて、ありがとうなのです。

備中高松城
二人のお陰で、元気になれたのです。
だからもう……殿のところへもどらないと……。

新宮城
なんじゃ? もう良いのか?
……妾の胸は、まだまだ大歓迎状態じゃぞ?

備中高松城
いつまでも泣いてばかりはいられません。
またいつ、兜が攻めてくるかわからないのです……。

備中高松城
それに、この月見の宴は……そんな弱い自分を、
少しでも変えられたら……と、催したものなのです。

備中高松城
だから今は……前を向いて歩かなきゃ、と思うのです。

津城
もちろん、僕たちも力を貸すつもりだよ。
それじゃさっそくこれからの話を――

???
備中高松城~~!!

備中高松城
ん? 今の声は……?

やくも
こらぁ~~~! 新宮城、観念するだにぃ~!

新宮城
やくもと……後に続いて他の皆も……。

やくも
はぁ、はぁ……ほんとに、油断ならない奴だに……。

柳川城
無事で良かったです……備中高松城さん。

備中高松城
わ、わたしですか……?

千狐
兜の侵攻に備えて守りを固めよう、
と言った矢先に……新宮城さんが姿を消してしまったものですから……。

やくも
その時、びびび~っとうちの直感が働いたがや。

やくも
備中高松城の身に危険が迫っているのでは、
と察知して……ここにやってきたんだに……。

津城
大丈夫だよ、やくも。
事件が起こる前に、なんとか僕が食い止めたから。

新宮城
事件など起こるかぁっ!

新宮城
よってたかって失礼な奴らじゃ……。
妾には下心など全くなかったというのに。

新宮城
妾はただ、傷ついた備中高松城を慰め、
頼れるお姉さんという立場を揺るぎのないものにしようとしただけで……。

津城
(それこそが正しく下心だと思うんだけど……)

新宮城
そうでなくとも、仲間が一人心を傷めているこの状況!
幼さなど関係なく、支えてやりたいと思うのが情けというものじゃろう!

新宮城
……といってもまぁ、
疑われるのも仕方ないか……前科者じゃし、妾。

新宮城
それもこれも、
城娘として生まれた時から妾が背負う業によるもの……。

新宮城
わかっていても、幼き城娘を愛するこの気持ちは止められないのじゃ。
連れ去りまではするまい、と毎回すんでのところで堪えるのが精一杯……。

津城
(すんでのところなんだ……)

新宮城
嫌われ者じゃ……妾は生涯、
嫌われっぱなしなんじゃあ~……。

柳川城
こ、今度は新宮城さんが落ち込んでしまいました……。

津城
…………。

津城
心配いらないよ。
新宮城の思考は途轍もなく単純なんだから。

津城
ねぇ、備中高松城……。
新宮城に一言、声を掛けてあげてくれる? 何でも良いから。

備中高松城
え、何でも良いのですか……?
わたし、よく状況が掴めてないのですが……。

津城
大丈夫。『あー』でも『うー』でも、
備中高松城の言葉なら、新宮城は一瞬にして立ち直るはずだよ。

備中高松城
…………。

備中高松城
新宮城さん……。元気、出してほしいのです。
新宮城さんが傍にいてくれると、わたし……すごく心強いのです。

新宮城
心強い?
……妾、必要?

備中高松城
そうです、必要です。
さっきだってわたしのことを元気づけてくれました……とっても感謝してるのです!

新宮城
感謝?
……妾、居ないと困る?

備中高松城
困るのです! 月見の宴の準備だって、先ほどの兜との戦いだって、
新宮城さんが居なかったら乗り越えられなかったのです!

新宮城
…………。

新宮城
なんと……なんということじゃ。
求めていた幸せが、これ程近くにあったとは……。

新宮城
幼き城娘からの声援……これは、
これはもう、萎れている場合ではないな……!

新宮城
妾……妾、がんばる!
備中高松城を守るために、がんばる!

柳川城
一瞬にして立ち直りました……。

津城
ね♪ 大丈夫だったでしょ?

千狐
津城さん……新宮城さんと馬が合わないように見えて、
結構よく見ていらっしゃるのですね。

やくも
喧嘩するほど仲が良い、というやつだに!

殿
…………。

津城
からかわないでよ、もう……。

津城
まぁ、確かに新宮城のことは嫌いじゃないよ。
根はまっすぐな奴だもんね。

津城
ただ……まーっすぐ、
間違った方向に進んじゃってるのが問題なんだけど……。

新宮城
聞いたか津城!
今、備中高松城が妾を『掛け替えのない大切なお姉様』と!

津城
そこまでは言ってないと思うけど……。

新宮城
何を言う! 妾はこの耳で確かに聞いたのじゃぞ!
まぁ、仕方あるまい。記憶を都合良く書き換えてしまうというのは、
間々起こることじゃからな!

津城
……元気でもしょぼくれてても、
鬱陶しい奴だなぁ、もー……!

津城
ちょっと新宮城、有頂天になるのはいいけど、
僕たちの目的を忘れちゃだめだよ? 今にもこの御城に兜が――


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

兜軍団
ダンゴ……ダンゴ……。
  ダンゴ……ダンゴ……。
    ダンゴ……ダンゴ……。

津城
ほらほらっ! 言ってる傍から! 

殿
…………!

新宮城
幼き城娘の力を味方に付けた今の妾に、敵は居ない!

新宮城
先頭は妾に任せるが良い! 全員蹴散らしてくれるわ!

後半
兜軍団

ダンゴ……ダンゴ……。
  ダンゴ……ダンゴ……。
    ダンゴ……ダンゴ……。

津城
ま、まだ残ってるのか?
これじゃキリがないよ……。

新宮城
団子を目当てに、これ程の兜が集まるとは……!
満員御礼、大繁盛じゃな!

津城
お客さんならもう少し礼儀を弁えてほしいんだけど~!

柳川城
状況は良くありませんね……、
これだけの兜が軍を成して押し寄せてくると……。

柳川城
(ここは一度退いて、体勢を立て直すのも手ですが……)

柳川城
(殿はどのようにお考えなのでしょうか……)

備中高松城
どうしよう……どうしよう……。

備中高松城
このまま戦いを続けたらきっと、
皆が傷ついてしまうのです……。

備中高松城
…………。

備中高松城
敵の目的は、わたしたちが作ったお団子……。
それなら、皆を守るためにできることは……!

