ストーリーテキスト/雨乞う秘匿の丹心

雨乞う秘匿の丹心[]

雨乞う秘匿の丹心 -序-

陸奥国に兜の大軍が攻め入り、とある城娘が
死力を尽くして戦っているという文が届いた。
彼女と共に邪悪なる異形共を殲滅せよ。

前半
――あぁ、そうだ。 今なら理解できる。 ずっと抱いていた焦燥も……。 ずっと感じていた不吉も……。 ……ごめんなさい。 こんなことしかできなくて……ごめんなさい。 ――陸奥国のある村。 少年 ……？ 少年 何だろう、この音……。 少年 …………。 ――――――――。 ――――。 ――所領。 千代城 ……なんと、そのようなことがあったとは。 千代城 やはり、読書だけでなく人の口から聞かねば 得られぬ知識というのはあるものじゃのう。 柳川城 ええ。何事も経験、という言葉もある通りですしね。 やくも そうだに。どんなご馳走だって食べてみなきゃ 美味しさは分からんものがや。 千代城 ……やくもは食に関しては相変わらずじゃな。 やくも 腹が減っては戦はできんけん、妥協はしないだに。 千狐 ――ご歓談中、失礼いたします。お客様が参りました。 殿 …………？ 葛根城 初めましてぇー！　あたし、葛根城でーす！ 葛根城 噂に聞いた、めんけぇ城主様ってどなたですか！？ 殿 …………？ 葛根城 はうぅ！　か、カッコいいよぉ……。 綺麗な瞳ぃ……。 葛根城 ……うっとりー。 殿 …………。 千代城 なんじゃ、誰かと思えば葛根城か。 初対面の相手の前でそう騒ぐでない。 葛根城 はわわぁ！？　な、なんで千代ちゃんがここにぃ！？ 千代城 ええい、千代ちゃんはやめろと常々言っておるだろうが！ 柳川城 何だか親しげなご様子ですが、お二人は知り合いなのですか？ 葛根城 私と千代城ちゃんは従妹みたいなものだよー！ 千代城 ……まぁ、一応な。 葛根城 い、一応って酷いよぉ！ 千代城 とはいえ、どうしたとて城主たちによる過去の因縁があってのう……。 葛根城 城主様たちのことは関係ないもん！ 千代城 いや、わらわと従妹と言っておる時点で十分関係あるじゃろうに……。 葛根城 少なくともあたしは千代城ちゃんと仲良くしたいのー！ 柳川城 ええと、葛根城さんの城主、というと……？ 葛根城 あたしの昔の城主様？ 佐竹義宣様だよぉ。 千代城 そしてわらわが国分氏の城……。 伊達に仕え、後に佐竹の許に走った、な。 葛根城 ほらほら、仲良くするには十分だと思うよ！ ね、千代城ちゃん！！ 千代城 ……わらわとて無闇に敵を作りたいわけでもない。 故に……まぁ、とりあえずは、うむ。 葛根城 うぅ、とりあえずって言われたぁ……。 殿 …………？ 葛根城 え？　ところで何の用……って、 葛根城 いけない！　急ぎの用事だったの忘れてたぁ！ 千代城 何、急ぎじゃと？ 葛根城 えっとね、秋田城お婆ちゃんから文を貰ったんだけど、 陸奥国の『徳丹城』って子を助けに行ってほしいんだって！ 葛根城 お婆ちゃん、今は兜たちとの戦いで手一杯だから、 代わりに私と城主様にお願いしたいって……。 柳川城 なるほど……見込まれての救援要請とあらば、 動かないわけには参りませんね。 殿 …………！ 千代城 ふむ、なればわらわも共に赴こう。 少しは力になれるやもしれんからな。 殿 …………！ 葛根城 二つ返事で快諾だなんて……！ 城主様たち、すっごく優しい人なんだね……！ 葛根城 もうもうっ、感激だよぉ……！ 千代城 ほれ、葛根城。感動している暇があるなら仕度せい。 葛根城 はーい♪ 千狐 それでは、殿。 皆さんの準備が済み次第、すぐに出立するとしましょう！ ――陸奥国。 千狐 殿、無事に転移術は成功ですわ！ 柳川城 どうやら、ここが徳丹城さんという方が 守護していらっしゃる場所のようですね……。 葛根城 ……徳丹城ちゃんって子はどこかな？ 柳川城 見当たりませんね……。 葛根城 よぉし、ここはあたしの与次郎に肖った力で探知を……。 やくも そんなことができるがや！？ 葛根城 任せて！ やったことないけど！ 千代城 聞いたことがないと思ったら道理で……。 葛根城 むむーん……。 葛根城 ……分かったっ！　そこだぁっ！ 兜 ――ザッ！ 兜軍団 ザザザッ！！ 葛根城 ひえぇぇっ！ いたのは徳丹城ちゃんじゃなくて兜だったよぉー！ 千代城 ……正直そんな気はしておったわ。 千代城 とはいえ、ここで出会った以上戦う以外に道はない。 千代城 殿！　早速じゃが下知を頼むぞ！
後半
千代城 むむ……思ったよりも数が多かったのう。 柳川城 すでにこれほどの数の兜が此地にいたということは……、 まさか……間に合わなかったのでしょうか……？ 葛根城 徳丹城ちゃんらしき子もいないし……まさかまさか、かも……！？ 葛根城 と、徳丹城ちゃーーーーーーん！！ どこーーーーーーーーーーーーーーーーーー！？ ？？？ お探しですぅ？ 殿 …………！？ 葛根城 そうなの！　徳丹城ちゃんって子を助けに来たんだけど どこにもいなくって……。 葛根城 …………。 葛根城 って、あれぇ！？ あなた誰っ！？ ？？？ ……やれやれ、私の顔もろくに調べたりしないで探してたですか。 色々と先が思いやられる人ですぅ。 千代城 すると、おぬしが……。 徳丹城 はいそーです。徳丹城ですよ。 徳丹城 あなたたちは……？ 柳川城 葛根城さんが受け取った、 秋田城さんからの文によりあなたの救援を依頼されたものです。 柳川城 私は柳川城。こちらは、殿、千狐さん、やくもさん、 千代城さん、葛根城さんです。 徳丹城 …………。 徳丹城 そーですか……。 秋田城でさえ、そーなんですね……。 千代城 （何じゃ……？　失望、というよりは落胆か？） 徳丹城 ……ともあれ、助けに来てくれて感謝するです。 力を使い果たしかけてたので助かりました。 葛根城 そっ、そーだったの！？ 何とか無事で良かったよぅ……。 徳丹城 ……残念ながら、無事とは言い切れないですぅ。 殿 …………？ 徳丹城 えぇ、今の状況について、詳しく説明するです。 どうぞ、こちらへ。