殿
…………。

願いは泡沫の月夜に -急-

兜の軍勢を前に、備中高松城は撤退を具申する。
守るべき物と、譲れぬ物。それらを天秤に掛けた
一行が、最後に下した決断は……?

前半
備中高松城

殿……。

備中高松城
具申させていただきたいのですが……。
ここは一度、退くべきだと思うのです。

殿
…………。

備中高松城
お団子なら、
兜たちにあげてしまっても構いません。

備中高松城
これ以上戦っては、
誰かが怪我をしてしまうのです。だから、その前に……!

やくも
何を言ってるがや!
備中高松城や、新宮城が一生懸命作った団子だに!

備中高松城
お団子ならまた作れば良いのです!
態勢を立て直して、改めて立ち向かえばいいのです……。

備中高松城
だから殿、ここはお団子を――!

津城
いくら備中高松城の頼みでも、それはのめないね……。

新宮城
じゃな……。

新宮城
妾は何も、
団子だけを守るために戦っているのではない。

新宮城
妾は何より……備中高松城、おぬしの願いを守りたいのじゃ。

備中高松城
わたしの……願い?

新宮城
皆の喜ぶ顔を想って期待を膨らませたり、
時には失敗を思って表情を曇らせたり……そんなおぬしの姿を、妾はずっと見てきた。

新宮城
あれは……妾たちにとってはただの団子ではない。
備中高松城の願い、それから今日まで積み重ねてきた努力、そのものなのじゃ。

新宮城
それを奴らに渡すなど、あってはならん……許すわけにはいかんのじゃ。

津城
僕も同じ気持ちだよ……。

津城
昔……君と知り合うより前に、
備中高松城という城娘の話を聞いたことがあった。

津城
雨と水を何より恐れ……空に雲が掛かった日には、
降りだすことに怯えて泣き出してしまう……そんな城娘だと聞いた。

津城
だが、実際に君と会ってみて、
その印象は大きく変わったんだ……。

津城
不安げにしていることもあったけど……、
この宴を成功させるため、君は日々懸命に努力してた。

津城
君はとても、先頭に立って催事を仕切るような子には見えない。
きっと何か……強い願いを抱いて、お月見の宴を開こうと決めたんだろう。

津城
そんな君を見て僕は……素敵だな、って思ったんだ。
少しでも力になりたい、そうも思った。

津城
だから僕も……ここは退けないよ。
君の願いを……お団子を守るために、戦う。

殿
…………。

殿
…………!

備中高松城
殿……。

柳川城
どうやら……考えていることは皆、同じのようですね。

柳川城
私も最後まで戦いますよ、備中高松城さん。
皆でお団子を守り抜いて、お月見を楽しみましょう。

千狐
僅かずつではありますが、
兜の勢いは確実に衰えてきています……あと少し、あと少しのはずです……!

備中高松城
皆さん、ありがとうなのです……。

備中高松城
この感謝は、戦の後……、
宴のおもてなしで代えさせていただきます!

備中高松城
さぁ、まいりましょう……月見の夜を笑顔で彩るために!

後半
備中高松城

やあああぁぁぁぁっっ!!


ギャアアアアァァァァ!!

備中高松城
これで……はぁ、はぁ……全部、ですか……。

千狐
…………。

千狐
はい……周辺にはもう、
兜の気配は感じ取れません。

千狐
我々は無事……、
この御城とお団子を守り抜いたのです!

備中高松城
……やった、やったのです!

津城
がんばったね、備中高松城……。

備中高松城
そんな……皆さんが力を貸してくださったからで……わたしなんか、全然……。

殿
…………。

備中高松城
殿も本当にありがとうなのです。
お陰でわたしの……大切な願いを奪われずに済んだのです……!

殿
…………!

新宮城
喜ぶのも良いが、津城、備中高松城。
もう月は、随分高いところまで登ってきているようじゃぞ。

津城
そうだね、勝利の祝いは後回し!
備中高松城、月見の準備を始めるよ!

やくも
う、う、うぅ……。

やくも
ぅ宴だにぃ~~~!

――――。

やくも
もぐ、もぐもぐ……。

やくも
それにしてもこの団子……もぐもぐ、
ほんっとに美味いだに……。

やくも
お月見と関係なく、毎日食べたいくらいがや……。

殿
…………!

千狐
そうですね……。
こうして月を眺めながら食べると、より一層美味しく感じられます。

千狐
お腹は膨れてきましたが、
あと一つ、もう一つと手が伸びて――

千狐
――ん?

千狐
今何か……視線のような……。

柳川城
千狐さん? どうかされましたか?

やくも
まだ、どっかに兜さんが残ってるだに?

千狐
いえ、兜ではないみたい。
邪な気配ではなかったのだけど……確かに、今……。

殿
…………。

千狐
……いえ、きっと気のせいですね。

千狐
すみません殿、変なことを言ってしまって……。

やくも
まったく千狐は心配性が過ぎるだに。
ほらほら、団子を食って何もかも忘れるといいがや!

千狐
もがっ!? やめへっ……!
こんなに沢山、千狐の口には入らないの~……!

――――

備中高松城
皆、楽しんでくれているみたいなのです。

津城
だね。一時はどうなることかと思ったけど……上手くいって良かったよ。

新宮城
月は綺麗じゃし団子は美味い……最高の夜になったのう。

備中高松城
はい……本当に、
最高の夜に……。ぐす、うぅ……。

津城
どうしたの、備中高松城……?
どこか痛い所でもあるの?

新宮城
まさか、先の戦で傷でも負っていたか!?

備中高松城
いえ、違います。全然、平気なのです……。
ただ、わたし……知らなくて……。

備中高松城
嬉しい時にも、涙は出るものなのですね……。

備中高松城
悲しかったり、怖かったり……、
今まで何度も涙を流してきたけど……。

備中高松城
……こんなに温かい涙は初めてなのです。

備中高松城
きっとわたしは……、
今夜のことをずっと忘れないでいるのです。

津城
そうだね……同感だよ。
自分の働きで誰かを笑顔にできるというのは、嬉しいものだ。

備中高松城
……でも、嬉しいことは月見の宴だけではないのですよ?
もう一つ、私にとって嬉しい出来事があったのです♪

新宮城
嬉しい出来事が、もう一つ?

備中高松城
それは、津城さんと新宮城さん……、
お二人との出会いなのです!

備中高松城
この宴の準備を通して……とってもとっても大切で、
大好きなお友達が二人もできたのです♪

津城
…………。

津城
まったく……嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
なぁ、新宮城?

新宮城
…………。

新宮城
おい、聞いたか……津城よ。

津城
聞いてたよ。
備中高松城が今――

新宮城
備中高松城が今……妾のことを『愛している』と……!

津城
待て新宮城、そこまでは言ってない。

新宮城
そうか……今、
妾の心を満たす、熱い何か……!

新宮城
これが、これこそが……。
妾の求めていた真理……!

津城
はぁ……浅い真理もあったもんだ……。

空に煌々と輝く丸い月と、願いの詰まったお団子の山。
それらを肴に過ごす時間を、一行は多いに満喫した。

夜が更けても、その場を離れるものはなく……、
結局皆、月の光に晒されながら眠りに落ちていったのだった――。

願いは泡沫の月夜に -絶壱-

月見の宴から遡ること、数週間。雨雲を前に
不安を膨らませる備中高松城の許に、黒よりも
暗き翼を背負いし、漆黒の城娘が降り立つ……。

前半
月見の宴が催される、数週間前――。

備中高松城
うぅ……向こうの空に雲がかかっているのです……。

備中高松城
この季節は嵐が多くて嫌いなのです……!

備中高松城
なんて……こんなことを言っていても仕方ないのですけど……。

備中高松城
でもでも、もし嵐が来て、土砂降りになって、
御城が沈んだりなんかしたら……!

備中高松城
うぅ……想像するだけで震えが止まらないのです……。

――――

烏城
参ったわ……この天気、
今夜は一雨来るかもしれないわね。

烏城
となると、野宿は無理よね。
汚れた服で伺うなんてことは、絶対にあってはならないわ……。

烏城
やっとのことで、
大坂城ちゃんのライブのチケットを手に入れたんだから……!

烏城
でも、雨風をしのげる場所かぁ……そう簡単に見つかるかしら――

烏城
――って、あら?

烏城
あそこに見えるのは御城じゃない! しかも城娘まで居るわ!

烏城
ついてるわね、私!
泊めてもらえないか、交渉してみましょ!

――――

備中高松城
あの空……!
さっきよりも雲が近づいてきてる気がするのです、うぅ……。

烏城
そこの迷える子羊よ!

備中高松城
……え?

烏城
運命に導かれ、出会った二人……そして混沌渦巻く空模様……。

烏城
私の道は……今、
巨大な扉によって閉ざされようとしている。

備中高松城
と、扉……?

烏城
もしこのまま歩を進め……、
降り注ぐ雫の餌食となれば、私の旅は終焉を迎えることだろう。

烏城
私は今……朋友の助力を欲している。
再び陽が世を照らすまでの間でいい……私を匿ってはくれないだろうか?

烏城
この漆黒に染まった暗き翼に、今一度……再起の機会を!

備中高松城
…………。

備中高松城
えと……要するに、どういうことなのです?

烏城
要するに? えーと、そうね……。

烏城
一晩だけでいいから、休ませてほしいなぁーって感じかな?

備中高松城
…………。

備中高松城
(変な城娘さんが現れたのです……)

――――

備中高松城
うぅ……また雨雲が近づいて来たような気がするのです……。

烏城
…………。

備中高松城
このまま向かってきたら、この御城まで――きゃっ!
光りました……今、雲の中で雷が光ったのですぅ……!

烏城
えーと、その……。

備中高松城
雨雲じゃなくて雷雲だったのです!
ふえぇ……怖いのです、恐ろしいのですぅ……!

烏城
その……あのさ、備中高松城ちゃん?

烏城
ここまでがっしりしがみつかれると、
ちょっぴり居心地が悪いんだけど……。

備中高松城
ごめんなさいなのです……でも、
もうすぐここに嵐がやってくると思うと、不安で……。

烏城
(あぁ、そっか……備中高松城ちゃんって、確か……)

烏城
雨が降るのが……怖いのね?

備中高松城
はい……雨が降っただけで沈むはずがない、と理解はしているのですが……。
どうしても、昔のことを思い出してしまって……。

烏城
…………。

烏城
元気だして――っていうのは難しいかもしれないけど、
考え込んだって不安が深まるばかりよ?

備中高松城
そうでしょうか……。

烏城
そうよ。
雲の先行きなんて、私らの知ったことじゃないわ。

烏城
もうちょっと、素敵なことを考えてみてもいいんじゃない?
貴方の好きなこととか、得意なこととか!

備中高松城
得意なこと……。

備中高松城
胸を張れるものと言えば、殿への忠義……。
それと、そのために鍛えた刀の腕くらいでしょうか……。

烏城
悪くないわね♪ 他に……そうね、趣味とかはないの?
例えば、時間ができた時に励んでることとか。

備中高松城
趣味、ですか。何もすることがなくて、空が晴れていれば……、
お団子を作って食べたりとか、してるのです……。

備中高松城
吉備団子が故郷の名産だったことから、以前より慣れ親しんでいて……。

烏城
お団子作り、いいじゃない♪
この季節にはぴったりよ! お月見には欠かせない料理だもんね!

備中高松城
お月見……? それはいったい何なのですか?

烏城
この季節を盛り上げる、最高の催事よ!
綺麗な月を見上げながら、皆で一緒に過ごすの♪

烏城
私の御城なんか、月を見るために建てられた櫓まであるほどよ。
月見櫓って呼ばれてるの!

備中高松城
月見櫓……そういえば、讃岐の高松城ちゃんのところにも、
そんな櫓があると聞いたことがあるのです……。

烏城
で、お月見のお供としてよく知られるのが月見団子。
これなくしてお月見は成り立たないの。

備中高松城
月見団子……わたしのお団子作りが、お月見の役に立つのです……?

備中高松城
それで……それでっ!
お月見では他に、どんなことをするのです?

烏城
他には……そうね、例えば――

後半
烏城

――みたいな感じかな。
どう? 素敵でしょ?

備中高松城
はいっ! とっても素敵なのです♪

備中高松城
お月見……私の作ったお団子で、誰かを笑顔にできたら……。

烏城
いいじゃない。この御城に城娘を招待して、月見の宴を開いたら……、
きっと、皆楽しんでくれると思うわよ♪

備中高松城
宴……わたしが先頭に立って、ですか……?