雨乞う秘匿の丹心 -破-

新たな城娘、徳丹城が案内してくれた先には、
ひとつの小さな村があった。平穏そうなこの村に
起きた事実を、彼女は語り始める……。

前半
――徳丹城近くの村。 徳丹城 ……ここが、私が守っている村です。 葛根城 うん、静かな村だね。 千代城 ……いや、妙に静かすぎるのじゃが。 柳川城 というより……人の気配がしないような……。 徳丹城 そうです……。 村人たち、みーんないなくなっちゃったですぅ……。 殿 …………！？ 葛根城 い、いなくなっちゃったってどういうこと！？ 千代城 もしや、我々の救援が間に合わず……、 人々は兜に殺されてしまったということか……？ 徳丹城 ……いいえ。違いますぅ。 徳丹城 お家の中を覗くと分かりますけど、 死体どころか血の跡すらないですよ。 徳丹城 でも……食べかけのご飯がそのままだったり、 洗濯物が洗いかけだったり……様子が不自然なんですぅ……。 千代城 ……確かに、襲撃されたのなら多少なりとも様子が荒れておるだろうに、 村には戦いの跡が全く残っていないというのはおかしいしのう。 葛根城 えぇっ、みんなどこ行っちゃったんだろー……？ 柳川城 ……村人たちはいったい、いつからいなくなっていたのですか？ 徳丹城 …………。 徳丹城 それが……つい最近まではいたはずですぅ……。 千代城 つい最近……とは、ずいぶんと曖昧な返事じゃな。 徳丹城 ……実は、私、まだ城娘として顕現したばかりでして。 徳丹城 それまでは普通の村娘として生きていましたが……、 徳丹城 顕現した辺りの記憶がどうにも曖昧なのですぅ……。 千代城 む……そうだったのじゃな。 千代城 なれば、少し待っておればだんだんと記憶もはっきりしてこよう。 それまでは我らで村人たちが隠れられそうな場所を探すとしようではないか。 柳川城 そうですね。此地を守りながら、 交代で人々を探すのが良いかと思います。 葛根城 ……むむーん、これは神隠しってやつだね！ 徳丹城 ……まぁ、そうとも言える……です？ 葛根城 ならば！　真実はひとーつ！ 葛根城 今回の神隠し、それは天狗の仕業だったのじゃー！ 徳丹城 …………は？ 葛根城 えへへ、千代ちゃんの真似ー。 千代城 千代ちゃんと呼ぶなと言っておろうに。 千代城 第一、証拠もないのに迂闊なことを言うでない。 葛根城 でも天狗が人を攫うって聞いたこともあるしぃ……。 千代城 ……神隠しは狐が化かしたからという話もあるのじゃぞ？ 葛根城 あぁっ、千代城ちゃんひっどーい！ 与次郎はそんなことしないもん！ 千代城 ほう、わらわは狐と言っただけで与次郎とは言ってないのじゃがな。 葛根城 ……むぅー！ 与次郎だけじゃないもん！　狐に悪い子はいないんだよ！ 葛根城 ほら、千狐ちゃんだって狐っ子だけどいい子じゃない！ 千狐 コンッ！？　は、話が飛び火してきたの！？ 千代城 千狐はただの狐娘というだけではないと思うがのう……。 千代城 ……ともあれ、狐を簡単に悪者にされたらおぬしが怒るように、 天狗を信仰している者がおぬしの発言を聞いたら怒るじゃろう。 千代城 此地が天狗を信仰している地域かどうかも分からんのに、 下手なことを言うでないわ。 葛根城 むぅっ……。 葛根城 ……確かに、そりゃそうだね。 徳丹城ちゃん、ごめん。 徳丹城 ……いや、お気遣いには感謝しますけど、 別に此地では天狗信仰はしてないですぅ。 葛根城 じゃあやっぱり！？ 徳丹城 そもそもあんまり天狗の話は聞いたことないですよ。 私がそうってだけかもしれませんけど。 葛根城 がくっ……違うのかぁ……。 徳丹城 ……なんというか、葛根城さんって、緊張感がないですねぇ。 葛根城 う、うわーん！　いつかの千代城ちゃんと同じこと言われたー！ 千代城 本当のことじゃろうに……。 葛根城 あたしだってキリッとカッコいい城娘になりたいんだよぉー！ 徳丹城 顔だけでも引き締めてみたらどーです？ 葛根城 顔だけでも？ ……えーとぉ。 葛根城 ……キリッ！ 徳丹城 …………。 葛根城 …………。 葛根城 はうぅ、ほっぺが疲れるよう……。 徳丹城 あぁ、あんまり顔がもたないんですね……。 葛根城 徳丹城ちゃんもやってみてよぉ。 ちょっと目がじとーっとしてるから、こう、キリッと……。 徳丹城 ……キリッ。 葛根城 うぅ、どっちかって言ったらギリッて感じだよぅ……。 徳丹城 ……どーせ目線じっとり系城娘ですよーだ。ふん。 葛根城 あぁっ、わ、悪口じゃないよぅ！ ごめんねぇ！　拗ねないでぇ！ 徳丹城 つーん。 葛根城 わーん！ 千代城 何やっとるんじゃ……。 千代城 ……さて、いつまでも喋っている場合ではないのう。 まずは手近なところから村人たちを探してみるのが先じゃ。 千代城 徳丹城、案内を頼めるか。 我らは土地勘がないのでな。 徳丹城 ……えぇ、もちろんですぅ。 探しきれなかったところがいくつか残っているので……。 徳丹城 …………ん？ 徳丹城 ……！ 葛根城 はうぅ、怖いよぉ、睨まないでぇ……。 徳丹城 失礼……睨んだつもりはなかったですぅ。 徳丹城 ただ……兜が攻めてくる気配を察知したですよ。 殿 …………！ 千狐 えぇ……確かに来ているようですが、 まだ遠いですね……。 千狐 しかし、徳丹城さんはこれほど遠い位置の兜も察知できるのですか……！ 徳丹城 察知……というより、殺気を感じ取った、というべきか……、 霊感、と称してもいいかもしれないような……。 徳丹城 まぁ詰まる所、勘ですぅ。 千狐 か、勘ですか……。 柳川城 ともあれ、迎撃に出向くといたしましょう！ 殿 …………！
後半
葛根城 ふふっ、兜たち、びっくりしてたねー！ 柳川城 こっそり攻め入ったはずが、すでに迎撃態勢を整えられていた……となれば、 あの慌てようも当然というものでしょう。 千代城 機先を制すれば、戦も制せるというものじゃな。 徳丹城 ……みんな、気を緩めてはダメですぅ。 葛根城 はぅっ！？ 殿 …………？ 徳丹城 そうですぅ……強大な霊気が近づいてきているですぅ……！ 千狐 もうすぐにでも現れますね……！ 千代城 ……葛根城、おぬしもよく分かっているであろう。 この霊気の持ち主が何者か。 葛根城 うん、あたしでも……というか、あたしだから分かるよ……。 これ、間違いなく……！ 佐竹義重 ――ダーッハッハッハッハッハ！ ワシに逆ラウ奴は皆殺しジャア！