烏城
もちろん♪

備中高松城
わたしにできるでしょうか……。
不安なのです……でも、挑戦してみたい気持ちも……。

烏城
こういうのは思い切りが大事よ。
いっそのこと、殿を招待してもてなすっていうのはどうかしら?

備中高松城
と、殿を……? もちろん、殿を喜ばせられたら……、
わたしにとってはこれ以上ないことなのですが……。

備中高松城
ですが、良いのでしょうか。
殿ほどのお方にそんな、不躾な……。

烏城
不躾だなんて、招待状はいつだって突然届くものよ。
都合が悪かったら断られるだけだし、聞くだけ聞いてみましょ? ね?

備中高松城
…………。

備中高松城
わ、わかったのです。
緊張するけど、お手紙を送ってみるのです……。

烏城
それから、宴を催すとなれば……そうだ!

烏城
ついでに私の知り合いにも声を掛けておきましょうか♪
借りられる手は多い方がいいでしょ?

備中高松城
烏城さんのお知り合いですか?

烏城
ええ。こう見えても私、結構名の知れた存在なのよ?

烏城
私はちょっと、忙しくて動けないけど……。
知り合いに声を掛けるくらいなら、どってことないわ♪

備中高松城
そうだったのですね。
そんな凄い城娘さんだったなんて……。

備中高松城
最初にお会いした時は……なんというか、
とんでもない方が現れた、と不安だったのですが……。

烏城
うぐ……か、感覚は人それぞれだからね。
あの格好良さを理解できないのも無理はないわ……。

烏城
じゃなくて、手伝いに城娘を呼ぶって話だったわね……。

烏城
私の知り合いで乗ってくれそうな子といえば、
んー、二人……いや、一人かしら。あの子を貴方に会わせるのはちょっとね……。

備中高松城
その方は、お月見があまり好きではないのです……?

烏城
いや、月見には結構乗り気だったはず……というか、
備中高松城ちゃんが相手なら、理由を問わず全力で力を貸してくれるはず……。

烏城
なんだけど、一つ大きな問題を抱えているというか……。

備中高松城
よくわかりませんが……お手伝いいただけるなら、
ぜひともお願いしていただきたいのです。

備中高松城
正直なところ……お月見を成功させられるかどうか、すごく不安なのです。
ですから今は、一人でも多くの助けが欲しいのです……。

烏城
……んー。

烏城
(まぁ、津城が一緒なら変なことにはならないか。
 二人だけで準備ってのも辛いだろうし……)

烏城
わかった、声を掛けてみるわ。津城と新宮城に……、
この御城で催す月見の宴を手伝えないか、ってね。

烏城
ただ、心に留めておいて? 新宮城とは二人きりにならないこと、
それから彼女の手の届く距離には決して身を置かないこと……できるわね?

備中高松城
わ、わかったのです……?

烏城
とにかく、宴の準備は問題なく始められそうね♪

備中高松城
ありがとうございます。本当に、至れり尽くせりで……。

烏城
なんのなんの。
宿を貸してくれたお礼よ♪ 成功を祈ってるからね!

備中高松城
はい……私なりに頑張ってみるのです……。

備中高松城
それから……これをきっかけに、
意気地のない自分から少しでも変わってみせるのです……!

願いは泡沫の月夜に -離-

月見の宴の最中、眠りに落ちてしまった殿たち。
目を覚ました彼らの前に広がっていたのは、生まれ
育った国、日の本とは全く異なる世界だった……。

前半
――備中高松城の御城。

深い時間に差し掛かり、ようやく月見の宴も終わりを迎えようとしていた――

やくも
はぁ~、食った食った……今日は大満足だに……。

千狐
千狐もお腹いっぱい……もう一歩も動けないわ。それにもう……眠く、なってきて……。

やくも
みんなその辺で眠ってるし、誰も文句言ったりはしないだに……。

千狐
そうね。お行儀は良くないけど、今日はもう……。

千狐
すー……すー……。

やくも
ふあぁ……うちもそろそろ……限界だに……ぃ……。

やくも
ぐぅ……ぐぅ……。

――――

月の都
…………。

月の都
皆様、眠ってしまわれたようですね……。

月の都
日の本の平穏のために戦う、城娘たち。
そして彼女らを先導する主様……。

月の都
きっと……この者たちなら、私の世界を……。

月の都
礼を失した申し入れとなってしまいますが……、
もはや、他に手はありません。

月の都
お願いします……。
どうか、皆様の力をお貸しください……!

――――

やくも
ぐぅ……ぐぅ……。

やくも
んぐ、千狐……もう食えん。
うちはもう食えんだに、もう――

やくも
――はっ!?

やくも
……でっかい団子に乗っかった、
千狐に追われる夢を見ただに……。

やくも
うぅ……月見を楽しんでるうちに、
外で眠ってしまったみたいがや……って、あれ?

やくも
ん……んんん?

やくも
…………これは。

やくも
殿さん、殿さん殿さん!
はよぉ目ぇ覚ますだに! とんでもないことになってるだに!

殿
…………?

千狐
騒がしいわね、やくも……朝まで寝かせてよ……。

やくも
千狐も起きるだにー!!

千狐
コンッ!? 何をするのー!?

千狐
寝起きに尻尾を引っ掴むなんて、何を考えてるの!?
いくらやくもが相手でも、今日という今日は許さないのー!

柳川城
んぅ……千狐さん? どうかされたのですか……?

月の都
くす……今の声で皆様、目を覚まされたようですね。

月の都
ありがとうございます。
お陰で起こす手間が省けました。

殿
…………。

津城
ここは……あれ?
備中高松城の御城ではないようだけど……?

新宮城
それに、見知らぬ年増城娘の姿があるな……?

備中高松城
新宮城さん、出会い頭に失礼が過ぎるのです……。

月の都
……まずは、空を見上げてみてください。

月の都
上空の遥か遠くに浮かぶ、あの青い天体。
あちらが、先ほどまで皆様が宴を楽しんでいた場所となります。

月の都
そして今、皆様が踏みしめているこの大地は、月。
毎夜、皆様を頭上から照らしている、あの月です。

殿
…………!?

やくも
あ、あの青ーいまん丸の上に、日の本があるんだに?

千狐
その上ここが、月だなんて……。
にわかには信じがたいですが……それで、貴方は?

月の都
申し遅れました。私の名前は月の都。
とある物語を望み、愛する者たちの願いによって生まれた城娘です。

月の都
失礼であることを承知の上で……身勝手ながら、
皆様を此地へとお連れしました。

柳川城
…………。

柳川城
ちょ、ちょっと待ってください。
理解が追いつかないのですが……。

殿
…………。

備中高松城
すごいです……! 月にこのような都があって、
その上、城娘さんまでいらっしゃるなんて……!

備中高松城
まるで、物語の中のようなのです……!

月の都
鋭い見立てですね、可愛い城娘さん。
……貴方の言う通り、ここは正に物語の中と言ってもよい場所なのです。

備中高松城
か、可愛い城娘さんだなんて……そんなことないのです……!

新宮城
……いったい、どういうことなのじゃ?

津城
うん、混乱が深まるばかりだよ。物語の中だなんて……。

新宮城
そっちはどうでも良い! 妾が聞きたいのは、
どうして備中高松城があのような、嬉しげな表情を浮かべているのか、ということじゃ!

新宮城
妾はこれまでに幾度となく、
千や万の言葉を用いて備中高松城を讃えてきたというのに――!

津城
はいはい、話の腰を折らないの。
君のそれはもうお腹いっぱいだから。

津城
……で、この世界に関することだけど。
説明の続きをしてくれるかな、月の都さん?

月の都
承知しました……。

月の都
時に、皆様は竹取物語というお話をご存知ですか?

千狐
竹取物語と言いますと……。
日の本で語り継がれているあの、竹取物語のことでしょうか。

やくも
竹の中から女の子が出てくる話だに!

月の都
はい。皆様が良く知る、あの物語のことです。

月の都
竹取物語はこれまで、多くの人に読まれ、語り継がれていきました。
……そうして長い時を経た結果人々は、共通の願いを持つに至ったのです。

津城
共通の、願い……。

月の都
月に都があるとしたら、どんな場所なのだろう。
一度でいいから行ってみたい、目にしてみたい……そのような願いです。

月の都
人によっては、その都における暮らしや……住まう人々にまで思いを馳せます。
そして、自身の願いも織り交ぜながら、物語は更に語り継がれていく……。

月の都
そうして集まり、高まった願いがこの街と、
私という城娘を形作ったのです。

柳川城
……ではここは、人々の願いによって生まれた世界であって、
実際の月ではない、ということですか?

月の都
……そうであるとも、そうでないとも言えます。

月の都
仮にこの世界が虚構に過ぎなかったとしても、
皆様の誰もがここを現実のように感じているとしたら、
虚構との境を知ることは不可能となりますから……。

千狐
確かに……この場合、
現実か否かを断ずることに、あまり意味はないのかもしれません。

殿
…………。

月の都
……今、肝要となるのは、
私が皆様をここにお連れした理由、ですよね。

月の都
…………。

月の都
まずは謝らせてください。
皆様に、多大なご苦労を求めてしまうことを……。

千狐
……? それは、どういう――

千狐
――コンッ!? この気配は……!


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

やくも
か、兜さんだにっ!?

備中高松城
それも、かなりの数なのです……!

新宮城
まったく……どこにでも現れるのじゃな、此奴らは……!

月の都
先陣は私が切ります……ですから皆様、
彼奴らの討伐のため、力をお貸しください……!

殿
…………!

柳川城
承知しました、殿!

柳川城
皆さん、兜との衝突まで猶予がありません!
すぐに戦の用意を!

後半
月の都

何という力なのでしょう……。
やはり私の見立てに、間違いはなかった……。

千狐
それで、月の都さん……どうして此地に兜が……?

月の都
理由はわかりません。初めて姿を現したのは、随分昔のことですが、
それを皮切りに、徐々に頻度と勢力を増しているのです……。

月の都
わかっていることは、ただ一つ……。
この世界を滅ぼそうとする負の力である、ということです。

月の都
皆様が『兜』と呼称するあの存在を、
これまで私は……『物語を望まない者』と呼んでおりました。

柳川城
物語を望まない者……。

月の都
この世界を作り、存続する力が人々の『願い』であることと同様に、
この世界の存在を許さない『願い』も存在するのです。

月の都
物語を読んだ者が抱く思いは千差万別……。
私の物語を好まざる者の思いを、否定することはできません。
ですが……。

月の都
願いによって成立する、不確かなこの世界では……、
彼らが抱いた負の感情も例外なく形を成します。

月の都
それがあの、兜……理性なき侵略者として、
この世界に顕現した。私はそう解釈しております。

月の都
この危機に際して私は……、
日の本の皆様の力をお借りしようと考えました。

月の都
幸いなことに今は、日の本では観月が盛んに行われる時節。
一時的にではありますが、私と皆様の世界の結びつきが強固になっているのです。

月の都
それを利用することで、この度私は……、
皆様をこの世界へとお連れすることに成功したのです。

殿
…………。

月の都
身勝手ながら……、
今の私には皆様の力に縋るしか、手立てはありません。

月の都
ですからどうか……此地を守るため、
共に戦ってはいただけないでしょうか……。

月の都
私にできるお礼なら……どんなことでもいたします。
何卒……何卒、皆様のお力を……!

殿
…………。

柳川城
先ほど相対した限りでは……私の知る兜と、
何も変わりはありませんでしたが……。

千狐
千狐もそのように感じました。
……ですが、この世界において、千狐たちの知る摂理が通じるとは限りません。

千狐
月の都さんの解釈が正しい可能性も、十分にあり得るかと……。

新宮城
まぁ、この世界の解釈と同様に……、
此地における兜の正体が何であるかは、
あまり重要ではないように感じられるがのう。

津城
そうだね……。
危機をもたらす存在であることには、変わりはないよ。

備中高松城
はい……兜が出現した理由がどんなものだろうと、
見過ごすわけにはいかないのです。

殿
…………。

殿
…………!

千狐
そうですね……ここがどんな世界であろうと、兜は兜。

千狐
ここは皆の力を合わせて兜を討ち滅ぼし、
この世界に平穏を取り戻すことを目指しましょう!