雨乞う秘匿の丹心 -急-

佐竹義重の名を冠する巨大兜が殿たちの前に
姿を現した。思わぬ敵の襲来に狼狽える一行だが、
徳丹城は一人、堂々と眼前に佇んでいた。

前半
佐竹義重 ――ダーッハッハッハッハッハ！ ワシに逆ラウ奴は皆殺しジャア！ 葛根城 うわーん！　やっぱり義重様の名前の巨大兜だぁ！ 殿 …………！ 佐竹義重 何ジャ、また殿めらか。 ワシの行く先々で邪魔バカリしおって！ 佐竹義重 ソレニ、情けない声がシタと思ったが、もしやオヌシは……。 葛根城 あたしは葛根城！ 情けなくなんかないもん！ 佐竹義重 葛根城か……フン！ オヌシではなく横手城がオッタのなら多少は感ずるものがアッタだろうガナ！ 葛根城 ふーんだ！　義宣様はあたしが良いって言ってくれたもん！ 佐竹義重 モノの価値も分カラン優柔不断なバカ息子のコトなんぞ知ランワッ！ 葛根城 むーっ！ 徳丹城 もしかして……奴が今回の異事の原因ですぅ……？ 千代城 ……それは分からん。 確たる証拠もないのじゃからな。 佐竹義重 シッカシ、この辺りは静かジャノウ。誰も見カケンとは。 佐竹義重 ワシが何かするマデモなくスデニ滅んでおったかッ！ ダッハッハッハッハ！　手間が省けたトイウものヨ！ 徳丹城 ……ん？ 葛根城 えっ、あなたが村人みんなを攫ったんじゃなかったの！？ 千代城 ……っ、葛根城！ 佐竹義重 ……ハ？　何故ワシがワザワザそんなことをせにゃナラン？ 佐竹義重 城娘ならトモカク、ソコラの人間なぞ攫ったトコロで 何の価値もナイじゃろうが！！ 佐竹義重 人間ナンゾは潰すに限るわ！ ダーッハッハッハッハッ！！ 柳川城 白々しい言葉に聞こえますね……。 やくも そうだに、前科があるだけに信用ならんがや。 千代城 （マズいな……こちらが村人たちが消えた理由を把握していないことがバレた） 千代城 （急ぎ奴らを討伐し、村人たちを探し出さねば、 　奴らとは争奪戦の様相を成すやもしれん……！） 佐竹義重 しかし、此地にもマダ目覚めていない城娘がイルと聞き、 ワシに反スル者らを滅す駒と成ソウと思ってオッタガ……。 徳丹城 …………。 佐竹義重 ……フン、どうやら手遅れダッタようジャナ。 徳丹城 ……つまり、本来の狙いは私だったってわけですね。 千狐 さては、古河城さんの時と同じように……！ 佐竹義重 当たり前じゃ、手ゴマは多ケレバ多いほど良い！ 例え捨てゴマと成すとシテもな！！ 千代城 外道め……。 徳丹城 ふーん、お生憎様ですぅ。 徳丹城 むしろ、私が城娘として顕現するに至った原因は、 他ならぬその執着によるものだったからですしね。 葛根城 え、ええっ！？　そうだったの！？ 徳丹城 ……言ったでしょう？ 私には特別な勘が備わってるです。 徳丹城 主に危機察知においては抜群の力を発揮する権能……。 徳丹城 それが私の身に迫った危機を契機と成し、 城娘の魂を目覚めさせるに至ったですよ。 葛根城 逆に利用したってわけだね！　すっごーい！ 佐竹義重 セイゼイ吠えるがヨイ。 タカガ城娘の一人や二人、手ゴマに出来んでも構ワン。 佐竹義重 どうせ雨後の筍が如ク、城娘はイクラでも生えてくるジャロウ。 葛根城 また言ったなーっ！ 葛根城 義宣様の父親だからって、悪口ばっかり言って！ 挙句、城娘を手ゴマだの筍だの！ 千代城 おい、葛根城！ 少し落ち着くのじゃ！ 葛根城 我慢できないっ！ あたしが懲らしめてやるぅーっ！！ 佐竹義重 ダッハッハッ！　ヤレルものならやってみるがヨイワ！ 千代城 あぁっ、もう！ 葛根城め、また先行しおって……！ 徳丹城 マズいですね、すぐに援護しないとですぅ。 殿 …………！ 柳川城 えぇ、後に続きましょう！
後半
葛根城 このこのこのーっ！！ 佐竹義重 ……それで終いか？ ナラバ次は此方の番ジャッ！！ 佐竹義重 ヌゥゥゥゥゥゥゥゥウウウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ！！ 葛根城 きゃあああああああっ！！ 千代城 葛根城！ 柳川城 くっ……とうとう此方も一人倒れてしまいましたか……。 徳丹城 ……でも、相手はそこまでバカじゃない……と思いたいですぅ。 柳川城 というと……？ 徳丹城 ……向こうの出方をひとまずは伺うです。 佐竹義重 （……フン、自分で危機察知だナンだと言ってオッタだけあって、 　徳丹城トヤラ、よく此方を観察してオルわ） 佐竹義重 （オマケに殿のヤツめの采配もアッテか、此方も被害甚大……。 　ヨウヤク城娘を一人倒したとイエド、コノママでは配下を全て蹴散らされカネン） 佐竹義重 ……良カロウ！　ひとまず退却とシヨウゾ！ 兜 （ホッ……ヤット退却命令ガ出タ……） 兜 全軍、退却ーッ！ 兜軍団 撤退！ 撤退！ 撤退！ 佐竹義重 （ヒトマズ陣容を整エタ後に、人手を揃エテ山狩りとイタソウぞ……） 佐竹義重 （ククク……迂闊ダッタのう。 　先に消エタ村人共を此方が見ツケ出し、人質と成してシマエバ、勝利は容易……！） 佐竹義重 ダーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ！！ 千狐 えっ、た、退却していく……？ 徳丹城 ……ま、そうでしょうね。 柳川城 こちらの戦力を一人削ぎ、勝利できる可能性を求める以上に、 自分の方の痛手を重視した……ということでしょうか？ 徳丹城 もちろん、それもあると思いますよ。 千代城 だが……退却を選んだ真の理由が、 村人のことに感づいたからだとすれば、非常にマズい……！ 殿 …………？ 千代城 ああ、そうじゃ。 おそらく、わらわたちが、村人がいない理由を知らないことがバレたと見ていいじゃろう。 千代城 すなわち……わらわたちが事前に村人たちを避難させたわけではなく、 策を用いているわけでもない、完全なる異常事態であると。 千代城 であれば、奴め、先に人手を揃えてから村人たちを 先に探し出し、人質と成そうと考えておってもおかしくはない……！ 葛根城 じゃ……じゃあ……すぐに……追いかけなきゃ……！ やくも そんな体で無理しちゃいかんだに、葛根城！ 葛根城 でもぉ……っ！ 徳丹城 ……落ち着くですよ。 別に、あいつを深追いする必要はないです。 千代城 な、何？ 徳丹城 そもそも、あいつが簡単に村人たちを見つけられるんだったら、 とっくのとーに私が見つけてるです。 徳丹城 私の勘がぴくりとも働いてない以上、 あいつが私たちより先に村人たちを見つけられる見込みはないですぅ。 葛根城 そ、そっか……。 村人たちが危機に陥るなら、私たちにとっても危機、だもんね……。 徳丹城 それに、見つからないと思えば、やがて業を煮やして 再び攻めてくると思うですよ？ 徳丹城 下手に見つからない村人たちを当てもなく探し続けるより、 とっとと戦った方が早いですし。 千代城 ……まぁ、そうじゃろうが。 徳丹城 村人たちが見つからないのは、やっぱり私たちの策かも、と 誤った考えに拘り始めれば時間も稼げるし、しめたもんですぅ。 葛根城 なるほどぉ……あったま良ぃー……！ 徳丹城 ……だから、葛根城さんは気に病む必要はないですよ。 徳丹城 失言したのは事実ですが、実はその発言は策だったのでは？　と、 彼奴を懐疑に陥らせる素地にもなりますから。 葛根城 ……はうぅ、ごめんねぇ。 徳丹城 ……ま、怒ったら冷静になれないのは誰しもそうですよ。 千代城 （……何か妙じゃな） 千代城 （徳丹城の勘は、主に危機察知に働く、と言っておったが……） 柳川城 とはいえ……探さないわけにも参りませんね……。 千狐 えぇ、こうしている間にも村の方々は 苦難に追いやられていくのですから……！ 殿 …………。 柳川城 えぇ、もちろんです。 ひとまずは葛根城さんの回復を待ちましょう。 葛根城 うぅ……ほんとにごめんなさい……。 千代城 ……次からは怒りに駆られたら、 何かする前にきちんと一呼吸置くのじゃぞ。 葛根城 はぁーい……。 千狐 では、一度回復を図ってから 改めて村の人々を探しに参りましょう！

雨乞う秘匿の丹心 -絶壱-

殿たちが佐竹義重の名を冠する巨大兜を撃退した日
の夜。兜たちは英気を養うと同時に、神隠しについて
各々の所見を好き勝手に語り始めていた……。

前半
――殿たちが巨大兜を撃退した日の夜。 佐竹義重 ……良イナ！　援軍部隊が到着次第、一斉に山狩りジャア！ 兜軍団 応ッ！！！ 佐竹義重 ソレマデは各々待機し、英気を養うがヨイ！　解散！ 兜軍団 応ッ！！！ 桃形兜 ……ヤレヤレ、今日ハ無事ニ何トカ凌ゲタヨ。 古桃形兜 オウ、オ疲レー。 突撃式トッパイ形兜 オ疲レサンー。 桃形兜 ハー、援軍部隊、ノンビリ来テクレナイカナァ。 山狩リッテ面倒クサインダヨォ……。 烏帽子形兜 ソモソモ何デ山狩リッテ話ニナッタンダッケ。 突撃式トッパイ形兜 ドッカニ隠レテルラシイ人間ドモヲ探シ出スッテ話ダロ。 ソンデ人質ニスルトカ。 烏帽子形兜 当テハアルノカネェ。 突撃式トッパイ形兜 ナインジャネ？　当ノ城娘ドモガドコニ行ッタカ把握シテナイラシイシ。 古桃形兜 ナーンダ。知ッテソウナラ吐カセリャ一発ダッタノニヨ。 突撃式トッパイ形兜 デモ誰モドコニイルノカ知ランッテコトハ、『神隠シ』ッテ奴カ？ 古桃形兜 『髪隠シ』？ 頭ノ上ニモサモサ生エテル毛ヲ隠スノカ？ 桃形兜 カツラノ逆ダネ！ 突撃式トッパイ形兜 イヤイヤ違ェヨ。神様ノ神ナ。 神トカガ人間ヲ攫ッタリ隠シタリスル奴ナ。 桃形兜 エ、神様ッテ人間攫ウノ？ 突撃式トッパイ形兜 厳密ニハ、神ノ領域ニウッカリ迷イ込ンダトカ言ウラシイガ……。 俺モ良クハ知ランヨ。 古桃形兜 フーン……。 突撃式トッパイ形兜 後ハ、妖怪トカモ人ヲ攫ッタリスルラシイナ。 特ニ人間ノ子供。 桃形兜 子供カァ。 確カニタマニ遅クニナッテモ呑気ニ遊ンデル子トカイルヨネ。 古桃形兜 子供ネェ。ッテコトハ城娘トカモ幼イ奴見カケタコトアルケド、 アイツラモ攫ワレルコトアルノカネ。 烏帽子形兜 エェ……？ 幼クタッテ仮ニモ城娘ダロ？　流石ニソレハネェンジャネェノ？ 古桃形兜 イヤ、デモ案外サ、千代城ミタイナノガ、フトシタ瞬間二 油断トカシテ攫ワレタリシソウジャン？ 突撃式トッパイ形兜 ナマジ頭ガイイカラ過信スルッテコトカ？ 古桃形兜 ソウソウ。 烏帽子形兜 エート、ジャア仮ニ俺ラガ千代城ヲ攫ウトシタラ…… コンナ感ジダナァ。 烏帽子形兜 マズ……。 ――――――――。 ――――。 ――とある森。 千代城 （※兜製幻想形・千代城） 千代城 ……ふぅ、すっかり遅くなってしまったのじゃ。 千代城 ……にしても、夜の森は不気味じゃのう。 ――ガサガサッ……。 千代城 ひっ……な、何じゃ？ 烏帽子形兜 今ダーーーーーーーーーーッ！！ 兜軍団 引ッ攫エ！ 掻ッ攫エ！ 拐カセ！！ 千代城 な、何じゃおぬしら！ 千代城 あっ、や、やめろ！ 何をするのじゃ！ 烏帽子形兜 ヨシ！　手足モフンジバッタシ、 大破サセチマエバコッチノモノダー！ 兜軍団 引ッ攫エ！ 掻ッ攫エ！ 拐カセ！！ 千代城 やめろ！　やめるのじゃ！ 千代城 誰か！　誰か助けてくれ！ 殿！　殿ーーーーーーーーーーっ！！ ――その後。 烏帽子形兜 ヘッヘッヘ、千代城ニ酷イ事ヲシテヤッタゼ！ 烏帽子形兜 千代城モ今ハ俺タチノ従順ナ配下！ サァ行ケ千代城！　殿ヲ倒セー！ 千代城 …………。 千代城 分かっておる……わらわが今、兜の味方をしておるのも ただの逆恨みじゃとは……。 千代城 それでも……それでも、わらわはもう止まれそうにない。 千代城 殿、済まない。 わらわと共に堕ちてくれ。
後半
烏帽子形兜 ……ッテ感ジカナッテ思ッタケド、 コレ絶対殿ガ乱入シテキソウダナ。 烏帽子形兜 千代城モ大破サセラレルカ怪シイトコロダシ、 仲間ノ城娘ドモニ見ツカラナイトモ限ラナイシ……。 烏帽子形兜 マ、所詮妄想ダカラ別ニイイヨナ、失敗シテテモ。 古桃形兜 …………。 突撃式トッパイ形兜 …………。 烏帽子形兜 ……何ダヨ、黙リコクッチマッテ。 古桃形兜 …………引クワ。 烏帽子形兜 エッ。 古桃形兜 イヤ……オ前ノ妄想チョット……カナリ……。 突撃式トッパイ形兜 オ前、ソウイウノガ好キナノカ……。 桃形兜 烏帽子形兜、怖イ……。（プルプル） 烏帽子形兜 チョ、何デミンナ俺カラ距離取ルンダヨ……。 特ニ桃形兜……。 桃形兜 誘拐……怖イ……。 ボク、攫ワレタラ何サレチャウノ……？（プルプル） 突撃式トッパイ形兜 ホラ、俺ノ傍ニ来イ。 アンマリ烏帽子形兜ノ傍ニ寄ルナ。 桃形兜 ウン……。 烏帽子形兜 トイウカオ前ハ攫ワネーヨ！ 同ジ兜ダローガ！！ 古桃形兜 ソノ……何ダ、悩ミガアルンダッタラ 話クライハ聞イテヤレルカラナ……。 烏帽子形兜 セメテ俺ト視線合ワセテ言ッテクレネーカナァ！？ 突撃式トッパイ形兜 マァナンダ、ソノ、欲トイウノハ 適度ニ発散サセナイトイケナイモノデハアルラシイカラ……。 烏帽子形兜 オ前モオ前デ何ヲ想像シタンダヨ！？ 烏帽子形兜 ソリャア、俺ガ千代城ヲ攫ッタ後ニシタ、 『半日耐久正座地獄』ハヤリスギダロウケドヨ……。 古桃形兜 …………ハ？ 烏帽子形兜 ヘッヘッヘ、正座サセ終ワッテスグ、 足ガピリピリノ状態デ歩カセテヤッタゼェ……。 突撃式トッパイ形兜 …………拗ラセテンナァ。 桃形兜 ナンダ、正座カァ。 桃形兜 テッキリボクニハ想像モツカナイ、極悪非道ナコトヲシタノカト思ッター。 烏帽子形兜 イヤイヤ、何言ッテンダヨ。 十分極悪非道ダロ？ 桃形兜 ダッテ、ボクイッパイ正座サセラレルノ慣レテルモーン。 烏帽子形兜 オッ、言ッタナ？ 烏帽子形兜 ナラバ俺ト正座勝負ダ！ 桃形兜 受ケテ立ツヨ！ 烏帽子形兜 オイ、誰カ審判ヤッテクレヨ、審判！ 古桃形兜 アー、ジャア俺ヤルヨ。 桃形兜 サー、来イ！ 烏帽子形兜 負ケネェカラナ！ 古桃形兜 デハ、開始ー。 桃形兜 …………！ 烏帽子形兜 …………！ 突撃式トッパイ形兜 （ソモソモ俺タチ……、 　正座シタトコロデ、脚、痺レネェダロ、ッテ言ウノハ野暮ナノカ……？） ――突然の正座大会の開催に、どう反応していいのか困った突撃式トッパイ形兜。 結局、やんややんやと楽しそうに騒ぐ仲間たちの雰囲気に 水を差すこともできず、ただ不毛な争いを眺めるだけとなったのだった。