やくも
だに! 殿さんならきっとそう言うと思ってただに!

月の都
ありがとうございます……皆様。
本当に、ありがとうございます……!

願いは泡沫の月夜に -結-

軍を成して襲いかかってくる兜たち。
月の都、そして月の世界を守り抜くため、
城娘たちを連れて、いざ出陣せよ!

前半
月の都

それでは皆様、
兜の次なる侵攻が始まるまでに、準備を――

月の都
――ぅぐっ!!?

柳川城
月の都さんっ!?

備中高松城
大丈夫ですかっ?
わたしに掴まってください……!

月の都
ありがとうございます、可愛らしい城娘さん。
お名前は確か、備中高松城さんと言いましたか……。

備中高松城
あ、いえ……大したことではないのです……。
それで、お体の方は……?

月の都
どうやら、兜が力を強めていることが影響しているようです……。

月の都
そして、それと並行して、
私の力が失われていっている……。

津城
それじゃこのままだと、月の都さんは……!

月の都
問題はありません。
始めからわかっていたことですから……。

月の都
千狐さん、兜たちの気配を感じ取れますか……?

千狐
はい……街の周囲の、そこかしこから……!
先ほどとは比べ物になりません……数も、その力も……!

月の都
敵軍は短期決戦を挑むつもりのようです。
皆様が現れたことに、慌てているのかもしれません……。

月の都
……となれば、
私も休んでいるわけにはまいりませんね……!

月の都
では、主様……ご下知をお願いいたします。

殿
…………!

月の都
この世界の輝きは私が守ります……何に代えても!

後半
月の都

これで、兜は全て……討ち果たせましたか……?

千狐
はい……もう兜の気配は感じ取れません。
此度の戦で、全滅した模様です。

千狐
やりましたね、月の都さん……!
これでこの世界も月の都さんも、兜の侵攻に怯えずに済みます!

月の都
…………。

月の都
良かった……ありがとうございます。
これでこの世界もまた、しばらくは……。

津城
ふぅ、良かった。
何とか乗り切ったみたいだよ、新宮城……。

新宮城
…………。

津城
聞いてるのかい新宮城?
どうせ君のことだから、また備中高松城に邪な思いを――

新宮城
ぐー……ぐー……。

津城
ちょっと新宮城、何を急に眠りこけてるのさ?
ついさっきまで兜と交戦してたっていうのに、どうして……。

津城
……って、あれ。僕もなんだか、急に眠くなって、きて……。

津城
すぅ……すぅ……。

殿
…………。

柳川城
私も、急に眠気が……。
これはどういうことなのでしょう?

月の都
どうやら……皆様の世界ではもう、
朝が近づいてきているようですね……。

月の都
朝日に導かれ、
皆様の意識が覚醒へと近づいているのです。

月の都
……残念です。
時間があれば、お礼をしたかったところなのですが……。

やくも
お礼……宴だに? もしかして、宴のことだに……?

月の都
はい。皆様は私の恩人ですから。もし次の機会があれば、
時間の許す限りおもてなしをさせていただきますよ。

やくも
約束、だに……次来た時には必ず、ごちそうをたんまりと……。

やくも
ぐぅ……ぐぅ……。

千狐
もう、やくもはいつも……そればっかり――

千狐
すぅ……すぅ……。

柳川城
く、私ももう立っていることが……きゃっ……!

殿
…………。

柳川城
と、殿……申し訳ありません……。

柳川城
(あ……つい流れで、殿の胸の中に……!)

柳川城
(これは思わぬ幸運……!
 あぁ、お願い……あともう少しだけ、意識を――)

柳川城
すー、すー……。

殿
…………。

月の都
日の本の主様……貴方にも感謝いたします。

殿
…………!

月の都
ええ。きっとまた、いずれ……何処かで――

――――

備中高松城
…………。

備中高松城
みんな、眠ってしまったのです……。

月の都
くす、夜更しさんが一人だけ残っていたようですね?

備中高松城
あれ……わたしだけ、どうして……?

月の都
さぁ、なぜでしょうね……ですが、心配は要りません。
時が来れば貴方も、元の世界に帰ることができるでしょう。

備中高松城
それじゃ……わたしも、
ここに居られる時間はあと少しだけなのですね……。

備中高松城
残念なのです。
もっとこの世界で……月の都さんとお喋りしたかったのです。

月の都
そうですか……私との別れを惜しんでくれるとは……。

月の都
では、特別に……貴方にこれを。

備中高松城
これは、石……宝石、でしょうか?
わぁ……とっても綺麗なのです。

月の都
受け取ってください。私からの贈り物です♪

備中高松城
よ、よろしいのでしょうか。
お礼なら、わたしじゃなく殿の方が相応しいかと……。

備中高松城
それに……この世界の物を、
わたしたちの世界に持って帰ることなど、可能なのですか?

月の都
可能ですよ。
……貴方がたがこの世界を信じる限り、という但し書きがつきますが。

月の都
私たちのこの世界は不確かであるとお話ししましたが、
それは、皆様の世界も変わりはないのです。

月の都
不確かで……そして、大いなる可能性を秘めている。

月の都
日の本においても、願いの力は作用します。
実現できない願いなど、此の世にはないのです。

備中高松城
どんな願いも……?

月の都
ええ。本当は、誰もがその力を持っているのですよ。
皆、忘れかけてしまっているだけでね。

月の都
備中高松城さん。
あなたは願う力が持つ可能性を、よくご存知のはずです。

備中高松城
わたしが……ですか?

月の都
ええ。あのお団子は、貴方が作ったものなのでしょう?

備中高松城
お団子……はい、そうなのです。

月の都
実を言いますと、私を導き……皆様を引き合わせたのは、
貴方が作ったお団子に込められた、願いだったのです。

月の都
そして、私は……お団子を通して、貴方の心の一端に触れることができました。
その時に感じられた心地良さを、今でもはっきりと覚えています。

月の都
ですから、先ほどの貴方の……『どうしてわたしに石を?』
という貴方の問への答えは簡単です。

月の都
備中高松城さん、
私が貴方のことを好きになってしまったから……ただそれだけのことなのです。

備中高松城
なっ……!

備中高松城
か、からかわないでほしいのですぅ……。

月の都
ふふっ。可愛いお顔が真っ赤に染まってしまいましたね。

月の都
ですが、今日はこれまで。
……貴方とも、お別れする時が来てしまいました。

備中高松城
はい……わたしももう眠くて、我慢できそうにないのです……。

月の都
幼き無垢なる城娘よ……貴方との出会いに、感謝を。
……わたしは此地で、貴方と再会することを願い続けましょう。

備中高松城
わたしもなのです……わたしもまた、月の都さんと……!

備中高松城
月の都さんと、また会えることを――!

――――

――――

備中高松城
ん……んぅ……。

津城
お……備中高松城が目覚めたみたいだよ。

新宮城
真面目なおぬしが一番の寝坊とは珍しいのう。
疲れが残っておるなら、もう一眠りするか? 今なら妾の腕枕つきじゃぞ?

備中高松城
いえ、大丈夫なのです……。

備中高松城
皆さん……先に目覚められていたのですか……?

千狐
はい。といっても、つい先ほどのことですが……。

新宮城
皆……月の世界での出来事は覚えておるな?
妾だけが見ていた夢、というわけではない……よな?

やくも
だに。次は宴を開いてもてなしてもらう……、
そう約束したことまで、ちゃーんと覚えてるがや。

千狐
ええ……そこは千狐もはっきり覚えてるわ……。

津城
にしても……さっきまで月の世界にいたはずなのに、
今はこうして、備中高松城の御城にいるだなんて……。

柳川城
不思議な感覚です……。
現実のようにも、夢だったようにも感じられます……。

津城
けど……時間が経ったら忘れ去られちゃいそうな、
そんな気もしてくるね……。

殿
…………。

備中高松城
…………。

備中高松城
……ん、これは……?

津城
さて、そろそろ動き始めないとね。
昨晩は宴の最中に眠ってしまったことだし、まずは片付けを――

備中高松城
待ってほしいのです! 皆さん、これを見てくださいっ!

津城
ん……? それは、石……かな?

やくも
透き通ってて、きらきら輝いてるだに……。
こんな石、見たことないがや!

備中高松城
これは……月の都さんからいただいたのです。

新宮城
月の都から? では、その石は……、
あの世界から持ち帰ったもの、ということかの?

備中高松城
その通りなのです! ですがこれは……不確かで、
いつ無くなってもおかしくない物なのです。

備中高松城
だから……皆さんもどうか、
昨晩の出来事をずっと……心に留めておいてほしいのです。

備中高松城
あの世界も日の本も……きっと、大きな違いはありません。

備中高松城
不確かだからこそ、可能性は広がるのです!
願うことを止めなければ、消えてなくなったりはしないのです!

備中高松城
だからわたしは、月の都さんにまた会うことを願い続けるのです!

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
そうですね……。確かに、
あんな素敵な体験を忘れてしまうなんて、あまりに勿体ないです。

やくも
だに。うちも再会を願うがや!
そしていつか、月の都で盛大な宴を……!

千狐
やくものそれは願いというか、執念に近いわね……。

新宮城
妾も備中高松城の意見に賛成じゃ。
不思議がある世界と無い世界じゃったら、ある世界の方が楽しいに決まっておるしの♪

新宮城
それに、あの世界にも、
妾の心をくすぐるような幼き城娘がおるかもしれん!

津城
それなら僕も同行しないといけないね。
月の世界を侵略者から守るために……。

新宮城
誰が侵略者じゃー!?

いつか来る月の都との再会に想像を膨らませながら、
一同は各々の思いを口にする。

その光景をずっと守っていけたら……。
備中高松城は手の中で輝く石を見つめながら、そう強く願うのだった――

願いは泡沫の月夜に -絶弐-

月見の宴から数日後の夜。床についた備中高松城
は、再び月の世界に降り立った。月の都の案内で
観光を楽しむ彼女だが、そこに問題が……。

前半
備中高松城

むにゃむにゃ……。

備中高松城
……っくしゅん。

備中高松城
んゅ……?

備中高松城
あれ、わたし……自分の部屋で寝てたはずですが……?

月の都
おはようございます、備中高松城さん♪

備中高松城
つ、月の都さん?
ということは、ここは……?

月の都
そうですよ……ここは月の世界。
眠った拍子に転がり込んできてしまったみたいですね♪

備中高松城
ほ、ほんとですか?
まさか、こんなに早く再会できるなんて……!

月の都
それほど貴方が、この世界を強く思っていたという証拠ですよ。
ありがとうございます♪

備中高松城
わたしはてっきり、
もっと困難な道のりなのかと……。

備中高松城
わたしの他にも、
こちらの世界へやってくる方はいるのです?

月の都
ええ。数は多くはありませんが、たまに――

???
ぃやっっっほーーーう!!

月の都
ふふ……あのように。
強い願いによってこちらへ渡ってくる方も、いらっしゃいます。

備中高松城
え……?

やくも
うおぉぉぉ!
食って食って食いまくるがやぁぁぁぁぁ!!

やくも
千狐が居なければ、
うちに敵はおらんだにぃぃぃ!!

備中高松城
や、やくもさん……。

月の都
どうやら、この世界を随分お気に召していただけたようで。
最近は毎晩こちらへいらしているんです。

備中高松城
毎晩? 毎晩あの調子で、
街の中を走り回っているのですか?

備中高松城
その、ちょっと言いづらいのですが……。
ご迷惑では、ないのです?

月の都
迷惑だなんて、滅相もありません。
この世界を愛する方は、何度でも厚くもてなしますよ。

月の都
素敵な思い出を持ち帰っていただくこと。
……私にできることはそれくらいですからね。

備中高松城
…………。

備中高松城
(なんだか今、月の都さんの表情がどこか悲しげに見えたような……?)

月の都
……さて。では早速、こちらの世界をご案内いたしましょうか。
前回は観光する余裕もありませんでしたから。

備中高松城
はいっ! お願いしたいのです!

備中高松城
わたし、あの日からずっとずっと、
この世界のことばかり考えてきたのです!

月の都
くす……では私も、そのご期待に応えなければなりませんね。

月の都
さぁ、付いてきてください。
この世界を存分に満喫していってもらいましょう。

備中高松城
はいっ!

後半
月の都

いかがです?満足していただけましたか?