雨乞う秘匿の丹心 -離-

再び徳丹城が守護する地を害そうと、侵略を開始した
兜軍。未だ惑いの色を持ったままの徳丹城の
ためにも、襲い来る兜軍団を撃退せよ！

前半
――数日後。 葛根城 ……ただいまぁ。 千代城 ……その様子、今日も見つからなかったようじゃな。 柳川城 困りました、徳丹城さんに案内してもらった場所は くまなく探したつもりだったのですが……。 千狐 このままでは、村の方々の身も心配ですわ……。 徳丹城 …………。 徳丹城 一応お伝えすると、 私の勘はまだまだ大丈夫だと告げてるです。 やくも そんならまぁ、心配しなくても良さそうだに。 殿 …………。 千代城 ……。 千代城 ふむ、徳丹城。 ちょっと二人で密に相談したいのじゃが、来てくれるか？ 徳丹城 ……構わないですよ。 葛根城 あたしも！　あたしも参加する！ 千代城 しかし……。 葛根城 お願い！　いい子にしてるから！ 徳丹城 私は別に構わないですよ。 千代城 む、そうか……。 なら、三人で相談といくかの。 柳川城 でしたら、私たちは見回りに行って参ります。 殿 …………！ 徳丹城 えぇ、行ってらっしゃいです。 ――村の外れ。 徳丹城 ……思ったより遠くまで来たですね。 千代城 あくまで念のためじゃ。 葛根城 念のため？　何の？ 千代城 …………。 千代城 時間もない故、単刀直入に言わせてもらおう。 千代城 徳丹城。 おぬし、村人たちの失踪に関して何か関わっているのではないか？ 葛根城 えっ！？ 徳丹城 ……何かと思えば。 身内を疑っている場合です？ 徳丹城 第一、村の人たちを思う気持ちは私が一番ですぅ。 場所を知っているのなら、真っ先にみんなを村の人たちのところに案内しているですよ。 千代城 ……もちろん、おぬしに悪意があるとは思ってはおらぬよ。 千代城 だが、城娘として顕現した時に曖昧になったと言っていた記憶……。 それに関係しているのではないかと思ってな。 徳丹城 …………。 千代城 主に危機察知に働くと言っていたその勘が、 人々の命の喪失の危機にある今、働いていないとは考えづらい。 千代城 であれば、話さない理由は、 確証が得られないであろうと思える、突拍子もない理由があるからか、 千代城 ……あるいは己に不利に作用するからなのか。 葛根城 （はうぅ……千代ちゃん、考えが深いよぅ……） 千代城 ……どんなに朧げな記憶でも、確証のない話でも構わん。 頼む、話してくれ。 千代城 もしもそれが城娘としての在り方に関わるというのなら、 殿たちには言わぬ。ここだけの秘密にしておくと誓おう。 葛根城 あ、あたしも絶対に言わないよ……！ 徳丹城 …………。 徳丹城 ……そもそも、私は古代城柵の城娘だということはご存知です？ 葛根城 うん。秋田城お婆ちゃんが文に書いてたから、一応は……。 徳丹城 ……なら、話が早いです。 徳丹城 私は、古代城柵として生まれてきた者の、一番最後……。 徳丹城 故に、大した歴史は持っていないのです。 千代城 ……とは言っても、歴だけで言うなれば、 わらわよりも徳丹城の方が先輩じゃがの。 徳丹城 先輩……。 徳丹城 ふふっ、ちょっぴり良い響き、ですぅ。 葛根城 （わっ、徳丹城ちゃんって笑うと可愛い……） 徳丹城 ……でも、私は所詮、『徳丹城』なんですぅ。 徳丹城 本来、此地を守っていたはずの城娘は、私ではないんですよ……。 千代城 何？　違うのか？ 徳丹城 ええ。本当は、私のおねーちゃん……。 『志波城』が、此地を守護するはずだったです。 徳丹城 私の役割はあくまでもおねーちゃんの補助……。 けれど、勘が仇になってしまったですよ。 千代城 ……もしや、佐竹義重の名を持つ巨大兜による覚醒は、 本意ではなかったということか。 徳丹城 そうですよ。おねーちゃんが目覚めた時に、 私も共に目覚め、隣を歩むつもりだったです。 徳丹城 けれど……おねーちゃんは今何処にいるのやら。 来るまで待とうと思っていたのに、こんなことになってしまって……。 葛根城 ……その、志波城さんってどんな人？ 徳丹城 ……おねーちゃんは、とっても優秀な城娘です。 努力家で、真面目で、優しくて……非の打ちどころがなかったのですよ。 徳丹城 だから……いつも、色んな人に慕われて、愛されてた、です……。 葛根城 （徳丹城ちゃん……？） 葛根城 （何だろう、なんだか、苦しそう……？） 千代城 ……まぁ、過ぎてしまったことは仕方がない。 千代城 姉である志波城を頼れないことは仕方ないにしても、 おぬしが代理を務めるしかないのは事実じゃから……。 徳丹城 ……そんなことは分かってるですぅ！！ 千代城 ……！？ 徳丹城 …………。 徳丹城 ……失礼、急に怒って、申し訳ないです。 千代城 いや……何か気に障ったのなら、申し訳なかった……。 徳丹城 ……いえ、個人的なことですから、気にしないでほしいですぅ。 葛根城 （あぁ……徳丹城ちゃんって、もしかして……） 徳丹城 ……ともあれ、自然な覚醒を待つはずが、 無理やり起こされてしまったということ。 徳丹城 恐らく、記憶の混濁はそれが原因だと思うです……。 千代城 なるほど……。 ひとまず、記憶が曖昧な理由については理解した。 千代城 じゃが、わらわが知りたいのは、その間に村人たちに何をしたのか……。 少なくとも、自分がしそうなことを教えてほしいのじゃ。 徳丹城 …………。 葛根城 ね、ねぇ……千代ちゃ……じゃない、千代城ちゃん……。 千代城 ……何じゃ？ 葛根城 と、徳丹城ちゃんに詰め寄るような真似はやめようよ……。 ホントに徳丹城ちゃんが関わってたとしても、悪いことはしてないはずだし……。 千代城 ……それが分からんから、今は藁にも縋る思いで聞いているのじゃ。 千代城 言い方が酷だというのなら、後でいくらでも謝罪しよう。 千代城 だが、こうしている間にも刻一刻と村人たちの身には危機が迫っているのじゃ。 あまり悠長に構えているわけにもいくまいよ。 葛根城 うぅ、それは分かるけどぉ……。 千代城 もしかしたら、村人たちがどこかに閉じ込められていて飢えている可能性もある。 なれば、なおさら時間の猶予がない……。 徳丹城 …………。 徳丹城 （……正直、自分がやったことについては察しはついてるです） 徳丹城 （でも、確信が持てないし、話したところで村人の居場所も分からないまま……。 　今、伝えたところで、不信を抱かせるだけに留まる情報でしかないのですよ……） 徳丹城 （村人たちの身が『大丈夫』なのは、勘でよく分かってるです。 　けれど……場所だけが未だに思い出せないし、分からない……） 徳丹城 （……下手すると、今後ずっと記憶にも心にも 　黒雲が立ち込めたまま……というのもあり得るですね） 葛根城 ……徳丹城ちゃん。 徳丹城 ……はい？ 葛根城 あたしは、徳丹城ちゃんが大丈夫だっていうなら、信じるよ。 葛根城 例えどんな結果になろうと、一緒に背負うから。 徳丹城 …………。 徳丹城 だったら……言わせてもらいますよ。 徳丹城 絶対に、大丈夫です。 葛根城 うん！ 葛根城 ね、千代城ちゃん！ 大丈夫だよ！！ 千代城 ……信じたいところではあるが、葛根城は騙されやすいからのう。 葛根城 あぁっ、逆効果！？ 徳丹城 …………。 徳丹城 ……！ この気配……！ 千代城 兜の襲撃か！？ 徳丹城 ええ、ちょうど殿たちとかち合うようですぅ……！ 徳丹城 （ただ、思ったよりは大軍ではなさそうな……。 　……多分、予期せぬことがあって数が揃わなかったですね） 葛根城 はうぅっ、大変！ 千代城 葛根城、徳丹城、行くぞ！！
後半
柳川城 救援ありがとうございます、助かりました……！ やくも ほえぇ、呼びに行こうとしたらもう来てたのは驚いただにぃ。 葛根城 全部徳丹城ちゃんのお陰だよ！ 凄いよぉ！ 徳丹城 …………。 葛根城 （あれ？　なんか、徳丹城ちゃんが焦ってる……？） 千代城 ……その顔、もしや、奴が来たか。 徳丹城 ええ……！ 徳丹城 いるのは分かってるですぅ！ 雑魚の陰に隠れてないでとっとと出てこいですぅぅっ！！ 佐竹義重 ――ダーッハッハッハッハッハッ！ 未熟な城娘がヨク吠えヨルワ！！