備中高松城
すごいのです! どこもかしこも、
日の本では考えられないような驚きと発見でいっぱいなのです♪

月の都
喜んでいただけているようで嬉しいです。
まだまだ時間はありますから、楽しんでいってくださいね♪

月の都
……さてと、次はどこに向かいましょうか――きゃっ!

備中高松城
月の都さんっ!? 大丈夫なのです? 

月の都
――すみません。急に足元がふらついて……。

備中高松城
もしかして、
またこの世界に兜が現れたのでは……?

月の都
いえ、彼らの力はもう、消え失せました。
これは誰の悪意によるものでもなく……、
物語に与えられた、定めが影響しているのです。

備中高松城
物語に与えられた定め、ですか……?

月の都
それは、どんな物語もいつしか……、
人々の記憶から消え去ってしまう、ということです。

備中高松城
…………!

月の都
時代が変われば、求められる物語も変わる。
……月の世界などよりも、ずっと胸を踊らせるような空想を、
誰かが生み出す……。

月の都
そしていずれは、私を望む者も、
望まない者も居なくなって……忘れ去られ……。

備中高松城
月の都さんも、消えてしまう……?

月の都
はい、その通りです……。

月の都
この定めは……顕現した時から理解はしておりました。

月の都
最期の時に悔いぬよう、日々を楽しみ、この生を全うしよう。
……そう考えていた、つもりでした。

月の都
ですが、難しいものです。いざ、終わりが近づくのを感じると……、
心に波が立つのを、抑えることができない。

月の都
仕方のないこと、と思っているのですが……恐ろしく、悲しいのです。

月の都
どの世界にも、自分のことを覚えている者が一人も居ない。
そんな未来を考えるだけで、私は……!

備中高松城
月の都さん……。

月の都
……すみません。
少々、取り乱してしまいました。

月の都
観光の続きに戻りましょうか。
さぁ、どうぞこちらへ。

備中高松城
…………。

備中高松城
ま、待ってほしいのです……。

月の都
…………?

備中高松城
その定め……わたしが変えてみせるのです。
月の都さんが忘れられないように、お手伝いをするのです……。

月の都
貴方が、私を……、
忘却の彼方から救ってくださる、と?

備中高松城
できるかはわかりません。
でも……そうなったら良いな、と思っているのです。

備中高松城
わたしは月の都さんとの出会いを、大切にしたいのです。
少しでも長く続いてほしい……そう思うのです。

月の都
…………。

備中高松城
月の都さんが語られ始めた……、
遥か遠くの過去においても、空に月は浮かんでいたのです。

備中高松城
だったら……百年後、千年後の世でも、
同じように月は夜空を照らしているのではないでしょうか。

備中高松城
そしてその時代の人々も、時折……。
美しい月を見上げて、心を癒やすのではないでしょうか。

備中高松城
わたしという城娘が在る限り、物語を語り継いでいけば……。

備中高松城
皆が月を見る度、月の都さんの物語を思い出す。
そんな未来に至ることも、可能だと思うのです……!

備中高松城
だから、だから……元気、出してほしいのです。
わたし……月の都さんに、もっと……笑っていてほしいのです……。

月の都
…………。

月の都
……貴方は優しい娘ですね。

月の都
……少し、腰を落ち着けてお話をしましょうか。

備中高松城
お話……ですか?

月の都
ここからしばらく歩いたところに、私のお家があります。
……いかがでしょう、今夜はそこでお茶でも飲みながら、お話しするというのは。

月の都
私……貴方のことをもっと、知りたくなってしまったのです。
話を聞かせていただけませんか?

備中高松城
はいっ!
ぜひ、ぜひともお邪魔させていただきたいのです!

備中高松城
すぐに向かいましょう!
夜は短いのですっ! さ、早く!

月の都
くす……そうですね。急いで向かいましょう……。

――――

――翌朝、備中高松城の御城。

新宮城
ふんふんふーん♪

新宮城
備中高松城よ!
今おぬしの許に、新宮城が参るぞー♪ 朝の抱擁の時間じゃぞー♪

津城
勝手に恐ろしい習慣を生み出さないでくれるかな……。

新宮城
ぬ、津城……おぬし、まだこの御城に居ったのか。

新宮城
殿たちも帰ったわけじゃし、おぬしの用はもう済んだじゃろう。
気を利かせて、二人きりにしてくれても良いのではないか……?

津城
それはできない相談だね。
君がこの御城を去るまでは、ここに身を置くつもりだよ。

新宮城
ぐぬぬ……まったく忌々しい……。

新宮城
いや……こうなったら、津城を抱擁して手を打つか。
見ようによっては幼く見えなくもない、ような……。

津城
急に何を言い出すんだ君は!? 勘弁してくれ!

新宮城
とにかく、まずは備中高松城に挨拶じゃ!
抱擁については後ほど検討しよう!

津城
是が非でも食い止めてみせるよ……。

――――

新宮城
備中高松城~♪ 起きておるかー?
起きておらぬなら布団にそっとお邪魔するぞ~?

新宮城
――って、おお、
もう起きておったか。今日は随分早起きじゃのう。

備中高松城
……新宮城さん、それに津城さんも。
おはようなのです♪

津城
何やら、筆を走らせているようだけど……それは、誰かへの手紙かい?

備中高松城
はい!
月の世界で出会ったものを書き記しているのです!

新宮城
ほう、月の世界の……。

備中高松城
まずは讃岐の高松城ちゃんに送って……、
それから、烏城さんにも送ってみるのです!

備中高松城
月の都さんのことを、もっと多くの人に知ってもらうために!

津城
月見の次は、物語の語り部か。
……ふふっ。忙しいね、備中高松城は。

津城
僕も手伝わせてもらっていいかな?
どの道、見張り役として君の傍を離れるわけにはいかないし。

備中高松城
ありがとうございます! それでは津城さんも、
お友達の城娘さんに向けて、お手紙を書いていただきたいのです!

新宮城
では妾は、城娘を呼び集めることにしよう!
輪読会を催し、竹取物語の存在を知らしめるのじゃ!

備中高松城
名案なのです♪ ぜひともお願いしたいのです!

津城
新宮城が城娘を招待って。
僕、嫌な予感しかしないんだけど……。

津城の呟きを聞き流しながら、
備中高松城は嬉々として筆を走らせる。

その瞳はもう、かつてのように恐怖や怯えを映すことはなく……、
ただ希望と未来だけを見据え、光輝いていた――



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