雨乞う秘匿の丹心 -結-

佐竹義重の名を冠する巨大兜と対峙する徳丹城。
しかし、徳丹城が持つ迷いを見切った巨大兜は、
彼女の心魂を追いつめようと言の葉を投げつけた。

前半
佐竹義重 ――ダーッハッハッハッハッハッ！ 未熟な城娘がヨク吠えヨルワ！！ 徳丹城 先の戦いでやられるのが怖くて撤退していった上、 結局村人たちだって見つからなかった癖に、未熟はどっちですぅ？ 葛根城 （と、徳丹城ちゃん……？） 佐竹義重 フン、ヤハリ村人たちに関してはオヌシラの策じゃったか。 佐竹義重 此方の後詰を呼バセ、戦力ヲ削るためダッタとは……、 ナカナカやりおるのう？ 佐竹義重 ――ダガ、雑魚バカリ削られようともワシは痛くも痒くもナイわ！ 無駄な足掻キヲ見せ、少しデモ優位に立とうとシタんじゃろうがソウハいかん！ 佐竹義重 何せ、捨てゴマの補充などイクラデモ効くのダカラな！ 千代城 （……後詰が削られた？　誰か他に動いている者がおるのか？） 千代城 ……しかし、相変わらずの自己中心的な発想じゃ。反吐が出るわ。 佐竹義重 自己中心的ジャト？　何を甘いことを抜かしオルか！ 佐竹義重 この戦国の世にオイテは、チカラこそが正義！ チカラなきモノがどうなろうとワシの知ったコトではないわ！ 徳丹城 …………。 佐竹義重 ソモソモ、話に聞けば本来此地を守護シテいる城娘は どうやらおぬしデハないらしいではナイカ。 佐竹義重 ナレバ重畳！ たかが代理の者ナゾ、簡単に捻ってクレヨウぞ！ 徳丹城 …………！ 徳丹城 簡単に倒せると思ってるのなら……、 徳丹城 とくとその身で思い知れですぅぅ……っ！！ 兜軍団 ギャアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアッ！！ 柳川城 す、凄い……兜たちが消し飛びましたね……。 千狐 で、ですが霊力を一気に放出しすぎています！ このままでは……！ 殿 …………！？ 千代城 あぁ、すぐにでも力を使い果たして倒れてしまう可能性が高い！ 何とかして止めねば！ 兜 ヒィィ……ケ、消サレル……！ 佐竹義重 者ドモ！　コノママでは消滅する危険がアルゾ！ 消えたくナケレバ先に奴を消すのジャアッ！！ 兜 ウ……キ、消エタクナイ……。 兜軍団 消サレル……クライナラ……！ 兜軍団 ……ウオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ！！ 佐竹義重 （ククッ……徳丹城め、マンマと挑発に乗ってキオッタわい） 佐竹義重 （このまま狂乱ニ陥ったコマ共で攻メ立テテいけば、 　ヤガテ消耗し、数で勝る我らの有利とナロウゾ……！） 葛根城 うわあっ！　兜たちが一気に突っ込んできたぁ！！ 千代城 いかん！　迎撃するのじゃ！ 殿 …………！ 柳川城 はい！ 兜たちの勢い、なんとか抑えましょう！ 徳丹城 消し飛べ……！ 兜軍団 ギイイイイイィィィィィィィイイイイイイイッ！！ 徳丹城 みんなみーんな……消えればいいですぅ……！ 徳丹城 ――そう。消えてしまえばいいです。 徳丹城 私を苦しめる、胸中に広がる黒い雲も……。 徳丹城 私を悩ませる、苦い思いの激しい嵐も……。 徳丹城 ……優秀な志波城おねーちゃん。 大好きだけど、私よりもずっと上。 徳丹城 私は代理。代わり。代替の城娘。 徳丹城 ――どうして。 徳丹城 どうして、誰も『私』を見てくれないですか！！！！ 徳丹城 どうだっていいです……みんな消えろですぅ……。 徳丹城 私なんか、所詮、いなくたって―― 葛根城 ――徳丹城ちゃん、もう、やめよう？ 徳丹城 ……葛根城？ 葛根城 ……ね、力、出し過ぎると辛いでしょ？ 自棄にならないで。 葛根城 …………。（ぎゅう） 徳丹城 ……今の私を抱きしめなんかしてたら、消し飛びかねませんですよ？ 葛根城 徳丹城ちゃんは私を消し飛ばす真似なんてしないもん。 徳丹城 ……どうして、そう言い切れるです？ 葛根城 だって……徳丹城ちゃん、悪い子じゃないもん。 ただ苦しくて、辛かっただけなんでしょ？ 葛根城 失礼しちゃうよね。人の事を代理代理って。 葛根城 ……徳丹城ちゃんは、……ううん。 葛根城 私たちは、ただ、私たちであっただけなのにね。 徳丹城 …………。 葛根城 例え他の誰が徳丹城ちゃんを揶揄したとしても、 あたしは絶対に笑わないよ。 葛根城 だってっ……だってっ……、 葛根城 だって、徳丹城ちゃんは徳丹城ちゃんだよ！ 誰の代理でもないんだもんっ！！ 徳丹城 …………。 徳丹城 （そうだ……思い出した……） 徳丹城 （私は……あの時…………） ――――――――。 少年 何だろう、この音……。 少年 …………。 少年 …………。（ふらっ） 少年 …………。（ふらふら） 徳丹城 ――朧げな意識の中、琴を爪弾き、呪いをかけ、人々を操った。 徳丹城 近づいてきていた邪悪な霊気はあまりに大きすぎて、 今の自分だけでは守りながら戦うことはできないと感じ取っていたから。 徳丹城 ……優秀なおねーちゃんなら、きっともっと上手くやってたです。 徳丹城 守るためと言い訳をして、呪術なんかに手を出して、 人々を操って洞窟の奥で眠らせて……。 徳丹城 私は……人を呪ってしまった。 城娘失格です。 徳丹城 こんな程度の力しかない自分は……、 所詮、代理、と言われても仕方ないのです……。 徳丹城 ……私は、城娘ですか？ 徳丹城 城娘として……在っていいのですか？ 葛根城 城娘以外にあり得ない！ 葛根城 徳丹城ちゃんは、立派な此地の守護者だよ！！ 誰にも比較される筋合いなんてない！！ 徳丹城 …………。 徳丹城 …………。 徳丹城 ……ありがとう、です。 葛根城 ……ううん、いいんだよ。 葛根城 私も、その気持ちは分かるもん。 義宣様、よくお父さんの義重様と比べられたりしてたから……。 徳丹城 そうだったですね……。 だから、葛根城も彼奴に食って掛かってたですか。 葛根城 だって義宣様も頑張ってたのに、 たかが兜なんかに父親面されて否定されたら気分悪いもん！！ 葛根城 ……だから、さ。 落ち着いて、彼奴をやっつけよう！ 徳丹城 ……。 徳丹城 ふふっ、おおよそ似つかわしくない台詞ですぅ。 葛根城 はうぅ。 徳丹城 でも、正しいです。 ……行きましょう！ 葛根城 うん！
後半
徳丹城 これで―― 葛根城 ――終わりだぁっ！！ 佐竹義重 グワァァァァァァアアアアアアアッ！！ 佐竹義重 グゥゥッ……手ゴマが足リヌ今、これ以上はドウニモならん！ 退却ジャアッ！！ 兜 退却ッ、退却ーーーーッ！！ 兜軍団 撤退！ 撤退！ 佐竹義重 （オノレ……殿め……城娘ドモめ……！ 　幾度もこのワシに辛酸を舐めさせオッテ……！） 佐竹義重 （カクナル上は……あの手を使ウカ……？） 佐竹義重 （……いや、マダ……まだじゃ……！ 　マダ何か、奴らの牙城を崩す手立てがアルはず……！） 千狐 ……兜たちが撤退していきますわ！ 千代城 うむ！　無事此地を守り切ることができたようじゃの！ 殿 …………！ 柳川城 一時はどうなることかと思いましたが……なんとかなって良かったです……。 徳丹城 ……みんな、本当に、 徳丹城 本当にありがとうですぅ……。 やくも か、勝ったのにどうして泣くがや？ どこか痛いだに？ 徳丹城 あれ、変ですね……。 涙が……涙が止まらないです……。 徳丹城 泣く……必要なんて……どこにも……。 徳丹城 ……うわぁぁぁぁあああああんっ！！ 殿 …………！？ 千代城 あぁ、どうやら気負い続けていたのに、 急に緊張が解けたからじゃろう……。 千代城 ……それほど思いつめていたこと、気づいてやれんですまなかった。 千代城 今は、ゆっくり泣くといい。 涙が全ての憂いを禊いでくれよう……。 葛根城 うわああああああん！！ 徳丹城ちゃん、無事で良かったよぉぉー！！ 千代城 ……何で葛根城まで泣いておるんじゃ。 徳丹城 ――ひとしきりの雨が、両の眼からたくさん降り注いでいくです。 徳丹城 ずうっと曇っていた私の心。 雨が降って、全て流れて、ようやくお日様が差し込んできたような気持ちになりました……。 徳丹城 …………ぐすっ。 徳丹城 ……失礼いたしました、です。 では、村人たちの許に案内しますですよ。 殿 …………！？ 千狐 えぇっ！？　た、確か知らないって仰っておりませんでしたか？ 徳丹城 厳密には『忘れていた』ですね。 徳丹城 でも、今ようやく思いだせたです。 村人たちは、元はと言えば私が安全な洞窟に導いて眠らせ、守っていたですよ。 やくも えっ！　数日も寝てたんやったら、 みんなお腹とかえらいぺこぺこなんじゃないかや！？ 徳丹城 ご安心を。ただの眠りでなく、冬眠みたいなものですぅ。 私の呪術によって、ちゃんと健康を維持させてるですよ。 やくも ほえぇ……。 千代城 しかし……何故兜たちは村人たちを見つけられなかったのじゃろうか。 徳丹城 それは、私が村人たちを避難させ終えた後に、 呪術で認識を弄る結界を張っていたからですよ。 徳丹城 『確かにそこにいる』と知らなければ、 絶対に見つけることはできないですぅ。 葛根城 ……あれ？　もしかして徳丹城ちゃんって普通に凄い城娘なんじゃ？ 徳丹城 いえいえ。これはあくまでも緊急手段もいいとこ、ですぅ……。 徳丹城 呪いというのは、便利な分、要求する代償も大きいものですし、 今度使ったら、またさっきみたいに不安定になって暴走しかねないですよ。 徳丹城 以後、間違っても呪術は使わないでおくですから、安心してほしいですぅ。 千代城 あぁ、どうにも精神的に不安定なところがあると思ったら、 呪術が影響しておったのか……。 徳丹城 本当に色々とご迷惑おかけしましたですぅ……。 柳川城 今、皆様が無事なのです。 結果的に良かったのですし、そうお気になさらず。 柳川城 さぁ、早く村の人たちを迎えに参りましょう！ 殿 …………！ 徳丹城 ……はい、では行くですよ！

雨乞う秘匿の丹心 -絶弐-

巨大兜との戦いも終わり、幾日かが経過していた。
徳丹城と共に村に残って手伝いをしていた千代城の
許に、とある城娘たちが訪ねて来た……。

前半
――陸奥国。 徳丹城 ……ふぅ、人々もこれで元の生活を取り戻せたと思うですぅ。 徳丹城 わざわざ残って手伝ってくれて、本当に感謝ですよ……。 千代城 何、気にするでない。 千代城 わらわも知らなかったとはいえ、 無神経な言葉を投げてしまったわけだし……な。 千代城 せめてもの罪滅ぼしだとでも思ってくれ。 徳丹城 ……まぁ、確かに自分でも色々と分かってるだけに 辛いものはあったですよ、そりゃ。 徳丹城 でも、見てる人は見ててくれるんだな、と思えたから、 そんなに気を遣ってもらわなくても、もう大丈夫ですよ。ありがとうです。 千代城 ……そうか。 徳丹城 …………ん？ 徳丹城 ……おや、来客ですぅ。 千代城 それも、勘か？ 徳丹城 勘ですぅ。 徳丹城 実は危機察知以外でも、一応ちょこっとは働くですよ？ 千代城 ほう、便利じゃのう。 多賀城 ――はぁ、やっと着いたのだ……。 秋田城 徳丹城？　ああ、よかった。 見た感じは元気そうだね。 秋田城 せっかく要請してくれたのに、助けに行ってあげられなくてごめんよ。 辛い思いはしてなかったかい？ 徳丹城 だいじょーぶですよー。 秋田城 せめて、どうもそっちに行こうとしていた兜たちくらいは、と 多賀城と一緒に倒したんだけどねぇ……。 多賀城 いやー、あいつらしぶとかったのだ。 千代城 あぁ、巨大兜が『後詰が削られた』と言っていたが、 おぬしらのお陰じゃったのか……。 多賀城 役には立てたか？ 千代城 うむ、お陰で敵の戦力も削がれていて、 なんとか戦線も維持できていたからの。 千代城 感謝するぞ。 多賀城 礼には及ばんのだ！ 徳丹城 ……じゃあ、この前も助けてくれた上に、 今日はわざわざ安否確認にまで来てくれたですか？ 多賀城 そういうことなのだ。 徳丹城 嬉しいです、心配してくれてありがとうですぅ……。 多賀城 な……な…………っ！？ 秋田城 ……おやぁ、何だか丸くなったね？ 素直にお礼が言えるのは偉いよ、よしよし。（なでなで） 多賀城 あ、あの徳丹城が、素直にお礼を言ったのだ……！？ 徳丹城 ……何ですか？　私だってちゃんとお礼くらい言えるですよ？ 多賀城 いや、正直言うと、徳丹城って事あるごとに拗ねてやさぐれては 皮肉を言ってたような印象しかなかったのだ……。 徳丹城 色々あったですよ。私だって少しは成長したです。 徳丹城 …………。（ちらっ） 徳丹城 ちゃーんと、大きく、ね。ふふっ。 多賀城 どこ見て言ってるのだ！ 目線を顔から下に落としながら言うんじゃないのだぁ！！ 徳丹城 おやおや、多賀城『先輩』。 私もしかして、うっかり失言しちゃったですぅー？ 多賀城 わざとらしいのらぁぁぁぁ！！ 千代城 （怒りすぎたか、噛んでおるぞ……） 秋田城 これこれ、会って早々に人前で喧嘩するんじゃないよ。 徳丹城 喧嘩じゃないですぅ。 ちょっぴりからかってるだけですよぉ。 多賀城 異議を申し立てるのだ！ これは立派な苛めなのだぁ！！ 秋田城 やれやれ……あんたたちは寄ると触るとすーぐ喧嘩始めるねぇ……。 秋田城 まったく。 喧嘩するなら邪魔にならないところでやるんだよ。 千代城 え？ 多賀城 そーさせてもらうのだ！ 秋田城！　止めるんじゃないのだ！ 秋田城 別に止めないよ。 徳丹城 ふふっ、すぐに挑発に引っかかるようなぺったんこに負けるわけないですぅ。 多賀城 …………。 多賀城 …………。 多賀城 ……ふっふーん。本当は姉が大好きすぎる癖に、 正直に言えないへそ曲がりなんかにわらわが負けるわけないのだ～！ 徳丹城 ……上等ですぅ。消し飛ばしてくれますよぉ。 多賀城 やれるもんならやってみるのだ！ 千代城 え、ちょ、お、おい秋田城。本当に止めなくて良いのか？ 秋田城 あの子たちは昔っからずーっとああだからねぇ。もう止めるのは諦めたさ。 秋田城 ま、子犬同士がじゃれあってるようなもんだから、 そこまで気にしなくてもいいけれど……。 千代城 じゃれあいの割には二人とも変身しておるのじゃが……。 秋田城 どれどれ。心配ならちょっと一緒に様子見だけしてくれるかい？ 千代城 あ、ああ。構わないが……。 多賀城 ふーんだ。姉が大好き過ぎてべったり娘に負ける道理はないのだ！ 徳丹城 その頬の膨らんでる分くらいは胸に行けば良かったのに、ですねぇ！ 千代城 （……本気で怒ってるのかふざけあってるだけなのか、よくわからんのう）
後半
多賀城 ぜー……ぜー……。 徳丹城 ぜー……ぜー……。 秋田城 はいはい。そこまで。 お互い大破したんだから、ちゃんと終わりにするんだよぉ。 多賀城 さ、さすがに疲れたのだ……。 徳丹城 い、一旦、休憩ですぅ……。 多賀城 それには賛成してやるのだ……。 千代城 こ、これはいつものことなのか……？ 秋田城 いつものことだねぇ。 秋田城 ……この二人、これでも仲が悪いわけではないんだよぉ。 秋田城 徳丹城は私たちの時代に最後に生まれた城柵の城娘……、 言わば、私らにとっては一番下の妹みたいなものなのさ。 千代城 あぁ、葛根城への文に書いてあったことじゃな？ 秋田城 そうそう。 秋田城 でね、姉に当たる志波城は、実は多賀城に憧れていてねぇ。 ずーっと多賀城多賀城と言うものだから、徳丹城はそれが面白くないのさ。 千代城 ……つまり、徳丹城が多賀城に突っかかるのは、 姉を取られて焼きもちを焼いているから、と？ 秋田城 そういうことだねぇ。 秋田城 で、多賀城もそれは重々承知しているから、 わざわざもう一人の姉のように、よく徳丹城に構ってあげているのさ。 千代城 だが、大破するまで喧嘩しているというのは穏やかでないのう……。 秋田城 それもちゃんと理由があるよ。 秋田城 徳丹城が生まれた時には、戦もほとんど終わってしまっていてねぇ……。 戦いの経験がないせいで、あの子は正しい力の振るい方や配分がよく分かっていないんだよ。 秋田城 力を有り余らせてるのは酷だろうって、 多賀城は率先してああやって発散させてあげてるのさ。 秋田城 まぁ、二人とも素直じゃなかったり、 色々とこだわる部分もあるから、結果的にいつも喧嘩してるように見えるんだけれどね。 千代城 そ、そういうことだったのじゃな……。 多賀城 ぐぬ……だが今日はいつもと違う顔ぶれ……。 多賀城 この場にならわらわの味方だって……！ 秋田城 うん？ 千代城 ……？ 多賀城 ……くぅぅ！　またしてもわらわの味方はおらんのか……！ 徳丹城 …………。 多賀城 よりによって争ってた相手が最も近いって何の皮肉なのだぁ……。 徳丹城 ……正直、そんなもんに価値があるとは思えないですぅ。 徳丹城 おねーちゃんのはふっかふかでやわらかいので、 私にとっては価値があるっていうのはまだわかるですけど。 多賀城 おぬしも、いずれ成長していったら分かる時が来るのだ……。 徳丹城 ……いや、結構ですぅ。 秋田城 ふぅ。ようやく落ち着いたかね……。 千代城 なるほど。確かに本気ではなかったのだな。 急に仲良く雑談を始めだしておるしのう。 秋田城 これもいつもの光景さね。 千代城 （徳丹城も分かっていて振る舞っているようだのう……。 　理由が理由故に、若干の私怨が混ざっているのはまぁ、仕方ないとしても） 千代城 （……自分を鍛えてくれる相手がいるというのは恵まれていることだ。 　それを考えたら、わらわも徳丹城に偉そうに説教している場合ではない……） 千代城 （知識は書物で補えても、実戦となると……） 秋田城 ん？　どうかしたかい？ 千代城 ……済まないが、頼みがある。 千代城 二人が回復して落ち着いてからで構わないから、 私にも稽古をつけてほしいのじゃ。 秋田城 おやおや、千代城も触発されてしまったかな？ いいよぉ、真面目な子は大好きだ。 千代城 すまぬ、感謝するぞ。 千代城 （わらわもいずれ……答えを出そう。 　正しい力の振るい方というものの、答えを）

特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。